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クエスト4・異邦人と謎の遺跡4

 「さて、何をすべきかな」



 いい加減にこの偽りの故郷からは脱出したい。と言うより、もうこの遺跡から出たい。

大体の事情は分かったから報告も出来るし、ここの力が抑えられる感覚は気に入らない。

だが、どうやればこの隔離された架空の世界から・・・・・・



 「そういや能力が強化されてるっぽいよな、今の俺」



 強化出来るんだったら最初の時点で全部やってくれれば良いのに。

でも受理とか拒否とか聞こえた気もしたから、そう思い通りになる物でも無いみたいだな。

ムンドゥスでも伺いをたてないといけない何か、と言う事だろうか。



 「時間限定の何かもあるみたいだけど、何なんだろうか」



 生命種なんとかって言ってたなあ。詳しい事は分からないけど。



 「まあいい、破壊の力を使えばこの空間からの脱出は容易だ。・・・・・・え、そうなの?」



 意識せずに口から出てきた言葉に驚く。思わず自分の言動に突っ込みをいれてしまう。

な、なんかおかしいぞ。いくら意識しないで喋ったとは言え、全く考えもしなかった事が何故?

とりあえずその事は置いといて、急いで『破壊』のスキルに集中する。

もし本当に脱出できるなら、時間を無駄にする訳にはいかない。



 「づうっ・・・・・・!?」



 破壊の力に意識を集中して発動待機状態になった瞬間に、今まで感じた事の無い強烈な不快感。

脳神経を一つ一つ丁寧に丹念に引き裂かれるような感覚を受け、気が狂いそうになる。

・・・・・・この『破壊』の力を理解する事を、俺の脳が拒絶しているのか!?

今まではどのスキルを使ってもこんな事は無かったが・・・・・・


 経験したことの無い異常な感覚に耐えていると、突然痛みが止まり頭がクリアになる。

いつもより感覚がはっきりしてきて、先程までとは違った意味で異常だ。

ま、まるで危ない薬でも使われたみたいだなあ・・・・・・

そんな風に半ば心配しながら考えていると、膨大な情報が頭に直接流れ込んできた。

俺は驚愕した。それらの全てを理解「出来てしまった」事に。

例えるなら、適当に教科書を流し読みして内容を完全に理解・暗記してしまうような物だ。

しかも流れ込んだ情報量は教科書どころか辞典の比でも無い。どう考えても人間では有り得ない。


 破壊とは今そこに存在する概念を壊す事によって成立する。

『破壊』のスキルはあらゆる全てに存在する「存在の概念」を■■■ックレ■■ドより抹消する。

概念に異常をきたした存在は正常な形を維持する事が出来ない為、世界によって形を否定される。

強固な存在程スキルに高い集中力が必要とされ、位階によっては破壊出来ない対象もある。



 「・・・・・・今重要な所はこれくらいだろうか」



 破壊の力は何も物質を壊すだけの力では無いらしい。

このスキルを使って、この架空の町を壊し脱出する事も確かにできるかもしれない。

この町に『破壊』のスキルを発動し、壊れる姿を強くイメージする。

ひびの入る道路、崩れ落ちるビル、砕ける空。

それらを念じ、更にあの女の使用した『領域』に干渉。構成された「世界」と言う概念を侵食する。

普段ならばとても行う事の出来ないであろう荒業だ。


 あの女はそこまで強固な世界を創ってはいなかったらしく、見る間に町は泡沫へと消えていく。

・・・・・・破壊の力って、こんなに凄まじかったのか。すげえチートじゃないか。

これだけで大抵の相手は何とかなるだろ、人には危なすぎて逆に使えないくらいだ。



 「ん、何かがずれた感覚が・・・・・・隔離された世界の壁を壊したみたいだな」



 もはや町は原型を留めておらず、俺の立っている場所を中心として僅かに面影が残るのみだ。

よし、仕上げだ。足場として残していた世界の欠片も破壊し、偽りの故郷から脱出を果たした。











 一瞬の空白感の後、俺は紐無しバンジーと言う味わいたくない体験をしていた。

普段の俺ならーーーーーーと言うか、誰でも普通焦るような状況だが何故か冷静さを保っている。

全能感とまではいかないが、今の状況に対して危機感が沸かないのだ。



 「・・・・・・高所からの落下による、運動エネルギーと言う概念を破壊」



 落下の直前に『破壊』のスキルを発動。概念の破壊と言う力業で生命の危機を回避する。

運動エネルギーが消失した事により、瞬間的な無重力状態が発生。地面にふわりと降り立つ。

・・・・・・やった後で疑問に思ったが、エネルギー保存則とかどうなってんだこれ?



 「潰れたトマトになるのは防げた、か」



 こんな冗談を飛ばす余裕まである。いったい今の俺はどうなってんだ?

力のレベルが上がってハイテンションになり、危機感が薄れている訳でも無さそうだ。

さっきから地味に冷静と言うか、感情があまり動かないし。



 「次は遺跡からの脱出だな。どうやれば良いだろうか」



 変わらないテンションのまま、次の問題を考える。

架空の町からは脱出したが、何処に行けば良いのか分からないこの荒野に戻ってきてしまった。

畜生、何をすれば良いのか分からないってのが一番困るんだ。

あまりうかうかしてもいられないし、早めに方法を見付けないと・・・・・・






 生命種位階の制限付き一段階引き上げの終了を宣告。

現時点をもって本来の生命種位階へ引き下げ、第3等級存在優先権・第3等級知性は失効。






 「・・・・・・また、この感覚か」



 先程強化を受けた際にも聞こえた声が再び頭に響いた。

ただ、どうやら今回は強化では無く引き下げられたようだが。



 「確かに時間限定の何かがあるっぽかったけどさ、せめてここを脱出するまで待ってくれよ」



 さっきまでの頭の冴えた感覚や、異常とも言える程の冷静さがあっという間に薄れていく。

生命種なんとかって、これに影響していたのか? それだけでは無い気もするけど・・・・・・

まあ、元々一時的な物として与えられた力だ。とりあえずあの女の世界からの脱出はできたし。

気分を取り直し、今のスキルがどのくらい強化されているのか確認する。

強化されたのは『闇』と『破壊』のスキル。『破壊』は確認したから『闇』だな。

集中力を高め、闇の力を右手に集める。



 「もっと強く、もっと鋭く! ン・カイの闇よぉ!」



 なんか最近、これを口にだすのが申し訳ない気もしてきた。

本人さん達に比べれば粗末過ぎる力だしセリフが混ざっているのも冷静に考えればマズイと思う。

これからは違う掛け声にしようかなあ、等と考えながら闇を放つ。


 複数放たれた球状の闇は、今までの物よりも深い黒紫色をしていた。

この場所の特性により徐々に掻き消されていくが、攻撃の有効範囲は伸びている。

これならこの遺跡内でも近距離であれば攻撃として使えるだろう。


 続いてショートソードに闇を纏わせてみる。

やはりこちらも完全とまではいかないがブレもかなり収まり、実体をはっきりと保っている。

どうやら基本的な戦闘能力は回復したと考えても良いようだ。



 「問題は領域の力だな。これは何の強化もされなかったし」



 身体強化領域が保たれているとは言え、探索領域はほぼ無効果されたままだ。

危険は自分で察知して回避しなければならない。あの女は『領域』を使えていたのに不公平だ。

・・・・・・抑えられていて、あの性能って事は無いよな?


 脱出の手段を探す見当もつかず、あの女の能力について不安を抱きつつも歩きだした。











 明確な行き場も無くひたすら歩き続ける事半日近く。唐突に不思議な感覚を受けた。

これは・・・・・・懐かしさ? 何でまたこんな所でいきなり。



 「一応、行ってみるか」



 どうせこのままではうろうろするくらいしかやる事が無い。

どんな些細な手がかりでも適当に歩くよりはマシだ。目的に向かっていると言う安心感も出る。

まさに藁にもすがる心境で、導かれるように懐かしさを感じる方向へ進む。


 途中で休憩を取りながら進み、本当に何かあるのかと不安になってきた頃、それが目に入った。

今までともまた赴きの違う、あちこちにクレーターや不自然に隆起した大地が点在する不毛の地。

まるで戦争でもやったのかと思えるような荒野、その中心地に存在する明らかに異質な神殿。


 興味がわき、思った以上に巨大なクレーター等に遠回りを余儀なくされつつも近付く。

軽いアスレチックのような体験をしつつ、無事に神殿まで辿り着く。

感じた異質さを詳しく確認する為に、調査を始めた。


 薄く輝く大理石状の、材質不明の物質で創られた荘厳な女神の意匠を彫り込まれた純白の柱。

それらによって構成された屋根の無い古代ギリシャ神殿のような外観。まあ、あまり大きくは無い。

せいぜい全長は4メートルあるかどうか、といった所だ。・・・・・・十分デカイ気もするが。

そして、中心部の祭壇に向かう上り階段。これも柱と同じような物質で創られているようだ。


 階段を上り、祭壇に近付く。歩を進め、祭壇へと近付く度に力を抑えられる感覚が増す。

しかし、その祭壇から懐かしさを感じるのだ。魅いられたかのよう3メートル程の階段を上りきる。

もはや殆どの力が無力化され、身体強化領域も効果を失ったために鎧や兜、手甲が酷く重い。

そんな状態でも体を引きずるように何とか祭壇の目の前に到着、安置された「者」を確認する。


 ーーーーーーああ、この神殿自体が「彼」の封印碑なんだな。

青とも緑ともつかない奇妙な光沢の結晶に封印され瞳を閉じている青年を見て、そう思った。

龍を象ったらしき黒兜から覗く金髪、全身に禍々しい形状の黒い鎧を纏った俺より年上の青年。

そして、ひときわ目を引くのが右手に持った長剣だ。

・・・・・・一番デザインがカッコいいとかゴテゴテしていてダサいとかでは無く、むしろ逆。

他はアウトロー的な格好よさと中二的なダサさの境界をギリギリ格好よさで止まっている感じだ。

だがしかし。他の装備に比べて剣だけがあまりにもシンプル過ぎるデザインなのだ。

本来なら目立たない筈なのに、周りとのギャップでつい注目してしまうくらいにシンプル。

そこらの武器屋で売ってるような剣の刃に、縦方向の紅いラインを入れただけの謙虚なデザイン。



 「・・・・・・俺と同じで、闇で強化するから武器に気は使わない人だったのかなあ」



 紅いラインが気になるが、せめて周りの防具に派手さを合わせようとでもしたんだろうか。

全然派手じゃないけど、これが無かったら本当に量産品の長剣にしか見えないぞ。



 「さっきから感じていた、懐かしさに似た感覚はこれか」



 直接会った事は無いがムンドゥスに力を与えられた者どうし引かれあう何かが合ったのだろう。

そうとでも考えなければ説明がつかない。いや、無理に説明をつける必要無いとも思うけど。

それにしても、結局この遺跡から脱出する方法は分からなかったなあ。

ここに何か脱出する為の仕掛けでもあれば楽だったんだけど。

一息付き、次の瞬間全身に悪寒が走った。咄嗟に後ろへ振り返ると・・・・・・



 「流石にこの距離からの殺気には気付くようね。スキルだけに頼っている訳でも無いか」



 階段下から見上げてくる、見るのも怖くなってきたあの女。勘が外れてくれれば良かったのに。



 「・・・・・・俺、二度と来なくて良いって言わなかったっけ?」


 「私みたいな美人に向かって二度と来なくて良いなんて、もしかして不能なのかしら?」


 「あんたが美人だってのは認めてやらなくも無いが。

  あんたと関わるくらいなら不能でも・・・・・・いや、やっぱり良くない」



 高校生にして既に不能とか嫌すぎる。



 「と、とにかく。

  初対面で意識が飛ぶような腹パンを決めてくる女に進んで関わりたいと思う程、Mじゃない」


 「全力でぶつかりあう事で目覚める友情とか、愛とか、あるんじゃない?」


 「あれはぶつかりあうとは言わないだろ。一方的な暴力を振るわれただけだ」



 軽口の応酬をしつつも、内心はこれ以上無く焦っている。

この祭壇では完全にスキルが無力化されている。戦闘になれば本当に勝ち目が無い。

また都合よく強化されるかもしれないが、それにしてもこの距離なら攻撃に反応出来ないだろう。

そもそも、ああ言う不確定な事象に深く期待するのは間違いだろうし。



 「世の中にはそう言う趣向がお好きな男性もいるようだけど」


 「需要のあるところに行ってやってくれ。少なくとも、俺は嫌いなんだ」


 「そう言われても私は封印されてるから、この遺跡から出れないのよね。

  厳密に言うとこの荒野「デウス・グレイブヤード」から出れないんだけど」


 「・・・・・・英語とラテン語あたりが混じってないか、その名前?」


 「私に言われても困るわよ、最初にこういう名前にした存在に言って頂戴」



 あれ? 今、普通に英語とラテン語って言葉に反応してきたけど・・・・・・

この世界の言葉はどちらでも無い。聞いたり見たりする言葉は日本語に近い形で自動翻訳される。

そしてそれは俺の言葉にも当てはまり、意識しない限りはこの世界の言葉に変換されるようだ。

だが、この世界に存在しない固有名詞を喋っても伝わらない筈。



 「ああ、言語について疑問があるの? 直接は喋れないけど、知識としては持っているわよ」


 「うん? どう言う事だ」


 「貴方が与えられたこの世界の知識と同じ事よ」



 言いつつ足を軽く開き、腰を落として戦闘体勢に入る女。・・・・・・マズイ、な。



 「思ったより長話をしちゃったけど、もうおしまい。

  これ以上会話していてチャンスを逃したら目も当てられない」


 「そう言う風な、うっかりさんだったらタイプかな~」


 「ぷっ。別に貴方に好かれたいとも思ってないし。どうでもいいわ、そんな事」



 ち、畜生。鼻で笑いやがった、この女。

悪あがきで言ってみただけの言葉だし、どうにかなるとは思って無かったから良いけどさ。

さて、どうしよう。スキルを使えれば逃げる事くらいは出来るかもしれないが。

『破壊』のスキルが直接効果を及ぼせられれば楽なのだが、恐らくそう上手くはいかないだろう。

何にせよこの祭壇から離れない限りは、取らぬ狸の皮算用。

まずは離れる事を最優先しつつ、攻撃を回避しなければならない。

今の身体能力では鎧やらは枷にしかならず、動くのもキツいが弱気な事を言ってもいられん。


 端っこまで移動したら飛び降りよう。

祭壇へと続く階段を上る前はここまで無力化されてなかったし、ショートカットにもなる筈。

多少どころではなく衝撃があるだろうが、死にはしないだろ。

スキルが使えなければなぶり殺しになるのを待つだけなのだ、選択肢は1つしか無い。

覚悟を決める。全身に力を込め、



 「お、オーケー。落ち着け。落ち着いて聞くんだ。は、話し合いで解決しよう。な?」



 ヘタレを装い、へっぴり腰で端までの移動を開始した。演技力で勝負!

・・・・・・演劇部の友達が褒めてくれたのが、社交辞令で無い事を、切に願う。



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