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チュートリアル・異邦人と4人の冒険者

プロローグだけでは異世界に行っていないので・・・

 「・・・・・・っは」



 意識を取り戻す。どこだ、ここ? 

グレナス・ビーレには辿り着いたが、場所がわからん。森、みたいだが。



 「まあ、とりあえず今確認すべきことは」



 俺に与えられた力と、ここが安全か、ということだ。

闇と破壊、領域操作とはいっても具体的に何ができるか、どうすれば扱えるか、よくわからない。

それに、安全な場所でなければ常に気を抜けない。

この世界に存在しているモンスターや、山賊なんかが出てきたら、今のところ逃げるしかない。

ぶっつけ本番で能力試すとか、怖くてできない。



 「頭で『スキル』について、集中してみるか?」



 『スキル』とは、信仰する神に与えられる神秘の力らしい。

この世界には神がけっこう存在していて、信仰に応じ、さまざまな能力をくれるようだ。

俺の場合はムンドゥスに与えられたものがそれらしい。

いつでも走り出せるような体勢をとってから、瞑想の真似事をしてみる。するとーーーーーー


 「うおお、キュイーンって! キュイーンってなった!」


 いかん、冷静になれ、俺。

効果音はともかく、だいたいの使い方や能力の詳細が頭に浮かんでくる。

能力の発動に必要なのはイマジネーション。

闇とは『世界をつくる究極二大元素のひとつ』、破壊は文字通り『何かを壊す力』、

領域は『物事の領域を決定したり、意味を持たせる力』、らしい。

・・・・・・やっぱり、よくわからん。

だいたいにして、『破壊』はチートじゃないか?

そう考えて、4メートルぐらいの木に眼を向け、壊れろと念じる。

壊れない。

もう一度念じてみる。

やっぱり壊れない。

今度は超集中して、壊れる瞬間や軋む音も念じてみる。

細い枝がポキッと折れた。



 「・・・まあ、初めてだし」



 悔しいので、後で練習することに決めた。

しかし、他の力もこんなもんなんだろうか。だとしたら結構困るんだが・・・・・・

次に、『闇』を試すことにする。

闇よ来い、と念じるとやけにモヤモヤした黒い霧みたいなものが出てきた。

とりあえずは思い通りに動くようなので、鞭のようにして、さっきの木を叩いてみた。

どすん、と音をたててぶつかり、木は根本から折れはじめた。



 「お、これはすごいな。でも闇っていうより触手のような気が・・・」



 何にせよ、一応の攻撃手段は手に入れた。

いざとなったらロープとかの代わりにも成りそうだし。



 「で、『領域』だけど・・・ 結界みたいなものか?」



 自分の半径3メートルぐらいをイメージしてみる。ついでに無重力、と念じてみた。



 「浮かぶことは浮かんだが・・・」



 地面から40センチぐらいのところで止まってしまった。

そのくせ、内臓の浮かぶ感覚がひどい。自分の体には与える影響が大きいのか?



 「・・・だったら」



 一度能力を止める。全力でジャンプし、高さを確かめる。

その後、領域を『俺の体』に設定し、脚力強化と念じる。そして、再度全力でジャンプ。

うわ、5メートルぐらい跳んだぞ。 



 「これ、とりあえず常に肉体強化に使っておくか」



 そういえば、ここの安全確認をすっかり忘れていた。

実験がてら、肉体強化に使いつつ、動くものを確認するための領域も発動する。

少し頭が痛くなるが、特に問題なく範囲を拡げていく。すると何やら動く存在を捉えた。



 「・・・10メートル程遠くに、4人組?」



 今の俺では人かどうかの正確な判断が難しいが、一応人と判断する。

しかしマズいな、もし山賊だったらどうする? 

山賊でないにしても、悪質な冒険者という可能性もある。

この世界の冒険者は『ギルド』に所属する、れっきとした職業らしいが・・・・・・



 「そこにいるのは誰だ?」



 ! 低く、よく響く声で呼びかけられる。深く考えているうちに近づかれていたようだ。

もう隠れようもないので、両手を上げつつゆっくりと4人組の前に出ていく。



 「・・・・・・誰だ」



 最初に声をかけた男とは違う、金髪の革製鎧を着た女性がこっちを警戒しつつ、聞いてくる。

演劇部の友達にも褒められた俺の演技力をフルに使い、記憶喪失をでっち上げることにする。



 「それが・・・ 名前以外に、自分のことを思い出せないんです」 



 冷静を装っているが、パニックを隠しきれていない様子を演じる。

恐慌状態の相手にも問い詰めるような人ならどうしようもないが。

・・・・・・俺の演技がバレバレだったら、もっとどうしようもないが。


 「まあまあ、武器や魔力を持っていないようだし、

  そんなに威圧することないじゃないか、セレン?」


 「・・・あなたはお気楽過ぎます、ジャック・・・」



 どうやら、金髪女性はセレン、笑顔でたしなめたローブの男性はジャックと言うらしい。



 「名前は覚えているんだっけ、君は。お互いに自己紹介しないかい?

  僕はジャック・リイン、冒険者さ」


 「あ、はい、俺は安藤 樹っていうと思います」


 「アンドー? それに思うって・・・」


 「タツキ、の方が名前です、たぶん。後、思うっていうのは、いまいち自信がなくて」


 「ふーん、大変だね、記憶がないっていうのは」



 そして、ジャックさんはセレンさんを前に出す。



 「セレン・マティアだ。さっきはすまなかった」


 「・・・俺は、グレイアだ」



 先ほどの声はこの人のようだ。銀色の全身鎧を着ている。最後に残ったのが・・・・・・



 「・・・・・・」



 グレイアさんに引っ付いてじっとこちらを見ている少女。いや、名前しゃべってくれよ。



 「あはは、彼女は人見知りだからね。その子はエルっていう名前だよ。グレイアの妹さんさ」



 見かねたジャックさんが紹介する。妹なのか。カップルかと思った。

いや、禁断の愛という可能性もあるのではないか。そんなアホなことを考えていると、



 「! モンスターが来ます!」



 いまだに展開していた『領域』が、明らかに人ではない形状の急接近を捉えた。

俺が叫び終えるのとほぼ同時に弓(ボウガンか?)を構え終えていたエルちゃんが矢を放つ。

・・・・・・今のタイミングって、最低でも俺と同時ぐらいには接近に気付いてたってことだよな。

というより、どこに隠し持ってたんだ。さっきまで何か持ってる素振りはなかったが。


 放たれた矢が、飛び出してきたモンスターに直撃した。

奇襲に反撃されるとは思わなかったのか、ぎゃおん、とその蜥蜴のようなモンスターはうずくまる。



 「捕縛の雷撃よ!」



 ジャックさんが杖を振り、モンスターが雷に打たれたかのように痙攣する。

今のが『魔術』か? 魔力をチャージする必要があるとかで、今俺は使えないが。

痙攣したままのモンスターをセレンさんが二刀で斬り、最後にグレイアさんが大剣で一刀両断した。



 「・・・理想のテンポでシェイハ、シェイハ・・・」



 素晴らしいコンビネーションに呆然として、自分でもよくわからないことを口走ってしまった。



 「タツキ」


 「うん?」



 エルちゃんに話しかけられる。

・・・・・・さっき声を聞いてなかったから、一瞬誰か分からなかった。



 「シェイハって、何?」


 「・・・・・・さあ、何だろう」



 本当に何なのかわからん。というより、他に会話することあるんじゃないか? 



 「いやあ、エルちゃんと同時に敵に気付けるとはやるね、タツキ君」


 「え?」


 「エルちゃんはガンナーで、このパーティの索敵役でもあるんだ。

  その彼女と同時に敵の接近に気付けるのは、すごいことだと思うよ」



 ああ、そういうことか。

俺は『スキル』を使っていたんだが・・・・・・

ま、一応俺の力でもあることに間違いはないしな。誤解を解く必要はないか。



 「しかし、これからタツキはどうするのだ?」



 剣を収めたセレンさんが聞いてくる。



 「記憶の戻る気配がないですが、とりあえず街には行こうと考えています」


 「ふむ・・・ ならばルガーラまでは共に行くか? 私達は依頼を達成した帰り道だったのだ」


 「ルガーラ? ここはファディア国だったのですか?」



 ムンドゥスからもらった知識に当てはめ答える。



 「ああ、そうだ。 ・・・そういう記憶はあるんだな」


 「ええ、ただ自分の国がどこかは分からないですが」



 その後、連れていってくださいと頼み、計5人でルガーラに向かうことになった。

数回モンスターに遭遇したもののグレイアさん達(彼がリーダーらしい)の敵ではなかった。

そしてーーーーーー



 「ここまで準備していただいて、ありがとうございます」


 「何、これから一人で生活するというんだ、これくらいはさせてもらうさ。頑張るんだよ」


 「タツキ、私が送ったのは古いナイフだが頑丈に出来ている。上手く使えば長持ちするはずだ」


 「俺から言うことは特にない。・・・・・・いつか、また会おう」


 「タツキ、ボウガンを使う才能が絶対あると思う」



 森の出口に待機していた馬車の中で、記憶が戻るまでの生活費は冒険者になって稼ごうと思う、

といった俺に最初はみんな止めるよう諭してきたけど、最後は餞別やアドバイスをくれた。

ジャックさんは1ヶ月程の生活費、

セレンさんは古いけど頑丈なナイフ、

グレイアさんは意外にも値切り交渉術、

エルちゃんはボウガンの素晴らしさを布教してくれた。

これから4人は船で自分たちの国に帰るらしい。

パスポートや身分証明書すら持っていない、俺はここでお別れになる。



 「皆さん、お元気で!」


 「タツキ君、また会おう!」


 「私と君の信じる神の加護がありますように」


 「・・・・・・物を買う時に、衝動買いはだめだ」


 「タツキなら、ボウガンをノーリスクで使える筈・・・」



 船着き場で、最後に声をかけあう。まだこの世界にきてから、半日しかたっていない。

そんな短い時間の中で出会ったこの人達は、俺にとても良くしてくれた。

4人を乗せた船が沖にでるまで、俺は手を振り続けていた。


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