クエスト5・異邦人と素朴な村6
長らく間が空いてしまい申し訳有りませんでした。
短いですが、これ以上間が空くと本当に忘れてしまいそうなのでとりあえず更新します
「一人で行ってくるって? 遠慮してるなら筋違いってヤツだぞ」
「そうだぜ、流石に大の大人を数人抱えるのは無理だが手伝える事は有るしな」
「あー、そう言う事でも無いんですよ。
何とかなる手段に気付いたかも知れないんですけど、間違ってたら恥ずかしいので一寸確認をと思いまして」
一人で外を回ってくる本当の理由は『破壊』のスキルを見せる事に躊躇したからだが、誤魔化しておく。
魔術と違って『破壊』のスキルは何かを消費する訳では無いので、もし上手くいけばかなり効率よく作業は進む。
直接見られさえしなければ、後から何とでも言い訳は出来るだろうしな。
「まあ、村は一通り回ったから迷う事も無いだろうが・・・・・・」
「別にお前が無理する必要は無い、そろそろ日も沈み始めたし少し見回ったら帰ってこいよ?
外の奴らだって大変だろうがお前が動けなくなったら本末転倒なんだからな、あまり先走るなよ」
「危なくなりそうだったらすぐに戻りますよ。身の程は弁えているつもりですし」
これは本音だ。もし効果が無かったり、リスクに対してリターンが割りに合わなければ全力で逃げ帰る予定。
この村の人達には悪いが、俺の身を犠牲にしてまで助けるとかはやりたくない。そこまで感情移入してはいないし。
もう少し言い方を考えれば、俺がこの状況で倒れてしまえば殆ど防衛力が無くなるから無理は出来ない、かな。
俺の中では保身が六割、純粋に村を思う気持ちが四割くらいだ。
自分で言ってて冷たいような気もするが、数か月前までぬくぬく生活していた俺がいきなり勇者になれる訳無いのだ。
だんだん慣れて行かなきゃ強くはなれないんだろうけど。
「では、行ってきます。リリア、俺が居ない間はまた任せるぞ」
「出来る限り早く済ませてね? あまり長い間任されても困るわ」
「何か有ってもすぐ戻るさ、さっきも言ったけどリリアは応戦出来るだけの力だって有るし」
「・・・・・・はあ。何回も言われてるけど、無理はしないで。タツキに何かあったら皆悲しむわよ」
「悲しませる暇も無く戻るから、心配しなくても良い」
「さて、と。とりあえず試してみるか」
気付かれて警戒されないように、一応姿を隠しながら狂気の村人に近付く。
土いじりしている10歳未満に見える少年を視界に納め、スキルに意識を集中する。勿論念じるのは『狂気の破壊』。
しかし、やってる途中で一体どんなタイミングで『破壊』が行われるのか分からない事に思い至り焦る。
「そう言えばルギニさんの時も、いつの間にか元に戻っていたなあ・・・・・・
何か分かりやすいエフェクトとか出ないものかね、こう、ガラスが割れる音みたいな」
某自称不幸少年のアレみたいに、破壊した事が分かりやすい親切な仕様になってないかな・・・・・・って!?
土いじりしていた少年は突如電撃に撃たれたかのように体を痙攣させ、直後に不自然な体勢で硬直。
あまりの出来事に意味も無くファイティングポーズを取ってしまうくらい戦々恐々としていると、少年は前のめりに倒れた。
思わず駆け寄る俺。
「糸の切れた人形のように、って正にこう言う時に使われるべき喩えなんだろうなあ・・・・・・」
と言うかどう見ても危ないリアクションしてたぞ。い、勢いあまってやりすぎてたりしないよな?
落ち着いて考えたら初っ端から小枝を折るくらいの力はあったし、今の俺なら神経切断とかも有りそうな・・・・・・
い、いや、よそう。これ以上悪い方向へ考えるのは良くない。そもそも『破壊』って時点で言葉の響きが悪いんだ。
それで起こる反応が危なく見えてもどこもおかしくない筈だ。うん、その筈だ。
脳内で必死に自己弁護をして精神の安定を図りつつ、倒れ伏した少年を抱え起こして揺する。
途中で揺するのは逆効果だったと聞いたような気もしてきたが、意識を覚醒させる為には仕方ないと割り切る。
十秒ほど揺すっても何も反応せず、本格的に慌て始めたのと同時に少年は目を開けてくれた。
何が何だか分かっていないような素振りで周りを確認し、俺の顔を見て不思議そうな表情で言う。
「あれ、何時の間に夕方になったの? それと、お兄さん誰?」
「おお、君が目を覚ましてくれて本当に良かった・・・・・・」
案外あっさりとした反応の少年を見て思わず心から安堵の溜息をもらしてしまう。
ここで永遠に目を覚まさないとかなったら、流石に自責の念で立ち直れなくなるぞ。
「あー、気分が悪くなったり頭が痛かったりはしないか? 大丈夫そうなら付いて来てほしい所が有るんだけど」
「知らない人には付いていくなって、お母さんに言われた」
「・・・・・・たった今知り合ったから問題無い。少し事情があって、村の皆が一か所に集まってるんだ。
ちょっと家には戻れない状況だから、自分の代わりに案内してくれってルトさんに頼まれたんだよ」
実際には出て来たのは独断なのだが、ルトさん辺りの名前を出しておけば納得してくれるのではないかと思う。
友人をからかっている所も見たが基本的に彼は真面目だし、この規模の小さい村でなら十分信用を得られそうだ。
「ルトさんが? うーん、分かった」
どうやら信用してくれたようだが、この少年をどうすればいいか今更ながらに迷う。
このままなら狂気の村人を通り過ぎざまに回復するのも出来そうだが、この子を連れてそれをやるのはちょっと。
連れ帰ってから再開すると行きたい所だけど、早めに帰ると言ってしまってあるし戻ってからの出発は都合が悪い。
この子一人で帰すと言う案は最初から却下だ。そこまで横着な事は流石にしたくないし、何より危険過ぎる。
「よし、案内するから付いて来てくれ。はぐれるなよ?」
「うん!」
結局今日はこれで終わりとする事にした。
元々『破壊』で正気に戻せるかを調べるのが目的だったのだし、それは既に果たした。引き際も肝心だろう。
この調子でポンポン村人を回復したとして、暗くなりつつある中を大所帯で移動するのはリスクが高い。
狙ってくるかどうかは定かでは無いが、犯人に攻撃されたら一網打尽にされてしまうだろう。
一対一や、リリアが居る時ならまだしも俺一人で数十人を守りつつ戦闘なんて無理過ぎる。そんな実力は無い。
「ねえ、お兄さんの名前は? ぼくはルーっていう名前だよ」
「あ、ごめん。それを先に言うべきだったよな。俺はタツキって言うんだ」
「タツキお兄さんだね、分かった」
何となく幼い子と会話するのは気を使う。怖がらせないよう、いつも以上に喋り方に意識を向ける必要が有るからかな。
厨学生の頃、近所の子供達のごっこ遊びにエターナルフォースブリザードを引っ提げ参戦した時のトラウマかもしれないが。
あの時は憎たらしい程良く回る口と痛い設定で、小学校低学年の少年達相手に大人げない無双を繰り広げた物である。
最終的に少年達は俺と言う悪役を得て一致団結、いじめっ子もいじめられっ子も結束して俺にリアルファイトを仕掛けてきた。
俺もそこで本気を出す程の外道では無かった物の、良いように引っかかれたり殴られて何を思ったか自己陶酔に浸り。
「これがゼロレクイエムか・・・・・・だって! うああ、今思い出しても自分の事ながら寒気がぁ!」
「タ、タツキお兄さんどうしたの!?」
・・・・・・ゴメン。本当にごめん、いきなり騒ぎ出すような訳の分からない変人で。
「帰って来たぞ」
「あ、おかえりタツキ。ん、隣のその子は?」
「『助けてきた』子だ。ルーって言う名前らしい」
皆が集まっている館の正面玄関に立って周囲を警戒していたリリアが俺達に気付いた。
俺は『助けてきた』の部分を然り気無く強調して、言外に予想が当たっていた事を伝える。
それにしても、先ほどまで部屋の中で待機していた筈のリリアが外に出ているのは何故だろう。
「ところで、中で何かやってるのか?」
「バリケード作りね。裏口とかも有るみたいだし、そこを塞ぐ事にしたの。
それで、あたしは今一番手薄になる玄関を見張ってるのよ。他の出入口も危ないと言えば危ないんだけど」
「玄関は塞がないんだな。まあ、出入口を全て閉じるのも良くないか」
「その前にタツキが外に出てるんだから、やるとしても今すぐ閉じるって事は無いでしょ・・・・・・」
「まあ、そう言われればそうか。うん、自分を考えに入れるのを忘れていた」
流石に少し考えれば分かる事だよなあ、これは。俺も間抜けと言うか暢気と言うか・・・・・・
頭が良いだなんて元から思ってはいないが、これぐらいは言われなくとも気付かないと不味いレベルだ。
「タツキお兄さん、この女の人は・・・・・・?」
「この人はリリアお姉さんだ。口調が乱暴に聞こえる事があるかもしれないが、優しい人だから安心していい」
「あたしってそんな乱暴に喋ってるかしら・・・・・・」
いや、それ程乱暴だとは思わないが、勝ち気で活発ってだけで苦手意識を持つ子も居るだろうし。
ルーくんはどちらかと言うと大人しそうな性格なので、一応はリラックスさせた方が良いと判断した。
リリアには少し納得のいかない言い方になってしまっただろうけど、これは勘弁してほしい。
「まあいいわ、改めて宜しくねルーくん。早速なんだけど、あたしに着いてきてくれる?」
「え、う、うん。タツキお兄さんは?」
「タツキは・・・・・・ 悪いけど、此処を任せて良いかしら? 他の人の仕事がどこまで進んだか確認したいし」
「了解した、任せろ。しっかり此処を守らせてもらう。
ああ、村の人達と合流してからで良いからルーくんに事情を教えてやってくれ。まだ説明してないんだ」
「分かったわ。ほら、行こうルーくん?」
「うん、リリアお姉さん」
「・・・・・・何か新鮮だわ、あたしがお姉さんって呼ばれるの」
リリアが手を差し出すと、ルーくんは礼儀正しく返事をしながら手を握り返す。
リリアは返事の内容に感じる物があったらしく、やや感動したような素振りを見せながら屋敷の中に入っていった。
リリアは妹だから家族からお姉さんって呼ばれる事は無いだろうし、背も小さい方だから余計も機会は少ないだろう。
もしかしたら今までそう呼ばれた事が無かったのかもしれない。
「カレンだったら呼ばれてそうだけどなあ。リリアの体型では・・・・・・おっと、これ以上はセクハラだな」
結構失礼な事を考えたりしながらも、注意は周囲へ満遍なく向けている。
普段は無意識的に自分を中心として半球状に展開している『領域』を色々弄ってみたりして試行錯誤。
数分試していた所、『領域』の形を少しだけ変更する事に成功した。
「でも精々数メートル継ぎ接ぎする程度だったら、あまり変わらないなあ。
前方45°に特化とか、もう少し極まった変化が無いと大して意味が無いぞ」
数分試していた程度だし、新しい発見としては妥当な範囲かもしれないが。
一日中研究するような気概でいけば、もしかしたら有用な使い方を新しく見付けられるかもしれん。
今の状況でそんな悠長な事は言ってられないし確実に新しい発見が有るとも言えないので、やる気は無いが。
「・・・・・・そうなんだよな。早く解決しないと何時まで経っても此処に釘付けだ。
しかも、解決する事と帰る事は直接の関係が無い。だからと言って無視する事も不可能、厄介だな」
これは今更な話で有るから、現状の再確認以上の意味は無いのだが。改めて言葉にすると結構ジレンマだ。
なってしまった物は仕方無いので今の状況でベストを尽くすしか無いんだけど、やはり少しは愚痴りたくなる。
しかしこのままでは気が滅入ってしまう、気合いを入れていかなければ。よし、声を出してやる気を出そう。
「何故! ベストを! 尽くさないのか!」
・・・・・・静まりかえった村に虚しく響く、俺の大声。屋敷の中の人達には聞こえてないと良いなあ。