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血塗れからのメッセージ

バルの為に、頑張るフレイヤです。

 本人的には謎の体調不良を訴えるウルを横目に、フレイヤは焦っていた。幽霊として目覚めてからまだ一日と少し、どうやら、フレイヤの姿は誰にでも見せられる訳ではないようだ。強い怨恨や悪意などに呑まれたレイスやスペクターのように、モンスターとして具現化した訳ではない彼女は波長の合う人間にしか見る事は出来ないらしい。

 よくよく考えて見れば、あの盗人三人組にもフレイヤの姿は見えていなかった。もう一人いた魔術師風の男には見せられたので、フレイヤ自身が姿を見せようと思えば見える人間の間口が広がるようだが、誰にでもではないのだろう。幽霊としての経験が浅いフレイヤには、その辺りの細かい違いが解らないのだ。


「うぅむ……このレイス、敵対するつもりはないようじゃが……何を伝えたいのかはサッパリ解らん」


「そんなぁ!?ドヴェルグさん、私の姿が見えてるのに、どうして声は聞こえないのよ!?」


「さっきからレイスレイスって……え、オヤッさんもしかして、幽霊とか見えるんスか?っていうか、いるの?ここに?どこどこ!?」


 キョロキョロ辺りを見回しても、霊感の無いウルにはフレイヤの姿は見えない。その様子がなんだかバカにされているようで、フレイヤはジト目でウルを睨んでいた。きっとその姿が見えたなら、ウルは恐怖に(おのの)いていた事だろう。顔面血塗れで睨みつける彼女の眼力は、相当なものだからだ。その念が通じたのか、ウルは急に腹を抑えて苦しみだした。


「う、なんか急に腹が痛くなってきた……おかしいな、悪いもん食った覚えはないんスけどね」


「……とりあえず謝っといた方がいいぞ。しかし、よく考えたらこやつ、坊に憑りついておった霊か?もしや、坊に何かあったのか?」


「えっ、団長、女の霊に憑りつかれてたんスか?!プッ!アハハッ!人間の女の子にはモテないのに霊に憑かれるとか、ウケる!……あっ、もっと腹がっ!イタタタタ!?」

 

「何やっとんじゃお前は……話が進まんから黙っとれ」


 あんまりなウルの言い種に怒ったフレイヤの髪が伸び、彼の腹に巻き付いている。フレイヤは本来、美しく淡い紫色の髪をハーフアップにしたものなのだが、彼女の怒りに合わせて、伸びた髪の先が黒く染まっていた。ドヴェルグからすると相当ホラーな状況だが、少なくともバルドルを悪く言われて怒っている辺り、バルドルに敵対する存在ではないようだとドヴェルグは気付いた。しかし、肝心の訴えている内容が解らないのだ。そもそもドヴェルグ自身、霊とコンタクトを取るのは初めてなのである。


 その時、坑道の方から一際大きな地鳴りと、大きな揺れが伝わってきた。直後、山を貫くように強烈な光線が、地下から空へ伸びていく。ゴーレムの眼から放たれた光線が貫通して、外まで届いたのだ。


「なっ!?なんじゃ、あれは!」


「きっとさっきの怪物の仕業だわ…!バル、バルが危ない!でも、どうすれば……!?」


 焦って考えれば考えるほど、答えが出せない。バルドルと余りにもスムーズにやり取りが出来ていたせいで実感が湧かなかったが、やはり今の自分はどうしようもない程に死者なのだ。まるで世界にたった一人だけ残された透明人間になってしまったような気がして、フレイヤの心は寂しさで溢れていた。こんなにも言葉を伝える事が難しいだなんて思った事がなかった。その時ふと思い出したのは、生前、自分を慕ってくれた、とあるクラスメイトの言葉だった。


 かつて、存命だったフレイヤが学園に通っていた頃のこと。その頃のフレイヤは、友人も多く活発で、多くの人達に好かれる存在であったようだ。だが、そんな彼女にも、あまり人には言えない悩みがあった。それは、婚約者である王子・ロプトの浮気だ。


 王子ロプトは、王として優れた才覚を持つ反面、英雄色を好むを地で行く女好きであったようだ。元々、フレイヤの実家であるヴァナディース家は、現王家の分家に当たる血筋であり、二人は幼い頃から許嫁として育てられてきた。しかし、明るく朗らかで知性に溢れたフレイヤを、ロプトは良しとしなかった。彼にとって、女はもっと下品で余計な知性を発揮しない方が都合がよかったのである。その為だろう、ロプトはフレイヤに見向きもせず、学園内外の色々な女性に手を出しては派手に遊ぶという行為にしていたのだった。


 そんな中でもフレイヤは、何とか家を守ろうとロプトとの関係改善に取り組んだ。しかし、いくら話し合いを望んでもロプトが応じる気配はない。そこで相談したのが、件のクラスメイトである。彼女は、王子に相手にされず陰でバカにされていたフレイヤを優しく慰め、話を聞いてくれた恩人だ。

 

『まぁ、ロプト様がそんなことを……!いくら王子といえど、あんまりです!フレイヤ様、どうか元気をお出しになって下さいませ』


 彼女は、その名をシギュンといい、学園内外でも人気の美貌を持つ少女であった。ヴァナディース公爵家よりも位は低いが、彼女もまた貴族であり、フレイヤが腹を割って話せる数少ない友人の一人であったという。シギュンはフレイヤの相談に乗り、的確なアドバイスをしてくれたと思っている。フレイヤが思い出したのは、そんな会話の中の一つだ。

 フレイヤはなんとかロプトとの関係を良くしようと話し合いを持ち掛けたと言ったが、それらは全て不発に終わっていた。それを打ち明けた時、シギュンはこう言ったのだ。

 

『フレイヤ様、そういう時は、手紙をしたためるのです。うまく言葉に出来ない男と女が互いの思いを綴った文こそ、二人の愛を高める至高の道具となりましょう』と。


 

 (そうだわ、手紙……文字なら、私の声が二人に届かなくても知らせる事が出来るかもしれない。いや、きっと出来るはず。文字を地面に書けば……!)


「ん?なんじゃ…ひょぇっ!?」


「お、オヤッさん!?何スか、これ!?ち、血で文字が…」

 

 フレイヤが急に下を向いたのを見て、不審に思ったドヴェルグは視線を自らの足元に向けた。すると、そこにじわじわと、たどたどしい血文字と血の手形が現れていく。それはあまりにも奇怪で恐ろしい様だが、書かれているのは決して見過ごせる内容ではなかった。


 ――バルドル、あぶない。たすけて、坑道、奥、怪物。閉じ込められた。


「坊が……閉じ込められた?しかも、怪物と…じゃと!?」


「なっ!?だ、団長が……っ!」


 フレイヤは血で文字を書くという行為が初めてだからか、上手く文字を書くことが出来なかったのだが、それでも単語を拾って読む事でどうにか事態は伝わったらしい。状況を把握したウルとドヴェルグは血相を変えて動き出した。


「団長ーーーっ!」


「お、おまっ…ちょっと待て!ええいっ!おい、採掘班!何人か道具を持って儂についてこい!少数でいい、残った者達は手分けしてもしもの時の避難誘導係と、一番坑道の封鎖に当たれ!儂らが戻るまで、絶対に誰も近づけるな!いいな!?」


「おうっ!」


 普段はあまりバルドルを尊敬していないように見えたウルだったが、こういう時の動きは誰よりも速いようだ。突風のようなスピードで、あっという間に坑道へ突っ込んでいく。

 それに加え、やはり玄人の職人達だけあるのだろう、採掘に当たっていたドヴェルグの部下達は急な指示にも瞬時に対応してみせた。魔石の採掘という、いざという時が想定される職場だからだろう、万が一の備えも万全なようである。フレイヤは彼らの迅速な行動に感激しながら、ウルの背中を追って、自身も再び一番坑道の中へ飛び込んでいった。


「バル、待ってて…!もうすぐ助けに行くからね!」

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