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インターミション・異邦人と受付嬢

 「うん、依頼通りの薬草ね。 達成を確認したよ」



 俺はあの後特に問題なく森を抜け、馬車に乗り遅れることもなく無事帰還することができた。

依頼自体は薬草採取だったのだが、革製兜を捨てて戻って来たことに疑問を持ったのか、

ルイセさんが首を傾げて聞いてくる。



 「タツキ君、兜はどうしたの? その様子だと直接ここに来たようだけど・・・・・・」


 「ええ、直接来ました。 兜はレッドリザードに壊されてしまいました」


 「レッドリザードに攻撃されたの!? 

  初めての冒険で交戦して、そのうえ逃げのびるなんてなかなか聞かないよ!」



 どうやら、倒したのではなく逃亡に成功したと勘違いしているみたいだ。

まあ、どうやって倒したのかと聞かれるというのも、

『スキル』や特殊な『魔術』について説明する必要がでてくるので、少し困る。


 グレナス・ビーレは多数の神が信仰され、中には世間一般に知られていない神も存在する。

そういう神の与える『スキル』だとしっかり言えば例え闇だろうと変に警戒される事は無いだろう。

神の対立こそあれ、邪神という概念は無いらしいから闇=悪と思い込まないだろうし。


 『魔術』についても俺が高レベルの魔術師だということにしてしまえば、

魔力量やらを誤魔化せば、実はあまり問題は無かったりする。


 しかし戦闘技術もあまり高くないようなぽっと出の駆け出しが能力に頼っているだけ、

と判断されるといろいろ面倒な事になる。 というか、今現在は正にその通りなのだ。


 今は地道に評価をあげていくべきで、能力の事を説明するのは必要に迫られた時で良いだろう。 

俺は、ルイセさんに勘違いをさせたままにしておいた。



 「でも、本当にすごいよ。 冒険者としての適性が高いんじゃないかな」



 ルイセさんはそう言って、こっちに優秀な弟を誇る姉のような視線を向けてくる。

・・・・・・今からでも、レッドリザード倒したって話すかなあ・・・・・・


 非常に迷ってしまったが、とにかくギルドを後にした。











 さて、どうしよう。まだ、昼前の時間帯だが今日はもう依頼を受ける気力はない。

つまり、とりあえずは暇ができたのだ。



 「・・・・・・休める場所、探すか」



 今日は、森の中で木に寄りかかりつつの睡眠だったためか疲れがあまりとれておらずまだ眠い。 

依頼を完了して気が抜けたのか、一気に疲れが増してきたし。


 まずは、公園に行くことにした。 







 「寝れるような場所ではないなあ」 



 中央公園はとても活気のある場所で、静かに休みたい俺にはあまり向きそうにない。

何か、スリみたいな人達が一生懸命仕事に取り組んでいるし。


 荒事になれた冒険者に仕事をする人は流石にいないかもしれないが、

俺みたいな駆け出しなら狙い目だと思われるかもしれない。


 まあ探索領域がある以上、近付いてきても分かるのだが、寝てる時に起こされると嫌だ。

もうホテルに行って休むかな。どうせ今日の寝床も確保しなきゃいけないし。

俺はベクトラ・サービスに向かって歩き出した。








 「・・・・・・迷った」



 だいたいの場所は把握しているからと、公園から直接行こうとしたのが間違いだったらしい。

何やらいかがわしそうな店が立ち並ぶ所に出てきてしまった。歓楽街、といったところか。



 「ギルドからの道順だったら完璧に覚えているんだけど・・・・・・」



 少し面倒でも、確実に分かる道のりで行けば良かった。今更後悔しても遅いが。

というか、ここからの帰り道がわからない。


 途中でムキになって歩き回ったせいでどこをどうやってここまで来たか覚えていないのだ。

人に道を聞きたいが、あれらの店に入って道を聞く勇気は俺には無い。


 どうしよう、と勇気を振り絞るべきか悩んでいると探索領域が人の接近を捉えた。

チャンス、あの人にここからギルドへの道順を教えて貰おう。害意がないし危険も無いだろう。



 「あのー、すみませ・・・・・・て、ルイセさん!? どうしてここに!?」


 「あ、タツキ君。ギルドの外で会うのは初めてだね、こんにちは」



 曲がり角から現れたのは、ギルド受付嬢制服を着てはいなかったが確かにルイセさんだった。

何か、大きな袋を持っている。



 「こんにちは、じゃないですよ! ここ、歓楽街じゃないですか!?」


 「え? まあ、そうでもあるけど・・・・・・キミ、そっちが目的で来たの?」



 ? 歓楽街にそっちではない目的で来る人っているのだろうか。

いや、俺は偶然来ただけだよ!? 変な意識は全然ないぞ!

俺が要領をえない顔をしているのに気付いたのか、指を歩いて来た方に向けて説明してくる。

 


 「私はあそこの秘薬店に用事が合って来たの。 ギルドの同僚に頼まれてね」



 見ると、確かに秘薬を扱っているという旨の看板を掲げた店があった。

他にもちらほらと秘薬店や占いの店等がある。

・・・・・・これって、墓穴を掘ったことになるんだろうか。



 「うん、まあ、キミも冒険者だしね、仕方ないよね、ゆっくりしてってね、

  でもお金使いきらないように気を付けてね」



 そう言うと、ひきつった笑顔を浮かべたルイセさんは妙に速い小走りで俺から離れていく。



 「歓楽街、ゆっくりする、金使いきらないように気を付けろ、・・・・・・っておい!

  おもいっきり誤解されてるだろ! 道も聞いてないし!」



 ここで誤解を解かなければ、

明日以降俺はギルドでルイセさんのひきつった笑顔に出迎えられる事になるだろう。

なんとかしなければ・・・・・・

考えている間に結構遠くまで走っていってしまったようだ。俺は全力で追いかけた。



 「待ってください、止まってくださいルイセさん! 誤解なんです! 道を聞きたいんです!」


 「それ、不審者のよく使うようなセリフじゃないですか!」 

 

 「えー、また墓穴を掘った! でも本当なんです、ここには迷い来んでしまったんですよ!」


 

 ・・・・・・とまあ、上記のような会話をお互いに走りながら5分ほど続け、

なんとか誤解を解くことには成功した。今更だけど、ルイセさんもよく体力もったな。


 今は最終的に辿り着いた(戻ってきた)中央公園のベンチに2人で座り、休憩している。

俺とルイセさんの間には、3人くらいはゆったり座れる程の隙間がある。

今まで礼儀よく振舞ってきたつもりだが、

たかが2日前に会ったばかりの冒険者だし、まあ妥当な距離間だと思う。 

なんとなくだが、身のこなしから武術の心得もありそうなので、 

もし襲い掛かられても何とかなる距離、という事でもあるのかもしれない。



 「そういえば、仕事はどうしたんですか? 同僚に頼まれたって言ってましたが」


 「そりゃ、休みが無いわけじゃないからね。今日の昼から明後日の朝まではお休みなの」


 「ああ、そう言われればそうですよね。同僚の人は、仕事だったから頼んだって事ですか」


 「それも有るんだけどね、あの辺りに自分で買いに行くのは恥ずかしいし怖いって」


 「・・・・・・ルイセさんだったら恥ずかしくないし怖くないだろう、

  っていう事じゃないですか、それ? 結構失礼な気もするんですが」


 「あはは、そう思ってくれるのは少し嬉しいな。でも大丈夫だよ。私、結構強いから」



 やはり、何か武術をやっているんだな。今のは俺に対する牽制でもあるんだろうか。

ま、あまり深くは聞かないでおく事にしよう。ギルド職員だし、いざという時の備えなんだろう。


 それとなく違う話題にするか。

 


 「公園からあそこに迷い込んで、店の名前を見たときとか、かなり動揺したんですよ。

  どこにいけば分からないっていう所に人の気配がして、まあ男性かと思っていて声を

  かけたら女性、それもルイセさんだったんで冷静さを失ってしまって・・・・・・

  あのときは、すいませんでした」


 

 これを話題にするのは恥ずかしいが、こういう事は早めに謝っておこう。

後になればもっと恥ずかしくなるだろうし。 



 「それはこっちこそゴメンね。タツキ君が歓楽街って言ったから、

  その・・・・・・ うん、えっと、そういう目的で来てたのかと思って」


 「あのひきつった笑顔を見た時は、もうギルドに行けないと思いましたよ」


 「はは、ひきつってたんだ、あの時の顔・・・・・・ でも、独身の人で冒険者ともなれば、

  それなりに多くの人が利用してるみたいだし、女の人に見つけられたっていうのは都合悪い

  かもしれないけどそこまで気にする事はないんじゃないかな」


 

 いや、現代日本からわずか2日前に来た高校生の俺としては、とても気になる事なんだが。

もし日本にいた時、ああいう店ばかりの所をうろうろしているのが

同級生の女子にでも見つかったら、俺は転校を考えるぞ。



 「気にする事はない、と言われてもやっぱりそうは思えないですよ」


 「ふーん、真面目なんだね。駆け出しの冒険者でも、そういう人は珍しいよ」



 真面目なんじゃなく、どちらかと言うと単なるムッツリだと思うんだが。

グレナス・ビーレには開き直れる人が多いんだろうか。

でも昔は日本もこういう店が普通にあったらしいしな、遊郭とか。

く、これが文明が進んでしまった事による弊害だというのか・・・・・・!?



 「いや、冷静になれよ俺。全然かっこよくなんかねえぞ」


 「?」


 「なんでもありません、気にしないでください」



 まさか、声に出るとは・・・・・・

仕草や行動から内面を判断されにくい、所謂ポーカーフェイスが取り柄だと思っていたんだが。



 「へぇ、それにしても、なるほどねぇ」



 ルイセさんはそう言うと、何故か近付いて来る。・・・・・・なんか、ヤな予感が。



 「もし、今から私がタツキ君をさっきみたいなお店に誘ったら、どうする?」



 少し潤んだような瞳で、問いかけてくる。かなり近くにルイセさんの顔があり、

正直かなり魅力的だ。しかし見え見えの(というか隠すつもりのない?)嘘に引っかかる筈もない。



 「その誘いは非常に魅力的ですが、どうもしません」


 「え・・・・・・? どうして・・・・・・?」



 さっきまでの熱っぽい視線から、捨てられた子犬のような仕草になる。

しかし、演技上手いな。演劇部の友人が喜び勇んでスカウトしそうだ。



 「見え見えの釣糸には引っ掛かりたくない、ということです」


 「・・・・・・うーん、ホントに驚いた。少しくらい動揺してくれると思ってたんだけど」


 「まあ、ドキドキはしましたが・・・・・・あそこまで露骨にやられたら動揺はしませんよ」


 「そうは言うけどさ、荒くれ揃いの冒険者にはそこまで紳士的な人、なかなかいないからね。

  今は男性冒険者の視線も受け流せるけど、最初はかなりきつかったな」



 ルイセさん、美人だしな。命のやり取りをする冒険者が集まるギルドにいれば注目されるだろう。

今の茶番劇も、日頃のストレスからきていたのだろうか。


 

 「俺は自分の事を紳士的とは思えないんですけどね」


 「私は、礼儀正しくて真面目な人だと思っているんだけどなあ」



 しばらくそんな会話を続けていたが、やや日が傾きはじめてきた。

流石にルイセさんもそろそろ帰るらしい。



 「今日は、ありがとうね。こんなに愚痴とか聞いてもらっちゃって」


 「俺に話して気がはれるなら、良かったです」



 ルイセさんは軽く微笑み、手をふりながら去っていった。

さて、俺も今度こそはしっかり宿屋に行かなければ。

公園からギルド、ギルドから宿屋の道順を思い浮かべながら、俺も公園を後にするのだった。


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