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クエスト4・異邦人と謎の遺跡1

 駅から出て、まだ朝靄のかかっている見慣れた町に足を踏み入れる。 

別にこの町は故郷でも何でもないが、懐かしいと感じてしまった。



 「ルガーラよ、私は帰ってきた」



 人通りも少しあるし、そして今は冷静なので大声で叫ぶのは止めておいた。

特に誰にも聞かれなかったようだな。まあこのセリフなら聞かれてもあまり問題無いけど。



 「馬車の中で結構寝ていたし、早速ギルドに顔を出してみるか」



 何しろ1日近くは馬車に揺られていたのだ。

休憩もあるし、ずっと馬車の中にいた訳でもないのだが睡眠は十分過ぎる程取った。

筋肉が固まっているような感じはするが、歩いている内に解れてくるだろう。


 









 「あ、タツキ君おはよう! 最近見なかったけど、どこに行ってたの?」


 「久しぶりです、ルイセさん。

  魔術学校に用事がありまして、ミースまでリリアと二人で行っていました」


 「そういえばリリアちゃんは魔術学校の学生だったね。・・・・・・あれ、リリアちゃんは?」


 「両親の所で、もうちょっと過ごしてから来るそうです」


 「ふーん。親思いなんだね」



 我ながら苦しい言い訳だと思わなくもなかったが、とりあえず誤魔化せた。

本当の事を話す訳にはいかないし。



 「ところで、このごろ流れ始めた噂を知ってる?」


 「噂? なんですか、それ」


 「あ、やっぱり知らなかったんだ。3日前ぐらいから広まってるんだけどね」



 3日前ならまだミースにいた頃だからな。ルガーラの噂なんて分からない。

まだ朝早くて暇をもて余しているのか、ルイセさんは嬉々として話し出す。



 「モンスター討伐の為に森へ入った冒険者達が茫然自失の状態で町の入口に立っていて、

  声をかけられると意識を取り戻すって言う異常がこの町のあちこちで報告されたの。

  これだけでも不気味だけど、何故かこの冒険者達は自分の名前を忘れて思い出せない。

  こんな事が続いたものだから、町の人が色々面白おかしい噂を広めちゃって」


 「具体的にどんな噂なんですか?」



 ルイセさんの瞳がキュピーンと光った、気がした。



 「ふふふ・・・・・・

  名前を付けられる事も無く捨てられた赤ちゃんの霊が自分の名前を求めて襲ったとか、

  少し変わった収集癖のある死神が命の代わりに名前を刈り取っていったとかぁ~」



 低い声や掠れた声を出したりして、精一杯怖さを演出するルイセさん。

相変わらず演技上手いなあとは思うけど、あまり怖くは・・・・・・



 「では、俺に向いている依頼をいくつか選んでくれませんか」


 「何事も無かったかのように無視しないでよー。例を出せって言ったのはタツキ君なんだよ」


 「あまりの怖さにこれ以上この話題を続けるのが恐ろしくなったんですよ」


 「・・・・・・表情からも、しぐさからも、全然そう思ってるように見えないけど」


 「ポーカーフェイスなのでそう見えるだけです。

  実際、今俺は物凄く感情を抑えて表に出ないようにしていますよ。

  ルイセさんの低くて掠れた声を聞いた時から込み上げる、笑いの感情を」


 「ふーんだ、そんな意地悪言うタツキ君とはもう二度と関わらないもん」


 「そうですか・・・・・・残念です。甘い御菓子をプレゼントしたい気分だったのですが」


 「さっきはゴメンね、心にも無い事を言っちゃった。

  これからも友好的に付き合って行きたいと思ってるんだけど、許してくれる?」


 「・・・・・・くくっ、勿論」



 今までの会話の流れに思わず吹き出してしまった。

お互いに良くここまで調子のいい事喋れた物だ、これではまるで漫才のようだ。



 「あははっ、こんなに面白いの久しぶりだな。やっぱりタツキ君と話してると楽しいよ!

  ・・・・・・で、甘い御菓子を奢ってくれるんだよね?」


 「言った事に責任は持ちますよ」


 「それなら、私の時間が開いたときに御菓子のお店に連れていってちょうだい。

  仕事中に貰うのは、色々と問題があるからね」



 いくら安い物でも賄賂と誤解される可能性はあるだろうからなあ。



 「それと、今更なんだけど・・・・・・お金、大丈夫? 無理をする必要は無いよ?」


 「少しは余裕があるので大丈夫ですよ」


 「なら良いんだけど、くれぐれも見栄を張って生活に影響出るような事が無いようにね。

  奢らせる私が言っても説得力無いんだけど」



 まあ、今は本当に余裕があるからな。結構な金額の口止め料を貰ったから。

早く金を貯めてジャックさんに借りた分を返済したいけど、少し使うぐらい良いだろう。

次に会えるのいつか分からないし。



 「それにしてもタツキ君、格好よくなったねえ。

  黒い外套を翻して入って来て、最初誰か分からなかったよ」


 「少しは冒険者らしく見えるようになったでしょうか」


 「うん、どうやら格好だけでなく実力もしっかり付いてきたみたいだし。

  向こうで剣術道場にでも行ってきたの? なんかそんな感じがするよ」


 「よく分かりますね・・・・・・道場では無いんですが、前助けられた冒険者の方に会いまして」


 「私も5年はこの仕事してるからね。色々詳しくなるよ」



 久しぶりに会ったせいか、かなり会話が弾んだ。

ひとしきり世間話をしていたが、冒険者達の数が多くなってきたし潮時かな。



 「では、その冒険者達が出した依頼を受けます。

  今までの例から行けば、失敗しても死にはしないようですし」


 「ええ、危ないよ・・・・・・?

  今まで死んだ人が出なかったとは言え、これからもそうだとは限らないんだから」


 「でも俺のランクで受けれる依頼ですから」



 どうやら噂の冒険者達は自分達が何に会ったのか等も覚えていないようで、

原因の探索をギルドに依頼したらしく、その旨の依頼書が張り出されていた。

俺でも受けられるランクなのは、特に危険なモンスターが目撃されている訳でも、

達成困難な目的でもないからのようだ。

・・・・・・ギルドが噂に振り回される訳にもいかないだろうしな。

気味悪がって誰も受けてないみたいだけど。



 「まあ、それを言われると引き留める訳にはいかないんだけど・・・・・・」



 ルイセさんは渋々といった感じで書類を取り出し手続きを始めてくれた。

依頼の達成条件は噂の原因、もしくはそれに類する何かを発見し報告する事。

報酬金はギルドから支払われるらしい。

・・・・・・ん? ギルドからって事は、この噂に感心が有るって事なのか?

さっさとこの噂を消して、森に尻込みする冒険者を無くしたいだけかもしれないけど。


 ともかく、問題の森へ向かう馬車を手配してもらう。

昼頃出発するとの事なので、準備を整えるために一旦ギルドから出た。











 「いや、本当に懐かしいな」



 冒険中の携帯食料を買うために商店街へ来たのだが、見るもの全てが懐かしい。

時間としてはせいぜい2週間くらいなんだけど。



 「そう言えば、リリアがいないのも久しぶりだな」



 ルガーラに戻ってから久しぶりやら懐かしいやらの感想ばかり抱いている気がするが、

事実そうなんだから仕方ない。2週間でも懐かしい物は懐かしいのだ。


 店に入り飲料水や食料を買う。ついでに最近の新聞も何種類か買ってみる。

新聞とは言っても、日本の物とは違い毎日欠かさず刊行している訳でも、

正確な情報(日本も微妙ではあるけど)が載っている訳でもない。

事実を元に有る事無い事書き連ねた、一般の人達の娯楽といった物だ。

そういう意味では、新聞と言うよりゴシップ雑誌に近いかもしれない。


 相変わらず賑やかな中央公園まで行って、買ってきた新聞を広げる。

日が差してきて気温が上がってきたが、外套の効果かあまり暑さを感じなかった。

この外套を作った人の技術力に感動しつつ、ここ最近の噂に目を通した。



 《ルガーラの町で活動する冒険者達を奇妙な異変が襲い始めたのは最近の事である。

  依頼を受けて森に入った冒険者が名前を奪われたのだ。

  更にこの冒険者達は自分達を襲ったのが何者なのか、その記憶も失っている。

  しかし我々は、一人の冒険者から重大な情報を手に入れる事に成功した。

  彼等を襲った者は「ネームレス」と名乗った、と言うのである。

  ここから我々の世界を揺るがす恐怖の事実が明らかになる。心して読み進めて貰いたい。

   まず、「ネームレス」に隠された真実である。

  この言葉の内「ー」は乱れであるため除外する。残りは「ネムレス」。

  これを逆から読み、初めに来る「ス」を最後に移動すると「レムネス」となるのだ。

   賢明な読者諸兄にはこの時点でお分かりだろうが、敢えて説明を加えておく。

  「レムネス」とは神々の一柱で、異空を司るとされる神である。

   何故このように名乗ったのか? 当然の疑問が浮かぶだろう。

  しかし我々は驚愕の答えに辿り着いてしまった。

  「異空を司る神の名を歪める事で異空間より我々の世界に襲来する知性体の陰謀」だ!

  古来より、名前は存在に対して多くの意味を持つと言われる。神であっても例外ではない。

  冒険者の名前を奪ったのも、その存在を支配するための実験であろう。

   そう、我々は外世界の知性体に侵略を受けていたのだよ!!!》



 「な、なんだってー!! と言えば良いのか、これは・・・・・・

  この記事書いた人、キバヤシって名前じゃないだろうなあ・・・・・・」



 うん、確かに驚愕の答えに辿り着いているね。豊かな思考力をお持ちでいらっしゃる。

でも、まあ・・・・・・面白いと言えば、面白いのかもしれない。

最初から載っている情報に正確さを求めないで読めば、なかなか笑えるし。



 「しかし、このネームレスって本当の情報なのかな?」



 この手の雑誌は前提条件に嘘を書く事は無いと思うんだよな。論理の飛躍が凄まじい訳だが。

ま、正しくても違っていても直接は関係無い。

そういう名前の存在がいるかもと心に留めておけばそれで良いだろう。











 「馬車で案内出来るのはここまでです。

  冒険者達の証言から割り出した、記憶に残っている最終地点の地図を渡しておきます」


 

 準備と腹ごしらえを済ませギルドに戻り、手配してもらっていた馬車に乗り込んだ俺は、

目的地の少し手前で馬車から降りる事になった。


 これより先は馬車で入るのが難しく、冒険者に移動してもらうしか無いとの事。

あらかじめこの事は伝えられていたため、地図を受け取り特に不満も無く降りる。

別の依頼のために相乗りしている冒険者達の同情に近い視線が辛い。

かわいそうに、こいつも名前を忘れるんだろうな、とでも思っているのかもしれない。


 

 「さて、と。なんか胸騒ぎがするんだよな。この噂を聞いた時から・・・・・・」



 馬車が走り去ってから、呟く。ちなみに帰りの馬車は半日後から5日後まで待機するらしい。


 探索領域を広めながら、地図に書かれた目的地へ見当を付ける。

周りに注意を払っていないと思われたのか、後方からモンスターに飛びかかられるが・・・・・・



 「残念。見なくても分かってるんだよ」



 ショートソードに闇を纏わせ、振り向きざまに胴体を斬り裂く。

恐らく何が起こったのか把握する間も無く即死しただろう。


 ここしばらく人間相手の模擬戦しかしていなかったから対モンスターの勘が鈍っているかも、

と思っていたがどうやら大丈夫のようだ。むしろ動きの切れは良くなっている気がする。

セレンさんにつけてもらった稽古の成果だろうか。


 背の高い樹木が生い茂る鬱蒼とした森の奥地を、地図を頼りに突き進む。

たまに現れる獣型モンスターをショートソードで斬り裂いたり、闇の触手で殴打する。

進行方向を塞ぐように生えている蔦等の障害はナイフで切り裂いていく。

水を飲んで休憩したりしながら一時間程進んでいると、既に他人に切り開かれた地点へ到着した。



 「噂の冒険者達がここまで来たのは確実なんだろうな」



 地図とコンパスから判断して、ここが目的地で正しい。

この場所を拠点にして一帯を捜索してみよう。切り開かれて出来た道を進めば手掛かりはある筈。


 迷わないように注意しながら行ったり来たりを繰り返して辺りを見回る。

しばらく時間がたち、そろそろ携帯食料を取り出して本格的な休憩をとろうかとしていると。



 「なんじゃこりゃ。遺跡?」



 木々に囲まれ、苔むしながらも荘厳さを感じさせる巨大な石の構造物を発見した。

高さは4メートルぐらい、横に5、6メートル程。形から見てどうやら地下に繋がる入り口らしい。



 「どう考えても怪しいよな・・・・・・」



 落ちていた木の棒に魔術で火を付け、遺跡らしき建造物の中に放り投げる。

火が消えないので、取り合えず空気の通り道はどこかにあるらしい。



 「入って見るか」



 携帯食料を口に入れ、水で流し込みつつ、建造物に歩を進めるのだった。



今回は冒険の醍醐味(?)遺跡探索です。

前の章は冒険とはちょっと赴きが違ったので・・・・・・

でも前の章よりは短く終わる予定と言う。タツキ一人だと会話やらで他人とのコミュニケーションが無いからなあ。


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