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理外の饗宴

バトル開始です。

「な、なんだあれは……!?」


「ば、化け物だっ!トレノ家のご令嬢が化け物を!?」


「に、逃げろーっ!!」


 レモーヌの足元から溢れ出した怪物達は、レモーヌを囲う様に立ち、周囲の人間達を睨みつけていた。そのどれもが見た事もない怪物ばかりで、未知なる魔獣の群れとでも言うべきもののようだ。会場にいる貴族の人々は、大半が戦う力を持たない人々だ。彼らは恐怖に震え、我先に逃げ出そうとパニック状態となってしまった。


「あの怪物達を召喚…したのか?いや、あのレモーヌという令嬢は一切魔力を使っていなかった。呼び出したというよりは、隠し持っていたものを解放したような……まさか!?」


 その状況を目の当たりにしたバルドルは、一つの推測にぶつかった。つい先日、その答えとなりそうな事例を見聞きしたばかりだ。カーズ達がテストさせられていた亜空間魔法を付与した檻……檻自体の大きさだけでなく、中に収容されていたガルムまでもが大きさを変えられていたというその魔導具ならば、非力な貴族令嬢でもあれだけの怪物を持ち運びできるかもしれない。

 しかし、カーズ達の話では、そのテストを依頼してきたのは男だったはずだ。つまり、レモーヌが黒幕か、或いは、彼女も()()()()()()()()()()()()()()だろう。どちらにしても、彼女から詳しい話を聞く必要がある。


 だが、そうと決まれば迅速に動かねばならない。もしもバルドルの見立て通り、レモーヌがあの怪物達を召喚したのではなく、ただ解放しただけなのであれば、あれらは当然彼女のコントロール下にあるわけではないはずだ。つまり、彼女もあの怪物達の獲物となる可能性があった。


「ひ、ひぃぃぃっ!?な、なんだ!どういうことだ、レモーヌ!何故お前がそんな……っ!」


「ふふふ…さて、どうしてでしょうね?種明かしをするなら、親切な殿方に貸し与えて頂いただけですわ。(わたくし)の尊厳を守る為なら、命を捨てても構わないと、そうお伝えしたのです。これほど見事なものだとは思ってもみませんでしたが。……オーヴァ様、あなたがいけないのですよ?一時の気の迷いであったなら、全て許そうと思っていましたのに……」

 

 混乱と狂騒の中、レモーヌは一人淡々と己の怒りを告げていく。その間に、怪物の内の一匹が彼女自身に目を向けて舌なめずりを始めた。他の怪物達は皆思い思いに狙いを定め飛び掛かるタイミングを待っている。その時、オーヴァが土下座をして大声で謝罪の言葉を叫んだ。


「れ、れれれレモーヌ!許してくれ、そんなつもりじゃなかったんだっ!頼む、考え直してっ」

 

「……無様ですわね、でも、生憎それは無理なお願いですわ。だって、彼らは私にも操れはしないのですから。あなたの最期を見届けられないのが残念です、オーヴァ様。それでは、お先に」


 レモーヌがそっと目を瞑ると、その言葉を待っていたかのようにレモーヌを狙っていた四つ足の怪物の瞳が怪しく輝き、彼女に食らいつこうと飛び掛かった。誰もがもう間に合わない、そう思った瞬間だった。


「ちぃっ!」


 バルドルは咄嗟に、誰かが逃げる際に落としたフォークを拾ってその怪物の目を狙って投げつけていた。それは見事に怪物の目に突き刺さり、怪物は激しく身悶えている。その隙に、バルドルは怪物達の群れへと飛び入ると、レモーヌを抱きかかえて群れの中から脱出した。その鮮やかな手並みに、逃げ惑いながらも目撃した貴族達から感嘆の声が上がる。助けられたレモーヌは、何が起こったのか解らないようであった。


「え?な、何が……」

 

「怪我はないか?」


「あ、はい。たぶん…」


「ならよかった。が、後で色々と聞かせてもらいたい事がある、協力してくれ」


「……はい」


 その直後、レモーヌを連れ出したバルドルを追って、四つ足の怪物が牙を光らせて追撃を仕掛けてきた。その身体はルゥムほどではないが、軽く人間の大人と同じくらいの大きさだ。レモーヌは悲鳴を上げてバルドルにしがみ付くのを見て、誰かが危ないと叫ぶ声が聞こえた。


「そのまま目を瞑っていてくれ」

 

 バルドルはしがみつくレモーヌの身体をぐっと抱え、片手でミストルテインを長剣に変えると素早いステップで逆に怪物の懐へと入り込み、その口内へ剣先を押し込んだ。そしてそのまま、口の中から頭に向かって刃を立てて切り裂く。上顎から上を一文字に切られた怪物は、それ以上声を上げる事もなく、血飛沫を上げて倒れ込んでいった。

 その倒れた怪物を見下ろし、バルドルは小さく唸る。

 

 (彼女を抱えたままで戦うのは、思ったより不利だな。大体、近衛兵達は何をしているんだ?どうして応援が来ない?うちの騎士達ならもっと早く動くぞ)


 パーティー会場の警備に当たっていた近衛兵達は、いずれも王族の護衛に回っているようで怪物達に手出しをしようとはしていない。こういう状況なら、他から応援の兵が来てもいいはずだが、それはまだ到着していなかった。近衛兵達の名誉の為に説明すると、事態が起こってからまだ数分しか経っていないのだから、応援が来ていなくても当然である。確かに、エッダ騎士団なら数分あれば集合するだろうが、それは彼らの練度が高すぎるだけなのだ。


「オオオオォッ……!」


 バルドルが一匹の怪物倒したことで、怪物達全体に怒りが伝播し、一気に火が点いた。まず真っ先に狙われたのは、怪物達の一番近くにいたオーヴァとミセリである。怪物の唸り声に恐れをなした二人は、腰を抜かして這いずりながら、少しでも怪物から距離を取ろうとしているようだ。


「お、王子っ……!ヘズ王子、助け……い、いない!?」

 

 オーヴァが助けを乞いつつヘズの方に視線を向けたが、彼は既にそこにはいなかった。誰よりも早く近衛兵に守られ、王達よりも早く会場から逃げ出していたらしい。呆れるほどの逃げ足の速さだが、彼は昔からこうなのだ。何かしでかしては責任も取らず真っ先に逃げ出し、しゃあしゃあと自分の失態を無かった事にする……それがヘズ王子という男であった。


「王子、逃げたか。……しかし、マズいな。このままだとあの二人が」


 そう言っている間にも、次々に怪物達がバルドルに向かってくる。双頭の大蛇や、人間のような腕が生えた馬、いくつもの触手を持った蠢く肉塊……どれも醜悪で見た事もない怪物ばかりだ。それ以外にも、不気味な姿をしたモンスター達が群れを成し、バルドルへと向かってきていた。


「ちっ!こんな事ならウル達を連れてくるべきだった。せめて、ヴァーリがいてくれれば……っ!」


「ううっ……!」

 

 大蛇の頭を落とし、突進してくる馬を避ける。その激しい動きに、抱えられているレモーヌが耐えられるはずもなかった。彼女は鍛えている訳でもない、ただの貴族令嬢なのだ。バルドルの腕の中で苦しそうに呻くレモーヌに気を取られた瞬間、不気味な肉塊から伸びた肉塊が、バルドルの足に絡みついた。


「し、しまったっ!?」


「フシュシュシュ……!」

 

 その時、突風と共に何かが貴族達の頭の上を越えて会場内に飛び込んできた。それは強力な風を纏ってバルドルの傍に立つと、その勢いで触手を切り落としてみせる。


「あっぶねぇな!間に合ったか!」

 

「ヴァーリ!!」


 頼もしい戦友の到着に、バルドルは安堵した。だが戦いは、まだ始まったばかりである。

お読みいただきありがとうございました。

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