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クエスト5・異邦人と素朴な村1

 「はは、『社会を裏から牛耳る魔術結社の陰謀に迫る!』?

  いやあ、相変わらずこの新聞社は笑わせてくれるなあ。一種の娯楽だな」


 「何を読んでるの、タツキ? ・・・・・・ああ、その新聞ね」


 「あ、リリア起きてきたのか。じゃあそろそろ準備するかね」



 俺とリリアは今、見晴らしの良い丘に設営したテントの中に居る。

中に居る、とは言っても一つのテントに二人で寝ている訳では無い。

早く起きた為、時間を潰そうと用意していた新聞を読んでいたら入って来たのだ。



 「その新聞、読んでいて面白い? どうも好きになれないんだけど」


 「確かに、ためになる事は無いだろうけど。特殊な体裁をとった小説だと思えば面白いぞ」


 「さっき言ってたように、娯楽として認識しているって事?」


 「そうなるな。・・・・・・無理に好きになる必要は無いと思うぞ」



 ゴシップは人によって好き嫌いがはっきり分かれるだろうからな。

嫌いな人に面白いからと押し付ける訳にはいかないだろう。



 「依頼は終わってるんだし、さっさと帰ろう」


 「レッサーワイバーンのつがいだなんて、最初はどうなるかと思ったけど。

  あたし達もやれば出来るのね、二体同時討伐なんて中堅冒険者の仲間入りかも」



 そう。今回俺達はレッサーワイバーンの番を討伐する依頼を受け、それを達成したのだ。

この丘の付近に巣を作ったようなのだが、ルガーラに近い為討伐対象になったらしい。

人里に降りてくれば危険だと判断したのだろう。

今までにも一体を討伐する依頼なら結構受けてきたのだが、二体と言うのは初めてだ。

リリアの言葉通り、これは駆け出し冒険者は卒業したと考えても良いのではないか。

油断や慢心につながるかもしれないから、自分一人で勝手に盛り上がりたくはないけども。



 「仲間入りするかどうかは俺達の判断する事では無いさ。

  とりあえず、困難な依頼を達成出来た事を喜ぼう」


 「それもそうね。馬車に急ぎましょ、今なら昼になる前にルガーラへ戻れるかも」



 新聞を片付け、テントもたたみ、俺達は馬車の待機地点に戻るのだった。











 ・・・・・・ところが、である。



 「ねえ、タツキ。あたしの頬を引っ張ってくれない? どうも、夢を見てるみたいなの」


 「単に痛くなって終わりだと思うぞ。夢を見てる気分なのは俺も同じなんだけどさ」



 馬車が待機する筈の地点一帯が削り取られたかのように無くなっているのだ。

あまりの衝撃にパニックにすらならない。ただただ意味の無い会話を続けるだけ。

・・・・・・これ、何なの? どうやったらこんなごっそりと地面を削れるの?



 「下はどうなってるんだろう・・・・・・うわ、すごく深いな」


 「十メートルくらいかしら。馬車が底に有ったりは・・・・・・しないわね」


 「底に何事も無いかのように待機していても反応に困るけどな。

  そもそも登ってこれないから帰れないぞ、この深さじゃあ」


 「でも、どうするの? これだと帰れないわ」



 まだ現実味が薄いせいか、リリアの言葉もどこか呑気に聞こえる。

帰れないのも問題だが、達成報告が出来なくなると言うのもかなり大変な事だ。

事情を知らない人から身の丈に合わない依頼を受けたと判断されても仕方ないぞ。

この場合、ギルドの方から何か救済措置とかが無いのだろうか。

「知識」から冒険者ギルドの契約条項や依頼に関わるルールを検索し、

参考になりそうな情報をそれらの中から見付け出す。おそらく・・・・・・これが近い。



 「ギルドが各依頼に設定した依頼達成期限までにギルド側の明らかな過失、

  若しくは悪天候や予期せぬモンスター襲撃等やむを得ない理由によって、

  達成報告が不可能だった場合、か」


 「タツキって記憶力が凄いよね・・・・・・その次は覚えてる?」


 「ああ、覚えてる。えっと、ギルド側の過失の場合全額から半分の報酬金、

  その他やむを得ない事情の場合三分の一程度の報酬金、らしい。基本的には。

  どちらの場合でも依頼を失敗した扱いにはならず、受けなかった扱いになるらしい」


 「あたしが聞いたのは冒険者の帰還についてサポートがあるかどうか何だけど・・・・・・

  あ、思い出した。確か、最寄りの冒険者ギルドで報告するのよ。

  それで連絡が間に合うなら一応依頼を達成した事になるし、駄目でも帰還手段の提供が」


 「ちょっと待った。最寄りのギルドって言われても、ここら辺の地理なんて知らないぞ。

  と言うか、今用意している食料がそろそろ尽きそうだし探すにしても余裕が無い」


 「でも、それ以外に方法が無いじゃない」



 確かに、うじうじ言ってる訳にもいかないんだよな。

食料が少ないからこそ行動は早くしないと不味いだろう。ああ、またこんな経験をするとは。

あの荒野ではもっと判断が早かった気もしたが、リリアに甘えが出ているのかもしれない。

・・・・・・しっかりしないとな。



 「じゃあ、善は急げと言う事で。地理は・・・・・・俺が何とかする」


 「あたしが言っておいて無責任だけど、大丈夫? 知らなかったらどうにもならないような」


 「やるだけやるさ」



 再度「知識」を使い、この一帯の地理検索を試みる。

とは言え、検索に使う「キーワード」がどうにも浮かばない。

ルガーラから少し遠い丘、と検索したら絞りきれなかった。

こんな事ならもう少し依頼書を確認しておくべきだったな、達成条件と報酬しか見なかった。



 「リリア、この辺りの地名とか分かるか? 思い出すのに必要なんだ」


 「きっかけは大事よね。えっとね、少し待って。あたしも思い出すから・・・・・・

  確か、この辺りはトローバ丘陵地帯とか書いてあったような気がするわ」


 「トローバ丘陵地帯、か」



 両手を腰の高さくらいまで上げ、検索を始めようと呟く。

やってる事が某右側の彼に似ている気がするし、ちょっと肖らせてもらおう。

リリアに言われたキーワードで再検索すると、無事に欲しかった情報に辿り着く。

地理も一般的な情報と言う事か、安心だ。まあ地図だって有るだろうし当然かもな。



 「このトローバ丘陵地帯から一番近いのはデル村って所らしい」


 「そこにギルドがあるのね」


 「いや、ギルドそのものは無い。かなり小さな村らしいからな。

  ただ村役場で比較的近くにある町への馬車を手配出来るらしい。そこにはギルドがある」



 地理を把握したついでに、得た情報からギルドへの道筋を立てる。

いくらなんでもここで馬車を待つなんて選択肢は無いだろう。

・・・・・・未だに何故こんな事になってるのか理解できないが、行動しない訳にもいかん。



 「じゃあ目的地はそこね。でも、村の名前は分かっても詳しい場所は知らないでしょ?」


 「ちょっと待ってくれ。

  ・・・・・・大丈夫だ、現在地が分からないから微妙な所もあるが村の場所自体は分かる」



 こうして見ると「知識」も地味だがやはりチートなのかもしれない。

キーワードさえ有るなら一般教養に類する事柄は状況に応じて自由に引き出せる。

現在地が分からない以上地図として完璧では無いが、さっきまで何一つ分からなかったしな。



 「・・・・・・タツキ、記憶力が異常じゃない?」


 「あー、これは俺が覚えてる訳では無いんだ。説明しにくいが能力の一つだ」


 「能力? スキルなの?」


 「いや、スキルでは無いと思うんだ。何となくだけど」


 「ふーん。そう言えば、タツキって記憶喪失の割に魔術とかはしっかり覚えてるわよね」


 「記憶喪失とは言っても何も全て忘れる訳では無いらしいぞ。

  歩き方とか、魔術の使い方とか。体に染み付いた行動を伴う記憶は案外残る」



 記憶喪失では無い為に、実体験のように語ってもこれらは全て口から出任せなのだが。

まあ、日本で読んだ本にこんな事が書いてあった気がするから嘘では無いだろう。多分。



 「不思議な物ね。あたしには良く分からないわ」


 「俺だって完全に理解している訳じゃないさ」


 「そうなの? それにしては自信たっぷりね」


 「実体験だからな、理屈を理解するのとは少し違う。

  ・・・・・・そろそろ行こう。まだ早朝だが、会話は歩きながらでも出来る」



 俺とリリアは何故こんな訳の分からない事態が降りかかるのかと愚痴りながらも歩き出した。











 「ねえ、タツキ」


 「どうした、リリア?」


 「いつも聞こうと思っていたんだけど、タツキの信仰している神って何なの?

  まさか存在とか名前を忘れていたらスキルの加護も与えてはくれないでしょ?」



 む、困った。素直に言っても伝わらないだろうし遺跡での経験から口に出したくは無い。

そもそもフィアの言い分を信じるなら「ムンドゥス」って本名じゃ無いみたいだしなあ。

どう誤魔化した物か・・・・・・



 「うーん、記憶を失う前は相当敬虔な信者だったのか分からんが。

  どう言う神なのか、名前すらも忘れた今の俺でもスキルを問題無く使えるんだよな」


 「・・・・・・ジャックさんの考察、案外正しいのかも」


 「ジャックさんがどうしたって?」



 ぼそっと小声で呟かれたので良く聞き取れなかった。

ジャックさんの名前が出たのは分かったのだが、今の会話の流れで何故ジャックさんが?



 「ん、こっちの話。神に愛される、ねえ。

  ・・・・・・でも、そんな熱心に神を信仰していたようには全く見えないのよね。

  記憶を失っても力をくれるほど信仰していたなら、それこそ体に染みついてるような」



 リリアが何に納得したのか良く分からんが、後半を聞いて内心焦る。

何しろ救世主の誕生日を祝った数日後に何の葛藤も無く自国の神を祀ると言う、

凄まじくおおらかな宗教観を持つ国で過ごしてきたのだ。信仰なんてあまりピンと来ない。

勿論、知識としては知っているし理解も出来るのだが実践の段階に来るとどうにも。

グレナス・ビーレと違って科学が広まっているのも理由だろうが、国民性なのだろう。

元々日本は一神教では無く宗教に寛容で・・・・・・話題がずれてるな。



 「あー、話聞いてる? いきなり悩みだされても困るわよ。

  ・・・・・・もしかして、何か思い出しそうだった?」


 「え? あ、ああ、うん。そんな所だ」


 「それなら、悪い事したかな」


 「気にするな、会話の途中で考え込むのもどうかしてるしな」



 それも、関係無い話題を考えていたのだから余計に質が悪い。言い訳のしようも無い。



 「そう言えば、村に近付いてるのかしら? 歩けど歩けど草と木しか見えてこないわ」


 「あ、会話と思考に夢中で確かめてなかった」


 「ちょっと、しっかりしてよ。 ・・・・・・でも、確かめるってどうやって?

  地図としてこの辺りを把握していても、今いる場所なんて普通は分からないわよね」


 「そこは歩きながら手段を思いついていたんだ。

  と言うかリリア、そこの不安を最初に口にせず良く付いてきてくれたな」


 「・・・・・・それもそうね。タツキなら何とかしてくれるって無意識に思ってたのかも」



 ・・・・・・うーん、良くない兆候のアレか。

魔術の件ですっかり印象を持っていかれて忘れていたが、俺に依存してる気配があったよな。

ジオの教会に行ってきてこれって事はリリア本人の性質なんだろうけど。

そもそも魔術の件が起こる前からの問題だったしな。



 「信頼されて嬉しいんだけど、俺の行動で疑問とかあったら遠慮無く言ってくれ。

  俺は肝心な所で抜けてたり、勘違いでとんでもない事したりするからさ。

  今回だって、行き当たりばったりな行動してるしな」


 「え、ええ。助けあい、知恵を出し合ってこそのパーティだものね。

  いくらリーダーがタツキだとしても、判断を預けて思考停止するのは間違ってるし」



 頭では分かっているみたいなんだがなあ。言われて気付けるから、まだ大丈夫なのか?

俺も調子に乗りやすい所があるから、強引に引っ張っていく時もあるし不味いかもしれん。

ワンマンで突っ走るシステムは進んでる間は速いが転ぶと途端にボロボロになってしまう。



 「今更遅い気もするが、説明するぞ。

  確かにこの辺りの地形を地図として把握できても、現在地が分からないと意味が無い。

  ただ、何も俺は「地図」を暗記している訳ではないんだ。能力で場所を照会できる」



 具体的には「トローバ丘陵地帯からデル村への道筋」で検索をかけつつ進んでいる。

デル村は小さな村ではあるが、そこそこの名所があるらしくギリギリ一般教養に入るらしい。

これが「知識」で引き出せなかったら結構手間取っていただろう。

・・・・・・やっぱり、行き当たりばったりで危険だな。

冒険なんて縁の無い高校生だったから、要領が悪いのも仕方ないと言えばそれまでだが。

下手をすると俺ばかりでは無くリリアも危険にさらすのだから気合いを入れなくては。











 「だいたい、この辺りな筈だ」


 「木々の雰囲気も変わってきたわね」



 歩いている途中で「知識」を使いつつの進行になってからは会話が少なくなった。

「知識」を使用する為にある程度集中する必要があり、会話するにもテンポが悪いからだ。

よって、しばらく進んでは方向を矯正すると言う作業を黙々と繰り返す事になる。

当然会話に使われていたエネルギーを進む為に向ければ進行速度は速くなる。



 「あ、あっちじゃないかしら。人の声が聞こえるわ」


 「俺には聞こえないが・・・・・・耳良いな、リリア」


 「タツキが集中している間に聴覚と視覚を強化する魔術を使っていたの」



 ああ、そう言う事か。俺は思い付かなかった。やはり魔術の応用ではリリアに負ける。

俺は魔術を戦闘以外に使うと言う発想が浮かばないが、この世界では手段の一つだからな。

ここら辺はいきなり身の丈に合わない力を手に入れた奴と真面目に努力した人の違いか。

単純に、世界が変われば思考も違うってだけかもしれないけど。



 「ほら、向こうの方。見えてきたでしょ」


 「見えなくは無いな」



 視力が違うから、そう言われても困る。

リリアは村の外観も見えているようだが、俺は村があると言う事しか分からない。



 「あれ? 何か見覚えがある気がするわ」


 「・・・・・・俺には良く見えん」


 「あ、思い出した! 旅行雑誌の片隅に載っていたのよ、絵付きで!」


 「そこそこの名所があるって話だからな」



 どのくらいの名所なのかは詳しく知らないが、旅行雑誌に片隅とは言え載るくらいだ。

マイナーかもしれないが、最低限は知名度のある村なのだろう。

そう考えリリアに説明を求める。「知識」で調べても良いが、誰かに聞いてみたかった。



 「リリアはデル村について、どのくらい知っているんだ?

  最初、名前を聞いても場所が分からなかったみたいだが」


 「えっと・・・・・・ファディア国の中で4番目ぐらいに大きい洞窟があるの。

  元々は装飾品に使われる鉱石を採掘する場所だったらしいけど、今は廃坑。

  格段に安く加工出来る鉱石が見付かったから、そっちに需要が移ったみたい。

  一応、デル村ではお土産物で今でも細々と削ってるらしいわ」


 「・・・・・・名前を忘れていたのにそう言う事は覚えてるんだな。

  と言うか、デル村って思ったより微妙な所だったのか」


 「前半はタツキにそのまま返すわ。

  後半は・・・・・・廃墟マニア? そう言う人とかが来ているみたいよ」



 ああ、マイナーだからこその付加価値が付いたのか。

村の人からすれば複雑な心境なのかもしれないけどな、そう言うのは。



 「それにしても、廃坑に入っても良いものなのか? 落盤の危険とかがあると思うけど」


 「さあ・・・・・・駄目なんじゃない? 気にせず入ってるだけで」


 「廃墟マニアならそう言う許可を取ったりとか、しっかりして貰いたいよな」


 「あたしに言われても困るわよ」



 こんな会話を続けている内に俺にもはっきり見えるくらいまで村に近付いた。

うーむ、寂れているとも活気があるとも言えない表現に困る村だ。

依頼達成期限は明後日の夜まで。今は太陽を見るに正午を過ぎた頃。

十分戻る余裕は有るだろうと判断しつつ村に入るのだった。



随分間が空いてしまいましたが、クエスト5です。

今回は下書き段階でそれなりに長くなりましたが実際どうなるかは未定です。

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