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インターミション・異邦人考察

初めてのタツキ不在回です。

タイトル通り、タツキについての考察が主となる話です。

 これは、タツキが一人ルガーラに帰ってからリリアが元に戻るまでの話。

タツキは知る由も無いが、ストーリーの外で確かに起こっていた出来事。

言うなれば、番外編。











 「ふあぁ・・・・・・おはよ、お姉様。あれ、まだタツキ起きてないの?」


 「一足先にルガーラへ戻ったわ」


 「・・・・・・へ?」



 起きるなりタツキが朝食の場にいない事を話題にするのは我が妹、リリアである。

元からタツキには好意を持っている様子だったが、とある事情で厄介な事になっている。

今の所、実害が出ている訳では無いし今日にでもジオの教会に行こうと思っているが。



 「えっと・・・・・・ルガーラに戻った、って本当?」


 「こんな事に嘘ついてどうするのよ」


 「突然だったから、つい」


 「案外冷静なのね、リリア。もっと煩い事になるかと覚悟していたんだけど」



 泣き叫んで聞かなくなるとか、ルガーラに今すぐ行こうとするとか。

感情操作系の魔術を受けている上に、心を許した相手に依存しやすい妹の事である。

いざとなれば実力行使も考えていたが拍子抜けだ。勿論これに越した事は無いのだが。



 「いや、実はあまり冷静でも無いんだけど・・・・・・

  今の私が近くに居ても迷惑にしかならないかな、と思って」


 「そう言う考えが出来る時点で十分冷静だとは思うのだけどね」



 何しろ、初めの頃はタツキの話題になると周りが見えなくなる程だった。

それから比べると違いは歴然である。落ち着きが戻ってきて何より。



 「でも、一人でいる時に新しいパートナーを見付けちゃわないかな・・・・・・

  うーん、タツキは格好良いし話も面白いし・・・・・・

  あ、ちょっとあんた! あんたにだけは絶対タツキは渡さないわよ!」


 「・・・・・・気が早かったようね」



 普段から軽い妄想癖のような物を持っている妹だから、

素でこれも有るのかも知れないが、落ち着いているとは言えない状況だった。

そして「あんた」とは誰だろうか。妹の交友関係はよく分からない。

それにしても・・・・・・



 「タツキってそこまで格好良い? 悪い顔では無いけど飛び抜けてもいないような」


 「何言ってるのお姉様! 凄く格好良いじゃない!

  タツキと初めて会った時の冒険では、命を二回も救われてるのよ!」


 「・・・・・・ああ、顔じゃなく内面の事で言ってるのね。

  まあ、それなら確かに納得出来るけど。でも命を救われたって大袈裟よ」


 「大袈裟じゃないわ。

  突進してきたレッサーワイバーンから体を張って助けてくれたし、

  何十メートルあるかもしれない崖から落ちた時も助けてくれたし」


 「はい?」



 今、妹は何と言ったのか? 

レッサーワイバーンの突進に体を張った、崖から落ちた際に生還してきた?

・・・・・・有り得ない。



 「あのね、いくらタツキを持ち上げたいとしてもそう言う嘘は見苦しいわよ」


 「嘘じゃないです、お姉様。トルネスの神に誓ってもいいわ」


 「『真実』の神を引き合いに出してくるとはね・・・・・・」



 嘘は好まず、信仰者には問いに対する答えの真偽を見抜くスキルを与える神だ。

そのトルネスに誓えると言うならば、脚色こそ入っても概ね真実なのだろう。



 「私はタツキから、貴方が火炎の中級魔術を使った後にたたみかけたって聞いたけど」


 「タツキ、途中をかなり飛ばして説明したのね。

  ああ、何メートルもある崖の向こう側に跳んだりもしたわ」


 「・・・・・・今度会ったら、直接じっくり聞かないといけないようね」



 スキルで身体能力を強化した、と言うなら納得はいくが。

『剛力』のスキルは使用時に体が薄く虹色に光ると言う特徴がある。

話を聞いている分では、どうやらその現象は起こらなかったようだ。

そもそも私もこの目で五人を抱えて平気そうにしているタツキを見た事があるが、

やはり『剛力』のスキルでは無いだろう。



 「そう言えばタツキ、どの神を信仰しているのかしら?」











 「ああ、こちらですレナさん」


 「丁寧にどうもありがとうございます、ジャックさん」



 リリアを連れて、知己であると言う冒険者達と合流する。

中々有名な冒険者の集団で、特にこのジャック・リインは数々の偉業を成し遂げている。

入学時の実力選考試験でそれまでの記録を大きく塗り替えたのに始まり、

在学一年目に基本的な中級魔術をマスターし、卒業時には上級魔術を使用出来たと言う。

リーダーのグレイアは初めての冒険でレッドリザードを危なげ無く一刀両断、

その後も大した鎧も着けずワイバーンまで倒したと言う。普通なら無謀に過ぎる。

・・・・・・妹のエルともども苗字が無いのが気になる。

苗字を持てない程の貧民や孤児にはとても見えないし、一体どう言う事なのだろうか。



 「リリアは・・・・・・あまり心配は要らないようですね」


 「まあ、表明上はそうなのですが」


 「その言い方では、やはり・・・・・・」


 「想像した通りだと思います」



 この女性、セレン・マティアも中々だ。

男性冒険者の中では流石に目立たないが、女性と言うくくりならば五本の指に入るだろう。

そもそも女性が魔術師としてでは無く剣士として大成する事が素晴らしい。

私も見習いたい物である。



 「お姉様、早く行きませんか?」


 「別にわざと遅らしてる訳でも無いんだけど」


 「それは、分かってますけど・・・・・・」



 おそらくタツキの元に早く行きたいのだろう。

何も急いで教会に行って、早く祈りを捧げたいと言う訳でも無いだろうし。

そもそも信仰している神が違う。



 「リリアの言う通りここに留まる理由も特に無い。

  ・・・・・・つまらない理由で時間を潰すのは更に苦痛だろう」


 「ボウガンの矢の如く、タツキへ一直線。

  あれ、この場合矢はタツキの方がしっくりくるのかな、にしし」


 「・・・・・・エル、下品だ」



 このエルと言う少女、見た目の割りに・・・・・・あら、そう言えば彼女は何歳?

まあ、中々にイイ性格をしているようだ。


 待ち合わせ場所に決めていた、住宅街の噴水広場を離れる。

そのまま集団で街道を歩いてミースの中心地と言える地域・・・・・・からは離れた、

数々の日用品店や武具商店、秘薬店等もポツポツと立ち並ぶ地域にやってくる。

ここはミースの人達には「第二通り」なんて呼ばれてるけど、

いまいち他の町から来た人や冒険者等には馴染まない。

私達も「第三通り」が何処かで結構もめるし、分からなくも無いが。

勿論「第一通り」はファディア国の中心地でもある政庁通りだ。



 「あー、そう言えばタツキにこの辺りを紹介してなかった」


 「ん?」


 「タツキをミースに連れてくる時に首都観光も兼ねて早く行かないか、って言ったの。

  実際は首都観光どころか、二人で出かける事も無かったけど・・・・・・」


 「やけに早く来たから気合いを入れてきたなと思っていたけど、そんな理由なのね。

  どちらかと言うとお父様に早く会いたかったのでしょ?」


 「う・・・・・・私も誘おうと思っていたけど、随分家での生活を満喫してたから」


 「逃げるのが上手くなったわねリリア。前までなら大袈裟に否定して自爆してたのに」


 「余計な事は喋らないのを処世術と言うのだな、と最近知りましたの」


 「同意ね。まあ、それは良いとして。

  確かに自堕落な生活がやけに似合っていたような気もするわね・・・・・・」


 「お姉様もそう思われるでしょう? 思い出したかのように筋トレをしてはいたけど」


 「リリアとタツキが来た次の日、書斎の本を借りる許可をもらって読み耽っていたわ」



 中々教養があるらしいタツキの事、お父様の本は時間を過ごすのに丁度良いのだろう。

・・・・・・難しい顔をして読んでいた本がいかがわしい題名だったりもしたが。



 「暇な時間の過ごし方には人の個性や無意識が影響すると言うし、

  タツキ君が記憶を失う前の事もある程度は推察出来るのでは無いかな」



 ジャックが私達の会話からタツキの記憶について見解を述べる。

確かに、タツキが失っている記憶を取り戻してやるには元居た環境を知る事が重要だろう。



 「今の話を聞いて何か心当たりがあったのですか、ジャック?」


 「ああ、セレン。自堕落な生活が似合っているとの事だったが、これを元に考える。

  その間に何をしていたかと言うと読書だ。本質があまり活発的とは思いにくい。

  魔術についての知識だけでなく雑学と言える物も豊富に知っている事からも、

  かなり高等な総合教育を受けたか、大量の本を読める場所に居たのかもしれない」


 「・・・・・・だが、本質が活発的では無いと言う割りには身体能力が高過ぎる。

  まさか本を読んで体を鍛える方法でも実践したと言うのか?」


 「うーん、そこが問題だよ。

  思い出したかのように筋トレって事は、趣味だと無理矢理言えなくも無いけど」



 ここで、ふとリリアの顔を見ると何とも言い難い表情をしている。



 「リリア、何か言いたい事や知っている事が有るなら話しなさい」


 「・・・・・・いや、単に悩んでいただけですお姉様。続けてください」



 あまりそうは見えなかったけど。何か知っているんじゃない?

こう言ってやりたかったが、今の調子だと簡単には喋りそうに無い。

他の面々も私と同じように考えたのか、追及はひとまず保留としたようだ。



 「そう言えばタツキは上級魔術を使える事をスキルの一種では無いかと言っていましたが

  それについて何か分かりませんか? 信仰していた神とかについてですが」



 誤魔化すように続けたリリアだったが、それは私も知りたかった事だ。

一般的な神ならば教義や与えるスキルまで知っているが、タツキについては見当もつかない。



 「上級魔術? 魔術についての知識が深い事は知っていたけど実際に使えるのか。

  僕には分からないな、そんなスキルをまず知らない。

  そもそも、本来魔術とスキルは相容れない物だしね。

  殆どの神は魔術を黙認しているけど、魔術は世界の理を極僅かに歪ますんだ。

  スキルでそれを許可されているとなると、とんでもなく神に愛されている事になるよ」


 「・・・・・・こうして彼の事を話していると、特異性しか浮かびませんね」


 「良い意味で変態。・・・・・・むー、「良い意味で」って付けても響き悪いね」


 「最後に来る言葉で台無しになるからだろう、エル」



 そうしてタツキについての考察をしながらジオの教会に到着、リリアを預ける。

預けるとは言っても、数十分もかからずに終わるのだけど。



 「これでとりあえず、私達にとっての騒動も終わりね・・・・・・

  とても疲れる日々だったから、一ヶ月近く続いたような気がするわ」


 「タツキは戻さない方が良かったりして」


 「茶化してはいけない場面ですよ、エル」


 「はーい・・・・・・」



 この後、私の予想(願望?)は少し外れ、見投げするとか言い出すリリアを止めたり

真っ赤な顔をしながら頭を抱え、はしたないと嘆くのを宥めたり・・・・・・

こう言うの、アレよね。「お約束」って言うのよね?



 「今、脈絡無く思い付いたんだけど。私ならタツキから色々聞き出せると思うのよ」


 「なっ!? や、止めてください、お姉様!」



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