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クエスト3・異邦人と魔術学校7

 結局、深い眠りについている全員を引き摺って行く事にした。

リリアを背負い、片手で覆面野郎を二人ずつ掴んで走った。

ここまで来ればリリアの家がどこにあるかは分かるから、迷う事はなかった。

でも、通りすがった人達にすごい注目された。

もう辺りが暗くなってきていたから人通りが多い訳ではなかったけど、

出会った全員が注目してきた。

それもそうだろう、冒険者の青年が寝ている男女5人を抱えて結構なスピードで走っているのだ。

色々と突っ込みたい事があるだろう。というか、突っ込まれた。



 「あの・・・・・・何をなさっているので?」


 「あー、えっと・・・・・・疲れて寝てしまった友達を家まで運んでいます」


 「はあ・・・・・・どうして覆面を被っているのですかな」


 「え、知らないんですか? 覆面を被って寝ると疲れがよくとれるんですよ」


 「なんと、それは初耳ですな」


 「覆面を被り頭部にほどよい熱を集める事で睡眠中の脳活動が促進され、

  交感神経と副交感神経のバランスが良くなり、リラックス・ヒーリング効果があります」


 「そのコーカンシンケーとやらはわしには分からんのですが、すごいもんなんですな。

  あなたはお医者様になる勉強をなさっているのですかな?」


 「いえ、冒険者です」


 「おお、それで友人をそんなに抱えても平気なんですな」



 気の良さそうなお爺さんに心底不思議そうな顔で質問された。

さんざん注目され、恥ずかしさでテンションがおかしくなっていた俺はでたらめな返答をした。

・・・・・・何だよ、知らないんですかって。言った俺だってこの瞬間まで知らなかったよ。

後、このお爺さんはもう少し他人を疑った方がいいと思う。

それと、いくら冒険者でも5人抱えて走るっていうのは普通じゃないですよ。

全員を50キロ平均で計算しても、250キロというすごい重量になります。


 そんな事を考えながらも無駄に自信満々に言い切った手前、

訂正する訳にもいかず、逃げるように(実際そうなのだが)走り去った。











 「ただいま帰りました」



 リリアの家に無事到着し、インターフォンを鳴らす。

初めて鳴らすのでやり方が正しいのか不安だったが、成功していたようで応答がきた。



 「ん、タツキ? わざわざ自分でやらなくてもリリアに任せればいいんだけど」


 「ちょっと問題が起こりまして・・・・・・取り敢えず、門を開けてくれますか?」


 「問題ねぇ・・・・・・わかったわ、今開けるから入ってきなさい」



 いかにも溜め息をつきそうな声で呟いた後、レナさんは門の操作をしたようだ。

鍵がはずれ、門が開放される。男二人を抱えたままの腕で押し開き、中に入る。

途中でこの男共が目を覚まさないように『睡眠』の魔術を重ねがけしておく。

注意力が散漫な相手や、今のように眠っている相手にはこの手の補助魔術は効果を発揮しやすい。

本来なら同意を得ていない対象への使用が禁じられている補助魔術なのだが、

基本、人に対して使用非許可の攻撃魔術まで使ってきたこいつらの意思なんて聞く気も無い。



 「おかえり、タツキ・・・・・・その寝てるのは何?」


 「一言で言うと、街中で先程襲撃してきた奴らです。一人に逃げられましたが」


 「返り討ちにして気絶させたのね。で、何でここまで引っ張って来たの?

  というより、何で引っ張って来れたの? どう見ても一人では無理な重さだと思うのだけど。

  後、リリアまで寝てるのは何故?」


 「あー、これ以上は結構長い話になるので中で座って話してもいいですか?」


 「ええ、面倒な話みたいだし筋道立てて説明してくれると言うのならそちらがありがたいわ」



 ここで説明すると立ち話というレベルを越えてしまうので、そう提案すると了解してくれた。

レナさんに案内され、応接間に入った。

最初はいくら気絶しているとはいえこの男共を家に入れるのに難色を示したレナさんだったが、

俺が『睡眠』の魔術を重ねがけしてきたと言うと、驚きつつも納得してくれた。


 ソファに座り、リリアを横に寝かせ、男共は放り投げておいた後レナさんに事情を説明する。

先に起こった出来事のみを話した後、俺の推測も交えた説明をする。 

大体十五分くらいで説明し終わり、用意された紅茶を飲む。



 「成る程・・・・・・先にリリアが対象の魔術を使ってきたから、

  一応ここに連れてきた方がいいと判断した訳ね?」


 「まあ、そうなります」


 「なら、かなりの確立で学生だろうという判断の根拠は?

  冒険者という可能性もあるのではないかしら」


 「よほどの荒くれ者でない限り、冒険者は自分の評判が悪くなるような事はしないでしょう。

  こんな依頼がギルドの正式な物である筈がないですし。

  それと、魔術の扱いがまあまあ上手いのに追い込み方が下手な冒険者もいないと思います」



 そう。これが俺の判断理由だ。まあ最初から決めつけていた部分もあるのだが、

応戦している最中に冒険者だとしたら色々と技術的にレベルが低過ぎると感じた。

それに冒険者は基本的にギルドが仲介しない依頼は受けない。

ギルドに対しての仲介料金を支払えない貧しい依頼人、という可能性も稀にあるが、

大体は後ろめたい理由がある依頼だったり、裏がある依頼だからだ。

冒険者ギルドが人を襲う依頼を仲介する筈がないし、冒険者という可能性は低い。

単に依頼も何も関係なく、自分勝手な理由で荒くれ者が襲ってきたのだとしても、

全員が魔術を使えるというのは少し考えにくい。

偏見かもしれないが、こいつらは「エリートな不良」には見えない。



 「・・・・・・あなた、平均以上に頭が回るようね」


 「? はあ・・・・・・そりゃどうも」



 どうやら学生である可能性を疑問視して質問したのではなく、

俺がどうやってそう判断したのか、その思考力を確かめたくて質問したらしい。

平均以上に頭が回ると言われても学校の成績はそこまで良くなかったぞ。

まあ、学校のテストは人の頭の良さを決める事のできる物ではないと聞いたこともあるけど。

・・・・・・成績がいい奴がこう言うならまだしも、俺が言っても言い訳にしか聞こえんな。



 「でも、確認する手段がないんですよね・・・・・・

  リリアはあまりクラスメートの顔を覚えていないみたいですし、

  レナさんも学生の顔なんて知らないですよね」


 「確かに知らないけど、確かめる方法ならあるわ」


 「え、どうするんですか?」


 「簡単な事よ。聞けばいいの」



 いや、聞けばいいって答える筈ないじゃないですか、という反論は出来なかった。

常にクールで表情も変えなかったレナさんが、とてもとても「イイ笑顔」になっていたからだ。

何をしようとしているのか、久しぶりに鞭とロープの出番ね、なんて言っている。


 ・・・・・・え、何この展開?

聞けば、ってもしかして「オハナシ」するという事なんですか?

しかも鞭とロープなんて、もはや尋問、いや拷問のレベル・・・・・・

いや待て、レナさんがそんなS的な意味の女王様みたいな事をする筈がない!


 この男共をロープで縛り、鞭を持ったレナさんを想像してみる。 

・・・・・・やたらリアルにイメージが浮かんで怖いんだけど。



 「えっと、どういう風に聞くつもりなんですか?」



 最後の望みに賭け、レナさんに質問する。頼む、普通に平和的に聞くのだと言ってくれ。



 「ふふ、知りたい? まあタツキにならそれなりに深く教えてあげてもいいのだけど。

  体力も魔術も思考力も平均以上のあなたなら、私も楽しめーーーーーー」


 「いいえ、私は謹んで遠慮させて頂きたい所存であります」



 焦りと動揺とパニックのあまり、ってこれらの言葉殆ど同じ意味だな。

まあそれだけ焦った俺は、咄嗟に妙な敬語で拒否した。

俺はいたってノーマルなので、そんな物に興味は無い。

痛め付けるのも痛め付けられるのも嫌いだ。



 「あら、残念。もし聞きたくなったらいつでもいらっしゃい。

  ゆっくりと、丁寧に丹念に教えてあげるから」


 「・・・・・・その条件に一般的な意味での「優しく」を付け加えるなら、考えます」



 その後、男共をレナさんの部屋まで運び、処遇(この表現で合っているだろう)を任せた。

・・・・・・あいつら、どうなってしまうんだ。変な性格になって出てくるとかないよな?

俺はちょっとだけ同情してしまった。











 応接間に俺とリリアとメイドさんのみが残り、結構な時間がたった。

身体能力の強化は聴覚にも及ぶらしく、上の階から微かに男の悲鳴が聞こえてくる。

それにしても、全員と一度にオハナシ(拷問とも言う)してるのかよ。

いくら縛るとしても全員が魔術を使えるんですし危険ではありませんか、と言ったのだが

そんなヘマはしない、とだけ返して笑みを浮かべながら部屋に入っていった。


 早々にこの事について考えるのを止め、紅茶とケーキのような菓子を味わうのに集中する。

メイドさんに誰が作ったのかを聞くと、

紅茶は自分が淹れた物で、ケーキは専属のパティシエが作ったとの事。

美味しいですと言うと、仕事には必要な技能ですのでと返してきた。


 そんな感じで時間を潰していると、ようやくリリアが目を覚ました。

メイドさんがどこかに行ってしまったが、報告にでも行ったのかな。



 「ふぁぁ・・・・・・あれぇ、ここどこ? あ、タツキおはよう」


 「おはようじゃないっ。 もう夜だし、ここはおまえの家だ」


 「ああ、いきなり眠くなっちゃったんだよねぇ。ごめんねぇ、重くなかったぁ?」


 「まだ寝ぼけてんのか、おまえ・・・・・・俺が伏せろって言ったの覚えてないのかよ。

  後、おまえを重く感じる程俺はやわじゃない」



 妙に間延びした声で俺にすりよってくるリリア。

おお、体の柔らかい感触が気持ちいいーーーーーーじゃなくて。

な、なんかおかしいぞ。いくら寝ぼけてるにしてもこれはおかしい。

リリアは寝ぼけててもこんなに抱きついてくるような性格ではないし。



 「遠回しな言い方だったけど、重くないって言ってくれたんだよねぇ?

  ありがと、タツキの事だいすきだよぉ」


 「オーケイ。けっこ・・・・・・ってバカ、冷静になれ! 普通に流されてんじゃねえ!

  おかしいだろ、この状況! なにがオーケイだ、俺!」


 「んー? 今、なにを言いかけたの? 教えてちょうだい、タツキぃ」


 「え、あ、ああ、今のはニワトリの真似だったんだ。オーケイケコーコッコってな」


 「あはは、おもしろーい。ここでニワトリの真似って流石タツキ、発想が斬新だねぇ」



 頭がだいぶ弱くなっているのか、苦し紛れの誤魔化しを真に受けてくれた。

それにしても本当になんだ、この状況は? 寝ぼけてるなんてレベルじゃない。


 原因として考えられるのは・・・・・・駄目だ、思い付かない。

ジャックさんと稽古して、覆面野郎に魔術を使われて意識を失って・・・・・・

ん? あいつらがリリアに使った魔術は睡眠の魔術と思い込んでいたが、違うのではないか?

もしかして、この状況を引き起こすなにかを使用したのかもしれない。


 そう考えた俺は『知識』の中から今の条件を引き起こす魔術がないか、確認を始めた。






 ・・・・・・該当した魔術はひとつ。『刷り込み』の魔術だ。

対象を気絶させ、覚醒した時に初めて見た人間に好意を向けさせる精神操作魔術らしい。

発動までにタイムラグがあり、使いづらい魔術なのだが人の精神に干渉する危険な効果を持ち、

使用は全面的に禁じられている魔術のようだ。俺は憤りつつ、現実に意識を戻す。



 「くそ、あいつら卑劣な魔術をーーーーーーってオイ! 何やってんだリリア!」


 「タツキが急に喋らなくなったからこうすれば驚いてくれるかなって思ったんだけど、

  成功したみたいだねぇ。どーお、タツキ?」


 

 意識が戻ってきて最初に見たものはなんとリリアの半裸だった。

俺は今まで全裸こそ至高だと思っていたが、その考えは浅はかだった事を思い知らされた。

中途半端に脱げた状態こそ、想像力がかきたてられ一歩先を行く違いの分かる男に・・・・・・

って、さっきからおかしいだろ俺! 何が違いの分かる男だ、所詮高校生の妄想じゃねえか!

・・・・・・うん。ぶっちゃけ現実逃避なんだ。



 「俺は服を着てくれた方が嬉しいなー」


 「棒読みで言っても説得力ないよぉ。ねね、感想は?」 


 「・・・・・・」


 「? どしたの、タツキ」


 「・・・・・・」


 「タツキぃ~。・・・・・・また脱げば反応してくれるかな、それとも抱きつけばいいかな」


 「そ、それだけはさせん! 『手招く睡魔』!」



 あ、危なかった。またもや現実逃避に入っているうちにとんでもない事を言い始めたので、

急いで睡眠の魔術を使用する。ふぅ、これでリリアも止まーーーーーー



 「今のは・・・・・・睡眠の魔術? でも今更そんなので止まらないよ~」


 「バカな! 直撃の筈だ!」


 「直撃? まあ、間違ってる表現じゃないと思うけど・・・・・・

  タツキにしっかり意識を向けてる状態なら、大抵の魔術には抵抗できるよぉ」



 そうか、扱える魔術はともかく魔術師としてのレベル自体はリリアの方が上だ!

いやそれなら、カイルさんとの試合のように連発して力づくで突破すれば・・・・・・

げ。あいつらにさんざん連発したせいで、もう殆ど魔力が残ってない。



 「待て、早まるんじゃない! おまえは魔術で通常の判断が出来てない状態なんだ」


 「よく事情が分からないけど、これは私の判断だよぉ」


 「いやそうじゃなくて・・・・・・ああ、もう。とりあえず服着てくれ!

  俺の精神衛生上、非常に良くない! 服着ないんなら、会話もしない!」



 会話もしない、と言ったのが効いたのか顔を青くして急いで身なりを整え始めた。

見てるこっちが驚く程の速さで着終えた後、涙目になりながら訴えてきた。



 「着たよ、言われた通り服着たよ! だから会話もしてくれるよね、嫌いにならないよね!?」


 「あーっと、とりあえず落ち着くんだリリア。嫌いにならないから」



 もともと情緒不安定なところがあるリリアだ。

魔術で精神干渉を受けている今の状態で下手な事言えば、今みたいな事になるのは当たり前か。

少し躊躇したが、今は落ち着かせる方が重要だと判断し軽くリリアを抱きしめ頭を撫でてやった。

こういう事するから依存されるのかもしれないが、やはり他の方法は思いつかない。

リリアは一瞬びくっと体を震わせた後、安心したのか力を抜いてもたれかかってきた。



 「そういえば・・・・・・タツキに抱きしめてもらったのって二度目だね」


 「二度目? ああ、レッサーワイバーンに崖下へ落とされた時があったな」


 「あのときも思ったけど、タツキって暖かいね」


 「そうか? 体温は平均的な筈なんだけどなあ」


 「私が言ってるのは精神的な事だよ。タツキに触れてもらってると優しい気持ちになれるの。

  ・・・・・・だから、大好きなの」


 「・・・・・・」



 俺は何も言わずに顔をリリアの耳元に近づける。

残りの魔力を全部こめた、今俺に発動できる最大限の睡眠魔術を使う。

これにはリリアも抵抗出来なかったようで、幸せそうな顔のまま再び眠りにつく。


 ごめんな、リリア。おまえの気持ちは嬉しいけど、それはあの魔術に誘発された気持ちなんだ。

もしも、魔術が解けた後におまえ自身の気持ちでまた伝えてくれるなら、その時は答えを出す。

でも今はまだ、その時じゃない。だから今だけは眠っていてくれ。











 ・・・・・・とまあ、ここで終わってればいつになくいい話的な感じになったのだが。

残念だがこの話にはシリアスになりきれないオチがつく。

まず一つ。

俺の強化された聴覚はこの間ずっと「あーっ、レナ様ーーー!」なんて男達の声を捉えていた事。

二つ目。

会話の最中空気を読んでいたのか知らないが、とうとう空腹に負けて動けなくなってしまった事。

そしてこれがいい話的な余韻をぶち壊す最大の要因なのだが、

リリアの半裸を見たり体の柔らかさを感じてしまったせいで、妙に性欲が高まってしまった事だ。

しかたないだろ、俺だって健全な高校生なんだ! むしろ我慢した事を褒めてもらいたいよ!


 でも、真面目にどうしよう・・・・・・

人の家でするのはとても気が進まないのだが、自己処理するしかないかなあ・・・・・・

かなり情けない事を考えながら、いつになったら飯が食えるんだろうと空腹に耐えるのだった。


どうでしたでしょうか。今回の話はいつもとややテンションが違うかも知れません。できれば感想をください。

後、どうやら13機関もディズニーキャラと判断されるようです。もし楽しんでくれた方がいらっしゃったらすいませんでした。

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