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クエスト3・異邦人と魔術学校6

ようやくテスト期間が終わりました。

これからは投稿ペースが元に戻ると思います。

 「せぇぃ!」



 高速で走り回り相手を撹乱し、裂帛の気合いとともに勢いを乗せた剣を振るう。

いくら何でも、このスピードから放たれる攻撃に対処するのは困難な筈!

・・・・・・そんな自信を持った一撃だったのだが。


 疾ッ、という鋭い呼気が聞こえたかと思ったら手に激しい衝撃、剣を弾かれてしまう。

マズイと感じた瞬間天地が反転。足払いを掛けられたと気付いた時には剣を突き付けられていた。 



 「終わりですね、タツキ」


 「・・・・・・ええ、俺の負けです」



 随分呆気なく負けちまった・・・・・・






 起き上がって、弾き飛ばされた練習用の木剣を回収しつつ俺はセレンさんに質問する。



 「セレンさん、どうしてあんな簡単に俺の攻撃を捌けたんですか?

  自分で言うのもなんですが、かなりのスピードで撹乱したと思ったんですけど」


 「確かにさっきの動きはやや人間離れしたような速さでしたが、それだけです。

  いくら速いとは言っても、攻撃する時に真っ直ぐ向かってくるのでは意味がありませんよ。

  タイミングを図っていたようですが、あまり走っていれば目も慣れてきますしね。

  総じて言えば、無駄な動きで自分の長所を打ち消していますよ、タツキ」


 「・・・・・・そうですか」

 


 うーん、流石に一流の冒険者という事か。スペックでごり押しする戦法は通じないらしい。

『加速する五体』を使ったらセレンさんも反応が難しいと思うけど、それでは稽古にならない。

今の目的は剣術を初めとする「俺自身」の戦闘技術向上であり、ただ勝てばいい訳ではない。


 動きに無駄があると言われ少しショックを受けつつ、セレンさんに礼をした。











 俺達三人はあの後すぐに魔術学校を出て、グレイアさん達の宿泊しているホテルに向かった。

もう三人とも今日の出番は終わったし、残っていてもやる事があまり無かったからだ。

そして、何のためにあるのか分からないがホテルの広場に用意された訓練場で

今現在の実力を知りたいと言ったセレンさんとさっきの試合をした、という事だ。

(後から知った事だが、冒険者向けの高級ホテルはこういう施設も用意しているものらしい)

リリアとカレンは、ジャックさんと隣の訓練場で魔力集中の訓練をしているようだ。

すごく分かりやすいとか、斬新な方法ですわとか、興奮した声が聞こえてくる。


 ちなみに、グレイアさんとエルちゃんは街に買い出しに出かけた。

セレンさんとジャックさんは今出かけられないから仕方ないのかもしれないが、

エルちゃんはともかくグレイアさんが買い出し担当と言うのは違和感がある。

そう言えば、前回くれたアドバイスも値切り交渉術だったな。

あのクールな風貌で、近所の主婦に混じってバーゲンに参加していたりするのだろうか。

・・・・・・物凄くミスマッチだ。



 「確かにタツキの身体能力は高いですが、それを活かしきれていませんね。

  本来なら技は見て盗め、と言いたいのですが武術の基本を覚えていないようですし、

  それも難しいでしょうね・・・・・・」



 主婦の群れの中でもクールに特売品を手にいれるグレイアさんを想像して、

吹き出しそうになっていた俺にセレンさんが結構キツイ事を言ってくる。

これでも中学時代は柔道部だったんだけどなあ。高校生になってからは全然やってないし、

そもそも部活動も真面目にやってた訳じゃなく、殆ど筋トレをするために入ったような物だが。

というか、モンスターと戦う上で柔道は役に立たない。

いや、全く役に立たない訳ではなく独特の歩行法は間合いの確保に向いているが、

モンスターを投げられる程近くにいるなら武器で攻撃した方が早い。

柔道は人間を制するための手段であって、モンスターに十分な効果を発揮できる物ではないのだ。



 「予定を変更して、基本の動きを反復練習しましょう。

  基本が分からなくては、応用も出来ないでしょう」


 「分かりました」



 ま、自分でも基礎が出来てないって自覚はあったし、

もっとテンポよく攻撃するためには武術の概念を学ぶ必要があるだろうな。

対モンスターの戦術である上にセレンさん独自の動きだろうけど、

俺が一から戦闘理論を構築するよりは間違いなく正確だ。



 「まず素振りをしてくださいね。筋力があっても武器がぶれるのは力みすぎている証拠です。

  適度に力を抜いた方が、武器のブレも無くなり振るスピードも速くなりますよ」


 「分かりました、やります。何回やればいいですか?」


 「私がここで見ているので、良しと言うまでです。多少のアドバイスはしますが、

  できる限り自分の力で合格をしてくださいね」



 セレンさんの教え方は手取り足取りではなく、あくまでアドバイスをするだけのようだ。

まあ俺としても自分自身の戦闘技術を矯正してくれる教え方でありがたい。

何ヵ月も付きっきりでやるならセレンさんの戦闘技術をトレースする方が良いかもしれないが、

一週間、それも短い時間しか出来ないのなら俺の技術自体をどうにかした方が

これからの応用にも活かせるだろうし、上達も見込めるだろう。


 幸い俺の体力が尽きる事は殆どない。一回一回、試行錯誤しながら頑張ろう。

ショートソード程の長さをもつ練習用の木剣を手に取り、気合いを入れた。










 「あ、今の振りは良かったですね。その調子ですよ。

  ええ、だんだんと無駄な力みがなくなってきましたね。振りが鋭くなってきました。

  はい、そこまででいいですよ」


 

 素振りを始めてから一時間、ようやく合格をもらった。

いろいろと試したが、片手だけで振った方が丁度良い力加減になるようだ。

勿論、棒立ちの状態から腕だけで振るのではなく体重移動をしながら全身を使うのだが。

本来ショートソードを片手で使っても、あまり勢いが乗らずダメージにならないとの事だが、

俺の場合『身体強化領域』の恩恵で筋力だけは一流冒険者をも上回り、

そこから全身を使って放たれる一撃はかなり鋭い物になった。

・・・・・・ま、素振りだからこうしてゆっくり予備動作も取れるけど、

実戦だったらこう上手くはいかないだろうな。



 「もっと時間がかかると思ったんですが、予定より早く終わりましたね。

  日が暮れても付き合おうと考えていたんですけど。センスがいいんだと思います」



 セレンさんは少なくとも日没まではかかると考えていたようで、少し驚いたように言う。

戦闘センスがいいって結構色々な人に言われるけど、いったい何なんだろう。

ムンドゥスに与えられた力には戦闘センスの向上なんて無かったから、元からの才能なのか?

・・・・・・戦闘センスなんかより運動、特に球技のセンスが欲しかった。

戦闘センスなんて、日本で普通に暮らしてる分には全く意味ないじゃないか。

まあ有るのなら喜ぶけど・・・・・・


 それにしても、買い出しから帰ってくるなりボウガンを持って俺の視界でうろちょろする

エルちゃんは何がしたいんだろう。どうしてもボウガンに興味を抱いてほしいのか?

興味ならあるんだけど、さっきも言ったように金がかかりすぎるんだよな。

冒険を始めてすぐの頃武器屋で試し撃ちさせてもらったが、的に全然当てられなかった。

試し撃ちに使ったボウガンが、壊れてもあまり損失のない安物だったのもあるんだろうけど

剣等の接近戦用武器よりも更に使用者の習熟度に威力が左右されるから扱いづらい。

当てるのが下手でも何発と撃てばどうにかなるけど、上手い人なら一発で急所を射抜けるだろう。

下手な人は矢の消費が激しく出費もかさみ、上手い人は最低限の出費で済む。

そんな、初心者には難儀な武器なのだ。


 そういうわけで、エルちゃんには悪いけど今しばらくボウガンを使う予定は無い。

もしかしたら『動体視力強化領域』とか使えるかもしれないが、剣で攻撃した方が早い。

日頃から整備をしていないと冒険の最中に壊れる可能性もあるボウガンよりは、

闇を纏わせてしまえば刃こぼれの心配もなくなる剣の方がコストも手間もかからないのだ。

・・・・・・ボウガンに闇を纏わせたらどうなるんだろう。



 「まだ少しは時間がありますし、実戦的なアドバイスをしましょう」


 「実戦的? モンスターとの戦いですか?」


 「モンスターとの戦いもそうですが、人との試合でも言える事ですよ」


 

 そう言うと、セレンさんは俺に向かって木剣を構える。



 「タツキは、今私が斬りかかったらどう対処します?」


 「え? バックステップして回避する、では駄目ですか」


 「いえ、それで正しいです。重要なのは相手の攻撃を剣で受けようとはしない事です。

  自分の武器が大剣で相手が短剣というなら問題はありませんが、

  普通は相手の攻撃に勢いをつけてぶつければ剣は曲がり、最悪折れます。

  絶対に折れない頑丈な武器だとしても、手首に受ける衝撃まで殺す事は出来ません」


 「そうなんですか、肝に命じておきます。

  あれ? では、さっきの試合で俺の木剣を弾いたのはどうやったんですか?

  剣に対しての迎撃で弾かれたと思ったんですが」


 「まあ、剣に対しての迎撃ではあるんですけどね。

  剣で弾いたのではなく、こっちを使いました」



 セレンさんは自分の手甲を見せてきた。

俺の装備しているような「量産タイプの安物」ではなく素人目にも高級と分かる物だ。



 「この手甲は衝撃を使用者ではなく、相手の方に分散して受け流す仕組みになっています。

  何でも特殊な鉱物と魔術を使用した門外不出の製法で作られているとか。

  とは言ってもあまり強い衝撃には耐えられませんし、カバーする面積も小さいので

  過信は出来ないのですが。この製法で作られた盾や鎧もあるんですけど、

  大富豪の別荘を土地ごと買い取れる位の値段があります」


 「で、では、その手甲も物凄く高いんじゃ・・・・・・」


 「確かに私達Bランク冒険者でもなかなか手を出せない値段ですが、

  私はこれを景品としてもらったので」


 「け、景品?」


 「ええ、一年に一回ルミネラ国の首都ラーカスタで開かれる、

  冒険者ギルド公認の武道大会で、スタンダードクラスベスト16の景品です」


 「えっと・・・・・・稽古に差し支えがなければ詳しく教えて頂けますか?」



 ルミネラ国についてはある程度の知識を持っている。

冒険者ギルドの本拠地がある国で、様々な武器・防具の工房が存在する、

この世界で最も栄えていると言ってもいい大国家だ。

しかしそこで満足して『知識』を得るのを止めていたため、それ以上は何も知らない。

この『知識』の力も微妙に不便で、知りたい事は一般的な事であればほぼすべて分かるのだが

俺が知ろうとしなければ、どんなに当たり前の情報も重要な情報も手に入らないのだ。



 「ええ、分かりました。それほど説明に時間はかかりませんよ。

  まず、この武道大会の参加資格はBランク以上である事です。

  基本的にスタンダードクラス、マスタークラスには前年度好成績を残した者が出場できます。

  剣を使っても、槍を使っても、弩を使っても、杖を使っても、とにかく勝てば良いという

  多少危険でもあるルールで行われる大会で、成績上位者には景品が授与されます」


 「そんな大会があったんですか・・・・・・

  とにかく勝てばいいって、多少どころじゃなく危険な気がするんですけど・・・・・・」


 「私達のランクになってくると死ぬ可能性があるのは当然という考えになってきますから、

  ルールが設定されているだけでも大分危機感が薄れるんですよ。

  それでも油断して参加すると大怪我をするんですけどね」



 ルールが設定されているだけで危機感が薄れるって、すごい慣れだなあ。

俺もそんな風になるんだろうか。・・・・・・嫌だなあ。

なんかこの調子だと無事に元の世界に帰った時を想像するのが怖い。

今以上に挙動不審なヤツだと思われるんじゃないのか?



 「さて、日が暮れるまでにフェイントも覚えてしまいましょう。

  タツキのセンスなら最低限のレベルは身に付けられると思いますよ」


 「はい!」











 「今日はこんな遅くまで付き合って頂き、ありがとうございました」


 「いえいえ、私も楽しませてもらいました。

  タツキのセンスなら努力次第でどんどん上を目指せると思いますよ。

  これからの一週間が楽しみです」

 


 フェイントの練習は日没ギリギリで合格をもらう事ができた。

まだ辺りが真っ暗という訳ではないが、そうなるのも時間の問題だろう。

ジャックさんの魔術講義はすでに終わっていたようだ。

カレンは先に帰ったらしい。あまり遅くならないうちに帰らないといけないって言ってたし。

門限か何かが厳しいのかな? 何となくそんな雰囲気がする。

しかしリリアは俺を置いて行く訳にいかず、肌寒くなってきたにもかかわらず待ち続けていた。

正直、悪いことをしたと思う。



 「明日も私達は観戦に行きますので、出来れば合流しましょう。

  もし会えなかったとしても、予定した時間にここで待っています」


 

 そして、俺とリリアはグレイアさん達と別れた。

暗くなる前に家に戻るため、軽く走りながら帰る事にする。

高級住宅街の近くまで走ってきて、間に合うだろうという事で歩き始めた。



 「リリアは、ジャックさんに何を教えてもらったんだ?」


 「魔力を集中する時のコツと、魔術の応用知識ね。

  どっちも理解しやすい喩えを出しながら実践してくれたから、とても分かりやすかった」


 「あの人達って、物を教えるの上手いよなぁ」


 「そうね、尊敬できる方々だわ。・・・・・・ところで、どこでいつ知り合ってたの?

  駆け出し冒険者が知り合える機会なんて殆ど無いと思うんだけど」


 「ああ、記憶喪失で森にいた俺をーーーーーーッ!? リリア、伏せろっ!」


 「えっ? ・・・・・・あぅ」



 突然表れた害意の攻撃対象がリリアである事に驚愕し、警告をするが遅かったらしい。

深い睡眠状態を誘発する補助魔術を受けたらしく、警戒していなかったリリアの意識が無くなる。

その場に崩れ落ちそうになるリリアを慌てて抱き止め、『探索領域』を拡大する。


 くそっ、何なんだ。街中で襲撃してきた事にも驚いたが、リリアを狙ったのが意外すぎる。

今日一日中、学生から害意を向けられてたから過激派が出てくるのは注意していたが、

それにしても俺が一人の時を狙ってくるとばかり思い込んでいた。


 『探索領域』で確定した、こっちに害意を持った奴らは5人。

リリアを抱えつつ、攻撃の死角に入る。

しかし土地勘があるらしく、袋小路に追い込むように移動をしているようだ。

まあ、もしここの学生だとしたらそれも当たり前か。

どうする? 大声を出せばグレイアさん達に届くだろうか。

いや、結構離れてしまったし、もうホテルの中に入ってしまっただろう。

俺一人でどうにかするしかない。

幸い追い込み方があまり巧くなく、それぞれの距離が微妙に遠い。

ここを突けば、各個撃破で包囲網を脱出できる筈。

最悪、脚力を超強化して飛び越えていく方法もある。


 そう判断し、迂闊にも一人で突っ込んできた覆面野郎に石を投げつける。

強化された腕力から放たれた石は空気を裂きながら飛んで行き、見事命中した。

かなりの威力を持ったであろう一投に怯んだ隙を見逃さず、

こっちも『睡眠』の魔術を使って襲撃者の動きを封じた。

全員を捕らえられなかったときを考え、コイツも引き摺って行く事にする。

角を出た瞬間、攻撃力を持った魔弾が飛んでくるが咄嗟に引き摺ってたヤツを盾にして防ぐ。

衝撃に目を覚ましかけたので、そのまま敵に向かって投げつけ仲良く気絶させた。

念のため再び睡眠の魔術を使用しておく。


 性懲りもなく、またしても突撃してきた二人組が魔術を使う前にこっちから急接近、

それぞれの頭を掴んで力一杯ぶつけ合わせてやった。



 「意外と呆気なかったな・・・・・・いや、あと一人いた筈だが」



 『探索領域』で反応を調べて見るが、半径20メートル以内には害意を持った存在は無い。

最初の一人を捕らえた時までは確かに5人居たため、どうやら逃げたらしい。



 「4人を捕らえられてから逃げ出したにしては速すぎるし・・・・・・

  ずる賢いヤツがいたんだな」



 取り敢えず危険は去ったと考えて良いだろう。しかしこれからどうしよう・・・・・・


 すぅすぅ穏やかな寝息をたてるリリアと下品な寝言を呟く覆面野郎共を目の前にして、

全員を運ばないといけないのかと途方に暮れる俺だった。


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