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悪霊令嬢VS悪霊令嬢?

小学生レベルの口喧嘩ですね

 二人が身を寄せている大時計は、文字盤それ自体が巨大な魔石で出来ており、外に向けて発光している。内側にもその光が届くので、この最上階はそれなりに明るかった。しかし、時計塔内にはほとんど窓がなく、密閉された石造りの建物である為、通気性が非常に悪い。下から立ち上って来る煙は時を追うごとに増していて、いつ子供達が煙に巻かれるか解ったものではない状態だ。


 なんとかして子供達を外に避難させたい所ではあるが、物体にほとんど触れる事が出来ないフレイヤの霊体では煙を掃う事すら難しい。ましてや、ここまで警戒されていては猶更だ。


 (でも、この子達に煙を突っ切って下に逃げなさいと言うのも無理だわ。この状態じゃ、下に着く間もなくあっという間に煙に巻かれて死んでしまう……一体、どうしたらいいの?!)


 突き動かされるようにして飛び出してきてしまったが、今のフレイヤは一人では何も出来ない幽霊だ。この子達にはフレイヤの姿が見えているので、警戒さえ解いてくれれば会話くらい出来るだろう。しかし、今の状況を打開するには話が出来るだけでは意味がない。何か使えるものはないかと、フレイヤは必死に辺りを探していた。


 その時、この最上階の中に階段がある事にフレイヤは気が付いた。今までは煙で見えていなかったが、どうやらこの階には中二階のような場所があるらしい。五段程の階段の先には、人の腰くらいの高さをした台があり、そこにはくすんだ色合いをした丸い石が置かれている。


「あれって……魔石?そうか、あれが時計塔の動力なんだわ!」


 フレイヤが気付いた通り、時計塔の大時計は、この最上階に設置された魔石が動力となっている。週に一度、王城から派遣された担当の魔術師がここへ来て、魔石に魔力を込めるのだ。すると、その魔力は魔石から大時計へ、更に時計塔内部の照明などあらゆる場所に分配されていく。そういう造りなのである。


 そして、フレイヤはそこで閃いた。恐らく、火元はここに上がって来るまでの間にある、どこかの照明だ。魔石から流れた魔力が過剰だったのか、他に理由があるのかは不明だが、それらの照明から火が出て燃えているに違いない。その予想通りなら、やはり、階段を降りていくのは危険である。それらの照明は、階段の足元を照らす為に設置されていて、当然、階段に近い場所にあるものだからだ。


 となると、他に考えられる脱出経路は外からの脱出だろう。ただ、時計塔は高さが優に100メートルはある巨大建造物だ、いくら体の軽い子供でも飛び降りればただでは済まない。かと言って、フレイヤが子供達を抱えて飛ぶことも出来ないのでは脱出方法として使えそうになかった。


 そこでフレイヤは思った。こんな石造りの塔の中で、これだけ火が燃え続けるのはおかしいことだと。この時計塔は人の生活する場ではないので、紙や木、布といった燃え種がほとんどないのだ。にもかかわらず、これだけの火勢で燃え続けているということは、火を放ち続けている何かがあるのだ。

 もしも、それが自身の予測した通り、照明から出た火なのであれば、その火を止めるにはあの動力となっている魔石をどうにかすればよい。魔力の供給さえ止まれば、魔石が独りでに燃えることもないだろう。


 フレイヤは即座に階段を超え、魔石が設置された台座の前に立った。これに触れて破壊するような事は出来ないが、溜め込まれた魔力を弄ることくらいは出来るかもしれない。


「えっと……とにかく触ってみればいいかしら?せーのっ」


()()に触れるなッッ!」


「きゃあっ!?……い、痛た」

 

 おっかなびっくりで魔石に触れようとした次の瞬間、 突然、魔石から電流のような光が放たれて、フレイヤは弾き飛ばされてしまった。幽霊になってから久しく感じていなかった、微かに痺れるような感覚と痛みを覚えつつフレイヤが前を向くと、先程の魔石の上に膝から下が無い女が浮かび、フレイヤを睨みつけていた。


「幽、霊?私の他にも……!?」

 

 フレイヤが幽霊になってから、いや、生前も含めて他の幽霊を見たのは初めてだった。世の中にはレイス(悪霊)スペクター(亡霊)と呼ばれるモンスターがいるとは聞いているが、実際にお目にかかった事はない。どうやら滅多な事では、幽霊になったりはしないらしいと思っていたので、出会った事自体に驚愕しているようだ。しかし、相手の幽霊はそんなことなどお構いなしに、激しい憎悪の感情を全面に押し出していた。


「邪魔するんじゃないわよ、この泥棒猫!せっかく、この魔石に憑りついてあの方の力になろうと思ったのにっ!」


「あ、あの方?あなた、誰かに頼まれてやっているの!?」


 貴族風の装いをした女の霊は髪を振り乱し、半狂乱になって叫んでいる。フレイヤのように血塗れの姿ではないが、女の顔はその内面を表すように歪んでいた。またフレイヤが怒った時とは違い、その赤い髪の先が炎へと変わっていて、この女の霊が火事を引き起こしているのは明らかだ。しかし、この件の裏に幽霊を使って悪事を働く人間がいるのだとしたら、それは大問題である。フレイヤの意識は真犯人への怒りに変わりつつあった……のだが。


「はぁ!?私がそんな指示待ち人間な訳ないでしょう。私が自分で考えてやっているのよ!大好きな彼が、時計塔の管理者とかいう閑職に追いやられているなんて見過ごせないわ!だから、こうやって火事を起こして、彼が活躍する場所を作っているんじゃない。少しは考えて喋りなさいよ、このブス!」


「なっ!?だ、誰が醜いって言うのよ!私は今の見た目こそこんなだけど、生前は美人公爵令嬢で有名だったんだから!み、醜いのはあなたの方でしょうっ?」


「はい、残念でしたー!私はブスじゃありませんー、私こそ生きてた頃は超美人って言われてましたー!大体、ブスって言う方がブスなんですぅー!」


「っ!なら、あなたが先にブスって言ったんだから、やっぱりあなたがブスなんじゃない!」


「私は先にブスなんて言ってませんー!誰がそんな事言ったんですかー?証拠出してくださーい!何年何月何日何曜日ですかー?」


「お、お兄ちゃん……」


「なんて言うか……お化けって、子供(ガキ)だな」

 

 その様子を、下から見ていた少年と少女にも呆れられていた、まさに子供の喧嘩である。フレイヤもそうだが、どうやら幽霊になると思考が単純化してしまう傾向にあるようだ。額をぶつけ合ってギャーギャーと言い争う姿は、子供達から見ても見るに堪えない。まさかそんな風に思われているとは露知らず、フレイヤと悪霊女の口喧嘩は更にヒートアップしていった。

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