クエスト1・異邦人と薬草採取(前編)
今回は前後編です。
本格的に冒険がスタートします。
「・・・ああ、ベクトラ・サービスか」
一瞬、ここがどこかわからなかった。
家のベッドに比べて結構かたく、あまり疲れがとれてない気もする。
はっきりいうと、目覚めは良くない。
「仕方ないか、エコノミーだし」
神に力をもらったとはいえ、俺自身はやや貧弱な現代日本人なのだ。
常に身体強化をかけているがぬるま湯に浸かっていたようなメンタルが足を引っ張っているようだ。
「気合い入れなきゃな」
身支度を整え、朝食も摂り、宿屋を後にした。
結構早くギルドにきたつもりなのだが、既に人がかなりいる。みんな早起きだな・・・・・・
そういや、時間はどうやって判断してるんだ? 公園に時計塔はあったが、あれでなのか?
ムンドゥスの知識をイメージすると、高価だが懐中時計があるとのこと。
・・・・・・この世界の文明・技術レベルがよくわからない。
俺は高校で理数系の授業をとっていたから、世界史にも詳しくないし。
まあ、面倒だし深く考えないでおこう。
「ああ、タツキ君。ギルドカードが発行されたよ。これで正式に冒険者として登録されたわ」
受付に行くとルイセさんがクレジットカード大の物を渡してきた。
いつの間に写したか知らんが顔も印刷されてる。・・・・・・マジでいつ撮った?
「保管には注意してね。一応再発行できるけど、銀貨を5枚取られるよ。
ないと依頼も受けられないし」
「わかりました。気を付けます。では、依頼のシステム等について教えてください」
「わかったわ。
まず、依頼を受けるのに契約金が必要よ。これは成功失敗問わず返金はされないわ。
依頼を受けたら期限までに指定された条件を満たしギルドに報告する。
その時報酬が支払われるわ。不正が確認されたら、罰則があるけど」
どうやって不正を確認するのかわからないが、
いつの間にか写真をとってるようなこともあるし、何かしら方法があるのだろう。
「依頼の達成度やギルドへの貢献度によってランクが上がっていくわ。
最初はFランクからスタート、最終的にAランク、その上のSランクもあるわね」
「ランクが上がることによるメリットはありますか?」
「まず、受けられる依頼が増えるわ。危険な依頼ほど、高ランクが必要だからね。
名指しの依頼を受ける、ということもあるかも。
後、Bランク以上のカードは、パスポートにもなるよ」
・・・・・・グレイアさん達、全員Bランク以上だったのか。
あのとき使っていたの、色が違ったけどこれだったぞ。
「冒険者にとってのデメリットとしては、月に1回支払うギルド利用料が増えることかな、
Fランクの人は銅貨5枚でも、Eランクの人は銅貨7枚とか」
ギルド利用料なんて聞いてなかったぞ。
まあ、だいたいそういうのがあることは予測していたが。
それに、稼ぎまくればなんとかなる話だしな。一応、聞いてなかったと伝えることにした。
「ゴメン! そういえば確かに言ってなかったね・・・」
何度も謝ってくるルイセさんに、気にしなくていいですよと言っておいた。
とりあえず依頼は昼頃受けることにして、防具を探すことにした。
ルイセさんに防具屋の場所を聞き、ギルドを出た。
「おお、正に防具屋だ」
ずらっと鎧や兜が並んでいる光景、日本じゃなかなか見れないだろう。
俺はモンスターを見たときよりも興奮していた。
それを表にだすとあまく見られるだろうから、冷静なフリをしていたが。
『知識』をイメージし、だいたいの買い方を調べる。
どうやら、欲しい物を直接カウンターに持っていく方式らしい。
置いてある防具について検討してみる。
金属の鎧は防御能力は高そうだが、慣れない俺には動きにくそうだ。それに高い。
革製鎧がいいか。探索領域があるし回避中心にして、重要な部分は鎧でカバーすることにしよう。
兜は・・・一応これも革製の物にしておこう。頭が重くなるのは嫌だ。
手甲、すね当て・・・これらは金属製でもいいか。
腕力も脚力も、身体強化の影響が大きいしな。多少の無理はできそうだ。
全部買うとすると、銀貨7枚?
買えないわけではないが、高いな。そうだ、グレイアさんに伝授された値切り交渉術の出番だ。
グレナス・ビーレに俺の弁論術の恐ろしさを教えてやるぜ。
・・・・・・結論から言うと、値切り交渉は失敗した。
まあ、ちょっと教えられたからってそう簡単にできるものではない、ということか。
防具の修理を1回はタダで請け負う、って言ってくれたから、
成果がないわけではなかったが・・・・・・
武器や防具の準備を整え、昼飯を食べてからギルドに行って 依頼を確認する。
初めてだし、簡単なものを受けよう。というか、ランク的に簡単なものしか受けれない。
ある程度、楽に達成できるものを探した。
「森に生える薬草の採取?」
期限は明後日の夜まで、依頼書に記載された薬草を100グラムほど採取してくるのが達成条件。
契約金は銅貨1枚、報酬金は銀貨1枚。
また、備考欄には最近レッドリザードが出没する、と書いてある。
レッドリザード・・・グレイアさん達があっという間に倒したあの蜥蜴もどきだろうか。
「ルイセさん、この依頼を受けます」
「えーと、薬草採取の依頼ね。うん、初めて受ける依頼には丁度いいと思うわ。
でも、レッドリザードに気を付けてね?
キミの身体能力の高さは知ってるけど、駆け出し冒険者の壁とも言えるモンスターなの。
依頼には関係ないモンスターだし、遭遇したら逃げた方がいいかも」
あいつ、そんなモンスターだったのか。
グレイアさん達があっさり倒していたから、弱いのかと思ってた。
「わかりました、遭遇したら逃げます」
戦闘経験を積みたいし、できる限り戦ってみたいが。
「よろしい。そういえば、頼れる人がいないって言ってたけど、ひとりで冒険するつもり?」
「ええ、しばらくは。・・・・・・複数人で依頼を受けられるんですか?」
まあ、グレイアさん達も4人組だったしな。
「うん。ギルドのルールで、全員で依頼を受けることができるならパーティとして契約できるよ」
「その数に制限はないんですか?」
「ないけど・・・・・・依頼の報酬金は変わらないから、
ひとりあたりの取り分が減っちゃうかも。ギルドは報酬金の分配には関与しないけど」
何はともあれこの依頼は俺ひとりで受けることにして、森に向かう馬車を手配してもらった。
30分ぐらい馬車に揺られ、森に到着した。
この馬車は、明後日の昼まではここで待機しているらしい。
初めての冒険か。何かこう、ドキドキするな。
しかし、昨日ルイセさんに言われた通り、死と隣り合わせでもあるのだ。
危険度の少ない依頼だが安全というわけではないだろう。油断しないように集中していかなければ。
「索敵チェック! ええい、実戦慣れしたモンスターだ!」
・・・・・・集中できるか、不安になってきた・・・・・・