クエスト4・異邦人と謎の遺跡2
いつの間にやらお気に入り登録してくれた方が200を越えていました。
ありがとうございます。
「へえ、思ったより小綺麗だな」
遺跡の中に足を踏み入れ、辺りを見回してから呟いた。
相当古そうな感じだったから入った瞬間くしゃみが止まらなくなるような事も覚悟していたが、
大して埃っぽい訳でもなかった。
遺跡入り口は石造りのホールになっていて、半径3メートル円状のシンプルな部屋だ。
特に壁画やら石碑やらがあるのでも無く、中央に地下への階段があるだけだ。
もう少し何か飾りとか、そう言う物があると予想していたから拍子抜けだな。
「映画で有りがちな、入ったら閉じ込められるとかの罠もなかったなあ。
いや、あったら困るけど。・・・・・・ん?」
よく見ると、地下へ向かう階段に土や葉っぱが少量落ちている。
噂の冒険者達かどうかは分からないが、最近誰かがここに入ったのは確実だろう。
やはり、調べなきゃいけないな。問題はこの遺跡に本当に原因がある・いるのか、と言う事だが。
そもそも依頼の達成条件が曖昧な物だし、嘘を言わないで自分なりの見解でも出せば十分だろう。
高校の課題でも時々あった、化学実験結果のレポート。
あれのフィールドワーク版だと思えば良い。
俺の学校は理系一筋だから、こういうのにも多少憧れていたし。
気を引き締め直し、とりあえず遺跡入り口付近の調査をする。
調査とは言っても、ただ単に変わった所がないか適当に確認するだけだ。
専門家でも無いんだから、詳しい情報が手に入る訳も無いだろう。
案の定、ここでは何一つ依頼に関係あるような事は分からなかった。
「やっぱり、地下に行ってみるしかないな」
階段を下りる最中に大玉が転がってくるとかの展開は無いよな・・・・・・と、
有名冒険映画を思い出して恐る恐る階段に向かうのだった。
おどおどしながら階段を下りて、狭い通路らしき場所に出たが罠は無かった。
いかにもな感じの騎士や得体の知れない動物の石像が多数配置されているが、
これらは不気味なだけで特に害は無い。
むしろ警戒し過ぎている気もしてきたな。俺が遺跡に持っているイメージは映画の物だし。
よくよく考えてみれば盗掘者用の落とし穴くらいはあるかも知れないが、
大玉とかあんなに大掛かりな罠は現実的に考えづらい。どうやって回収するんだ、転がした後。
まあこの世界、グレナス・ビーレは魔術もモンスターも神さえ存在するファンタジーなので、
地球の常識を過信するのは止めておこう。油断大敵だ。
「さて、リアルなインディ体験をーーーーーーっ!?」
かちゃん、と何か音がしたので振り返ってみると石像の騎士がまさに剣を振り下ろす所だった。
体に何か違和感を感じるがとっさにバックステップし、攻撃を回避する。
闇を纏わせたショートソードを構え騎士の方を見ると、さっきの石像が全て向かってくる。
「こ、ここまでリアルなインディ体験したい訳じゃ無いって・・・・・・」
軽く見て、20体程はいる。モンスターにもここまでの群で襲われた事は無い。
しかもこの通路は狭く、横幅と縦幅が2メートルより多少大きい程度だ。
幸いにも囲まれて一度に全員を相手にすると言う絶望的な状況にはならなそうだが、
俺の得意な、スピードを活かした縦横無尽の戦法も取る事は出来ない。
直接戦闘を挑めばあっという間に袋叩きになると判断して、遠距離からの攻撃を選択する。
「もっと強く、もっと鋭く! ン・カイの闇よ!」
相変わらず微妙に間違っているセリフだが、イメージの問題なので仕方ない。
まあ、所詮これは形を似せただけのパクりだけどそれなりに威力はある。
本人さんがやれば、おそらくこの遺跡ごと吹き飛んでしまうだろうけど。
と、かなりの勢いで放たれた球状の闇がどんどん拡散していく。
数体は倒せるとの確信を持って放った攻撃は、敵へ届く頃には完全に威力を失っていた。
「バカな! 何故闇が掻き消される!?」
まさかと思いつつショートソードを見ると、一応形は保っているが不自然にブレている。
端から掻き消されてはいるが、再構成に注ぎ込まれる闇で何とかプラスマイナス0になるようだ。
だからといって、安心は出来ない。これから闇が完全に掻き消される可能性が無いとは言えない。
今まで俺は、このスキルがあったからこそ高性能な武器を買わずともやってこれた。
しかし、ただのショートソードになってしまえば危険なモンスターを相手するには力不足だ。
そうこうしている内に石像どもが近付いてくる。
元々直接戦闘をする気は無かったし、いつ剣が攻撃能力を無くしてもおかしくない状況だ。
「脚力強化領域」を発動して、全力で逃げる事にする。
本当なら階段に向かって逃げたかったがこの狭い通路で石像どもを飛び越す自信は無い。
今はここをのりきる事が重要だと判断、石像に背を向け走り出した。
通路を走り続けていると、それなりに広い部屋に辿りついた。
石像どもは足が遅いらしく今は視認できる距離に無い。
辺りを警戒しつつ、とりあえず立ち止まって今の状況や周囲を確認する事にした。
「まず、闇の力が掻き消される・・・・・・」
闇の触手を展開してみるが予想通り短時間で消滅する。くそ、偶然だったと言う希望が消えた。
周囲の探索を怠る訳にもいかないので、現実逃避ぎみに部屋を見回す。
「これは・・・・・・壁画か? と言うか、光源はどこにあるんだ・・・・・・」
逃げる最中は意識していなかったが、この遺跡地下はボンヤリと明るい。
日の差し込むような隙間がある様子でも無いんだが、魔術的な仕掛けだろうか?
そして、この部屋は今までの通路に比べるとかなり広い。遺跡入り口ホールにも似ている。
違うのは下に向かう階段があった場所に石碑があり、壁画も描かれている事か。
光に包まれた神らしき存在が黒い怪物とその手下を滅ぼしている場面だな。
ここで行き止まりとは考えづらいし、何か手掛かりがないかと石碑に近付く。
刻まれた文字は掠れていたが、読めない訳ではなかった。目を凝らし、声に出して読む。
「《我 異界より来る闇を祓いし 創造神グレナ
この楔を以て我の主権を確立
更なる真実を求める 我に繋がる系譜の御子は 大地の名を呼べ 道と試練を与えん
誤りの名を呼ぶ者は 等しく名の怒りを 受けるであろう》
うーん、一種のパスワードセキュリティって事か」
まあ、答には見当が付いている・・・・・・と言うか知ってる。
創造神グレナなんて名前も出てきたし、グレナス・ビーレで間違い無いだろう。
問題は「我に繋がる系譜の御子」の一文だ。これは確実に俺には当てはまらない筈。
だがペナルティの条件は「誤りの名を呼ぶ者は等しく」だ。
ここから推察するに、例え「御子」であっても正しい名前を呼べなければ怒りを受け、
逆説的に「御子」で無くとも正しい名前を呼べば道は開くと考えられる。
試練とかも書いてあるのは無視する方向で。先に進む必要があるのに気が滅入る事考えたくない。
「戻れなくなって野垂れ死ぬ、なんて間抜けな事にならなきゃ良いけどな。
今思えば、ルイセさんとの会話で死亡フラグを立てた気もするし」
帰ってから甘い御菓子をプレゼントする、って所で怪しい。
しかも全く根拠の無い勘と言う訳でも無い。
噂の冒険者達が身体的には無事だったのは、ここで間違い強制送還でもされたからではないか?
試練とやらを潜り抜けたと言う可能性は低いと俺はにらんでいる。
臆病かもしれないがたった一人の状況だし、無理をしてでも地上に戻るべきではないだろうか。
その考えも浮かんだが何故か採用する気になれない。この感覚を、前にも何処かで・・・・・・?
「どちらにしろ、あまり長く迷ってもいられないな。石像どもが追ってくるし」
まだ確信が持てていないし、ここで証拠を掴まなければ依頼達成にも影響が出る。
結局はそう結論付けて、進む事を選択する。さて、何が出てくるのやら・・・・・・
「グレナス・ビーレ!」
この世界の名を叫んだ瞬間石碑が名状し難き色彩に輝き、目の前が眩い光に包まれた。
目を開けると、砂塵の突風が吹き荒れる荒涼とした大地が見渡す限りに広がっていた。
「って、何じゃこりゃあ!? ここどこ!? いくら何でも突然過ぎるでしょう!
あ、ありのままに起こった事を云々って生まれて初めて言いたくなったんだけど!?」
じょ、冗談じゃねえ・・・・・・マジで死にそうだぞこれは。
本当にどこだよ此処。俺はてっきり部屋の隠しドアが開いたり階段が出るとかだと思ったのに。
色々な物をすっ飛ばしてるよ、これ。
「・・・・・・」
右を見ると、どこまでも荒野が広がっている。左を見ても、どこまでも荒野が広がっている。
上を見ると、どこまでも青い空が広がっている。・・・・・・え、ここ遺跡の地下じゃないの?
振り返ってみると、かなり遠くの方に何か建物が見えた。
「現状、あれを目的地にするしか無いか」
呟き、深く溜め息をついた後、涙を拭って歩き始める。
この涙は砂埃が目に入ったからで、飢え死ぬかもと言う絶望的な心情とは一切何の関係も無い。
「・・・・・・まだ慌てるような時間じゃ無い」
一応、冒険の際には多量に携帯食料や水を持ってくるようにしていたおかげで7日程度はもつ。
熟練の冒険者は素早く動くために最低限の荷物しか用意しないらしいが、
俺の場合は人間離れした筋力を出せるので常に持てる限りの荷物を用意するのだ。
そのせいで雪山登山家のような外見になってしまい、リリアに不評だったが・・・・・・
「これって、御子とやらも同じ所に飛ばされるのか?
俺だからこの荒野に飛ばされたって事は無いよな・・・・・・」
この荒野をひたすら歩いている内にだんだん気が滅入ってきたので、独り言を口にする。
「理由は分からないけど闇の力は掻き消されるし。俺って歓迎されて無いんじゃないか?
まあ、そもそも石碑の文面からして御子以外が来る事は想定してなかったみたいだし」
他にやる事が無いので、今のうちに疑問を自分なりに解決しておく。
ギルドに報告する内容になる可能性も高いのだ、早めに纏めておこう。
「そう言えば、壁画に描かれていたのは光ってる神だったな。
石碑に闇を祓うとかあったし、その遺跡だから闇の力が掻き消されるとか。
ん? だがその場合、滅ぼしていた黒い怪物とその手下は・・・・・・」
・・・・・・いや、考え過ぎだろう。当たって欲しく無い、と言うのが大きいが。
ちっ、気分を変えるための独り言だったのに余計テンションが下がっちまった。
最悪な気分のまま、距離感が掴めない建物に向かって歩を進めるのだった。
「探索領域もかなり制限されてる、か。本当に歓迎されて無いみたいだな」
精神的な疲れや気分をリフレッシュするためにテントを張って寝ようと準備していると、
更に知りたくなかった事実が判明した。『闇』だけではなく『領域』のスキルも影響を受けている。
身体強化に使っている分はあまり変化が無いようだが、探索領域の展開範囲が狭まっている。
具体的には半径2メートルぐらいに。通常時の10%以下に制限されているようだ。
・・・・・・半径2メートルだったら害意を感知した所で殆ど意味無いじゃないか。
今思えば、石像に襲い掛かられた時も寸前まで存在に気付かなかったし。
そして、害意に反応した訳でも無い。精度も大分落ちている。
「スキルのおかげで、見張りが居なくても熟睡出来た俺は恵まれていたんだな・・・・・・」
そこまで眠いと言う訳では無いが、寝れる時に睡眠を取っておくのは重要だ。
何故かまだ陽が照っているが、俺の体内時計が正しければそろそろ夜の時間帯になる頃だ。
今のところモンスターにも人にも遭遇してないので、さっさと仮眠を取る事にした。
今まで会わなかったからこれからも会わない、という事は無いのだが、気分の問題だ。
携帯食料と水を取りだし食事をする。空腹感を解消し、目をつむった。
「やっと着いたか・・・・・・」
今の時間は恐らく午前10時頃。
身体強化の恩恵を受けたこの体でも疲れがたまる程の距離を歩き続け、ようやく目的地に到着した。
遠くから見た限りではどんな建物か分からなかったが、全体像がはっきりした。
とは言っても、近付いたせいで余計に言葉にしづらくなったけど・・・・・・
城にも屋敷にも、神殿のようにも見える巨大な建物だ。
「なんか、入ったら更に酷い目にあいそうな気がする・・・・・・」
でも、他にする事無いんだよなあ。いつまでも荒野をさまよっていたら本当に死んでしまう。
戻る手段を見つける事は文字通りの死活問題なのだ。
あまり気が進まないが、俺の身長の二倍以上あるドアに近付き、手を伸ばす。
「はーい、ストップ。貴方をここに入れる訳にはいかないの」
「っ!?」
とっさに振り返ると、光沢のある紅いドレスを着た金髪の女が笑みを浮かべて立っていた。
だが、友好的な雰囲気は全く感じられない。見る者に恐怖を与えるような、危うい笑みだ。
「いつの間にここへ!? いや、お前は誰だ!」
「威勢だけは優秀ねえ。彼に比べれば何もかもが劣っているけど。
あの忌々しい空間神気取りもいっぱいいっぱいなのかしらね」
「質問しているのはこっちだ」
「立場としては、貴方と似たような物よ」
「・・・・・・ネームレスってヤツか?」
「ネームレス? 何でここに辿りついているのに、あの罠を知っているのかしら」
どうやらコイツはネームレスとやらでは無いらしい。俺と似た立場とは何の事を言ってるんだ?
・・・・・・と言うか、あの記事のネームレスって正しい情報だったのか。
「まあ、それはどうでも良いわ。貴方にはふさわしい場所で無様に息絶えてもらうから」
そう吐き捨てて、女は俺に手を向けてくる。危険を感じてその場から飛び退く。
が、特に何も起こらない。怪しんで女を見ると、面白そうな顔をしている。
「くくっ、オーバーリアクションね。臆病なのかしら? 避けるなら・・・・・・」
「がっ!?」
「こっちの方が良いと思うけど。ま、貴方ごときに反応できる速度じゃないけどねえ」
瞬間移動かと見紛う速度で4メートル程の距離を詰め、鳩尾に飛び膝蹴りをかましてきた。
息が止まり、胃液が逆流する感覚がする。視界が暗くなっていき、意識が闇に落ちていく。
女が指を鳴らすと、光に包まれた金色の扉が現れた。扉を開け、中に俺を放り込む。
「一名様ごあんなーい」
そんなふざけた言葉を最後に、俺は意識を失った。
ドレスを着た格闘する美女はカッコいいと思っています。
魔法も使うので、魔法少女とのハイブリッドでもあります!(爆