表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/37

クエスト3・異邦人と魔術学校9

 「うわあ、やっぱり睨まれてるな・・・・・・」



 学校に到着した俺を出迎えてくれたのは殆どの学生が向ける敵意の視線だった。

リリアに学校での過剰なスキンシップを禁じておいて本当に良かった。

もしさっきまでのような腕を組んだ状態を見つかりでもしたら、今頃どうなっていたことか。

あれ? でも、登校途中を見かけた人がいたらアウトだよな。

・・・・・・この可能性があるという事をすっかり忘れていた。


 過ぎた事を気にしても仕方がない、と半ば現実逃避をしつつ三人でひとまず観客席に向かう。

昨日殆どのルールや大体の流れが説明されているので、今日はいきなり試合が始まるらしいからだ。



 「そういえば、もうグレイアさん達来てるのかな」


 「分かんないけど、一応探しながら進むわね」


 「この時間帯ならまだそこまで混んでもいませんし、居たら見つけやすいと思いますわ」



 観客席を適当に歩き回りつつグレイアさん達を探す。

昨日座っていた辺りを思い出し、そこを中心にうろうろしていると見覚えのある少女を発見した。

・・・・・・誰かに絡まれているが。



 「あそこにいるの、グレイアさんの妹の・・・・・・エル、だっけ?」

 

 「そうみたいだな。やたら話しかけてるアレは誰だ?」


 「私とは違うクラスの学生ですわね。名前は覚えていないのですが」



 近くにグレイアさん達が居ないようだし、放っておく訳にもいかないので手助けする事にした。



 「ねえ君、お兄さんと一緒に学校を見回らないかい?

  いろいろ楽しい場所を知っているよ、美味しいお菓子の売っているお店もあるし」


 「・・・・・・むぅ~」


 「はいはいロリコン乙」


 「ぶへっ!?」



 すごいアレなセリフだったので思わず罵りつつ殴ってしまったが、

普段から化物じみた腕力に強化している訳ではないので間違っても死にはしないだろう。

まあ、それでも人間の限界に近い腕力ではあるんだが。



 「く、一体誰だ! ん、お前はカレンさんとリリアさんを毒牙にかけた男だな!?

  ふざけやがって、てめえなんかブッ殺してやる!」


 「いや、流石に思考が飛躍しすぎだろうそれは。

  それに殺すとかそういう言葉は冗談でも口に出す物じゃないぞ」



 嫌がる子を無理矢理ナンパしていたとは言え先に殴ったという負い目はあるが、

殺される程の事をした覚えはまったく無い。無意識にある程度加減していたし、事実今無事だ。

それに個人的に「殺す」とかそういう言葉は嫌いだ。

まあ、冒険者なんてやってるから今までにかなりのモンスターを殺しているしこれはエゴだろう。

本当に心の底から「殺す」事が嫌いなら、そもそも冒険者にはならなかっただろうしな。

・・・・・・ムンドゥスの言う「力を使いこなせる」とはこういう事も含めてなのか?

だとしたら、なんとなくうつだ。要するに「殺し合いに向いている」という事だから。



 「ふん、お前みたいなのは家に帰ってアホ面さらして初等魔術でも勉強しているんだな」


 「言っとくけどな、少なくとも絶対にお前よりは魔術知識があるぞ」



 初等魔術なんて初級魔術よりも下の、日本で言う小学生レベルの物じゃないか。

一部ではあるが上級魔術も使えるし、そもそも神様直伝チート知識を持ってる俺に敵うはずが無い。

・・・・・・俺の持ってるチートだと言える物ってあまりパッとしないな。

「知識」だって一般的な事しか分からないから、実際そこまでチートでもないし。

いやまあ、なにもスキルを渡されないよりはよっぽど良いからムンドゥスに不満は無いのだが。



 「くくっ、この由緒正しき魔術学校の学生である僕が流れの冒険者に劣る?

  バカも休み休みにーーーーーーおっと」


 「妹がどうかしたのか?」


 「これはこれは、この子の父兄の方ですか? いえ、この子は何もしていませんが、

  こっちの冒険者に絡まれていたもので追い払っていたのですよ」



 ちょうどそこに軽食を持ったグレイアさんがやって来た。

それに合わせてこいつ、「冒険者」の部分にアクセントをつけて嘲るように言って来やがった。

でも、今相当多くの地雷を踏んだぞ。いっそ清々しい程に。



 「・・・・・・とりあえず、色々言いたい事はあるが。

  まずこの冒険者は俺達の知人で、妹をここまで不機嫌にさせる性格では無い。

  そして今でこそ最低限の物を残し、装備を外して私服を着ているが」



 そこで一旦言葉を切り。



 「俺も、妹も冒険者だ。君が誇り高きファディア国立魔術学校の生徒だと言うのなら、

  同じく歴史の開拓者たる冒険者を蔑視しないで貰いたいがな・・・・・・!」


 「ひっ!?」



 言葉遣いこそ丁寧だが、並みの人間は耐えられないような威圧感を発するグレイアさん。

うお、すげえ。これが一流冒険者の気迫か。今の俺にはとても真似できん。

威圧感を向けられた訳でもない俺達まで背筋が冷えるような感覚を受けた。

ただ、「俺に対する害意」ではないので探索領域に反応はしなかったが。



 「よ、用事を思い出した、失礼するよ!」


 「・・・・・・こいつ最後までベタなセリフしか言わなかったなぁ」



 それにしてもどれだけ俺嫌われてんだよ。面と向かってブッ殺すなんて初めて言われたぞ。



 「大丈夫だったか、エルちゃん?」


 「しつこいナンパはさりげなくキツい皮肉を返すのが断るコツですわよ」


 「さらっと変な事教えてんじゃないわよ、あんた・・・・・・」


 「処世術と言う物を教授しているだけですわ」


 「・・・・・・ありがとう。とても助かった」


 「助けたのはグレイアさんで、俺達は特に何もしてないけどな」


 「まあそうよね。殴り飛ばしたタツキはともかく、あたし達二人は本当に何もしてないから」


 「そのタツキさんにしても、途中から会話の内容が全くエルちゃんと関係ない物になりましたし」


 「一応気にしてた事だから突っ込まないでくれ、カレン。

  ・・・・・・自己弁護させてもらうが、今のは完全に向こうのせいだろう?」



 何はともあれグレイアさんとエルちゃんとは合流できた。

残りの二人はどこですかと質問すると、ホテルで朝食をとっている頃だろうと返された。

グレイアさん達は場所取りのために早く来ていたらしい。



 「朝食って、流石に少し遅い時間じゃないんですか」


 「ジャックは寝坊助だからな。冒険中はそうでもないが、休める時に目一杯休むのが信条らしい」


 「あのジャックさんが寝坊助だなんて、

  タツキと関わらなければ知る事無かっただろうね・・・・・・」


 「本当ですわね・・・・・・今まで欠点など一つも無い、完璧超人だと思ってましたし」



 何やら学生二人は人気アイドルの私生活に幻滅するファンのようなリアクションをとっている。

あ、エルちゃんがカレンの言葉を聞いて必死に笑いを堪えてる。



 「ところで、セレンさんは・・・・・・? さっきの話を聞く分には普通に起きたみたいですが」


 「・・・・・・色々あるという事だ。馬に蹴られたくはないだろう?」



 ・・・・・・ああ、そう言う事か。聞くのは無粋な話題だったな。

そういや、初めて会ったときも何となく仲が良さそうだった。

「馬に蹴られる」の意味を真に受けて混乱している様子のリリアとカレンを見て

これがジェネレーションギャップか、と思うのだった。あれ、俺とあまり年変わらないよな二人共? 











 「昨日帰った後にそんな事があったとはな」


 「ええ、今のリリアは魔術による精神干渉を受けている状態です。

  今でこそある程度は自制できるようになったみたいなのですが」


 「・・・・・・そうなのかい。期待を裏切って悪いが、僕でもその効果を消す事は出来ないな。

  せいぜい、元に戻るまでの時間を少し早めるくらいが限界だ」


 「そんな物騒な学生が居るのなら、家まで送るべきでしたね・・・・・・」


 

 今日の第一試合が始まるギリギリ前に到着したセレンさんとジャックさんを含めて、

俺は昨日起こった襲撃と得られた情報を試合そっちのけで説明していた。

因みにリリアとカレンは試合の出番が近いとやらで今ここには居ない。

まあ、カレンはともかくリリアが居ないのは説明するタイミングを図っていたからなのだが。



 「うーん、ジャックさんでも治せませんか・・・・・・」


 「頑張ってみるけどね。でも、急いで治したいんだったらジオの教会に行ったらどうだい?」


 「あそこは凄い金がかかるので、最後の手段にしようと思ってるんですよ」



 この世界、グレナス・ビーレは多数の神が存在して信仰者にスキルを与えるが、

その中でも「回復」のスキルを司るのがジオという神格だ。

敬虔な信者には、地球で言う全治何ヵ月の大怪我でも一瞬で回復させる程の力を与えるらしい。

流石にそこまでできるのは、何十年に一人とかの逸材だけのようだが。

そんな聖職者が大金要求するなよと言いたいが、彼らだって生活かかってるし仕方ないだろう。

一種スキルの弊害でもあるが、医療があまり発達してないから他に頼れる物も少ないし。

医者と言っても未だに薬草を使うような原始的な物だし、少なからずジオの力を借りてるからな。

内科的な知識はえらく進んでいるけど、スキルのおかげで手術とかはする必要なかったんだろう。



 「まあ、怪我等の状況で料金が変わるとは言っても金貨単位で払う必要があるからね」


 「できる限りは金がかからない方法を探したいですから」



 ここでグレイアさん達に金を要求するのは図々し過ぎるだろう。

命に関わる魔術だったなら土下座でも何でもする覚悟はあるが、そこまで深刻ではないしなあ。

そもそも、そんな事になったら流石に警察機関を頼る。

今俺とレナさんがそうしないのは自分達で復讐したいからだ。

変な言い方だが、自分達で何とかできると考えるくらいの余裕はあるという事か。



 「・・・・・・ねータツキ」


 「ん、どうしたエルちゃん。何かいいアイディアでも思いついたのか?」


 「リリアの試合、終わっちゃったよ・・・・・・?」


 「え」











 「おおリリア、試合は見ていたぞ、凄かったな!」


 「ふふ、ありがとう! あたしも今回は最初から最後まで有利に試合を進めれたよ!」


 「試合を決めた土の魔術、あれは特に凄かった。まさかあのタイミングで使うとは予想外だった」


 「自分でもよく考えないで、直感的に体が動いた感じなんだけどね」


 「経験が活きたって事だろうさ」



 試合を終えて戻って来たリリアにさも真面目に見ていたかのように話しかける。

実際はエルちゃんから聞いた試合展開を俺の主観でイメージしただけなのだが。

嬉しそうにしているリリアのせいで、俺の罪悪感がむくむくと高まっていく。

グレイアさん達も、なんとも言えないような視線を俺達に向けてくる。リリアは気付いてないが。

実は試合見てないよ、とは言える筈もなく結局見た事にしてやり過ごしたのだった。

・・・・・・カレンの試合はしっかり見たのだが、昨日よりも決着が早かった。

もちろんカレンの勝利で、文句なしの圧勝だったが。


 全員の午前の用事が終わったため、少し早めの昼食をとる。

休んで雑談していると、午後の部開始のアナウンスが入ったので一旦皆と別れ、集合場所に向かう。

試合表によると、今回の出番は第七試合という事なのでちょっと急いで準備を済ませる。

昨日のように深呼吸したり体を解したりして緊張を和らげていると、第六試合が終了した。



 「今日は罵倒されませんように、後できれば勝てますように」



 そう呟くと、待機していた他の冒険者が普通逆だろというような同情の視線を向けてきた。

・・・・・・同情するなら金をくれ、じゃなくて同情するなら助けてくれ。割りとマジで。











 「第七試合 ロハス・トボトル対タツキ・アンドー」


 「よろしくお願いするよ、タツキ君?」


 「・・・・・・ああ」


 「なお、この試合は事前申告により両者ともに魔術を使用できるため魔術使用が許可されます」



 おおー、とどよめき。

観客には見た感じ魔術師タイプのこいつはともかく俺が魔術を使えるのが意外らしい。

ロハスは観客席に向かって手を振ったりなんかしちゃっている。

俺もやろうかなと一瞬思ったが、ブーイングで返されたりしたら立ち直れないので止めておいた。



 「両者 試合開始位置まで進み待機してください」


 「いい試合にしよう」


 「そうなればいいですね」


 「はじめっ!」



 嘲るような顔でそんな事言われて誰が信用するかってんだ。俺も皮肉で返してやる。

試合開始の合図とともに、昨日選んだ物と同じ種類のショートソードで斬りかかる。



 「ばか正直に真正面から来たね! 『架空の烈風』!」


 「・・・・・・?」



 ここで迎撃の魔術が来る事は分かっていたし、むしろそれが狙いだ。

攻撃の影に隠れて横に移動すればあいつの視界から外れるし、

一瞬でもそうなれば、近接戦闘はそこまで得意でないだろうから一気に勝負を決める自信はある。

しかし、直接的な攻撃能力を持たない『架空の烈風』を使ってくるとは予想外だった。

他の擬似攻撃魔術は直撃すればそれなりに熱かったり痛かったりするのだが、

このタイプの魔術は文字通り「強い風」でしかないのだ。

本来はリリアのように魔術に対しての迎撃に使う物なのだが・・・・・・



 「ほらほら、何をボーッとしている? そんなゆっくり悩んでいる時間があるのか?」


 「ちっ」



 そうだ、今は戦闘中だ。長々と考え事をする暇はない。

またもや突進すると見せ掛け、サイドステップで迎撃の魔術を回避する。

やはり使った魔術は『架空の烈風』。



 「かわした!? だがその程度で! 『明かり灯す光球』!」


 「くっ!」



 視界を奪われるが、俺は他にも周りの情報を手にいれる手段がある。

探索領域を強化し、精度を上げる。迫っていた追撃の魔術を回避してロハスに向かう。

慣れない動きなので結構フラフラしながら走っていったのだが、十分驚異を与えたようだ。



 「な、何故目が見えないのに向かって来れるんだ!」


 「気配で分かる」



 うん、嘘は言ってないな。気配を感じている事に間違いは無いし。

俺自身が感じている訳ではないにしろ、結果的にやっているのは同じ事だ。



 「くそ、駆け出しの雑魚だって聞いたから手伝ってやったのに!」


 「手伝う? ・・・・・・ふーん、大体分かってきたぞ」



 こいつがさっきから勝負を決める気がないような魔術ばかり使ってくるのは時間稼ぎか。

大方、試合を長引かせて何か嫌がらせでも仕込むつもりの取引でも持ちかけられたのだろう。

リリアやカレンに何かするつもりでも、グレイアさん達が居るから大丈夫だと思うが

このまま思い通りになるのも癪だ。魔術も使って速攻で終わらせることにする。



 「『加速する五体』! これで、終わりだっ!」


 「上級魔術だと!?」



 超加速した状態で後ろに回り込み、首筋に手刀を当てる。

ロハスは空気がもれた音のような声を出しつつ崩れ落ちる。どうやら気絶したようだ。



 「そこまで! 対戦相手の戦闘不能により勝者タツキ・アンドー!」


 「リリア達は・・・・・・」 

 


 不安もあったので急いで観客席に顔を向け、無事かどうか確認しようとすると、

見覚えがあるようなないような学生の首根っこを掴んでいるグレイアさんを見つけた。

視力を強化して詳しく確認すると、カレンとエルちゃんがサムズアップしている。

・・・・・・リリアが混乱しているのを見るに、あれが犯人か?


 何はともあれ、これで今日の試合は終わった。事情はゆっくり聞くことにしよう。

そう考えつつ皆に手を振り返し、観客席に向かって歩き始めるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ