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思わぬ価値ある拾い物

フレイヤは座敷童令嬢になれるか?

 バルドルとフレイヤが自宅に戻って来たのは、その日の夕方であった。


 なお、ガリドは現在の役職をクビになるまでにまだ少し時間があるようなので、それが終わってから騎士団に合流する予定である。なので、バルドルの屋敷に戻ってきたのは、バルドルとフレイヤの二人だけだった。ヴァーリも色々と仕事が立て込んでいるので、馬車を借りての帰還である。

 たった一晩家を空けただけなのに、数日もの間出かけていたような気がすると、二人はやや疲れを残したまま帰宅したようだ。


「ふぅ……なんだかずいぶんと家を空けていた気がするな。結局、ドヴェルグに渡す手土産の酒については進展なしか。……やはり、母上の指輪を一つ、借り受けるしかないか」


「なんかゴメンね、バル。あれ?」


 玄関の前に立った時、ふと、フレイヤが何かに気付いた。外見は相変わらず血塗れの姿に戻ってしまっているが、どこか感覚が鋭くなっているようである。


「どうかしたのか?」


「うん。……家の中に誰かいるみたい」

 

「…なに?」


 まだ玄関の中にすら入っていないが、フレイヤはそこに人がいると解ったようだ。そっと玄関のノブに手をかけると、確かに鍵は開いていた。


 (俺の他に屋敷の鍵を持っているのは、ウルを始めとした騎士団の幹部数人のみ。団の連中が来ているのか?それとも……)


 曲がりなりにも、ここは侯爵邸である。とても貴族の家とは思えないような小さな屋敷とはいえ、金目の物が全くないとも言えず、内情を知るバルドルや騎士団の人間ならばまだしも、泥棒や盗賊からすればオイシイ獲物に見える可能性は十分あるだろう。バルドルは声を殺して息を潜めつつ、玄関のドアを開けた。すかさず靴を確認すると、見覚えのない小ぶりな靴が脱いである。騎士団員の誰かのものにしては、かなり小さい気がする。だが、賊がわざわざ律儀に靴を脱いで入るだろうか?そこで何かに気付いたバルドルは、そのまま靴を脱いでスタスタとリビングへ入って行った。


「おう!坊、帰ってきおったか。邪魔しとるぞ!……幽霊の嬢ちゃんは相変わらずおっかないのう」


「ドヴェルグ…!どうしたんだ?急に。ロンダールから出てくるなんて、珍しいな」


「あっ、ドヴェルグさんだったのね」


 リビングのドアを開けると、そこにいたのは少し赤ら顔で満面の笑みを浮かべるドヴェルグであった。よく見ると、その手には酒瓶が握られており、どうやら一人で酒盛りをしていたらしい。賊でなかったのはよかったが、これはこれで問題である。一体、どうやってドヴェルグは家の中に入ったのだろう。


「色々と聞きたい事はあるんだが、まずは一つ。どうやって家に入ったんだ?」


「一緒に来たウルの小僧が鍵を持っとったんでな、お前さんが留守だと知ったら中に入って待っていればいいと言っとったぞ。ずいぶん手慣れた様子じゃったが、あやつ信用されとるのう」


「アイツ……で、その本人はどこにいったんだ?見当たらないし、靴もないが」


「何もツマミになるものがないから買ってくると言って出て行ったわ。儂らもさっき着いたばかりじゃからの、入れ違いになったんじゃろ」


 だはは!と笑いながら酒瓶を呷るドヴェルグの姿は完全に酔っ払いだ。しかし、酒を自身の血液と豪語する彼は、決して前後不覚になる事はない。笑い上戸なので精々酔っても、大声で笑うようになるだけである。家主に黙って上がり込んでの酒盛りとはとんでもない行為だが、そもそも貴族の屋敷に留守を預かる使用人が一人もいない事の方が問題である。エッダ家では、家人が留守の場合に来客があった際は、玄関横の郵便ポストにその旨を書いていれておくという、郵便物の不在票のようなシステムが使用されているのだ。ちなみに、郵便ポストには専用の魔術がかけられていて、中に何かが入れば家主であるバルドルへ伝わる仕組みになっている。まず第一に、先触れを出して予定を確認するのが一般的なのだが。


 今更不敬を問うような間柄でもなし、バルドルはドヴェルグの行いを問題にするつもりはないようだった。ただ、後でウルには説教をするつもりである。


「……そうか、まぁウルには後できつく言っておこう。それで、ドヴェルグ。用件は何なんだ?」


「おうおう、そうじゃな、先に話を始めるとするか。まずは、これを見てくれ」


 そう言ってドヴェルグが懐から取り出したのは、拳大の石だった。ややくすんだ黄色のそれは、光の加減によっては金塊に見えなくもない。しかし、そこから感じられる迫力は、黄金のそれとは全く異なるものである。ドヴェルグの向かい側に座ったバルドルはそれをじっと見つめた後、おもむろに手に取った。


「これ、魔石か?加工前のを見るのは珍しいが、これがどうしたんだ?」


「うむ。実はこれな、坊が先日倒した、ゴーレムとかいうモンスターの身体から採れた物なんじゃ。あのゴーレムってヤツぁスゴイぞ!全身が魔石の塊で出来ておる。しかも、どれもこれもみな、不純物が一切ない!とんでもない高純度の魔石だったんじゃ!儂も長い事魔石の採掘に勤しんできたが、こんなに純度の高い魔石は見た事がないわ。この拳一つ分だけでも尋常でない高値が付くぞ。これがあれば、従来の魔石の価値が大幅に変わっちまうわい」


 ドヴェルグが興奮しているのは、酒のせいだけではないだろう。むしろ、酒の勢いでも借りなければ話せないと思っているのかもしれないほどに、彼はこの魔石の価値を高く評価しているようだった。


「そんなに凄いのか。……確かに、普通の魔石よりも迫力があるような気はするが」


「かぁーっ!坊、お前さん領主じゃろう。自分とこの産物くらいしっかり価値を見出せるようにならんといかんぞ!全く!」


「すまない……」


 まだ領主の座を引き継いで二年とはいえ、ドヴェルグの言い分はもっともである。日々の忙しさにかまけて勉強を怠っていたと自覚がある分、バルドルは何も反論出来なかった。


 そもそも魔石とは、魔力を大量に含んだ鉱物であるが、生物の魂や精神が持つ固有の力である魔力を、無機物が何故含有しているのか説明できるものは未だいない。世界中の学者が調べてはいるものの、仮説の域を出ないのが現状だ。魔石の元となったものが高い魔力を持つ生物の遺体だったとか、自然界に存在する魔力を鉱物が吸収しているのだとか、いくつもの説がある。

 ここでドヴェルグが言う純度の高い魔石とは、その組成の大半が魔力で出来ている塊だと言う事だ。見た目は石のようだが、中身はほとんどが魔力なのである。


 バルドルがゴーレムと戦った時、魔法を出来るだけ使わないようにしたのは、その魔力が変質してしまう事を危惧したからだった。魔石は特別な加工をして中身の魔力を損なわないように注意しつつ、形を作り替えるものである。魔石を加工する際、用途に合わせて作り替えるのだが、魔法などで強い魔力を当ててしまうと、それが変質して自由に加工できなくなってしまうのだ。


「坊が魔法で吹っ飛ばしたという頭の部分は、やはり魔法で変質してしまってたが、胴体と手足の分だけでも相当な量があるからな、そこは心配いらん。問題なのは、これをどうするのか?じゃ」


「どうするって……売る訳にはいかないのか?」


「そこなんじゃよ。さっきも言ったが、コイツは従来の魔石の価値を大きく引っくり返しちまうかもしれん代物じゃ。これが世間に知られれば、皆こぞってコイツを買い求めに来るじゃろう。じゃが、そうなると今市場に出回っとる魔石の価値は大きく下がる……はっきり言ってコイツを見た後じゃ、儂らが普段掘ってる魔石なんぞカスみたいなもんじゃからな」


「か、カスって……だが、そうなると困るな。確かに」

 

 いかに大量の在庫があると言っても、世界中に普及している魔石の総量からすれば、ゴーレムの身体分でも大した量にならないだろう。しかし、捨て置くにはあまりに惜しい物なのも確かだ。

 突然突き付けられた課題に、バルドルは頭を悩ませ、首をひねるのだった。

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