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クエスト5・異邦人と素朴な村3

 「ほら、君も動くんじゃないぞ? この二人の自殺を見たくないんだったらな」


 「人質なんて卑怯よ! 正々堂々戦いなさい!」


 「冒険者相手に真っ向から挑むかよ。有利な状況を作ってから戦う事のどこが悪いんだ?」


 「女性を操って人質にする、それが既に悪い事よ!」



 タツキはあの男の魔術を受けて倒れてしまった。

私も聞いた事の無い魔術だったからどのような効果か分からない。でも、胸騒ぎがする。

魔術の名前からしてこの村の惨状を作り出した物である可能性が非常に高いのだ。

タツキが狂気のままに暴れだしたりしたら・・・・・・考えるだけで、ゾッとする。



 「ふむ、よくよく見ると中々の女だな。

  ちょうど魔術師の手駒も欲しかった所だ、君も俺に従ってもらおう。動くなよ」


 「っ!?」



 まさか、私をその女の人達みたいにする気!?

どう見てもあの人達は普通の精神状態では無い、好きな人に向けるような視線を送っている。

・・・・・・あの精神状態を、前は私自身が味わった事があるけども。



 「『刷り込み』の魔術、ね?」


 「おっと、ご名答。まあこれは試作品みたいな物らしいけど」


 「試作品? そう言えば、魔術学校生の私も知らない魔術なんておかしいわね」



 これは自惚れかもしれないけど、ほぼ全ての魔術は知っていると思っている。

使えるかどうかは別として、上級魔術でも名前や効果くらいは講義で習うし。

でも、狂気とやらの魔術は聞いた事も無い。・・・・・・って、今は考えてる場合じゃ無い!



 「そらよ、『引きずり込む狂気』!」


 「くっ!」


 「なんだ、避けるなよ。今のは見逃すが、次は無いぜ?」



 放たれた魔術を咄嗟に回避する。しかし、あいつは嘲笑を浮かべながら人質を指し警告する。

あたし一人で魔術を撃とうにもそんな隙は無い。どうしても人質に動きを止められる。



 「ふん、分かったみたいだな。そうやって大人しくしてろ」



 どうすれば!? 次に変な事をしたら間違いなくあの二人は首を切るだろう。

いくら知らない人とは言え、あたしの行動に命がかかっているのだ。見捨てる事も出来ない。

でも、ここで逃げなければ、あたしは・・・・・・



 「さて、次はどうすっかな。そろそろこの村の奴等が目障りになってきたし、殺させるか」


 「殺、させる!? い、嫌・・・・・・」


 「なーに、すぐに嫌でも何でも無くなる。安心しなよ」


 「こ、こないで! こないでぇ!」



 怖くて、でもどうする事も出来なくて、ぎゅっと目をつむる。

目をつむったあたしを見て、嘲るあいつの声が聞こえる。助けて、タツキ・・・・・・!



 「嫌がってるじゃないか。止めてあげようよ」


 「っ!? お前、何故狂ってない!? いや、あの二人はどうした!」


 「へぇ。貴方の名前はフィアって言うのか。よろしくお願いいたします」


 「・・・・・・? そうか、こいつはこう言う狂い方をしたのか。まったく、紛らわしい。

  って、人質はどうなってんだ!? おい、倒れてないで早く立て! 何があった!」



 タツキの声が聞こえた。嬉しくて顔を上げたけど、何かがおかしい。

会話が噛み合っていないのもそうだし、人質の二人がいつの間にかうつ伏せに倒れている。



 「今日は雨が降っているし、オモチャを壊さないように気を付けて遊ぼう」


 「はぁ? 晴天じゃないか。ま、狂ってるんだし整合性を求めてもしょうがないか」


 「口裂け女とトンカラトンに会わないように、青と赤と黄の巻き紙を持って歩こう」


 「・・・・・・そろそろ面倒くせえ。そこで死ぬまでそうやってろ」



 あの男とタツキの会話を聞いて愕然とする。

タツキは完全に変になってる。傍目には普段通りに見えて、余計に気味が悪くなってしまう。



 「気を付けてください。口にするのもおぞましい混沌が貴方を嘲笑っています」


 「狂気の個人差ってのはどう決まるのか、興味も出てきたな。あの御方に聞いてみるか」



 あの男はタツキを完全に無視したみたいだ。

人質が気を失っている今なら攻撃も出来ると思うけど、タツキが気になって攻撃に移れない。

そうこうする内に、あの男も人質が効果を失っている事に気付いたのか魔術を撃ち込んでくる。



 「しまっ・・・・・・!?」


 「何だ? 狂ってんじゃないのか」


 「リリアを攻撃? リリアは誰だ? 頭に、霧がかかって」



 あたしが狼狽えている隙に放たれた魔術は、タツキが壁になる事で防がれた。

タツキが反応する事は無いだろうとあの男は思っていたようで、訝しげな顔をしている。

あたしも今のタツキが庇ってくれるとは思っていなかったけど・・・・・・

当のタツキは頭を抱えて何かを呟き始めた。



 「リリア・・・・・・カレン? 誰かが、助けを、助け?」


 「いい加減気持ち悪い奴だな。

  ったく、おい、お前ら早く立て。人質がぶっ倒れてると困るんだよ」


 「うぅ、ここは?」


 「私は、今まで・・・・・・何を?」


 「ーーーああ。そこの男、彼女らは既に魔術の呪縛から解き放たれている」


 「はいはい。君の戯言は聞き飽きたよ」


 「忠告は素直に聞き入れる物だ。まあ、受け入れるかどうかの自由は君にあるが」


 「・・・・・・今度はえらく理性的になったな」


 「『タツキ』では無いからな。彼には、今しばらく眠っていてもらおうと思う」


 「今度は多重人格を装って狂ったと。忙しい奴だ」



 な、何・・・・・・? 人質の話題になった辺りでタツキの雰囲気が変わった。

今までの得体の知れない気味の悪さや普段の冷静を気取る快活さも消え、堂々した雰囲気に。



 「所で君にもう一つ忠告だが。狂った相手に人質なんて何の意味も無いと思わないか?

  攻撃魔術を扱えるのかは知らんが、この距離で剣士との一対一が出来る技量があるかい?」


 「・・・・・・!」


 「『狂気』の魔術でも使ってみるか? 結果はさっきの通りだ。

  『刷り込み』も、タツキならまだしも私が耐えられない程の物でも無い」


 「ちっ、そこまで言うなら望み通りにしてやるよ、『隷属の刷り込み』!」



 ・・・・・・一瞬、あたしの経験からあの男とタツキのイチャイチャを想像してしまい。

この緊迫した場面にも関わらず、あたしは妙な気持ち悪さに呻いた。

タツキが気を失わないのを見て、心の底からホッとした。



 「いくら肉体が人間とは言え、精神が私だ。

  補助魔術の効果を及ばせたいのなら、せめて悪魔を超える魔術を使うのだな」


 「あ、悪魔? いつの時代の御伽噺おとぎばなしをしていやがる・・・・・・

  しかし、こっちが不利なのも否定出来ないか。おい、お前ら! 掴まれ!」


 「なっ! アンタ、来るんじゃないよ!」


 「お店のみんなを、元に戻してください!」


 「は・・・・・・? こんな短時間で効果が切れるような魔術では無い筈だ!」


 「だから言っただろう。魔術の呪縛から解き放たれている、と」


 「何だ、何なんだお前は!? い、一時撤退だ、『空間を繋ぐ旅路』!」


 「え!?」



 嘘、『旅』って事は転移魔術!? 

目に見える範囲に移動するだけの最も初歩の物ですら、上級に限り無く近い中級魔術なのに!

しかも、この様子だと上級の中でもトップクラスの使用難度な筈じゃ・・・・・・



 「って、逃がさないわ! 『強襲する魔弾』!」


 「残念だったな、一歩遅いぜ」



 無属性魔術で攻撃を仕掛けたものの、間一髪あの男は足元に現れた青い光の中に消える。

く、ここで逃がすと面倒なのに!



 「ふむ、行ったか。いや、助かったな」


 「あいつを逃がしたら意味が・・・・・・えっと、タツキよね?」


 「残念ながら、違うな。・・・・・・限界か」


 「限界って、何が? と言うか、タツキじゃないって言うなら誰だって言うのよ」


 「私はそろそろ意識の底に戻らなければならない、と言う事だ。

  後、タツキが覚えているか分からんが・・・・・・私の名はデミス、と伝えておいてくれ」


 「あ、いや、ちょっと?」



 言うだけ言って気絶してしまった。困るわよ、どうしろって言うの・・・・・・

何があったのかは分からないけど意識を取り戻している女性二人と顔を見合わせるのだった。











 「止めろー! パッケージからお色気系のゲームだと勘違いしたのは謝るからー!」


 「・・・・・・やっぱり狂ったままなのかしら」


 「大体にして女の子二人だけでダムに沈む村に来るとか危険過ぎるだろ・・・・・・

  うん? 何だ、リリアか。ありゃ、ここって何処だ? 記憶が微妙に飛んでるんだが」


 「あ、戻ってる? 良かった、心配したのよ。あの男に魔術使われたの、覚えてない?

  あの後色々あって、気絶したタツキをこの休憩室まで連れて来たんだけど」


 「魔術? ・・・・・・ああ、あいつどうなった!?」


 「逃げられちゃった。でも、あの女の人達は無事よ。意識も元に戻ったわ」



 アレなゲームかとドキドキしながらやったらカメラが武器のホラーゲーム。

違う意味でドキドキする羽目になったトラウマに叫びながら目を覚ますとリリアが隣に居た。

前後の記憶が飛んでいたが、リリアの言葉で何があったか思い出す。



 「逃げた? と言うより最初に聞くべきだったが何で意識が元に戻ったんだ、俺やあの人達」


 「タツキも分からない? じゃあ、無理なのかな・・・・・・」


 「無理って、何がだ?」



 後、休憩室とだけ言われても肝心の何処かが分からないんだが・・・・・・

まあ、話の重要性的に後回しでも良い話題だな。今さら話の腰を折るのも悪い。



 「あの場でタツキしか何か出来るような人がいなかったから、事情を知ってるかと思ったの。

  もし、何か分かるようならこの村の他の人達も元に戻してあげられるんじゃないか、って」


 「む、何だ。その言い方だと周りの人達は狂ったままなのか?」


 「そうね。タツキも途中まであんな感じだったのよ」


 「うげ、マジかよ・・・・・・どんな事やってた?」


 「良く分かんなかったけど、フィアとかトンカラトンとか口裂け女とか言ってたわ」


 「へ、へえ。俺にも分からないな」



 何やら少年時代のトラウマで揃ってるな。・・・・・・さらっとフィアが入っているが。

もしかして、さっきのも狂気の魔術の影響で思い出したのか? 迷惑だなぁ。



 「ん、途中までってどういう事だ? それから今までずっと気絶していたって事か?」


 「・・・・・・デミスって名前に、心当たりある?」


 「え? いや、知らんけど。それ、関わりあるのか?」



 聞いた事あるような無いような。どちらにしろ、今聞いてもピンと来ない。

今の話にも関係は全く無いと思うのだが。



 「いきなりタツキの雰囲気が変わって、デミスって名乗ったの。

  あの男の魔術にも抵抗していたし、ただのうわ言でも無いと思ったんだけど。

  悪魔を超える魔術を使え、とか挑発もしてたわ」


 「悪魔? うーん?」



 そう言えば、ルインがそう言う名前を言っていたような・・・・・・

だとしても、俺はそのデミスとやらには会ったことも無いんだけど。



 「・・・・・・いや、知らないな。何なんだろう」


 「そっか・・・・・・何から何まで分からない事だらけ。

  村に閉じ込められる形になってるし、疲れちゃうわよね」


 「そうだなあ。せっかくレッサーワイバーンの番を討伐だなんて大仕事してきたのに」



 今頃はルガーラに戻っていたかもしれないのにな、畜生・・・・・・

馬車はすぐには来れない、村人の大半は発狂、その犯人も逃亡中、考えるだけで気が滅入る。



 「一応、正気の人達でここに集まって対策を考える事にしたの。大部屋に集まってるわ」


 「なら行ってみるか。どうにもならないしな、ここに居ても」



 簡素な寝台やテーブルが数台設置されていた部屋から出て、リリアに着いていく。

進みながら廊下を見回す分には、この建物は交流施設のような物では無いかと思える。

さっきの休憩室もそうだが所々に大部屋があり、誰か個人の家とは考えにくい。



 「正気の人達が集まってると言ったが、その他の人達は何処で何をやってるんだ?」


 「思い思いの場所で思い思いの行動をしているわ」


 「・・・・・・要するに放っておいたままなんだな」


 「近付くと攻撃してくるような人もいたしね。

  流石にいつまでも無視は出来ないだろうから、それも含めて話し合うとは思うけど」


 「対策を考えるってのはあの男についてだけの話では無いんだな」


 「ええ。今後村はどう対応していくべきかを決めるみたい」



 会話しながら歩き、がやがやと声が聞こえてくる大部屋の前までやってくる。

リリアがドアをノックしてから入り、俺も軽く礼をしながら続く。



 「えっと、村の皆さん。こちらが先程説明しました、パートナーのタツキ・アンドーです」


 「あ、どうも」



 部屋に入った俺達に注目が集まる。リリアが俺の紹介をしたので、改めて頭を下げる。

ここに居る村人は全員で十数人といった辺りか。・・・・・・こうして見ると結構少ないな。



 「貴方の説明は彼女から既に受けております。どうか、力を貸して頂きたい」


 「俺もこの村を放っておく気は有りません。

  犯人確保、騒動の収束。これらを何とかするまでは力を貸します」



 ここまで来たら、面倒臭いだの力の安売りだの言っている訳にもいかないだろう。

第一、しばらくこの村で滞在を余儀なくされるのに何もしないと言う選択肢を選ぶ度胸は無い。

個人的にもあの男にやり返したいと言う思いがあるし。

この場での村人代表らしい、話しかけてきた体格の良い中年男性の言葉に力強く返す。



 「ありがとうございます! この恩は必ずお返しします!」


 「そこまで畏まられなくとも・・・・・・やれる事をやると言うだけですから」


 「いや、冒険者の方が力を貸してくださると言うだけで心強い。

  それでは早速になりますが、当面の行動目的を定めようと思うのです。

  基本は私達が話し合いを進めようと思うのですが、助言をしていただければ幸いです」


 「分かりました」



 ふーん、こう言う村は排他的で保守的な印象があったんだが。

仮にも観光地ではある村だし、開けた視野を持っている人が普通の村より多いのかもしれない。

それに、基本村の人達が話を進めてくれると言うのは正直ありがたい。

何だかんだ言っても、俺もリリアも20年すら生きていない子供だ。

第三者的視点からちょこちょこアドバイスするくらいがちょうど良いだろうな。



 「あ、アンタ。一つ先に聞いて良いかい?」



 そう言って話しかけてきたのは、人質になっていた女性達の気が強そうな方の人。

俺だけではなく、村の皆からも注目を浴びる形になったが気にしない素振りで言葉を続ける。



 「今のところ、あいつの魔術を受けた中で正気に戻れたのはアンタも入れて三人だけだ。

  そして悔しいけど、魔術に大した知識も抵抗力も無い私らが偶然元に戻れるとも思えない。

  ・・・・・・アンタ、周りの皆を治せる力が有るんじゃないか?」



 リリアにも似たような事を言われたよなあ。

藁をも掴む心境と言うか、希望があればすがりたい心境と言うか。

村の人だし、この話題については特に早く解決したいと言う心理が働いているのかもしれない。



 「いや、心当たりは無いですね」


 「そうか・・・・・・まあ、気になるが事あったら口に出してくれよ」



 これに関しては本当に見当がつかないから、首を傾げるしか無い。

俺の力と言うかスキルは『闇』『破壊』『領域操作』の3つだ。

そのどれもが他人に対して回復が出来るような物では無いし。

微妙に気になりながらも、開始した話し合いに意識を集中するのだった。



狂気のタツキが口走ったいくつかの言葉。

全て由来が分かる人はどのくらいの数いるのでしょうか?

メジャーな物や名前その物も有るので結構多いかもしれませんが。

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