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巨岩の魔人

チートで楽勝的なのはあんまりないかも…?

いや、あるかも…?

「なっ!?」


 何だコイツはと続けるつもりが、二の句を継げる事は出来なかった。壁面に現れたバルドルの頭ほどもある大きな目が開いたと同時に、凄まじい地鳴りがして、坑道全体が揺れ始めたからだ。


  (地震…!?マズい!)


 「フレイヤ!……ちぃっ!」

 

 バルドルは咄嗟に振り向き、しゃがんで震えているフレイヤを抱き抱えるようにして跳んだ。直後、地鳴りよりも更に大きな音を立てて天井が崩落し、二人の姿は瓦礫の中へと飲み込まれていった。




「……っ!?バル、バル大丈夫?!」


 数分の後、揺れと地鳴りが収まった頃に、フレイヤは正気を取り戻した。恐ろしい気配を感じた後、何も解らなくなってしまったが、一体何が起きたのだろうか?ふと気づけば、どうやら、自分はバルに抱えられているらしい。抱えられていると言っても、フレイヤには肉体がない。するりと腕の間をすり抜けてみると、バルドルの身体が一部瓦礫に埋もれてしまっているようだった。

 慌てて声を掛けると、バルドルも意識を取り戻したらしい。ガラガラと音を立ててゆっくりとその場に立ち上がってくれた。


「くっ……フレイヤ、無事か?……と言っても、君が大丈夫なのは当たり前か」


「ご、ごめんなさい。私、何が何だか……一体、何が起きたの?」


「君が指差した方を調べようとしたら、突然壁に目が浮き出てな。その後地震が起きてこの様だ。やれやれ、ずいぶん深くまで落とされてしまったか」


 バルドルが周囲を見回してみたが、辺りは真っ暗で何も見えなかった。上を見ると坑道の照明すら確認できないので、かなり深い場所にいるらしい。このままでは埒が明かないと、バルドルは以前、ヴァナディース公爵邸に入った時のように、光魔法で淡く周囲を照らしてみた。すると、そこには。


「な、なんだと……!?」


「あ、ああ……!」


 まず照らし出されたのは、岩で出来た大きな足である。バルドルの身体ほどもある太さの脹脛が見えて、そこからゆっくりと視線を上に向けた時、更に大きな胴体と頭が遥か頭上にあった。それは優に7~8メートルはあろうかという、大きな岩の人形だ。だが、それは当然ただの岩ではなく、バルドルの光魔法を受けて、頭と思しき場所に大きな一つの眼が開かれていた。


「コイツ、さっきの?!そうか、俺達はコイツの身体の上を歩いていたのか…!」


 埋もれていた巨岩の怪物が立ち上がったことで、地面に大きな空洞が出来たのだろう。少なくともこの怪物の背丈くらいの深さがあるとみて間違いなさそうである。そうなると、脱出するのは容易ではない。この怪物は先刻から明らかに、バルドルに狙いを定めているからだ。もし、この怪物を振り切って坑道へ逃げようすれば、確実に邪魔をされるだろう。一息に坑道の通路まで飛ぶのは、流石のバルドルでも難しいのである。


 じりじりと睨み合いを続けながら一計を案じていたバルドルは、フレイヤに問いかけた。

 

「フレイヤ、さっき俺の腕から抜けたように、君はこの岩や壁をすり抜けられるか?」


「え?ええと……た、たぶん、出来ると思うわ」


「なら、ちょうどいい。コイツの狙いは俺のようだ、君は先に脱出して、この事を外にいるウルに伝えてくれないか?」


「ええっ!?それじゃ、バルが独りになっちゃうじゃない!」


「……目で見て確認している訳じゃないが、風の流れなどからして恐らく俺達が通ってきた坑道の通路は崩落で潰れてしまっている。つまり、俺はコイツを何とかしないと、外に出られそうにないんだ。だが、君がウル達にそれを知らせてくれれば、外から穴を開けてくれるだろう。その間に、俺はコイツを倒す。じゃないと、助けに来た連中が危ないからな。君にしか出来ない事だ、頼む」


「そんな……」


 いつになく真剣な声でそう語るバルドルの雰囲気に押され、フレイヤはそれ以上何も言えなくなってしまった。バルドルを一人にしておくのも不安だが、ここに自分が留まってみても、事態は好転しないだろう。バルドルの言う通り、助けを呼びに行く方が先決だ。


「解ったわ…!すぐにウルさんや、ドヴェルグさんを連れてくるから、待っててね!こんなヤツに、負けないでよ?」


「ああ、任せろ。さぁ、行くんだ!」


 バルドルに背中を押され、フレイヤはスルスルと空中を飛んで坑道の通路へと向かった。登ってみれば、確かに通路は瓦礫で塞がれてしまっていて、とても人間が通れる状態ではない。今、ここを通れるのは、幽霊であるフレイヤだけだ。


「岩を、すり抜ける……やったことないけど、さっきみたいにっ」


 バルドルの腕から抜けた時を思い出し、フレイヤは大きな瓦礫に手を振れた。するりと不思議な感触がして、その手は岩の中に飲み込まれてしまったように見える。頭を差し込むのは少し怖いが、そんな事を気にしている暇はない。フレイヤは思いきり息を吸って、水中に飛び込むようにして瓦礫と化した岩の中へと飛び込んでいった。


「フレイヤ、頼んだぞ。……さて、デカブツ。待たせたな、俺が相手だ!」


 バルドルはポケットから再びミストルテインを取り出し、右手に握り込んで魔力を流し込んだ。すると、あっという間に輝く小さな枝は大きくなって、突撃槍(ランス)へと形を変えた。片手剣と同様に、ランス自体がうっすらと光を帯びていて、グリップを保護する傘のように広がったバンプレートには、美しい樹木が彫り込まれている。


 ミストルテインは、魔剣と呼ばれているが、その形は使い手によって変わるという性質を持っていた。


 どうやら持ち主の魔力を吸収してそれに相応しい形状を取るらしいのだが、これを継承してきた歴代当主の中で、バルドルだけはミストルテインの形を自在に変える事が出来るのだ。例えば、先代当主で、前の持ち主であった母フリッグの場合は大きな両手剣だったし、その前、祖父の場合は刀のように反った刃を持つ片刃の剣であったらしい。

 記録に残っているだけでも、ミストルテインの形は様々だったが、持ち主が変わらないのに、形状を自由に変化させられたのはバルドルだけだ。

 彼が幼い頃、たまたま戯れにミストルテインを手にして色々な形に変えて遊んでいたのを見た母は、信じられないと言った顔で驚き、そして喜んでくれた。その時の母の様子は、今でもバルドルの心にしっかりと残っている。

 

 ランスを抱えるようにして構えると、バルドルは動かない左腕を恨めしそうに睨んだ。


左腕(こっち)は、しばらく使い物にならないな。だが、片手でも、この槍くらいなら扱える」


 だらんとしたバルドルの左腕は出血しているようで、だんだんと服に血が滲みだしていた。先程、フレイヤを庇った時、落ちてきた瓦礫で肩を強打してしまったからだが、そこそこ傷は深いようだ。しかし、その痛みを気にしていては、目の前の怪物とは戦えない。フレイヤに気付かれなかったのが幸いだと、バルドルは思った。


「しかし、岩の巨人か……まるで神話に謳われる神の兵器(ゴーレム)だな。相手にとって不足はない、なんて、格好つけてもいられんが……行くぞっ!」


 バルドルは抱え込んだランスの先端をゴーレムに向け、勢いよく駆け出した。狙いは足首、僅かに見えている関節の継ぎ目だ。一つ目ではあるが、このゴーレムは外見上は人体と同じ構造をしているように見受けられる。ならば、巨体であっても、弱点は人間と同じはずだ。


 バルドルの突撃に、ゴーレムは全く反応しきれないようであった。岩で出てきているからか、はたまた永い眠りから覚めたばかりだからなのか、非常に動きは緩慢で攻撃を避けようという意志さえ感じられない。そして、バルドルはゴーレムの左足首の継ぎ目部分に、ランスの先端を突き刺した。


「ちっ!やはり、堅いな!だが、一撃で倒せないなら、倒せるまで削りとるまでだ!」


 ガガッ!という音がして岩を少し削る事は出来たが、有効打とは言えない有り様だ。だが、全く攻撃が効かないという訳でもなさそうだ。ゆっくりとバルドルを振り払おうとするゴーレムの腕を避けながら、バルドルはその背後へと回り、今度は逆側から同じ場所を狙って突撃する。

 しばらくの間、坑道内には岩を削る不気味な音がこだまするのだった。

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