表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

チュートリアル2・異邦人と受付嬢

まだ冒険してませんが、

チュートリアルということで勘弁を・・・

 「さて、と」


 4人を見送り、船着き場から離れた俺はルガーラの中央公園にいた。

ルガーラはファディア国の交易中心地で、その中のさらに中央といえばもう凄まじい人の数だ。

まあ、現代日本人の俺からすれば賑やかな場所という以上の印象は持てないが。

ムンドゥスやグレイアさん達から教えてもらった話によれば、

この近くに冒険者ギルドの出張所があるはずだが・・・・・・俺は、公園のベンチを後にした。






 「そこの黒髪の坊っちゃん、ルガーラのお土産にアクセサリーは如何です?」


 「いりません」


 「そこのキミ、お姉さんと」


 「金を持っていませんが」



 黒髪に見慣れないジャージ、辺りを見回しながら歩く俺は悪い意味で目立ったらしい。

展開している探索領域にスリっぽい反応も出始めたので、牽制も兼ねて返答する。

探索領域がある限りスラれるようなことはないが、絡まれるのは面倒だ。

裏路地に近づかないようにしてギルドを探した。

1時間程探したが、自力では見つけられなかったので、信用できそうな人に道を教えてもらった。



 「・・・俺、センスねぇな」



 まさか、地理的にずっと遠ざかっていたとは思わなかった。

悲しくなってきたけど、歩き回ったことは無駄にならないと自分を慰めた。



 「何はともあれ、到着か」



 やっとのことでギルドに到着し、

今度は甘く見られないように堂々と振る舞うことにした。

入ると、中にいる冒険者らしき人達の半分ぐらいがこっちを見てくる。気にせず受付まで進む。



 「あら、何か依頼しに来たのかしら。それなら隣の窓口よ」


 「冒険者登録をしに来た」



 どうやら、勘違いされているようだ。



 「冒険者登録? それなら確かにここで受け付けてるけど」



 そう言うと、受付の女性は眉をひそめて続けた。



 「冒険に憧れてるだけだったら、止めた方がいいよ。

  モラルや最低限の戦闘能力を調べる試験もあるし。

  華々しい印象をうけるかもしれないけど、実際は死と隣り合わせにもなる地味な職業よ?」



 そうは言われても、こっちにも都合がある。

1~2年という期限で脅威とやらを倒せる程、強くなる必要があるのだ。

まさか、何もしなくても強くなるなんてないだろうし。

というより、生活費もなくなってしまう。アルバイトするというのは最後の手段だ。

戦闘経験が積めなくなってしまう。 



 「憧れでなろうとしているわけではないです。生活がかかっているので。

  記憶がないですし、頼れる人もいないので」



 伊達や酔狂でやろうとしているわけではない、と返すと一応は折れてくれた。



 「わざわざ冒険者になる必要もないと思うけど・・・・・・そこまで言うなら。 

  でも、試験をうけるにもお金がかかるのよ?」


 「ここまで連れてきてくれた冒険者の方に一週間ぐらい生活できる分は貰いました」



 本当はもっとあるのだが、聞き耳を立ててる人がいるしあまり大金持ってるとは思われたくない。

ギルドの中では流石に絡んでこないだろうけど、後をつけられたりすると困る。



 「一週間・・・ 具体的にどのくらい?」



 ムンドゥスからもらった知識をイメージする。暦は基本的に地球と同じらしい。

一般人の平均年収が白金貨4枚・・・・・・ひとつ100万ぐらいか?

月収が金貨3枚、銀貨10枚が金貨ひとつと同じ価値、銅貨10枚が銀貨1枚と同じ価値。

青銅貨10枚で銅貨1枚と同じ価値らしい。

・・・・・・ジャックさん、金貨5枚くれたよな。1ヶ月どころじゃないぞ。



 「銀貨を5つ持っています」


 「それなら足りるわね。登録試験を受けるのに銀貨1枚必要なの」



 結構高いんだな。でも、合格すると即冒険者になれる事を考えるとそうでもないのか?



 「では、受けます。今からできますか?」


 「まあね、試験って言ってもアンケート形式の質問に答えるのと、身体測定するだけだし」


 「・・・さっき言ってたのより、簡単じゃないですか?」


 「諦めさせようと思ったのよ」



 そんな会話をしつつ、彼女はカウンターの中から用紙と羽ペンを出してくる。

受けとり、必要事項に記入して、返す。

・・・・・・書いてから気付いたが、この世界の文字の読み書き、普通にできるな。

そういえば会話にも困らないし。



 「えーと、名前はタツキ・アンドー。年齢は17か18、魔術教育はおそらく受けていない。

  一般常識・教養のテストは・・・・・・うん、合格ね」



 思ったより、ずいぶん楽だった。

ムンドゥスからもらった知識をイメージすれば一般教養程度ならカンニングできるからなのだが。

一般常識にいたっては、人から物を盗らない、とかそんなのだった。



 「じゃ、次は身体測定ね。 ついてきて」



 受付を違う人に頼み、カウンターの奥に行く。俺も追いかけて、カウンターの中に入った。



 「身長が177センチ、体重が64キロ、握力が70キロ、ジャンプ力が1メートル90センチ、

  視力、聴力ともに正常・・・・・・すごく、優秀よ」



 まあ、『身体強化領域』を発動しているからな。

この世界の『スキル』には身体能力のみを強化するものはないらしく(あっても体が光るとか)

俺がズルしているとは思われなかったようだ。



 「これなら、合格は確実ね。明日にでもギルドカードが発行されると思うわ」


 「ギルドカード?」


 「冒険者ギルドが冒険者に発行する、身分証明書を兼ねた記録カードよ。

 『記録』の魔術を応用して作られていて、ギルド以外には内容の変更が・・・・・・って、

  そういえば、魔術のこと、詳しく知らないんだっけ」


 「いえ、だいたい分かります。

  世界に存在する魔力素を人間が扱えるように体内で変換し、

  チャージした魔力を用いて世界に神や精霊が黙認する範囲のバグを起こす、でしょう?」


 「・・・・・・すごいね、そんなに詳しく説明できるなんて。高等魔術教育の内容だよ、それ」



 これも、ムンドゥスから与えられた知識をそのまま言っただけなんだけど。

まー、美人さんにー、尊敬の視線をー、向けられてー、うれしーでーす!

・・・・・・や、冷静になれ、冷静になろうよ俺。



 「そんなに詳しく説明できるなら、高等魔術教育は受けたものとして書類書いてもいいかな?」


 「どこで受けたか分からないし、証明できないんですが」


 「いーのいーの、中等魔術教育までしか受けてないのに

  高等魔術教育受けたって書いてる人いっぱいいるし」



 それ、本当にいいんだろうか。

日本でやったら、経歴詐称だよな? まあいいや、実際それに相当する知識は持ってるからな。



 「では、それでお願いします」


 「わかったよ。 ・・・うん、これでよし、と」



 なにやら用紙の裏にいろいろ書き足し、2人で測定室を後にした。



 「今日はもうすることがないし、明日もう一度ここに来てくれないかな」


 「わかりました」



 受付に戻った後、そう言われた。早めに寝れる場所を見つけるため、出ようとすると、



 「あ、ちょっと待って! まだ自己紹介してなかったんだ。

  私はルイセ。ルイセ・ハーティーよ。見ての通り、ここで受付嬢をやってるわ」



 ああ、そういや名前聞いてなかったな。止まったついでに、宿屋か何か知らないか聞いて見た。



 「宿屋なら、近いのはギルドと提携しているベクトラ・サービスね。

  エコノミーで良いんだったら、銅貨1枚で1泊できるわ。食事は別料金だけど」



 場所も聞いて、今度こそギルドを後にした。

10分くらい歩いたところで教えられた宿屋、ベクトラ・サービスを見つけた。

早速中に入り、受付で銅貨を支払ってエコノミーの部屋を借りた。






 「風呂も別料金、か」



 借りた部屋のベッドに横になりながら、俺は呟いた。

銅貨1枚で済むのは、本当にただ部屋を借りるだけの時らしい。

今日はいろいろあって、汗も結構かいてしまった。

風呂に入らない、というわけにもいかなかったので、別料金を出して浴槽を借りた。



 「まあ、飯はそれなりに旨かった」



 冒険者向けの宿屋のせいか、

味の濃い肉料理メインだったが、そういう方が好みの俺には全く気にならなかった。

でも、スパイスは昨日のを使いたかったな・・・・・・



 「しばらくは、我慢するしかないな」



 最低でも1年、長ければ2年はこの世界で生活する必要がある。

そしてそれを選んだのは、他でもない俺自身なのだ。今更泣き言をいうのは許されない。



 「だいたいの計画をたてるか」



 1年や2年といっても適当に過ごせばあっという間だろう。

脅威と戦う、その時に力を使いこなせるようになっている必要がある。  

とりあえず優先すべきは『領域』だ。かなり応用が効く能力だし、練習して損はないだろう。

『闇』も形状を変えることができ出し入れ自由というのはかなり便利だ。試してみたいこともある。

『破壊』はチートになる可能性はあるが、今の俺には使いこなせないものだ。

細い枝ひとつ折るのに超集中する必要があるとか、割に合わなすぎる。これも要練習だな。

そして武器や防具だが、武器はセレンさんからもらったナイフがあるし、何とかなるだろう。

いざとなれば、『闇』もある。

問題は防具だ。

今俺の着ているジャージは防御能力なんて、 全くない。

当たらなければどうということはない、と言っても回避するだけの技術があるかどうか、微妙だ。

何より、怖い。

明日辺り、防具屋でも探してみるか。どうしようもなければ、能力を応用する方向で検討しよう。

そんなことを考えながら、異世界初の睡眠についた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ