表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

クエスト1・異邦人と薬草採取(後編)

 まあ、こんなところでいつまでも油を売ってるわけにはいかない。

馬鹿なこと言ってないで、先を急ごう。

どこにあるのか良く分からないものを探すんだし、少しの時間もムダにはできないだろう。

俺は森に歩を進めた。






 「・・・・・・近くにモンスターがいるな」



 森に入ってすぐ、俺の探索領域が反応した。

どうやら小型獣のようだが、凶暴なのかそうでないのかわからない。 

危険がなさそうなら無視していきたいところなんだが、

もし凶暴なら、放って置くと後々面倒になるかもしれない。探索領域はこういうとき不便だな。

でも、直接干渉するわけじゃないから、害意にも反応するようには改良できるか?

早速試してみると成功したらしく、あのモンスターは人間に対して攻撃的ということが判明する。  

追っかけられるようなことになっても面倒なので、ここは先手をうって倒しておくべきだろう。

・・・・・・この場合の倒すとはすなわち殺すということなのだが、こっちも生活がかかってるし

冒険者になった以上躊躇してられないだろうな。



 「どうやれば不意打ちできるかな」



 気持ちをきりかえ、俺の取りうる手段をピックアップする。

ナイフで直接斬りかかりにいくのは、今はやめておこう。

気づかれてないのにわざわざ近づく必要はないだろうし。

だとすると闇か。領域を攻撃に応用しようにも方法が思いつかないんだよな。

ということで、昨日から考えていた攻撃を実験がてら実行することにした。

能力の発動に必要なのはイマジネーションだ。

まあ、そうはいっても自分に影響するので比較的イメージしやすかった『領域』とは違い、

『闇』はイメージが難しい。何も考えないで発動しても触手として操れるけど、

あれは手足が増えたような感覚だったからなあ。

それにしても、結局集中しないといけないから、その場から動けなくなるし。

まあ、何が言いたいかというと、このテンションだと出来ないということだ。

なので、無理矢理にでもテンションを上げることにする。



 「もっと、強く・・・・・・ もっと、鋭く!」



 気づかれれば水の泡なので小声で叫んだが、

好きなキャラクターのセリフを言うと同時に不思議パワーがこみ上げてくるのは感動するな。

おお、なんか今すごく異世界で冒険してるって実感が湧いてきたぜ! 

いつもなら自重するが、このままつっぱしる!



 「ン・カイの闇よ!」



 最初に使ったセリフの人のライバルになってしまったが、イメージ的には逆に丁度いいだろう。

球状の闇が数個、モンスターに向かってゆき、直撃した。 

・・・・・・どうやら今ので絶命したようだ。

発動に時間がかかるが弾速は速いし威力もかなりある。いざという時の切り札になるかもしれない。

考えていたより威力が高かったことに少し感動しつつ、俺は薬草探しを再開した。











 「しかし、本当に見つかんねえなあ」



 モンスターにナイフを突き立てつつ、俺はそう呟いた。

最初は楽勝だと思っていたが、案外難しいものだな。

地面に集中しすぎて領域に反応する敵の接近に気づかず、直接戦闘になることも多かった。

能力はともかく、俺自身の戦闘技術はあまり高くない。

なかなか攻撃も当てられなかったので強化された身体能力を活かし、

縦横無尽に動き回って隙を作ってみたりもした。



 「しかし、突く度に使いにくくなるな」



 そうなのだ。モンスターを殺すと、ナイフには当然血がつく。

脂っぽいものも付着し、ようするにヌメヌメしてくる。

セレンさんが頑丈と言った通り刃こぼれはしてないようだが切れ味がなくなるのは時間の問題だろう。


 どうしよう。今ナイフが使えなくなると地味に困る。

闇を球状に打ち出すのは少し時間がかかるし、触手みたいにして使うとその間は動けない。

領域は攻撃に応用しようにも方法が思いつかない。 破壊は問題外だろう。 魔術を使うか? 

・・・・・・いや、これは温存しておくべきか。

ムンドゥスに与えられた魔術はどれも強力なものだった。 雑魚に使うのは少しもったいない。



 「じゃあどーすんだよ俺!」



 いかん、冷静になれ俺。大声出したら集まって来るだろ。

うーん、何か方法はないか・・・・・・ナイフを強化できればいいんだが、

領域は今のところ俺以外にあまり強く直接影響できないしな。

闇でどうにかならないか、試してみるか。武器を覆うようにして、闇を展開する。



 「え、これやたらかっこいいじゃねーか!」



 だからさっきから冷静になれと言ってるだろう、俺! ・・・・・・でもマジでかっこいいな。 と、それはともかく、何か見た目からしていかにも、強化されたって感じするぞ。

さっきまで普通のナイフだったのが全体的に黒色になり、

血のような赤色で縁取りされ、どことなく悪魔の翼をイメージさせる短剣になった。

・・・・・・ムンドゥスって本当に邪神じゃないんだよな?


 モンスターで斬れ味を確かめてみると、今までと比べ物にならないほどよく斬れる。

どうやら、血や脂も弾いているようだ。形状を維持するのに集中し続ける必要はあるが、

発動にあまり時間がかからないので、敵がでたときだけ使えばいいだろう。

一度、ナイフを介さないで直接闇を剣にできないか試したが、数秒で消えてなくなってしまった。

触手等とは違うはっきりした形の物を維持するのはまだ難しいようだ。



 「二刀流もしてみたかったんだがな」



 まあ、武器の問題はどうにかなったし、先を急ごう。夜になると本当に困る。

光をともす魔術はあるけど、モンスターが集まってくるだろうし。










 

 「で、結局夜になったわけだが」



 いや、マジで困るんだよ! 真っ暗なのは流石に嫌だから仕方なく魔術で明かりをつけてるけど、

予想通りモンスターがポンポン出てくるんだよ!

用意してた弁当も落としかけちゃったし、見通しが甘かったというしかないなあ・・・・・・

つーか、薬草どこなんだよ・・・・・・こんなに探して見つからないっておかしいだろ?



 「領域で探せないっていうのは痛かったなあ」



 練習すればどうにかなるかもしれないが、

今のところ動いてる物体の形状と害意の有無を判断するのが精一杯で、それ以上はできない。

・・・・・・いろいろ、不便だなあ。痒いところに手が届かないっていう感じだ。



 「・・・・・・もう、寝るかなあ」



 領域に害意を持った存在が侵入した時は、脳内に直接警告音がなるようには改良できたし、

このまま動き続けて消耗するよりは、開き直って休んだ方がいいかもしれない。 

・・・・・・けっして、不貞寝では無い。











 「・・・・・・!」



 突然脳裏にひびいた警告音で、意識を覚醒させられた。

急いで領域を確認すると、つい昨日も遭遇した、急接近する蜥蜴のような敵影・・・!



 「レッドリザードか!」



 畜生、嬉しくない当りを引いちまった。どうせなら薬草をこんなふうに唐突に見つけたかった!

ナイフを構え、闇を纏わせたと同時にレッドリザードが飛び出してくる。



 「っつ!?」



 こいつ、いきなり頭を狙って噛み付いてきやがった!? 

強化された身体能力のおかげで何とか噛み付きから逃れる事はできたが・・・・・・



 「・・・・・・兜が」



 まさに、ヘルメットが無ければ即死だった、という所だろうか。

いくら皮製とはいえそれなりに防御能力はあるはずの兜が、大きく引き裂かれている。

くそ、4人がかりだったとはいえグレイアさん達は一撃もかすりすらせず、倒していたってのに!



 「落ち着け、こんなときこそ冷静になる必要がある筈だ!」



 冷静になれ、というのを自分に大声で叫ぶぐらいには、俺は冷静じゃないらしい。

異世界に来て初めて感じる、いや、今まで生きてきて初めて感じる死の恐怖に体が震える。

ムンドゥスは万が一の時はここに引き戻す、と言っていたが、それで恐怖が薄れるわけもない。



 「くそっ!」



 闇を生み出し、触手で攻撃しようとするが、

冷静さを失い集中が出来ていない状態では精度も何もあったもんじゃない。

突然でてきた得体の知れない物に驚いたのかレッドリザードは大きく飛び退いたが、

狙いが定まっていない事が分かったのか、こちらを侮るような視線を向けてくる。



 「・・・・・・バカに、しやがって・・・・・・!」



 まだ変な事をしてくるのではないか、と警戒しているらしく、すぐには攻撃してこないようだ。

だが、この状況が続けばあいつはまた噛み付いてくるだろう。

向き合っている状態だからそうそうさっきみたいなことにはならないと思うが、

こっちの集中が切れれば今度こそおしまいだ。

しかし、あいつが離れたことで少しだけ冷静さを取り戻した。

ジャックさんの使った方法を思い出し、実行する。


 

 「捕縛の雷撃!」



 俺自身の魔術師としてのレベルはジャックさんに遠く及ばないんだろうが、

ムンドゥスに与えられた魔術の力だ。この世界の神や精霊も、

俺が生み出すバグのリミッターを普通の魔術師よりは甘く設定してくれているらしく、

あまり集中できていなかったにも関わらず成功した。

数秒程度なら、完全に動きを止める事が出来るのは昨日確認している。

そして、その数秒があれば、切り札を使うには十分だ!



 「ン・カイの闇よぉぉ!!」



 4つ放たれた球状の闇が全弾命中する。レッドリザードは5メートルほど吹き飛び痙攣している。

・・・・・・・あれを全部くらってまだ死んでないってのか!?



 「ううおぉぉぉぉおぉぉぉおおお!!!」



 ナイフへ更に闇を注ぎ込み、ありったけの強化をする。そして・・・・・・



 「終わりだッ!!」



 ザシュ、という音とともに強化されたナイフがレッドリザードを貫く。

それでもしばらくもがいていたが、力尽きたのか動かなくなった。


 

 「手間、とらせやがって・・・・・・」



 俺もその場にどさっ、と座り込むのだった。











 「朝か・・・・・・」



 眩しい日差しを受け、目覚める。

レッドリザードとの戦闘になんとか勝利した俺は、あの後意識を失うように眠ってしまった。

その間にモンスターに襲われていたら、と考えるとぞっとする。

領域は展開したままのはずだが、警告音に起きないという可能性もあるかもしれないし。



 「ん? あれって・・・・・・?」



 朝日に照らされた森をなんということもなく眺めていると、青い花を咲かせた草を見つける。



 「これ! 依頼された薬草か!」



 メモしていた薬草図鑑の絵と何度も見比べてみる。・・・・・・ビンゴ!



 「やったぜ!」



 嬉しくて嬉しくて、疲れてクタクタだったはずの体でガッツポーズをとる。

少し筋肉痛がするが、今はそれも心地よく感じられた。


 今回の依頼にレッドリザードは何の関係もなく、倒したところで直接的な得にはならない。

むしろ、死ぬ可能性があったんだから、損だったといえないこともないだろう。

しかし、今回の戦闘は俺にさまざまな教訓と、自信を与えてくれた。

油断するのは問題外だが、この自信はこれからの原動力になってくれるだろう。


 俺はしばらくその場で、明るい陽光を浴び続けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ