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クエスト5・異邦人と素朴な村4

 「村の皆を放ってはおけない、せめて各々の家の中には入れてあげるべきだ!」


 「出来もしない事を言うな、さっきもやろうとして攻撃されたじゃないか!」



 話し合いが始まったのだが、中々に白熱している。

大まかに分けて、狂った村人を世話しようと言うグループとそんな余裕は無いと言うグループ。

更に言えば、時間がかかっても村に留まって馬車の到着を待とうと主張するグループ、

道は険しいかもしれないが助けを隣の町まで呼びに行こうと言うグループがある。

どちらの主張も一理あると思うが、こうなると感情論になってくるので良くない雰囲気だ。



 「えー、落ち着いて考えましょう。冷静に行きましょう」



 素数でも数えましょうと続けるかとも思ったが、素数の概念があるか分からない。

それに実は素数を数えるのは苦手なのだ。7001が素数と言うのは知っているけど。

・・・・・・我ながら、何とも微妙な辺りを覚えているな。



 「そうは言ってもな、こっちは村の皆の命がかかってるんだよ!」


 「だからこそです。ここで言い争うよりは互いの主張の妥協点を見付けて早く行動しましょう」



 気持ちは分かるのだが、時間をかける訳にはいかないのだ。

日没まで後数時間しか無いし、どう活動するにしろ余裕のある状況ではない。

しかもリリアから聞いた話だとあの男は「一時撤退」と口に出したらしい。

今日中に戻る可能性も低いとは思うが一応注意するにこしたことは無いと思う。

俺としてはあの男を捕らえて無力化すれば余裕が出来る気もするけど、逃げた場所が分からない。

そもそも提案しようにも村人達に受け入れられる様子ではないし。



 「妥協点と言われてもな」


 「ここでこうしている内に夜になってしまいますよ。

  夜になったら周りの人を助けるにも、村の外に助けを求めるにも危険です」


 「それは・・・・・・そうだが」



 頭では相手の主張を理解できていても納得はできない、って感じなのか。

まあ、一度水掛け論になったらそうそう落ち着かないだろうからなあ。

少し困るけど、俺が落とし所を示すべきか? ・・・・・・リリアも何か話して欲しい。



 「もう一回だけ村の人を助けられないか試してみて、その後は助けを呼びに行く。

  これでどうでしょうか」


 「む。まあ、確かにいつ犯人が戻ってくるか分からないしな・・・・・・」


 「一回だけ、と言うのなら待っても良いが。助けを呼びに行くと約束するならな」



 おや、案外双方あっさり引き下がったなあ。

一応無意識下では言い争う暇は無いと思っていたのだろうか。

これくらいの手助けだったら俺にでも出来そうだな、何しろ意見の纏め役になるだけだ。

知性的で理知的な人が複数いるから、感情論になる前にクールダウンさせれば議論は進む。

俺としては必死に意見を考える必要が無くなり非常に助かる。



 「そうと決まれば行動だ。今度は君にも手伝ってもらうぞ」


 「今度? ああ、前回はリリアだけだったんですよね。俺は気絶してたし」


 「そう言う事だ。暴れるヤツを取り押さえるのに男手は多い方が良い」



 あー、確かに今ここには体力のありそうな男性少ないしな。

無事な村人の半分近くが女子供、残り半分も中年壮年の男性が殆どで若者は二人しか居ない。

・・・・・・でも、男性全員で掛かれば流石に何とかなるとは思うんだが。


 若者二人に先導されて部屋の出口に向かうとリリアが着いてこようとする。

何かあった時の為に残って村の人達を見ていてくれないか、と伝える。



 「うーん、見張りは必要かもしれないわね。あたし一人で応戦出来るか怪しいけど」


 「正面切って戦え、って訳でも無いさ。時間を稼ぐのならリリアは既にやってるじゃないか」


 「あの男が完全にこっちを見下していたからだと思っていたけど・・・・・・

  まあ、やれるだけの事はやるわ。そもそも来る可能性の方が少ないんだし、大丈夫よね」


 「・・・・・・そう言うフラグじみた言動をするなよ、不安になってくるぞ」


 「フラグ? 何それ、どこの言葉? 旗っていう意味にしては文脈がおかしいし」



 あ、本来の意味で伝わったのか。

コンピュータ由来のスラングなんてこの世界には存在しないもんな。



 「ジンクス、って言い換えた方が分かりやすいかな?

  戦場で仲間に家族の写真を見せると死ぬとか、遺書をしつこく沢山書くと死なないとか」


 「んー、分からなくも無いわね。何、つまりあたしが危なっかしいって?

  大丈夫よ、これでもファディア国立魔術学校の学生なのよ」



 いや、だからそういう言動がフラグなんだって・・・・・・

大丈夫って二回言ってるし、名乗り方とかがもう。俺の方がビクビクしてきたよ。



 「お二人さん、自分達の世界に入ってないで動いてくれないか?

  行動は早い方が良いって急かしたのは君だろ、タツキ?」


 「すみません・・・・・・」



 咎めるような口調だが、顔がニヤついている若者二人組。

この状況で目の前の男女がいきなり長話を始めたら、それはからかいたくもなるだろう。

しかも早速提案と行動が矛盾しているし。からかいで止まっているのはむしろありがたい。

怒られたって文句は言えないからな、これは。



 「ま、反省は行動で見せてくれ。頼りにしてるぜ、冒険者」



 やはりおどけた感じの若者二人。

危機感が無いようにも見えるが、彼らなりに俺を気づかっているのかもしれない。

そうさせてもらいます、と返して彼らに続き建物の外に出た。











 「うおぉ・・・・・・何と言うか、これは」



 改めて狂った村人達を見て、思わず呻いてしまった。

最初に見た時は訳が分からなくてあまり情景を深く理解出来なかったが、

落ち着いて見るとその異常さが際立って、不気味だ。



 「俺達もあまりやりたくないが、放っとく訳にはいかないからな」


 「力のある奴がやるのは当たり前かもしれねーけどよ、だからって任せきりも酷いだろ。

  さっきも俺達とあの女の子だけだしな、もう少し気遣ってもらいたいぜ」


 「うーん、それはまた・・・・・・」



 役割分担がハッキリしていると言うか、皆ちゃっかりしていると言うか。

確かに来ても力になれない人が多いのかもしれないが、三人だけ外に出されるのもアレだな。

今更愚痴を言っても仕方無いし、間違った事をしている訳でも無いのだから文句はないけど。



 「まあ、協力してさっさと終わらせましょう。一人一人にあまり時間は掛けられないですし」


 「そうだな。ああ、ルーズリーさん家の息子さん・・・・・・って、分からないか。

  茶髪の、空色の服を着た十歳前後の男の子が居るんだが気を付けろよ。

  近付くといきなり尖った木の棒を振り回すから危ないんだ」


 「他にも殴りかかってくる男とかな。特に危険な奴に近付く時はその都度注意するぜ。

  ま、君の方がこう言う荒事の対処は慣れてるのかもしれねえが」



 何はともあれ、三人で異様な雰囲気の村を歩き狂った村人を捜す。

捜すとは言っても殆どの人はその場から動かないので、見付ける事自体は簡単である。

さっきも見付けて回った、この二人が案内してくれるからだ。



 「そう言えば、まだ自己紹介してなかったな。俺はルト、石を削って売り物にしてる」


 「おお、最初にやっておくべきだった。ミカロって名前だぜ、仕事は家畜の世話だな」


 「あ、丁寧にありがとうございます。では改めて自分も」


 「いや、君のパートナーから大体の事は聞いたよ。ふふ、随分好かれてるみたいだな?」



 リリアは一体どのくらい話したんだ・・・・・・

下手に誇張が入っていたりしそうな気がするし、この様子だと。



 「一応、好意を向けられてる事には気付いているつもりなんですけどね。

  リリアのアレは色々込み入った事情があると言いますか、やや盲目的なんですよ」



 言ってから、他人に軽々しく話して良い話題では無いのではないかと思い至った。

しかし覆水盆に返らず。言ってしまった物は仕方無いと早々に気持ちを切り替える。



 「盲目的? それがどうした、むしろ好都合。よし、俺が女の誘い方を伝授してやろう」


 「ミカロ、誘うだけ誘って本命を絞らないお前のやり方を教えても問題が・・・・・・

  おっと、静かにしよう。あそこに居る、刺激しないように行かないとな」



 思っていたよりも軽く流されたので、肩透かしを受けた気分だ。

別に深く突っ込まれたい訳では無いから、こんな風に感じるのも変な話だが。


 ルトさんが指した方向を見ると、人形をひたすら水洗いしている少女が居た。

・・・・・・数時間前に廃坑から出てきた時も洗ってた覚えがあるけど。



 「あの子は近付いただけならあまり問題が無い。何しろ反応しないからな。

  でも、人形を手放させようとしたり洗い場から引き離そうとすると酷い事になる」


 「さっきは危うく指を噛みちぎられそうだったぜ。

  ルトが機転を利かせて人形を握らせてやらなかったら、俺の指が手とサヨナラだった」


 「それなら、最初に動けなくしてから運ぶのはどうですか?

  人形を洗えるのなら何処だって良いのかも知れませんし、案外連れてきても問題無いかも」



 手っ取り早い手段としては「睡眠」の魔術を使う方法があるが、これは回数に限りがある。

最初から魔術の使用を前提にしたくは無い。リリア程の回数を使える訳では無いからな、俺は。



 「流石と言うか・・・・・・発想が容赦無いな」


 「でもよ、動けなくとは言っても何も殴ったりする訳じゃ無いだろ?

  その方法でも良いんじゃねえか、いちいち他の方法を考えてる時間が勿体無いしな」



 ルトさんは渋り、ミカロさんは乗り気のようだ。

こうして見ると、やはり二人の性格の違いが分かる。片方は思慮深く、片方は思いきりが良い。

この二人はどうやら中々に深い友人関係のようだが、タイプが違うからこそなのかもしれない。



 「うむ、それもそうだな。最低でも後数十人は回らないといけないしな」


 「・・・・・・数十人かぁ」



 今まで具体的な人数は聞いてなかったが、多いな。

いや、一つの村に住んでる数としてはむしろ少ないかもしれないけども。

どうやっても短時間では終わりそうに無いぞ。


 これって真面目にやってたら本当に夜になるんじゃないのかと思いつつ、

一応は刺激しないように、そろそろと女の子に近付く。

二人の言っていた通り、すぐ後ろまで来ても人形を洗う事を止めない。

おまけに口に出して計画を考えても内容を理解した風が無いので、かなり楽だ。

全員でタイミングを合わせ、一斉に取り押さえる。

ルトさんが左腕、ミカロさんが右腕、俺が頭と体を掴んで動きを封じる。

・・・・・・なんだか、少女誘拐やってるみたいだな。



 「大丈夫か、タツキ? 手を噛まれたりしてないか?」


 「問題無いです。しっかり頭を固定すれば、噛まれる事はありません。

  それよりも、精神的に何か嫌な物があるんですが・・・・・・」


 「まー、よってたかって女の子に掴みかかる男達の図だからな。

  お世辞にも褒められた光景じゃないだろ、こんな状況でもねえとな」



 だよなあ。日本・・・・・・いや、地球だったらたちまち警察沙汰だ。

グレナス・ビーレでだって基本的に犯罪行為な事には変わり無い。

基本的に、と言うのはグレナス・ビーレの法や価値観が地球のそれと比べて違いがあるからだ。

ここ、ファディア国では表立っては認められていないが他国では奴隷制度に近い物もある。

金を持ってる者が偉く、持ってない者は偉くないと言う極端な資本主義だ。

共産主義に傾倒するのもどうかとは思うが、バランスを取るのは大事だと思う。

要するに何が言いたいかというと、人権に関して発達していない部分があると言う事だ。

・・・・・・発達して、結論がこれなのかもしれないが。

地球と比べて、違いのある部分を劣っていると決め付けるのも良くない考えだし。



 「よし、連れていきましょう。大きい桶に水を汲んでおけば大人しくなるでしょうし」


 「早速一人目だな。だが、一人一人をいちいち連れて戻るのも時間がかかるな」


 「それは移動しながら考えようぜ。今はこっちが先だ」



 結構な力で暴れる女の子を、やや顔をしかめて押さえるミカロさん。

下手に力を入れるのも躊躇うし、だからと言って力を抜くのもマズイ。加減が難しいのだろう。

声を全く出さずに暴れる様子に表現の出来ない気味の悪さを感じながら、移動を始めた。











 結局、女の子を臨時集会所の近くまで引っ張ってきた所で離した。

丁度よく水場があったし、そっちに興味を引かれ始めたようだからだ。

ここまで来れば目の届く範囲だし、対応もしやすいだろう。



 「しかしさっきも言ったが、この調子だとあまりにも時間が掛かりすぎるぞ。

  そもそも数十人全員をどうにかしようと言った時点で気付くべきだった気もするが」


 「そうは言ってもこれ以外に方法がなあ。地道に行くしかねえよ」


 「補助魔術を使えば効率自体は上がると思うんですけど、魔力も無限では無いんですよね」



 リリアにも手伝ってもらえばギリギリ何とかなるかもしれないが、

数十人に使えば魔力もそこで尽きてしまうだろう。それは好ましい状態ではない。



 「あまり有効そうな手段が見当たらないし、やはり今のまま続けるしか無いか」


 「そーそー、って何だ!? おい、ルギニのヤツが突進してくるぞ!」



 急に切羽詰まった声を上げたミカロさんの方を向く。

すると、体格のいい男性が丸太を槍のように構え走りよって来ていた。

バカな、探索領域には今の今まで何も反応が・・・・・・



 「ちっ、狂っているから害意を持たないまま攻撃出来るのか!?」



 言いつつ、二人の前に出て応戦体勢に移る。

接触直前に丸太を振り回してきたので、闇と領域で強化したキックを放ち丸太を粉砕する。

フィアとの対戦時の感覚から、闇もある程度直接の身体能力強化に使えるようになったのだ。

しかし狂っているせいか、普通なら驚くであろう今の光景を目前に何の動揺も見せない。

それどころか、少しの躊躇もせずに殴りかかってくる。だが・・・・・・



 「生憎だけど、俺は普通の人間との一騎打ちなら負けるつもりは無い」



 特に魔術を使わない相手なら、よほど特異なスキルでも無い限りは無力化は容易い。

本気を出せば人間離れした身体能力を出せるし、ブランクこそ有るが。



 「人間相手なら柔道も使えるからな!」



 掴みかかってきた右腕を、左腕で捌き逆に手首を掴み、前屈みになりながら体を反転。

同時に右肘を相手の右脇に当て、右足は少し折り曲げて重心の乗った相手の右足に当てる。

右足をピンと伸ばし相手の重心を崩す。ぐらついた隙を見逃さず両腕で相手の右腕を引く。

ルギニと言う名前らしい男性の体は空中に投げ出され、すかさず地面に引き倒される。

・・・・・・勢い余って頭から落としてしまった。これで反則二つだな。



 「おい、今のすげえのは何だ!? 丸太を蹴り壊したのもビビったが、今のも驚きだぞ!」


 「や、それよりもルギニは無事なのか? ゴスッと鈍い音がしたが。頭壊れるんじゃないか」


 「どうせだったら狂った頭が壊れて元通りにならないもんかね? それなら大歓迎だ」


 「あー、多分大丈夫・・・・・・だと思います」



 癖で投げた相手を軽く引き戻したし、幾分勢いは落ちた筈だ。多分だけど。

ま、まあ、アレだ。ミカロさんの言う通り、ショック療法みたいな物と考えれば良いさ。

狂った頭が壊れて元通り。いかにも有りそうじゃないか、うん。



 「しかし、ルギニはさっき落ち着いていたが・・・・・・」


 「少なくとも、こうして殴りかかってくるような狂い方では無かったよな」



 狂った頭が壊れて元通りと必死に念じていると、二人は何やら疑問があるようだ。

さっきとは狂い方が違っている気がしたとの事だが、狂っていたら理屈なんて関係あるのか?

静かだった人がいきなり暴れるのもおかしい話では無いと思うんだけど。



 「とりあえず、気絶してここに居るから縛っておくか。連れてきたのと似たような物だ」


 「だな。・・・・・・おいタツキ! さっきの体術は何なんだ、すげえぞ!」



 すげえすげえと興奮しているようだ、そんなに褒められるとテンション上がってくる。

流石は県大会ベスト56の実力を持つ俺だぜ! ・・・・・・あまりパッとしないな。

さっきのも殆ど身体能力に頼った無理矢理な物だったし。テンション下がる。


 喜んだかと思えばすぐさま悲しむ。

そんな不安定な精神を披露しながら、男性を近くの物置から取ってきた縄で縛るのだった。

・・・・・・唐突に、レナさんを思い出してしまった。



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