表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

クエスト4・異邦人と謎の遺跡7

 口うるさくあーだこーだと話しかけてくるルインと会話しながら歩く。

特に何の問題も無く訳の分からないこの建造物から脱出に成功したのだが、

あまりにも簡単だったせいで逆に拍子抜けしてしまった。



 「何をそんな悩んでいるのだ。元から整っていない顔が更に悲惨な事になっておるぞ」


 「貴方もたいがい毒舌ですね。

  ま、剣に人の顔は判断出来ないでしょうしどうでもいいですが」


 「ふん、ライズに会う前の本来の姿を知らないからそのような口を聞けるのだ。

  元は国一つ容易く落とす、傾国の美貌と絶大な魔力を持った悪魔と呼ばれて」


 「そう言う妄想で自分を慰めていたんですか。いやはや、涙ぐましい物ですね」


 「妄想と違う! 破滅の黒巫女ルインとか、そのような二つ名聞いた事あるだろ!」


 「おお、中学時代の俺に匹敵するような厨二ネーム・・・・・・

  残念ですが、聞いた事ありませんよ。現実を見てください」


 「どこの田舎から出てきたんだ・・・・・・

  仮にも闇の側に立つくせに、妾を知らないとは何事だ」



 こんな感じの、互いに何となく喧嘩腰の微妙な会話が続いている。

別に嫌っている訳では無いが、どうしても遠慮の無い物言いをしてしまう。

初対面がリリアともまた違った意味で果てしなくアレだったからなあ。



 「そう言えば、リリア正気に戻ったかなあ」


 「ほほう。その言い方だと少年の女か?」


 「いや、俺のだなんてそんな事は・・・・・・」


 「妾にそんな誤魔化しは効かんぞ。

  少年よりも長い時を生きているんだからなあ、ふふふ・・・・・・」


 「だから、本当に違いますって」



 こう言う話題を逸らすのには慣れてないから、どうも困る。

他の話題なら幾らでも皮肉を言って返す事が出来るのだが、経験不足だなぁ。

真面目に言ってるのか、からかっているのか分からないし。

さっきまでと立場が逆転し、居心地の悪さを感じながらも歩き続ける。



 「それにしても、ムンドゥスについて貴方は何か知っているのですか」


 「空間神の事か? ああ、アイツは闇の立場にある存在の味方さ。

  この世界の主神になった創造神は光を正義、闇は悪だと押し付ける堅物だがな」


 「他には?」


 「他に、と言われても・・・・・・実は妾もそこまで詳しくは知らないのだよな。

  妾の城に訪れたライズと戦って、この剣に封印された後に少し会話したくらいだ」


 「剣に封印? それが本体じゃ無いんですか」


 「さっき悪魔だったと言っただろ。

  討伐に来た敵かと攻撃したら、思った以上の力を持っていて激闘の末敗れたのだ。

  いいか、激闘だったんだからな! 決して油断してあっさり封印された訳じゃ無いぞ。

  結局、誤解だった事が分かり創造神に文句を言ってやるまで協力する事になったが」


 「その封印と言うのがイメージ出来ないんですが・・・・・・

  自分でどうにか出来る物では無いんですか」


 「そんな簡単な物だったら封印の意味が無いだろ。その頭は飾りか、少年?」


 「頭の無い貴方にそれを言われるとは。驚きました」


 「ぐぎぎ、からかい甲斐の無い奴だ・・・・・・

  まあ、妾は年長者だ。小生意気な言葉に腹をたてるような真似はせん。

  で、結論から言うとだが。封印を施された対象が自力で解除する事は不可能だ。

  封印の力を突破する事が出来るなら、そもそも最初から封印されたりしないしな」


 「貴方はライズさんと最初から実力差があったと。そう言う事ですね」


 「いちいち一言多いんだよ・・・・・・

  確かにそうなのだが、言い方があるだろう」



 俺としても言い過ぎではないかと少し思うのだが、微妙に楽しくなってきた。

・・・・・・俺って、言葉責めに適正があったりするんだろうか。

自分としてはノーマルだと思っているんだけど。


 会話しながら荒野を歩き続けていると、あの神殿が目に入る所まで来た。

何か嫌な予感がしたのか、饒舌だったルインが無口になる。

ここでバカな話題を振れる程には精神が図太くは無いので、俺も沈黙する。

特に何の問題も無く神殿に辿りつき、階段を上り祭壇へと到着する。



 「あの水晶っぽい物に閉じ込められている彼が、俺の心当たりです。

  ・・・・・・貴方の探している人ではありませんか?」


 「・・・・・・ああ、確かにライズだ。何故、こんな事になっているのだ?」


 「さあ、俺も偶然見付けただけですし・・・・・・

  彼を見付ける前後の会話から、フィアが関わっているらしいとは思うのですが」


 「あの女にライズが負けた、と言う事か?

  ・・・・・・くそ、総力戦だったと言うのに妾が力を貸せなかったせいだ」


 「その、総力戦と言う言葉について聞きたい事があります。

  まず最初に、何と何の戦いですか?」


 「何を惚けた事を・・・・・・

  創造神に率いられた光の軍勢と、それに対抗する我ら闇の住人の戦いに決まってる。

  少年だって、それを知ってるからこそ最終決戦の場に来たんだろう?」


 「・・・・・・地上と言うか遺跡の外と言いますか。

  とりあえずこの世界には、もはや光と闇の大戦なんてありません。

  闇が拒絶されていると言う訳では無いと思いますが、許容されてる風でも無いです。

  どちらかと言うと、既に忘れ去られているような感じになっています」


 「嘘を言っているようには見えぬのだが、到底信じられぬな。

  あの塔に封印されてから、数日も経っていないのだぞ?」


 「あの訳分からん建造物、塔だったのか・・・・・・

  俺もこの荒野に来てから数日しか経っていませんが、さっき言った通りです」


 「・・・・・・」



 この言葉を受けて、ルインは黙ってしまった。

浦島太郎みたいな体験をリアルでしてしまった、と言う事なのだろうか。

ルインの言葉を借りれば、嘘を言っているようには見えないし。



 「少年。先に聞いておくが、願いは何だ?」


 「この荒野と遺跡から脱出する事ですが」


 「思ったより欲が無いのだな。そのくらいなら容易い事だ」



 欲が無いと言うよりも、叶えられる願いの限界に見当が付くからなんだが。

そりゃあ、本当にどんな願いでも叶えられるなら超チート性能を望んだかもしれないが、

力を管理しているらしい、ムンドゥスをも超えた存在程の能力はルインに無いだろう。

大体にして、そんな上手い話があるならここまで苦労してない。



 「脱出が容易いって、それなら何であの宝物庫に・・・・・・

  いや、それよりも、何故ライズさんとバラバラになっていたのですか?」


 「今の妾は道具だからな。使い手に望まれなければ、力を使う事が出来ない。

  ・・・・・・あそこでは、封印されていたせいで元から脱出は出来なかったのだが。

  そして、ライズとバラバラになっていた理由だが」



 そこでルインはいったん言葉を切った。

どちらかと言うと言葉に詰まった、の方が表現として正しいかもしれないが。



 「忘れた」


 「・・・・・・はぁ?」


 「この部分の記憶だけ抜け落ちているのだ。

  思い出さそうとすると、そのイメージが掻き消されると言うか何と言うか」



 あんまりな答えだったので皮肉の一つでも言ってやろうかとも思ったが、

自分に対しての苛立ちや悩みのような感情が声から伝わってきたので止めておいた。

今は、茶化すような場合では無い。



 「くそ、本当に一体何があったと言うのだ。

  少年に問われるまで、思い出せない事すら分からなかった」


 「単なる度忘れ、と言う可能性は・・・・・・」


 「妾の主観では数日しか経っていないのだぞ。そんな大ボケになった覚えはないわ」



 本物のボケってのは自分で気付けない物だったと思うけど。

ん、これはアルツハイマーについてだったか? まあ、どうでもいい事だ。

しかし、地味に困ったな。色々話を聞けば脅威とやらも見当が付くと思ったんだが。

創造神グレナが怪しい気もするが、自分の世界を壊すのはおかしいとも思うし。



 「それで、俺をどうやって外に戻すのですか?」



 物凄く空気を読んでいない発言だとは自覚しているが、俺も必死なのだ。

文字通りの死活問題だし藁にもすがりたい心境なのだ、多少は勘弁してもらいたい。



 「うむ、簡単な事だ。妾の魔力で少年を外まで飛ばす。

  出来れば妾も少年の言う闇が忘れられた大地を見たかったがな」


 「ん? 貴方はここから脱出しないんですか?」


 「ああ、この荒野一帯に闇の住人の能力を著しく制限する結界らしき物がある。

  少年一人なら妾が転移魔術をサポートしてやれば良いだけだがな」


 「俺が貴方を持ったまま転移すればそのまま外に行けそうな気がするんですが」


 「まあ、普通ならそうなんだけどな。そうもいかない理由がある。

  どうやらさっき言った結界とは別に、脱出を無差別に拒む結界が存在している。

  転移魔術で脱出する際少年は引っ掛からないだろうが、妾は確実に引っ掛かる」


 「その、引っ掛かる基準って何なんですか」


 「単純に言えば、力の強い物程引っ掛かる」



 一瞬俺がこの剣に劣るのかと不満だったが、すぐに納得した。

初級魔術一つで打ち止めになる俺と、転移魔術なんて高等な物が使えるらしいルイン。

どちらの力が強いかなんて明白だ。元は悪魔とかもそう考えると説得力がある。



 「それにしても、強い物程引っ掛かる?

  俺はむしろ弱い方が引っ掛かる気がするんですが」


 「それだと閉じ込める結界の意味が無いだろう。

  弱い奴の脱出を拒んでおいて、強い奴は楽に脱出だなんて何のためにあるんだ」


 「まあ、そう言われるとそうかもしれませんが」



 ゲームやら漫画やらでのイメージで質問したが、どうも違うらしい。

冷静に考えると、強い力を持った存在が楽に破れるなら確かに閉じ込める意味が無い。



 「それに、もし脱出する事が出来たとしても妾は行かんよ」


 「何故ですか? こんな辺鄙な所に残る理由なんて・・・・・・」


 「少年には悪いが、妾の担い手はライズただ一人。

  ライズ以外の人間に妾を振るわせる気は無いのだ。

  ・・・・・・誰かがここに残ってやらないと、可哀そうじゃないか」


 「・・・・・・分かりました。貴方がそう言うなら仕方ありませんね。

  でも気を付けてください。もしかしたら、ここにフィアが来るかもしれません」


 「非常に気に食わない事だが、この姿では隠れやすいと言う利点があるのだ。

  ライズの影にでも隠れていればそうそう見付かる事はあるまいよ。

  見付かった所で、特に問題も無い。せいぜい壊されるくらいだ」


 「そしたら貴方は死んでしまうんじゃないんですか?」


 「ライズに力を貸せず、封印された理由を忘れている時点で妾は死んだような物だ。

  創造神との戦いに協力すると言いながら肝心な所で役に立たなかったんだからな。

  剣と言う道具としても、契約を重んじる悪魔としてもこれほど不名誉な事は無い」


 「・・・・・・自分を軽く見る事だけは止めてください」



 平坦な口調で淡々と言うが、隠しきれない後悔の念が感じ取れる。

励まさなければと思ったが上手い言葉は浮かばず、月並みなセリフになってしまった。

皮肉は簡単に出てくる癖に人を励ます言葉が出てこない自分の口が憎い。



 「ま、少年が気にする事は無い。

  闇が弾圧されるような世でも無いなら安心だろうしな。

  創造神の事が気になるが、話を聞く分には最早権威ある存在では無いようだ」


 「俺はムンドゥス・・・・・・空間神からこの世界に脅威が来ると教えられたんですが」


 「脅威? うーむ、創造神以外には見当がつかないぞ。

  悪いが、それについても妾は力になれないな。面目ない・・・・・・」


 「いえ、駄目で元々聞いただけですから。そこまで気にしなくても構いません。

  この荒野から脱出出来るだけで、本当にありがたいんですから」


 「それなら良いのだが。それにしても、何故この荒野に足を踏み入れたのだ?

  闇の住人でここに来るのは余程の物好きだと思うのだぞ」


 「冒険者ギルドの依頼で遺跡を見付けて、先に進んでいたらいつの間にかここへ」


 「・・・・・・長い時が経てば、どんな物も役割を忘却されその名前に貶められるか。

  創造神のヤツに同情してやる気は無いが、虚しい物だな」


 「ん? どう言う事ですか」


 「少年は遺跡と呼ぶが元はこの世界の主神、グレナを讃える神殿だったのさ。

  妾とライズが乗り込んだ時は光の軍勢の本拠地だった筈だが。

  ・・・・・・こう言う事を聞くと、本当に時間の経過を実感するな」



 過去に思いを馳せているのか暫く喋らなかったが、数分程して改めて話しかけてきた。



 「さて、待たせてしまったな。・・・・・・ふぅ。

  妾の願いを聞き入れてくれた代償に、汝の望みを一つ叶えよう。望みを申せ」


 「この荒野、並びに遺跡からの脱出」



 口調や雰囲気が変わり、グレイアさん達ともまた違う威圧感を放つルイン。

少し面食らったが悪魔との取引と言ったらこんな物かと勝手に思っておく。

・・・・・・成程、確かに力を持った悪魔と言うのは本当のようだ。



 「汝の望み、聞き入れた。縛られたこの地より、汝を解き放とう」



 ルインの刀身が妖しい紫色に輝いていく。

夜が訪れたかのように周囲は薄暗くなり、相対的にルインの輝きが映える。

一瞬眩い光を放ち、目を瞑ると手元から剣が消えていた。

・・・・・・代わりに物凄い美人が目の前に立っていた。



 「ふふ、何を鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている?」


 「・・・・・・傾国の美貌ってのは、自称じゃ無かったんですね」


 「呪いに匹敵するような物だからな、魅了の魔眼に性質的には近い」



 洋風と和風が混在したような複雑な形式の緋色のドレスに黒のカチューシャ、

腰ほどまである長さの銀髪に涼やかな目元、俺より長身のすらっとした体型。

確かに傾国と言っても過言では無い美しさはある。



 「あれ? でも、封印は解けないとか何とか・・・・・・」


 「実際に実体化している訳では無いしな。魔力で肉体を再現しただけだ」



 俺の足元を指さすので視線を向けると、剣が転がっている。

さっきまでの強い輝きは放っていない物の、魔力は依然として感じられる。



 「悪魔の性質で、取引が絡めば本来の力より強大にもなれるのだよ。

  封印を受けている関係上、今は元の妾にギリギリ近づく程度でしかないが」


 「そう言う物、なんですか」


 「む、マズイな。少年、意識を保て。

  妾が意識を向けている訳では無いが、魅了の力に呑まれつつあるぞ」 



 言われて、意識が朦朧としている事に気が付いた。

初対面の時にも似たような感覚を受けたが、意識せずにこれって凄まじいな。

ボディービルダーや相撲取りを強くイメージしてルインの姿を意識しないようにする。

・・・・・・うん、中和とまではいかないがだいぶ楽になった。



 「長引く前にさっさとやった方が良いな、この様子だと」



 ルインは何やら低い声で呪文のような言葉を呟き始めた。

聞き取ろうとしたが、今まで聞いた事も無い響きをすぐに認識できる訳も無い。

逆に、ルインの言葉に心地よさを感じて意識が飛び始める始末。

必死に相撲取りの濃密な絡み合いを想像してルインの言葉を無視する事数十秒。

早くも精神力の限界が見え始めた頃、ルインの詠唱が止まる。



 「よし、終わりだ。良く耐えたな少年」


 「そう、思うなら、早くやってくれ。正直、すごく辛い」


 「確かに、言葉遣いが素に戻っているな。

  よし、ではこの地より脱出する自分を強くイメージするのだぞ?

  『空間を跳躍する超越した旅人』! ・・・・・・さらばだ、近代の闇の勇者」



 俺の知ってるどの魔術よりも長ったらしい名前だなあ、

なんて感想を抱きつつも俺の意識は足元に出現した紫色の光に飲み込まれていった。

色々疲れる経験をしたが、どうやら無事に脱出出来るらしい。結果オーライか。



 「本当に、ありがとう」


 「え?」



 意識が完全に消える寸前、最後に目に入ったのは頭を下げるルインだった。

・・・・・・まあ、悪魔とは言え美人に頭を下げられて悪い気はしない。

ついついテンションが上がり、微笑みで返す。



 「あー、気持ちは有り難いのだが・・・・・・

  しまりの無い顔になっておるぞ、少年」



 こう言う事になるだろうと思ったよ、畜生!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ