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彼らのつながり

本気を出したバルドルが一番化け物だったりして

「カーズ達が騎士団に戻ってくれたのはいいが、それでもたったの十一人か。……まだまだ到底、部隊を組むには足りないな」


 カーズ達の騒動から数日、バルドルはスケジュール表を睨みながら、溜め息をついていた。


 現在、縮小に縮小を重ねたエッダ騎士団の構成は一部隊につき百人程、一見するとそれなりに人数がいるように見えるが、広大なグラズヘイム王国全土をカバーするには全く足りていない。今までは魔獣の発生など一月に一度あるかないか程度だったからなんとかなっていたが、現状の出現数を考えるなら、せめて今の十倍は欲しい所だ。


 他国の話を聞くと数万人単位の兵士を抱えている国もあるらしい。もっとも、戦闘の専門上位職であるこの国の騎士と、一般の兵士とでは戦闘能力のレベルが違う。一概に数の差だけで判断は出来ないが、それでも国同士のような広範囲に渡って攻守を考えねばならない状況では、数がものを言うパターンもある。

 今のところは、国家間の戦争になりそうな兆候はないが、最悪の想定はしておくべきだろう。それを考えると、なぜ、今まではこの状況が許されていたのか不思議なくらいだった。


 その上、カーズ達の話していた魔導具師の問題である。


 亜空間魔法などという、前代未聞の魔法を付与したアイテムがあるとしたら数の有利不利など問題ではなくなる。その発明が現実のものとなれば、防衛戦の概念すら変わってしまうだろう。実際、破壊された後ではあるが、カーズ達の家で件の檻を見た所、明らかに家の大きさにそぐわないサイズの檻であった。そもそもあの家は普通の一般家屋である。あのサイズでは檻はともかく、ルゥムを中に入れる事すら不可能だ。しかし、現実にルゥムはそこにいて、カーズ達だけでなくフレイヤもそれを確認しているのだから、何らかの手段で大きさを変化させたというのは確実なのだろう。

 であれば、やはりそれはカーズ達が幻覚を見せられていただとか、そういった小手先の騙しのテクニックではないという証拠とみていい。その対処も、この国の守護者である騎士団を預かる者として、考えておかねばならないことだ。


 ふと溜息を吐いてから、バルドルは隣で任せておいた書類を睨んで止まっているウルに声を掛けた。どうもやはり、ウルはフォルセティとは違って、こういった事務作業が苦手なようだ。決してウルの頭が悪いということではなくて、向き不向きの問題なのだろう。

 

「なぁ、ウル。あの魔導具師とやらの作ってたって檻の件だが。あれがもっと大きな規模で、大量の兵士や魔獣を入れられるとしたら…どうする?敵に回して勝てると思うか?」


「え?ああ~……そうっスねぇ。現状じゃ無理っスね、あのガルムってモンスターにさえカーズ達は歯が立たなかったらしいっスけど、ざっと見る限りじゃ、あれに勝てるのは各隊の隊長や副隊長を含めたメンバーくらいっスよ。もしそんなのを大量に仕込んでテロに使われたら、対処のしようがないっスね」


「そうか……お前もそう思うか」


「まぁ、思いつく限り一番いい対処方法は、団員達を鍛える事っスね。出来れば、全員が団長と同じレベルくらいになれれば、どんなのが相手だって勝てますよ」


「俺と同じって、その程度で勝てる訳がないだろう。相手にもよるだろうが、言い過ぎだ」


「はぁ…………ホンットにうちの団長は色んな意味で無自覚系っスよねぇ。これじゃフレイヤちゃんも苦労する訳っスよ」


「なんだそれは、何でフレイヤが出てくるんだ?」


「まあまあ、そこは気にしなくていいっスよ。でも、流石に団長と同じレベルにってのは不可能でしょうけど、実際問題、数で大きく差がつくのであれば、あとは個々の戦闘力を大幅に上げるしかないんスよ。そんなの団長にだって解り切ってる話じゃないっスか」


「まぁ、それはそうだが……」

 

「大体、団長は自分を低く見積もってますけど、はっきり言って強さ的には団長はチート級っスからね?訓練とはいえ、団長一人で騎士団全員抜きしたのは忘れないっスよ。俺達何人いると思ってるんです?アレですっかりフォルやナンナさんは骨抜きにされちゃって」


 それは二年前、先代当主であるフリッグが亡くなり、バルドルが侯爵を継いだ時のことだった。それまでのバルドルは、エッダ騎士団の騎士としての活動はほとんどしておらず、十六歳で成人してからずっと世界各国を巡る遍歴の修行の旅をしていたのである。彼が光属性の魔法を習得したのも、その間のことだ。

 本来であれば、次期侯爵として、また次の騎士団を率いる騎士団長として騎士団内で修行を積むべきだったのだが、バルドルはそれを嫌った。それは圧倒的実力とカリスマで騎士団を統率する母への負い目と、既に完璧な形で統制の取れた騎士団の中に、自分という異物を入れる事で歯車が狂うのではないか?とそんな気がしての事だったらしい。

 そうして、十六歳から二十四歳までのおよそ八年間、バルドルは世界中で修行をし、現在の力を身につけたのだった。


「いやまぁ、あの時は俺も必死だったからな。何とかしてお前達に俺の事を認めてもらわなければならないと思って」


「確かに、俺達の誰も団長の実力なんて知らなかったっスからね。修行の旅をしてたなんてーのも嘘っぱちで、貧乏な家が嫌で遊び歩いてるんだって皆噂してましたから」


「そんな風に思われてたのか……俺が悪いとはいえ、それはそれでショックだな」


 肩を落とすバルドルに、ちょうどいい機会だからと更にウルは追撃する。バルドルが次期侯爵として全てを引き継ぎ、騎士団の新たな団長となる為に皆の前に立ったあの日の事を、ウルだけでなく騎士団の誰もが忘れはしないだろう。

 あの時バルドルは、フリッグの死を悼んで悲しみに暮れている団員達を集めると、全員に武器を取るように命令をした。曰く、修行のためとはいえ、家を飛び出していた不肖の親不孝息子だが、そんな自分を認めさせるには己の力を示すしかない。だから、全員でかかってこいと言い放ったのである。


 これには全ての団員達が怒りに燃えた。当時の騎士団員達の中には、成人する前のバルドルの事を知っている者もいたが、その大半はバルドルが成人してからフリッグが勧誘して騎士団に入った者達ばかりである。五百人を超える騎士団員達全てを相手にするというのは明らかな放言であり、彼らに対する冒涜、ひいては最も敬愛してやまないフリッグへの冒涜に他ならない。しかも、バルドルは殺す気でかかってきていいとまで言ったのだ。好き勝手に遊び歩いていただけのボンボンに、自分達は舐められている……誰もがそう感じて殺気立った。実はこのウルもバルドルに怒りを抱き、当時は本当に殺してやると思っていたようだ。


 だが、現実にその考えは全て覆された。一人、また一人と一撃の元に倒されていく仲間達を前にして、各隊の隊長クラスは彼の実力を認めざるを得なかったという。実際、ほとんどの団員達は数秒とかからずに倒されてしまっていたのだから、文句のつけようもなかった。そうして、丸々一昼夜かけて全員を薙ぎ倒した後、バルドルは全員に頭を下げて謝罪し、大粒の涙を一粒だけこぼすと、(フリッグ)の為に自分に着いてきて欲しいと願ったのだ。


「そもそも団長が一目見ただけで、あのルゥムが尻尾撒いて服従してたじゃないっスか。やっぱ化け物なんスよ、団長は」


「お前ホントに失礼だな!?」


 そう言ってカラカラと笑うウルは、あの時のバルドルの涙に懸けて、彼についていくことを誓った。全ての騎士団員が母と慕った、フリッグへの恩に報いる為にも。きっと、他の団員達も同じ気持ちであるはずだ。だからこそ今の関係があるのだ。

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