クエスト5・異邦人と素朴な村5
大分遅れました。申し訳ない。
「さて、まだまだ終わらないぞ。しっかり働かないとな」
「何か時間かかった気もするが、二人しか運んでねえからなあ」
「そうですね、頑張りましょう」
意識を失った男性を三人で縛りながら会話というシュールな事をやりつつ励まし合う。
・・・・・・俺としては日没前に全ての村人を運ぶのは無理でないかと思うんだけど。
正確なノルマは知らないが、ペース的に数十人も運べば真っ暗になるんじゃないか?
だからと言って手を抜くつもりは無いが。
作業を終え一息ついたタイミングで、ミカロさんが怒り心頭といった様子で吐き捨てる。
「それにしても犯人の奴! 全くつまらねえ真似をしてくれた物だぜ」
「同意だが、今は愚痴る暇は無いぞ。時間があるうちにやる事はやらないとな」
「分かってるが・・・・・・ん? 唐突に思ったんだが、身代金とかの要求ねえよな」
「・・・・・・そう言われれば。
この村を孤立させるなんて大がかりな事までやって、単なる愉快犯とは考えにくいが」
たしなめるルトさんの言葉に反応したミカロさんが疑問を呈した。
少しの間が空いてルトさんもその意味に気付き、首を傾げミカロさんの言葉に同調する。
しかし、二人とも理解が早いと言うか何と言うか。頭良いなあ。
「理由かもしれない、と言うレベルでなら思い当たる節が有りますが」
「なんだって? 詳しく教えてくれないか」
うーん、ゴシップ雑誌並みに飛躍した理論だし妄想に近いんだが。
まあ、この考えを披露しても損は無い。食い付いてきたルトさんを抑えつつ話す。
「思い込みや発想の飛躍が激しいので、話し半分に聞いてくださいね?
俺がリリアから聞いた分には、あの男はこの魔術は実験と言ったとか何とか。
なので別に魔術で何かをしようと言うのではなく、使う事自体が目的だった可能性も」
「当たってるかどうかは置いておくとして、中々面白い解釈じゃないか?」
「ま、発想の飛躍なんて言ったら俺達だってそうだしな。
ミステリー被れの戯言って枠を出ねえよ。・・・・・・現実の事件には不謹慎かもな」
予め前置きした事も合ってか、鵜呑みにはしないでくれたようだ。
それにしても、「ミステリー被れ」か。だからさっき妙に二人とも理解が早かったのか。
悪いがこの村に娯楽って少なそうだし、小説にでも凝ってるのかな?
これ以上は休息にしても時間がかかりすぎていると言う事で、再び村人の捜索を始めた。
「ようし、これで二十人目だ。中々良いペースじゃねえか?」
「数十分あれば、対応にも慣れてきたからな」
そう、ルトさんの言う通り流石に慣れた。
大抵の村人は狂っているせいで俺達に警戒しないから三人がかりで捕まえるのも簡単だ。
たまに病的に警戒したり暴れる村人が居る物の、そういう人達は後回しにしている。
「問題としては、この人達が落ちついてくれるかどうかだと思うぞ」
「確かにな。近くの町に助けを求めるのが目的だ、連れていくのに支障があると困る」
「もし犯人の狙いが本当に魔術の実験だったとして、この村で良かったかもな。
俺達はこうして色々走り回らないといけねえが、大都市だったらパニックだぜ」
首筋に手刀を当てて気絶させた男性を二人運びながら、俺も会話に加わる。
ルトさんとミカロさんも成人男性を運べるくらいの筋力はあるが、俺が運んだ方が早い。
その為にこの役割を文字通り背負っている訳だが、最初は驚かれた。
「被害の規模から言えばそうかもしれないですけど・・・・・・
それに、この村も小さい訳では無いと思いますが。元は鉱石が採れた村ですし」
「すっかり寂れちまったがなあ。とは言っても俺も栄えている所を見た覚え無いが」
「俺達が産まれる数年前に廃坑になったらしい。
奥の方は空気が悪いし、採掘を熱心にやる必要も無くなったからと塞いだようだしな」
「ああ、それで坑道にしては一時間で隅々まで歩き回れるくらいに小さかったんですか」
「そう言えばタツキは犯人に乗せられて坑道に入ったんだったな。
昔の話だし今は関係無い事だが、奥にはもっと珍しい鉱石も有ったんだと教えられた。
流行遅れになってしまい、村でも弄りにくいから無用の長物になったようだが」
「何? そんな話初めて聞いたぜ、誰から教えられたんだ」
「師匠、って伝わらないか。グラル爺さんだよ」
「あぁ、あの偏屈な昔話大好き爺さんか・・・・・・
ルトもよぉ、もう少し弟子入りする相手を選べなかったのかよ」
「何だかんだで腕は尊敬出来る人だから特に気にならないが」
うーむ、その手の話題になると余所者な俺はついていけない訳だが・・・・・・
まあ親友の会話に首を突っ込むのも悪い。こう言う時こそ他愛ない話も大切だろう。
暴れる村人の警戒でもして、俺は安全確保に努めるとするか。
べ、別にハブられた事に気落ちしてる訳じゃないんだからね!
「・・・・・・正直キャラに合わないツンデレってキモいな」
そもそもテンプレ的セリフを改変した物だし、根本から間違ってるけど。
この呟きをも聞いてない二人に複雑な気分になりながらも集会所を目指して歩くのだった。
「お、おい! ルト、ミカロ!
意識を取り戻したら縛られていたが、あの男にはソッチの趣味があったのか!?」
「・・・・・・!?」
「あれは・・・・・・ルギニだな。間違いねえ。何で戻ってるか疑問だけどよ」
「まさか、本当にショック療法って効果的なんじゃあ・・・・・・」
集会所まで戻ってきた俺達が見たのはルギニとやらの男性の衝撃的な姿だった。
・・・・・・正気の状態を俺は知らないから確定は出来ないが、これ戻ってるだろ。
と言うか知り合いの方々が戻ってるって断言してるし。
「あー、えっと。ルギニ、どこから覚えてる?」
「記憶に残ってる最後の光景は、逃げる時に焦って転んで地面が迫ってくる所だな。
そっから目が覚めたらこの状況だったんだが。 ・・・・・・何故か頭が痛いな」
何とも言えない表情を向けてくるルトさんとミカロさんに愛想笑いを浮かべつつ、
何が起こったのかを急いで考え始めるが・・・・・・もしや本当にショック療法か?
いや、そうだとしたら最初の女の人達が元に戻った理由が説明付けられない。
絶対に共通した理由がある筈なんだが。
「す、少し待ってください。時間をください。
もしかしたら何かが出来るかもしれないんです」
「頭を強打させるとかか?」
「なんだと、俺の頭に鈍痛があるのはソイツのせいか!?」
「落ち着け。やむを得ない事情があったんだ」
ニヤニヤしつつからかってきたミカロさん。
その言葉を聞きルギニさんが殺気立つが、ルトさんが抑えてくれた。
他に正気の人は居ないみたいなので、とりあえず四人で皆の集まっている部屋に戻る。
「・・・・・・と言う事で、お前の頭を叩いちまったのには深い訳があったんだな」
「むむ、記憶には残っていないが迷惑をかけたようだな・・・・・・」
「タツキとリリアには悪いが、お前達がこの村に来てくれて本当に助かったよ」
「手助けになれれば嬉しいですよ」
部屋に戻りつつ、ミカロさんがこれまでのいきさつをルギニさんに説明する。
その後のルトさんの言葉には、微笑みを浮かべながら優等生的返答。
実は面倒臭がっていたなんて事は正直に言わないのだ。これが処世術だな、うん。
そんな風にニヒルを気取りつつ歩いていると、
何やらミカロさんとルギニさんが盛り上がっている。流れを聞き逃したなあ。
おっと、ここだな。
「あれ、随分早かったわね? ともかく、お帰りタツキ」
「ただいま。とは言っても全員を運び終わった訳では無いけど。
理由が不明だけど、また正気に戻った人が出たから休憩も兼ねて連れてきたんだ」
杖を向けながら先にドアを開けたリリアが不思議そうな顔で言う。
俺が事情を説明しリリアが納得した表情を浮かべた次の瞬間、ルギニさんが割り込む。
「ルギニと申します、ミス・リリア。ミスタ・タツキよりご紹介を受けました」
・・・・・・ん?
「この村を守って頂けただけでなく、こうして対策まで講じて頂けるとは。
貴女は外面だけでなく、内面までも慈愛に満ち、気高く。そして何より美しい」
「ど、どうも?」
何事かとミカロさんの方を向くと、笑いを堪えた顔で口に指を当てるジェスチャー。
ルトさんも頭を抱えてはいるが、よく見ると口元がつり上がっている。
「どうでしょう、時間が出来たら私の家で食事や酒でもてなしたいのですが」
「せっかくのお誘いですけど、遠慮します。
既に村の方々がそのような話を計画してくださいましたので。
・・・・・・それとミス、ミスタは名字に付ける物です。間違っていますよ」
「へ?」
「ぷっ、くくく、ダサいぞルギニ!
いつもお前は調子に乗りやすいから落ち着きを覚えろって言われてるだろ!」
「あげく上品そうな口調を装っても肝心な所を間違ってはな」
「ああ、何かと思ったらルギニさんをからかってたと言う事か・・・・・・」
多分、お前ならいける! って感じで煽られたんだろう。
ルトさんまで入ってからかってるのは少し意外だったが、三人とも仲良さそうだし。
これがコミュニケーションの取り合いなのかもしれない。
「ま、あまり時間はとれないが休憩しようぜ。
タツキは何か考える時間も欲しいんだろ? ここで長々立ち話も止めようぜ」
「原因作ったのは俺達だがな」
「ぐう、せっかく可愛い子と知り合いになれるかと思ったのに」
「はは、もし上手い事いっててもお前じゃ知り合いどまりだな」
やっぱり仲良いなあ、この三人。
騒ぎ始めたミカロさん達を見ながら、リリアが持ってきてくれた椅子に腰かける。
他の村人達も騒ぎに加わっているようだ。
この閉鎖環境でのストレスを解消したい思いもあるのだろう。
「で、どうしたの? ミカロさんは考える事がどうとか言ってたけど」
「いや、リリアを口説いたあの男の人が正気を失っていた人なんだ。
気絶させて縛っておいて、しばらく経って戻ってきたらあの通りに」
「うーん、それだけだとちょっと。あたしには状況もよく分からないから」
「それもそうか。俺も最初に女の人達が元に戻った時の状況を詳しく知りたい。
改めて情報を交換しないか? もし任意で戻せる方法があるなら効率が良くなる」
先にリリアがあの時の状況を説明。軽く質問をして大体理解が及んだ所で俺も説明。
十分とかからずに互いの知っている事で重要そうな所をまとめ、考察開始。
「流石に・・・・・・ショック療法って事はないと思うわ。
それで治るなら精神干渉系魔術はあまり脅威じゃない事になるわよ」
「確かに、ジオの教会が涙目になるな」
「怪我を治す役目は残るでしょうけどね。
共通している事を考えるとして、まず正気に戻ったのはタツキも入れて四人よね」
「ああ、そう言えば俺は狂気になる寸前までの記憶があるな。これも考えた方がいいか」
女の人達の時の意識は無いし、俺が正気に戻るまでにはタイムラグもあったらしい。
だが治った事には変わり無いのだから、ヒントになりそうでも有るし考慮しよう。
「それで全員タツキが関わってる、って言うのはどうかしら」
「関わってる事は関わってるが、何か関係あるかな?」
「分からないけど、少しでも可能性があるなら考えないと。
タツキが何らかの方法で元に戻してる可能性だって無いとは言えないでしょう?」
「そりゃあ全く無いとは言えないだろうけど。まあ、考える取っ掛かりは必要か」
そんな都合よくチート能力なんて持っている筈が・・・・・・有ったな。
でもこれは既に考えた事だ。闇と破壊に領域操作、どれも精神の回復なんて関係無い。
何かしらの行動が影響でもしていたのかな、深く思い出してみようか。
「タツキは狂気に意識を失う寸前、何を考えていたの?
何かを念じたから魔術による精神干渉に抗えたって事もあるかもしれないわ」
「うん? 念じた事、か」
俺が意識を失う時は、込み上げてくる狂気を必死で抑えていた筈だ。
うーん、詳しくは思い出せないな。ただでさえ意識が混濁している時だったし。
排除しろ、とか必死に念じていたっけ? ルギニさんの時は簡単に思い出せるけど。
「しっかりとは覚えて無いが、排除しろとか壊れて元通りとか念じたと思う」
「何か、そこだけ聞くと物騒ね・・・・・・排除に破壊って」
「ん!? リリア、今、なんて言った!?」
「え? 物騒って言ったけど」
「その次だ!」
「排除に破壊?」
そうか、そういう事か! 俺は勘違いしていたんだ!
村人達を「正気に回復させた」訳では無い、「狂気を破壊した」んだ!
ヒャッホーと心の中で叫びつつ、リリアの肩を掴み捲し立てる。
「リリア、ありがとう! もしかしたら正解にたどり着いたかもしれん!」
「え、そう? それは良かったけど、どういう事をやれば元に戻せるの?」
勿論『破壊』のスキルを、と言いかけて口ごもる。
言っても問題無いのかもしれないが、あの遺跡で起こった事が唐突に頭をよぎった。
リリアには既に『闇』のスキルを教えているし、今更だとは思うけども。
「・・・・・・実はまだ自信が無い。成功したら教えるから今は聞かないでくれ」
「あれだけ飛び上がって喜んで自信が無かったの?」
「面目無い・・・・・・」
「もしかしてタツキ、あたしに負けず劣らず感情の触れ幅が大きい?」
それを自覚しているからポーカーフェイスを意識しているつもりだが。
まだまだ隠し通せてないな、高校に入ってからは大分良くなった方だとは思うけど。
まあ、とりあえず『破壊』のスキルが効果を及ぼしたらしい事は分かった。
本当に効果があるのか確かめる必要があるが、一応見当をつけれた事は進歩だろう。
駄目で元々、実際に効果があれば儲け物くらいに考えておけば丁度いいか。
「で、タツキ。その・・・・・・離して?」
「あ」
急いでリリアの肩から手を放す。ついテンション上がって失礼な事を・・・・・・
「いや、さっきのが嫌だった訳じゃないのよ! ほら、世間体が悪いと言うか!」
「リリア、それは自滅するパターンだ」
にわかに注目が集まり始めた。
顔を赤くして黙り込むリリア、早くも現実逃避気味の俺、囃し立てる村人達。
くそお、こういう事でからかわれるのには慣れてないのに。
なんだか外堀がどんどん埋まっていく気がする。満更でも無いけど・・・・・・