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クエスト3・異邦人と魔術学校10

 「やあタツキ君、おそらくこの学生が犯人だと思うよ?

  まあ、僕が捕まえた訳じゃないんだけどね」


 「・・・・・・一応、作戦を考えたのはお前だろう?」


 「はは、あれは作戦とも呼べないような単純な物だからね。

  ・・・・・・こんな策でどうにかなるなんて、正直思ってなかった」



 俺が観客席のリリア達の所に戻ると、

ジャックさんがグレイアさんの掴んでいる学生を指して話しかけてきた。

レナさんが聞き出した情報はグレイアさん達にも伝えていたし、その上で犯人って事はコイツが?



 「コイツがシグ・ゴーツ、ですか?」


 「ああ、それに関しては間違い無い。腕を折られるか、名前を言うかどちらか選べと脅した。

  違法な魔術を使おうとしていたのだから、多少手荒な手段でも許されるさ」


 「・・・・・・この世界って、物騒な尋問が多いなあ」



 グレイアさんといい、レナさんといい。いや、確かに手っ取り早いかもしれないけどさ。

もう少し、こう・・・・・・何て言うか、平和的な話し合いをしようよ。

まあ、現行犯で捕まえられたのはとても大きい。

本来なら証拠やら何やらを揃えないといけないからな。もしくは自白か。

いくらなんでも、他人の証言だけでは証拠にはならないだろうし。

俺達は他人の証言だけで犯人を決めつけた訳だが、レナさんがかなり自信持ってたからなあ。

口には出さなかったけど、一仕事終えたプロの顔っていうか。

・・・・・・いや、拷問のプロってなんだよ。まさに女王様じゃないか。



 「さっきから言ってる作戦って何ですか?」



 気になった事なので質問する。ジャックさんが考案した作戦だ、よほどの物に違いない。



 「本当に作戦なんて言える高等な物じゃ無いんだけどなあ。

  リリア君とカレン君を二人だけにしておいて、魔術を使おうと近づいた学生を誘き寄せ、

  隠れていた僕達で取り押さえると言う単純な仕組みだよ」


 「・・・・・・よくもまあ、コイツもノコノコ出てきましたね」


 「うん、何と言えばいいのか。どうやら自分が捕まるとは夢にも思ってなかったようだね」



 そんな単純な事で捕まえられるようなヤツだったのかよ。

もっとズル賢い策士タイプの学生だと思ってたんだけど、とんだ思い違いだ。

もしかして襲撃してきた時に逃げ切ったのは、単に逃げ足が速かったとかの理由か?

・・・・・・深く考え過ぎたなあ。



 「い、痛い、苦しい! 手を離せ、この野郎!」


 「・・・・・・ああ、然るべき引き取り手が来たら離してやる。

  魔術を使おうとは思わない方がいいぞ? どうにもならない事ぐらいは分かるだろ?」



 今まで気絶していたらしいシグ・ゴーツがわめき始めた。

服の襟を捕まれて持ち上げられてるから首絞まってるんだろうな。同情なんてしてやらないけど。

それにしても、あの持ち方だと服が破けるんじゃないのか? 

まあいいや、どうせそうなっても逃げられる筈ないし。



 「ね、ねえタツキ・・・・・・ いったいどうなってるの?」


 「えーと、どこから話したものか、それより話していいものなのか。

  とりあえず、コイツがリリアに外道な事をしようとしたと言うことだ」


 「ふん、リリアさん達をたぶらかした貴様を裁くだけだ、どこが悪い!」



 はあ? コイツが、俺に、言える事か?

自分の事を完全に棚上げした発言に、俺自身も驚く程の低い声が出た。



 「・・・・・・もういい、馬鹿が移るから黙ってろ」


 「何だと!?」


 「もしおまえが本当にそれだけの理由でやったとしたら、ここまで怒らねえよ。

  過激過ぎる発想だろとか、裁くなんて何様のつもりだとか、言いたい事は山ほど有るけどな。

  向いてる方向が絶望的におかしいけど、リリア達の事を真剣に思ってるって事だろ」


 「だから何が言いたい!」


 「分からないなんて言わせねえぞ? 残りの四人から、てめえの計画は聞いてるんだ」


 「そんなハッタリ、ワザワザ強姦するなんて不利になるような事を言う筈が・・・・・・」


 「お、おまえ本当に馬鹿だな・・・・・・

  ここまで見事に墓穴を掘ったヤツを俺は今まで見たこと無いぞ・・・・・・」


 「ご、強姦・・・・・・? 何よ、それ・・・・・・」


 

 今朝の学生も真っ青な、お手本として教科書に載れるぐらいのレベルで自爆しやがった。

・・・・・・同時にリリアにも大体の事情が分かってしまったようだが。

自分の体を抱きすくめ、震え始めてしまった。


 下手に男が近付けば逆効果ではないかと、俺が落ち着かせるべきか逡巡しゅんじゅんしてしまう。

一瞬の迷いの間にセレンさんがリリアの所へ向かった。

まあ、俺よりもセレンさんの方が上手く落ち着かせる事が出来るだろう。大人だし、女の人だし。


 リリアの事はセレンさんに任せて、再びシグ・ゴーツに話しかける。



 「まだ何かあるなら遠慮なく言ってみろよ。作ったアリバイとかな」


 「くそっ、あいつら本当に余計な事言いやがって」



 あ、危ない。ついノリで確認してない事を言ってしまった。

レナさんは何か聞いたのかもしれないが、少なくとも俺は伝えられていない。

この反応からすると、どうやら結果オーライのようだが。



 「さて、これからお前を警察機関に連れていくが文句は無いな? あっても連れていくが」


 

 話は一段落したと判断したのか、グレイアさんはシグ・ゴーツに向かって淡々と言う。

俺としてはコイツをぶん殴りたかったが皆の手前、自重した。

許してくれそうな気もするが、何となく都合が悪い。

俺の試合が修了し今日の用事はもう終わった事もあり、ぞろぞろと移動を始めるのだった。











 警察機関に事情を説明して、シグ・ゴーツを引き渡す。後であの四人も連れてくるべきだろう。

俺はこの辺りの事をよく分かっていなかったから(地理的な意味でも警察の仕組み的な意味でも)

グレイアさん達の後ろにくっついていって、成り行きに任せた。

「知識」を使えば分かる事だけど、現状必要ないし、特に興味もなかったので調べなかった。

面倒な確認やら、見間違いではないのか等をしつこく聞かれたが、仕方ないんだろうな。

実は冤罪でしたとかになったら、面倒な事とかいうレベルを越えてしまうし。

とりあえず引き渡しは終わって、取り調べも始めてもらえるらしい。



 「でも、あんなので大丈夫かなあ。何か面倒臭そうに対応してたって言うか・・・・・・」



 警察署を出てから、不安に思った事を呟くとセレンさんから反応が返ってきた。



 「それに関してはあまり気にする必要は無いと思いますよ、タツキ。

  何しろファディア国の警察は検挙率が非常に高い事で有名ですから。

  初動が遅い事でも有名ですが」


 「何かそれ地味に安心出来ない要素じゃないですか?」


 「まあ、取り調べが始まったら証拠は出揃うと思いますよ」



 検挙率は高いけど初動が遅いってどこかで聞いたような話だな。

それと、取り調べって言っても具体的にどうやるんだ?

こっちの方は興味があったので、「知識」で調べてみる。

するとどうやら、魔術を利用した独自の捜査マニュアルが存在しているらしい。

どんな魔術を使うのかまでは分からなかった。やはり万能ではないと言う事か。


 「一般的な情報ではないと言う事か、ってうおっ!?」



 意識を現実に戻すと、かなり近くから誰かに見詰められていた。

リリアの件を思いだし、咄嗟に飛び退いてしまう。



 「酷いですわね、目を閉じて立ち止まってしまわれたから、心配して声をかけたのに」


 「す、すまない。ちょっと集中して物を考えていたから、びっくりしてしまったんだ」



 話しかけてきたのはカレンだった。

まさか半裸のリリアが居るかと思ったとは言えず、誤魔化して答える。半分事実だけど。

あれ? そう言えばリリアは何やってるんだ? 見ると、向こうも何やら考え混んでいた。

顔を紅くしてぶつぶつ独り言を呟いている。 ・・・・・・挙動不審だ。 



 「またお父上の事でも考えているのか、と最初は思ったのですけど。

  どうやらタツキさんの事を考えているみたいですよ?」



 えー。あそこまで精神に影響しちゃうのかよ。

ここまで来ると違う意味でドキドキするんだけど。ヤンデレになる一歩手前とかじゃないだろうな。

あ、そう言えば唐突に思いだした。

・・・・・・地球の神話とかで、惚れ薬を使った男って大抵悲惨な最後だ。

生きたまま女性達の手でバラバラに引き裂かれたりとか。



 「だ、ダメだ、は、早く何とかしないと!」


 「・・・・・・もう慣れましたわ、私も」



 カレンが何か言ったようだが、気にしている余裕は無かった。

俺がこの状況を作った訳じゃないとか、そういう色々な事はこの際関係無い。

リリアが「異常に」好意を向けている、これが問題なのだ。

身近にある死亡フラグを放置しておくなんて度胸は俺には無い。

くそっ、シグ・ゴーツはこの事を見越していたのか!? やはりズル賢い策士だった!



 「ど、どうしたタツキ? 悩みが有るなら聞くが」


 「グレイアさん、お金を貸してください!

  このままだと殺されてしまう! 良くて監禁だ!

  一刻も早くリリアを元に戻さないと!」


 「・・・・・・過程は分からんが、パニックになっている事だけは分かった。

  少し、冷静になった方が良いな」


 「俺はこの上なく冷静です! ただ少しだけ、生への渇望が燃えているだけです!」


 「・・・・・・ジャック、頼む」


 「タツキ君もユニークだなあ。『手招き誘う睡魔』!」


 「ちょ、それ上級まじゅ・・・ぐぅ」











 「はっ、ここはどこだ?」



 飛び起きて辺りを見回す。見たことがあるような室内だが、どこかは分からない。

すると突然声をかけられた。いきなりの事に少し驚く。



 「起きたかい? と言うより、正気に戻ったかい?」


 「おれは しょうきに もどった!」


 「・・・・・・もう一回試すかな」


 「あ、いえ、杖構えないで下さい、もうふざけませんから」



 そこに居たのはジャックさんだった。

意識が飛ぶ前の記憶が曖昧なので、頑張って手繰り寄せる。

うーむ、確か神話について考えていた筈だ。後、怖い思いをしたような。



 「怖い神話? 何だろう?」


 「そんな大層な物を考えていた訳ではないと思うよ」


 「何気に口悪くなってませんか?」



 しかし、違うのか。なら一体どんな・・・・・・ あ。

や、やべえ、恥ずかしすぎる。この発想の豊かさは中学時代に匹敵するぜ。

しかも金要求してるじゃねえか。図々しいにも程がある。

それに何だよ、生への渇望が燃えているって。おかしいだろ。



 「大丈夫です、ジャックさん。冷静になりました。

  ん? ジャックさんがここに居るのは何故ですか? まず、ここってどこですか?」


 「僕がここに居るのは、一応君に謝罪するためだね。睡眠魔術を使用したから。

  それとここはリリア君の家だ。もてなしたいと言う事らしい」


 「そうだったんですか。睡眠魔術を使った事に関しては別に気にしてませんよ。

  あの状況なら仕方ないと思いますし」



 どう考えても俺がおかしかったからな。そのくらいなら別にいい。

てか、ここリリアの家だったのか。全然気がつかなかった。



 「起きたら応接間に来てとの事だったよ?」


 「あ、はい。今行きます」











 「おお、カレンがリリアの家に居る!」


 「タツキ、やっぱりこの女の方が良いの?」


 「いやリリア、そもそも論点が違う。俺は純粋にカレンがここに居る事に驚いただけだ」



 不安そうに近付いてくるリリアを宥めながら言う。

もう何回もこういう事があったから、俺の対応も慣れたものだ。

・・・・・・今思ったけど、リリアが元に戻ったらまた見投げするとか言い出すんじゃないのか?



 「あらタツキさん。どうやら落ち着いたようですわね」


 「ああ、冷静になった」


 「ふふ、それはさっきも言ってましたよ?」


 「・・・・・・気にしないでくれ」



 さっきと言うのは、パニックになっていた時に口走ったセリフか。

俺とカレンが会話していると、リリアも間に入って話しかけてきた。



 「今日はジャックさん達の稽古は無いらしいわ」


 「ふーん。ってあれ? そう言えば俺達以外に人がいないがどこに行ったんだ?」



 ジャックさんの口振りから、皆応接間に集まっているんだろうと思ってたんだけど。



 「お姉様と大事な話し合いがあるからって、揃って出ていったわ。

  多分あたしの事なんだと思うけど・・・・・・」


 「エルちゃんはそこのソファーで寝てますけどね」



 カレンに言われた方を見ると、確かにエルちゃんが居た。静かだったから気付かなかったぞ。

それと、大事な話し合いってのはリリアの予想通りなんだろうな。



 「ねえタツキ・・・・・・ あたし、自分の気持ちが信じられないの」


 「信じられない? 何故だ?」


 「前からタツキは気になっていた筈だけど、あんな恥ずかしい事なんて出来る訳なかった。

  でも、あの魔術を受けてからは自分からあんな事をしたりして・・・・・・

  そしたら、今のあたしの気持ちも全部、嘘なんじゃないかって感じるようになって」


 「・・・・・・」


 「あたしが、タツキに思ってる事が全部嘘だなんて、そんなのイヤ・・・・・・」


 「・・・・・・リリア」



 やべえ、なんだこの状況。二ヶ月前までは全く想像出来なかった場所にいるぞ。

高校ではカップルを見るたびに苦笑していたこの俺が!

・・・・・・とまあ、現実逃避はここまでにして。



 「安心しろ、リリア。

  確かに普段のおまえだったら絶対にやらない事かもしれないが、だから嘘だなんて事は無い。

  あの魔術は好意を操作する物だけど、性格や思考を変える訳じゃないんだ。

  多少行動のタガは外れされたかもしれないが、紛れもなくおまえの想いだよ」


 「っ! タツキ・・・・・・!」



 感極まったのか、抱き付いてこようとするリリア。 あー、でもな?



 「こほん」 


 「なっ! なんであんたがここに!?」


 「ついさっきまで会話もしていたでしょう・・・・・・」



 リリアはたった今カレンの存在を思い出したようだ。

居るのを知っていても抱き付いてこようとしたのかと思ったけど、流石に違うらしい。


 その後、真っ赤な顔で「あんな恥ずかしい事」とは何かとリリアに質問するカレンや、

その会話を中途半端に聞いたせいで変に誤解したエルちゃんを説得する羽目になるなど、 

お約束のオチがつくのだが、神ならぬ身には知るよしも無いことだった。 



次回で魔術学校編は終わりです。後始末なので、短めなのですが。

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