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悪霊令嬢、走る!

映像化するとかなり恐い絵面ですね

 バルドルのミストルテインによる突撃は、確実にゴーレムの脚を削っていた。しかし、バルドルの身体よりも太い足首は非常に硬く、簡単に破壊しきることは出来ず何度目かの攻撃でようやく僅かな穴が空いたほどだ。

 これを繰り返せばいずれは勝てるだろうが、問題はバルドルの体力が保つかどうかだ。左肩の出血は決して少なくなく、また先程から走り回ってゴーレムの攻撃を躱している分、体力の消耗が著しく激しい。早めに勝負を賭けなければならないが、今はそのタイミングを見計らっている状況だった。


 (脚を潰して動きを止めれば、倒せる見込みはある……!)


 少し前から、ゴーレムは攻撃されている脚を上げて、バルドルを踏み潰そうとする動きを見せていた。しかし、元が坑道の中に突然出来た空洞だからか、ゴーレムはその巨体を満足に動かせるほどの広さがない。緩慢な動きも重なって、バルドルにとっては脅威とは言えない行動である。そもそも攻撃用の魔法が使えれば、もっと楽に戦える相手のはずだ。バルドルがそうしないのは、ここが魔石の原石が眠る場所だからである。

 

 魔石は、加工次第で様々な用途に使用できるのが最大の利点だが、強い魔力を帯びると変質してしまうという特徴もある。つまり、この場所で迂闊に強い魔法を使って攻撃すると、未発掘の魔石の鉱石が台無しになってしまう危険性を孕んでいるのだ。貴重な資源であり、経済的な命綱である魔石を無駄にしたくない…それもまた、バルドルを苦戦させている理由であった。

 

「惜しいな、新兵の訓練にはちょうどいい相手なんだ、が……っ!」


 自分を踏み潰そうとする巨大な脚を避けつつ、バルドルはランスに力を込める。繰り返しの攻撃と、ゴーレム自身がその足を勢いよく踏みつける衝撃で、段々と傷が深くなっているのが解った。勝負のタイミングは今、ここだ。

 

「おおおおおっ!」


 魔法を使えば坑道全体に影響が出る可能性はあるが、ミストルテインに魔力を集中させて破壊力を上げるだけならその効果は限定的だ、何も問題はない。全力に近い魔力をミストルテインに集中させ、バルドルは一気にゴーレムの傷を突いた。


 ガゴォッ!という岩が崩れたような破裂音がして、ゴーレムの脚に亀裂が走る。ゴーレムの身体はとても堅牢だが、その硬さの分、柔軟性がない。一度ひび割れや亀裂が入れば、そこから一気に崩れていくものだ。ましてや、これほどの巨体となれば重量もかなりの物なので、脚にかかる力は予想以上に大きいのである。


 瞬く間にゴーレムの足首から膝まで、稲光のようにジグザグの破壊が進んで、その足は完全に砕けた。そして、支えがなくなった巨体は、バランスを崩して仰向けに倒れていく。


「……よしっ!これで終わりだ!」


 倒れた拍子に地面に打ち付けたゴーレムの右腕は砕け、左腕は壁にめり込んでいた。トドメを刺す絶好の好機だと、バルドルは再びミストルテインに魔力を集中させながら、ゴーレムの身体に飛び乗る。肩の傷がズキンと痛むが、それを気にする余裕はない。狙いは顔面、それも目玉だ。どういう原理かは解らないが、最初に見た時から、あの目だけは岩ではなく生物の眼球そのものだったとバルドルは気付いている。ならば、他の部分よりも柔らかいだろう。何より、生身であるということは、そこが重要な器官であることは疑いようもなかった。

 そうして、ゴーレムの眼前にバルドルが立とうとした瞬間、ゴーレムの瞳が怪しい光を放ち出し、やがてそれは極太の光線となって発射された。

 

「な、なんっ…?!」

 

 閃光が洞窟内に溢れて、一直線に飛ぶ。強烈な光の奔流は、何もかもを飲み込むように(ほとばし)っていった。










「はぁっ!はぁっ!も、もう少し…っ!」


 息を切らせて、フレイヤが坑道を飛んでいる。正確に言えば、肉体の無い彼女はどんなに動こうとも息が切れることなどないのだが、どうやら生前の感覚が抜けきらないようだ。走れば息が上がるということを、身体ではなく、魂が覚えているらしい。しかし元々公爵令嬢であった彼女は、生前もこんなに全力で走ったことなどない。精々、当時通っていた学園での運動実習で走ったのが最後だろう。

 

「早く!早くしないと、バルが…!もう、バルのバカ……私は幽霊なのに、私なんかを庇って怪我までしてっ…!」


 バルドルはフレイヤが気付かなかったと思っていたようだが、彼女はしっかりと気付いていた。バルドルが肩に傷を負った事も、それが彼女を庇って受けた傷であることもだ。

 

 あれほど霊を恐がっていたというのに、あの瞬間、バルドルにとってフレイヤは恐ろしい幽霊ではなく、ただの一人の女性だった。表向きは気にしていないフリをしていたが、やはり自分がもう生者ではない事に、フレイヤ自身ショックはあった。だが、そんな彼女の気持ちを打ち明けるまでもなく、バルドルはフレイヤを人間として扱ってくれている。それが、何よりも嬉しいのだ。

 そんなバルドルを助けたいと思うのは、今は幽霊でも、人として当然のことだろう。そうして、ようやく開けた外の光にフレイヤは全力で飛び出した。

 


「オヤッさん。さっきの地震といい、ずっと断続的に聞こえてる地鳴りといい、これヤバイんじゃねぇっスか?いくら団長でも自然災害相手に勝てる訳ねぇっスよ」


「むぅ……しかしな、儂があそこまで挑発した手前、下手に手出しすると坊の面子が立たんだろうしな」


 その頃、坑道の外ではウルとドヴェルグを先頭にして、未だ戻らないバルドルへの対応に頭を悩ませていた。実際の所、ドヴェルグが目撃したのは数匹のロリポリ(ダンゴ虫)魔獣である。まさかあれほどの大群だったとは想定していなかったし、ましてや、地震などが起こるとは予想もしていなかったのだ。無論、ゴーレムなどというトンデモないモンスターがいたことなど知る由もない。

 それでも、すぐに救助に向かおうという意見にならないのは、それだけバルドルの力を信じている証拠でもある。ただ、ウルの言う通り、いくらバルドルでも自然災害相手には敵わないのだが。


「うーむ、どうしたものか。……んん?」


 その時、ドヴェルグの視界にぼんやりとした何かが見えた。何か、見てはいけないものが坑道から飛び出してきたような、そんな気がする。本能が警告するその怖気を、彼は持ち前の度胸で抑えつけ、ピントを合わせてみた。そこで視えたのは、髪を振り乱し、真っ赤な血に染まった恐ろしい形相の女が、坑道から飛び出してくる姿だった。


「うおおおおっ!?な、なんじゃぁっ!」


「うぉっ!?な、何スかオヤッさん、デッケェ声出して……ビビったぁ~!」

 

「何スかってお前、()()が見えとらんのか!?」

 

 ドヴェルグはこの世界において、かつてはドワーフと呼ばれた亜人種の末裔である。既に人間との混血が進み、神話の時代に亜人種と呼ばれた者達はもう純血では存在しない。しかし、それらの血は薄まっても完全に消える事はないのだ。よって、彼は人よりも手先が器用で鍛治の技術に優れ、人ならざる者共を感知する力…即ち霊感が強かったようだ。先程バルドルに会った時も、薄っすらとフレイヤの存在を認識できたのは、そういう理由である。


「ウルさん!ドヴェルグさん!助けて、バルが!バルドルが独りで中にっ!怪物もっ!」


「アレって?…あー、オヤッさんもしかして酔っ払ってるんじゃ?勘弁して下さいよ、いくら酒好きでも仕事中に酒はダメっスよ。危ないなぁ」


「いや、お前……めちゃくちゃ肩揺すられとるんだが、気付かんの凄いな……というか、なんなんじゃこの女のレイス(悪霊)は」


 飛び出してきたフレイヤは、真っ先にウルへ飛びつき、その身体を揺らしてバルドルの危機を訴えた。しかし、ウルはこれっぽっちも気付いていない。ドヴェルグとは正反対で、ウルは霊感が全く無い男のようである。ドヴェルグの視点だと、血塗れの女がウルの肩にしがみついているように見えているので、非常にホラーな様相だ。


「は?揺すられ?そういや何か眩暈がするような……寒気もするっスね。風邪ひいたかな」


「もー!どうして気付いてくれないのよっ!?」


「…お前、普段風邪なんか引かないんじゃないか?見てるだけの儂の方が寒気してきたわい」


 呆れ半分、恐怖半分のドヴェルグとは対照的に、ウルは不可解そうに身体をさすっている。果たして、彼らの救援は間に合うのだろうか?

お読みいただきありがとうございました。

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