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クエスト4・異邦人と謎の遺跡6

 「さて、そろそろ自分の心配をしなくちゃいけないよな」



 フィアを退けたのはいいが、脱出する事とは何も関係無いのだ。

ゲームみたいに戦ったから必ず何かが起こる、なんてのはありえない。

むしろ体力や道具を消耗するから出来る限りは戦いを避けるようにする必要がある。

戦闘経験を積む事にはなるから、全くの無駄では無いんだけどさ。



 「食糧も後四日くらいしか残ってないし、防具も無いから心許無いんだよなあ。

  武器は一応フィアから奪ったコレがあるけど・・・・・・」



 さっきまでは光が纏われて聖剣のような意匠だったフィアの生み出した長剣だが、

今は俺の闇によって黒紫色の刀身を持ち、悪魔の翼があしらわれた不気味な物となっている。

この荒野ではフィアとフィアの差し向けたらしい天使人形としか戦闘していないが、

今までショートソードを使ってきた俺としては長剣は重心が違っていて扱いづらい。

カッコいいけど、俺の得意とする戦法がやや取りづらいのだ。

そして防具が完全に役に立たない物になってしまった以上、攻撃は避けるしかない。

戦いはかなり難しい状況だ。



 「本気で探さないと、さっきの戦闘で生き残ったのも無駄になってしまうしな」



 俺は勝負に勝って試合に負けると言うのが一番嫌いなのだ。

フィアじゃないが、こんな所で死ぬ訳にもいかない。手がかりを片っ端から調査していこう。

比較的形を保っていた外套に闇を纏わせ、ガラクタ同然の鎧は捨てていく事にする。

銀貨十枚と結構高い物だったが、もう持っていても意味が無いし邪魔だ。

元が外套だからあまり防御力は期待出来ないが、この鎧を着ているよりはマシだろう。


 とりあえずフィアの襲来で調査が中途半端になっていた神殿に再度入る。

スキルを抑えられ外套や長剣を覆う闇も解除されるが、かまわず祭壇へと向かう。

やはり、ここに何かがあるような気がしてならないのだ。

「彼」が閉じ込められた水晶に手を触れる。



 「あんたも大変だな・・・・・・

  俺みたいに違う世界から連れてこられたのか元々この世界の出身なのかは知らないけど。

  こんな訳の分からん変な物に閉じ込められちまって」



 ・・・・・・と言うより、生きてるんだろうか?

少なくとも俺がこの世界に来た2、3か月前からこの状態だと思うんだけど。

あれか、仮死状態なのか? そうでも無いと、とっくに死んでるぞ。

フィアの口ぶりだとアイツがやったみたいだけど、えげつない事するなあ。



 「ま、ロクな性格してない事は分かってたけど」



 改めて周りを確認するが、特に脱出に関係ありそうな仕掛け等は見当たらない。

うーん、本当に何も無いのかなあ? さっきから何かを見逃しているような気がするんだが。

祭壇の縁に腰掛け、考えを巡らせる事にする。


 まず、この荒野はデウス・グレイヴヤードとか言う名前らしい。

直訳すれば「神の墓場」だろうか。何やら意味ありげな名前だけど、今は置いておこう。

フィアの喋った断片的な情報から判断すると、アイツは「彼」と戦闘をした事があるらしい。

所々で俺と比較して「彼」の方が強いだの、貴方は違うタイプだの言ってたし。

どうやら「彼」は正面からフィアと互角に戦える実力があったようだな。

俺も倒した事は倒したけど、こっちを見下していたから出来た隙をついただけだし。

それまでは完全に向こうのペースで防ぐのが精一杯だったからなあ。



 「ま、勝った方が強いと言う事にしておこう」



 もし次もあるなら、さっきみたいな戦法は取れないだろうし実力では確実に負けてるけど。

そして他に何か関係がありそうなのは・・・・・・この荒野に封印されてるとか言ってたな。

あのフィアですら閉じ込められている封印が俺にも効果があるなら、脱出は困難を極める。

悪あがきで『破壊』のスキルを使うくらいしか方法が思いつかないし、

もし封印を壊したとしてもどこから脱出すれば良いのかと言う根本的な疑問がある。

どうしたものか、やはりこの神殿を離れて脱出手段を探しに行くべきだろうか。



 「そう言えば、この荒野って本来何をするべき場所なんだ?

  御子とやらが何かの目的を持って来る筈なんだから、封印されて終わりなんて無いだろう」



 御子ではないから封印を受けるとか、御子も即身仏になりに来るとかだったらアレだけど。

さらなる真実を云々とか石碑に書いてあったし、後者は無いだろう。・・・・・・多分。

悟り的な物を開くのが真実とかだったらマズイ。最初から脱出手段が無い事もありうる。

まあ、その可能性は考えないでおこう。今はその可能性を考慮していればキリがない。

もう一つ、最後の心当たりと言えばフィアに初めて遭遇した時の建造物か。

あの屋敷とも城とも神殿とも形容し難い、訳の分からない物はフィアの妨害で調査していない。

隅々まで捜索する必要があるんだから結局いつかは向かう必要があるんだし、

体力や食糧に余裕のある今のうちに行って来よう。遠いし。


 幸い、相変わらず距離感が掴めないが、どの方向にあるかだけはしっかり分かる。

確かに地平線の影に隠れる程この荒野が広い訳では無いのだろうから見えて普通なんだけど、

どこか違和感も感じる光景だ。



 「だけど今の所実害がある訳でも無いし、元からこの荒野はおかしいからなあ。

  常に日が照っているし、そもそも遺跡の中じゃ無いのかよって突っ込みたくなる」



 取りあえず気にしない事にして、建造物の見える方向に歩きだした。











 歩き始めて数時間。

さっきまで近付いている気がしなかったのに、突然前方数十メートル程の場所に建造物が現れた。

・・・・・・やっぱり、ここはおかしい。



 「いつまでも辿り着けないよりはよっぽど良いんだけどさ」



 おかしくても何でも、悪い影響が出ている訳では無いから文句を付けるのも変な話だ。

そう判断して結局は深く考えず、扉を目指して進む。

建造物の目前に到着し、改めてゆっくりと全体を眺める。



 「やけに気味の悪い建物だよなあ・・・・・・

  雰囲気が纏まっていなくて纏まっていると言うか、捩れて変な所と繋がっていると言うか」



 前衛芸術のオブジェ、と言うのが比較的近い表現かもしれない。

見れば見る程落ち着かなくなってくる、嫌悪感と焦燥感を募らせる不愉快なデザイン。

色々な時代、色々な場所の建築デザインの良い所だけを抜き出してごちゃ混ぜにした感じだ。

そのせいで全てが台無しになっているし、建造物としか言えない名状し難い物になっているけど。



 「まあ、建築評論をしに来た訳じゃないしな。

  俺には理解出来ないが、もしかしたら芸術的に価値のあるデザインなのかも」



 先程の疑問よりも更にどうでもいい事なので、気にせず扉を開ける。

外套と長剣に纏わせた闇が解除されないので、とりあえず戦闘は可能だ。

中に入ると意外と言うか何と言うか、まともな構造をしていた。

機械的な仕組みと高級的な部分が見受けられるがグレナス・ビーレの基本的な建物の内装だ。

シックなブラウンを基調とし、所々に銀色のアクセントがある中世ヨーロッパ風エントランス。

周りを確認すると正面にはホールと二階へ向かう大階段があり、

すぐ左右には絵画の飾ってある中二階とでも呼ぶべき小規模な回廊に繋がる階段がある。


 一階から順に探した方が楽だろうとの考えから、まずは左右の階段をそれぞれ上る。

大階段を境に回廊が途切れているため、一度に回りきる事が出来ないからだ。

絵画の額をひっぺがしたりしながら見回ってはみたが、特に手がかりは無い。

何か絵画に違和感を感じたが、仕掛けがある訳では無かった。

時間も惜しいので、大階段からさっさと二階へと上る。



 「あれえ? やっぱり、まともじゃ無いなあ・・・・・・」



 二回に上って衝撃を受けた。

外装のように訳の分からないカオスではなく、統一感があり落ち着いたホールではある。

・・・・・・あくまでこの階だけを見ればの話だが。

一階のデザインはどこへ行ってしまったのかと問い詰めたくなる程に、和風だった。

いや、そもそもこの世界に和風のホールはおかしい。存在しない筈だ。

それこそグレナス・ビーレで唯一俺が知っていると言っても過言では無いだろう。



 「フィアなら知識として知っている可能性もありそうだが・・・・・・

  だとしても二人だ。アイツのスキルで作ったのだとしても、一階とのギャップが在るし」



 一つの町を再現するなんて離れ業をやってのけたフィアなら作れない事も無いだろうが、

一階をグレナス・ビーレのデザインにしているのに和風にする意味が分からない。

建物を造るなら、普通に考えて統一したデザインにするだろうし。

そして、見回して思ったがやはり違和感がある。

「彼」の閉じ込められている祭壇のような、第六感的な物に訴えかける違和感では無く、

何か頭に引っかかる、そんな感じの違和感だ。



 「何となくだけど、この階には脱出するための手がかりは無さそうな気がする」



 単なる勘でしか無いが、この勘で「彼」を見つけたりもしたのだ。

順に探そうと言う最初の考えはどこへやら、時代劇等に出てくるような階段を見つけて上る。

三階で俺の通う高校のような構造になっている内装を見た時、一つの見当がついた。



 「フィアの創った町と同じで、俺の記憶から生み出されているのか?」



 二階まではともかく、この階は絶対におかしい。

いくらなんでも偶然に俺の通う高校と同じになったとは考えづらい。

思えば、一階の絵画に感じた違和感はデジャヴだったのではないだろうか。

二階の階段に対しての表現「時代劇等に出てくるような」も、そのものズバリな可能性もある。

だとしたらかなり面倒だぞ。



 「ここ、何のための建物なんだよ・・・・・・嫌がらせ?」



 入った人の記憶に応じて変形するとか、カッコいいような気もするけど実用性が無いような。

造った意図が全く分からない。本当に嫌がらせの可能性もあるんじゃないのか?

一応なんとか最上階に辿り着こうと頑張る事にする。何十階とある訳でも無い筈だし。

階段を上っては見覚えのある部屋を歩き回ると言う作業を繰り返す事数回。

どう見ても屋外だろ、と突っ込まざるを得ない部屋の階段を上って新たな部屋に着いた時。



 「これは・・・・・・俺の記憶では無い筈だ。少なくとも、覚えてはない」



 次は何が来るのかと、ややうんざりしながら部屋を見るとシンプルなホールだった。

奥には階段があるので最上階では無いのだろうが、白と黒のドアが階段の両隣に存在している。

迷わず黒い方のドアを開ける。白と言うか光と言うか、それには歓迎されない気がしたからだ。

中に入ると、何やらいかにも闇っぽい薄暗さが漂う宝物庫だった。

実際に宝物庫を見た事なんて無いから、ただ感じた印象から判断しただけだが。


 物色していると、脳に直接響く蠱惑的な声が聞こえてきた。

何かに引きづられるような感覚と同時に意識が遠退きかけたので、咄嗟に堪える。

今度は一体何だ!?



 「ふふ、そう抵抗するな光の御子よ。

  妾の願いを聞き入れてくれたなら、代償としてお前の望みを一つ叶えてやろう」



 ・・・・・・光の御子?



 「あの、すいませんが人違いです」


 「ほえ? 何を言っている。この封印された地に光の御子以外の者がーーーーーー!?

  ライズなのか!? 何を他人行儀な受け答えをしておる! 妾だ、ルインだ!」


 「いや、またもや人違いです」



 ライズって誰だよ。

このルインとか言う声の人から誘惑するような感じが消えて怒鳴られたんだけど。

と言うより、この人どこにいるんだ?



 「うむむ、妾を愚弄するか! 何時の間にやら偉くなったものだな、ライズ!

  お前なんかこうしてやる! そりゃ!」


 「・・・・・・」



 何も起こらない。それにしてもハイテンションな人だな、最初感じた印象が台無しだ。

女悪魔に取引を持ちかけられるとこんな感じなのかとか思ったんだけど。



 「ほれほれ、いつまでやせ我慢できるかの、あっはっはっ!」


 「誠に申し上げづらいのですが、全く何も起こっておりません。

  そして、私の名前もライズではなく、タツキです」


 「そんな出任せを・・・・・・あれ、もしかして本当に効いてない?

  でも確かに強い闇の力を感じるし、あれ? あれれ?」


 「お邪魔しました」



 取りあえず声が聞こえてくる方向に背を向け、ドアに向かって歩き出す。

さてと、白いドアの方の部屋に行こうかな。嫌な予感がしない事も無いんだけど。



 「ま、待て! そんな憐れむような声色で置いていくんじゃない!」


 「・・・・・・何か?」


 「お前、何故闇の力を持っているのだ? 

  この世界で『闇』のスキルなんて、頭の固い創造神のヤツが許さないぞ。

  先天的に持っているなんてありえないし、この世界の神には闇を司るヤツはいない」


 「ムンドゥスと名乗った神にスキルを与えられました。

  襲い掛かってきた『光』のスキルを持った女は「忌々しい空間神」って言ってましたが」


 「・・・・・・その女、フィア・エリアルと言う名前ではなかったか、少年?」


 「少年? ええ、まあそうですけど。何故知っているのですか?」


 「全く、忌々しいのはそっちだろうに・・・・・・色々因縁があるんだよ、少年」



 途中で呼び方が「お前」から「少年」に変わったが、何だ? かなり新鮮な呼ばれ方だが。



 「少年、頼みがある。妾をライズの元へ連れて行ってはもらえないだろうか」


 「いや、そもそもライズって誰なんですか?

  こんな変な所に閉じこもってないで、自分で行けばいいじゃないですか」


 「どアホ! 好きで閉じこもってるのと違うわ! この宝物庫に封印されてるんだよ!」



 宝物庫に封印って、封印した方も何を思ってこんな所に封印したんだ・・・・・・

もっと他に無かったのかよ、「彼」みたいなヤバそうな封印をしろとか言わないけどさ。



 「・・・・・・どうやら少年、妾の事が良く分かっていないな?」


 「こんな短時間で貴方を理解できる人もあまりいないと思いますが」


 「そういう意味で言ったんじゃ無いんだよ・・・・・・

  その一歩退いたような言葉づかいで毒を吐かないでくれ。まあ、見せた方が早いか」



 ごとっ、と音をたてて全長60センチ程の小剣が転がってきた。・・・・・・もしかして。



 「こういう事だ。理解の遅いその頭でもはっきり分かるだろ? 妾は剣に封じられた意志だ」


 「・・・・・・ゲームとかで良く思うんだけど、

  道具、特に武器に意志を持たせるのって長所よりも短所の方が目立つ気がするなあ」


 「げーむとやらは知らんが、さりげなく妾をこき下ろしておるな?

  良い度胸じゃの、このまま突き刺さってやっても良いのだぞ?」


 「そんな器用な動きが出来るなら、私の助けは要りませんね」


 「うああ! 待て、妾が悪かった!

  少年の願いを一つ叶えてやるから、ライズの所まで連れて行け! 命令だ!」



 本当に悪いと思っているんだろうか・・・・・・

まあ、ここまで必死になってるのに無視していくのも気が引ける。

ダメで元々、叶えてもらう願いはこの荒野から脱出したいと言う物にでもしておくか。



 「そのライズと言う人について教えてください。可能な限り手伝います」


 「む? なんだ、本当に知らなかったのか。空間神が教えていると思っていたが。

  妾の相棒で、空間神の助力を受けた闇の勇者。闇を振るって傲慢な光に対抗する男だよ」 



 それって、「彼」の事なのか? すでに封印されている事に気付いていないのだろうか。



 「・・・・・・分かりました。その人なら、居場所に心当たりがあります」


 「そうか! 妾とライズ、デミスの力、

  そして少し頼りないがここまで辿りつけた少年の力があればまだまだ戦えるぞ!」



 何か、互いの認識にズレがあるような気がするんだが。

そのズレの理由に少し見当がついてしまったが、あえて口には出さなかった。

間違っている可能性の方が高いし、合っていてもルインの喜びに水を差すからだ。

無邪気に喜び続けるルインを左手に持ち、虚しさや無常感が込み上げてくるのだった。

・・・・・・後、デミスって誰だ? 分からない名前をポンポン出すのは止めてほしい。



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