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クエスト3・異邦人と魔術学校4

 さて、順番やらルールやらをまだ知らされていないがとりあえず午後までは暇ができた。

この校舎をゆっくり見物したい気もするが軽く身の危険を感じるので止めておこう。

・・・・・・嫉妬ってホント怖いよ。


 例え喧嘩や最悪リンチのような目にあっても身体能力的に負ける事はないだろうけど

いつの時代、どの世界でも怪我をさせた方が悪く言われるのは変わりないと思う。

過剰反応なのかもしれないが、なるべく騒ぎは起こしたくない。


 素直に学生の試合でも見ていよう。もしかしたら参考になる戦術があるかもしれないしな。

地道な作業だが、こういう努力の積み重ねが戦闘時に役立つ時がくる筈だ。


 俺は校庭に用意された観客席に向かった。






 「うお、凄い熱気だ」



 観客席にたどり着いた俺は、その白熱した応援に少し引いてしまった。

どうやら応援しているのは学生の親や後輩らしく、まるで元の世界の運動会みたいだ。

何か色々と近づきにくい雰囲気を出していて、席に座るのを躊躇してしまう。

他の冒険者も似たような心境のようで、ほとんどの人が居心地悪そうにしている。



 「・・・・・・まあ、ずっと立ってるのは辛いしな」



 あまり人がいない辺りを見つけて座る事にした。

さっきも思ったが、本当に運動会みたいだな。この世界では実際そうなのかもしれないが。

何か軽食や飲み物を売る屋台もちらほら見えるし、学生の試合とかはイベント扱いなのかもな。

見てる分には派手でかっこいいし、安全性もそれなりに確保されてるから丁度いいのか?


 そんな事を考えつつ、既に始まっていた第一試合を見る。

しかし、俺が目を向けた瞬間に試合は終わってしまった。

間の悪さに少しがっかりしてしまったが、すぐに次の試合があるようなので気を取り直す。



 「第二試合、クスマ・ティゼン対リリア・カラード」


 「リリアの順番もうかよ!」



 何かしらの魔術を応用したのか、グラウンド全体に届く大きい声が対戦カードを知らせる。

順番は早いみたいとは言ってたけど、まさか第二試合だとは思ってなかった。


 そういえば観客席は魔術に対しての安全対策があるんだろうかと思い色々確認すると、

グラウンドの中央に強力なマジックアイテムでフィールドが作られていて、

魔術はこのフィールドの中と外を通過出来ない仕組みになっているらしい。

・・・・・・性質的に『領域』で再現できそうだな。

すぐには使えないだろうけど、これも練習しておくか。


 ま、今はそれよりもリリアの試合だ。

魔術師の一対一戦闘も初めて見るし、リリアがどういう戦法をとるのかも楽しみだ。

少し恥ずかしいが、回りだって熱心に応援しているしこれくらいはどうと言う事もないだろう。



 「リリアーーー! 頑張れよーーー!!」



 回りが結構うるさいし、それなりに離れているから聞こえないかとも思ったが、

どうやら声が届いたようで、嬉しそうな顔で手を振ってきた。

・・・・・・とたんに近くの学生の害意が集中した。

畜生、ここも居心地が悪くなってしまった・・・・・・


 学生から向けられる害意は気付かないフリをして、試合に集中する事にした。

相手のクスマとやらはチャラチャラした男だった。

何かリリアに話しかけているけど見事に無視されている。

よし、いかにも噛ませ犬って感じのヤツだ。リリアが負ける事はないだろう。

そう判断して、試合フィールドの確認に移る。


 ここの校庭はかなりの広さを持つ屋外グラウンドと

これまたかなりの大きさを持つ体育館で構成されていて、試合は屋外で行われている。

学生の試合フィールドには森を切り取ってきたかのようなセットが置かれ、

俺がカイルさんと試合をした時のような、単なる撃ち合いにはならないようだ。

高低差や障害物を駆使して戦略を組み立てる必要があるみたいで、単純な攻撃は通用しなそうだ。


 それにしてもこのセット作るのにどんだけ金と手間をかけたんだろう。

見た感じ作り物とは思えないぞ。後、いくら実戦形式とは言ってもここまでする必要あるのか?

まあ、魔術学校の一大イベントのようだし見せ物的な側面もあるのか。

学生どうしは障害物に隠れれば互いを視認しにくくなるみたいだけど、

この観客席からは大体どこもはっきり見えるようになってるみたいだし。











 あたしは今、試合フィールドの「森」でクスマと向かい合っている。

さっきまでは流石に少し緊張していたけど、タツキの応援を受けてからは平常心になれた。

でも気になるのは、手を振った後タツキの顔がひきつった事だ。

・・・・・・何か悪い事しちゃったのかな。早く試合を終わらせて、謝りに行こう。



 「ふふふ、やあリリア君、久し振りだね」


 「・・・・・・」



 何か話しかけて来たけど当然無視する。

今はそれどころじゃないというのもあるけど、普段もあまり会話したい相手ではない。

命がけの冒険を2ヶ月もして少しはたくましい性格になったかと思ったけど変わってないみたい。


 

 「両者、開始位置まで進み、待機してください」


 「いやぁ、リリア君は相変わらずシャイだなあ。

  カレン君のように社交的な人も良いけど、君のようなタイプも魅力的だよ」


 「・・・・・・はぁ」



 クスマには気付かれないようにため息をつく。

こいつとはできる限り会話しないようにしてきたけど、それで誤解しているんだろうか。

普通の人だったら嫌われてる事に気づくと思うんだけど・・・・・・

プラス思考というかなんというか、ある意味うらやましいわね。



 「始め!」


 「手加減はするから、攻撃する僕を恨まないでくれよ」


 「・・・・・・」



 少しいらっとしたが、こいつの成績は悪くない・・・・・・というよりトップクラスだ。

使いこなせる魔術自体は少ないものの、その少ない魔術の扱いは他の追随を許さない。

あのムカつく女と似たようなタイプの魔術師だ。

正直、初めに戦いたい相手ではなかった。油断は出来ない。


 まずは互いにセオリー通り、魔弾を撃ち合いつつ自分に有利な場所に移動する。

あたしは奇襲ができ、防御もしやすい段差と起伏の多いところを選んだ。

あいつは相手の攻撃に対応しやすく、見通しのいい高台に移動したみたい。


 あたしは段差や樹木に隠れて移動しつつ、様々な攻撃魔術で隙を作る。 

タツキは補助魔術で真正面から無理矢理隙を作っていたけど、あんな事は出来ない。

・・・・・・あたしって、ちゃんと役に立ててるのかな。

タツキは上級魔術を使えるし、直接戦闘もできる上に判断力もある。 

本人は器用貧乏なだけだって言うけど、あたしから見たら十分に・・・・・・



 「調子が悪いのかい? 急に攻撃が止まったよ」


 「っ!」



 クスマは自分が得意としている魔術の1つ、火属性の『架空の烈火』で強襲をかけてきた。

命に影響は全くない熱量だけど、直撃すれば審判に負けを宣告されてしまう。

とっさに『架空の烈風』で迎撃し、炎を吹き飛ばす。



 「へぇ、いくら疑似攻撃魔術とはいえ中級クラスをとっさに使えるのか。

  う~ん、才色兼備とは君や僕、カレン君のためにあるような言葉だね!」



 何か言ってるけどこれも無視。

しかし今の攻撃で目が覚めた。タツキの事は試合が終わってから考えよう。

今はこいつを倒す事に集中しなきゃ。

この試合を応援してくれているタツキの前で負けるなんて絶対にイヤだ。

自分の言葉に酔っているらしいクスマに向かって『架空の魔弾』を放ち、隙を作る。

その後『架空の烈火』を続けて放つ。これが当たれば勝ちなんだけど・・・・・・



 「うぉっ!? 『加速する四肢』!」


 「くっ、やっぱりそう来るわよね・・・・・・」



 クスマが得意とするのは火属性の魔術と身体強化の魔術なのだ。

あいつは、あたしの放った魔術を自らの移動速度を瞬間的に高める事によって回避した。

中級魔術だからタツキが使った『加速する五体』のようにずっと速度上昇する訳じゃないけど

攻撃を回避するためだけに使うなら、十分過ぎる性能を持っている。



 「い、いやぁ元気そうで何よりだよ。でも、今のは卑怯じゃないかい?」


 「あんたが隙を見せるのが悪いんでしょ」


 「おお、そのセリフかっこいい! 今度僕も使わせてもらうよ!」



 ・・・・・・何でこんなのが成績トップクラスなんだろう。情けなくなってくる。

とにかく大きな隙を作らない限り、正面からは攻撃を当てられない。

色んな方向から奇襲をかけ続けてラッキーショットを狙いつつ魔力切れを待った方が良さそう。

幸い元々の魔力量はあたしの方が上だし、中級魔術はそう何度も使える物じゃない。

クスマが『加速する四肢』だけを使うとしても後7回程度が限度だろう。

勿論向こうだって攻撃しないと勝てないんだからそれ以外の魔術も使うだろうし、

実際はもう少し早く魔力切れになると思う。


 あたしは隠れるために『明かり灯す光球』をクスマの近くに発動した。

本来は暗い場所で光源を確保するための魔術だけど、冒険者はこれを目眩ましにも使うらしい。

タツキがそういう風に使っているのを見て天才なんじゃないかと思ったんだけど、

どうやら魔術を使える冒険者にとっては常識だったみたい。


 クスマは突然の出来事に動揺して、やたらに魔術を連発している。

・・・・・・これって、もしかしてチャンス?

あっちこっちに放たれる疑似攻撃魔術に注意しながら急いで高台の後ろ側に回り込む。


 しかし徐々に視界を取り戻して冷静になったのか、魔術の連発が止まる。

段差から少しだけ顔を出して確認すると、場所が分からなくなったあたしを必死に探している。

よし、これならいけるわね。


 気付かれないように、今度はゆっくり移動する。

『明かり灯す光球』で目眩ましをしようかとも思ったけど、連続で使っても効果は薄いだろう。

さっきあんなに動揺したのは「予想外」だったからこそなんだと思うし。


 少しして、高台にいるクスマの後ろ側にたどり着いた。

まだあたしを必死に探しているけど、後ろに回られたとは思ってもいないみたい。

足音を立てないように静かに近付いてーーーーーー



 「『明かり灯す光球』。かかったね、リリア君」


 「え?」



 ぱしゅん、という軽い音とともにあたしの視界が白く染まる。

回りが見えなくなって、不意をついた筈のクスマに逆に不意打ちされて、

とにかく訳が分からなくなってパニックになる。



 「これで終わりかな? 『架空の烈火』!」


 「っ! 『架空の烈風』!!」



 そんな状況で攻撃に対応できたのは、冒険の成果だったんだろうか。

どこからか放たれた魔術に対してすぐさま反応、迎撃する。

攻撃が放たれた場所からクスマのいる場所に見当をつけて構える。

もしこれ以上予想外の手をとられたら・・・・・・そんな事を考えて、冷や汗が流れる。

しかし、クスマはあっさりとこう言った。



 「しんぱーん! 聞こえますかー! 僕の負けでーす!」


 「はぁ!? あんた、何を言って・・・・・・」


 「おいおい、君は相手が魔力切れでも試合を続行するのかい?

  かわいい顔に似合わず血も涙もないヤツだなぁ・・・・・・」


 「へ? 魔力切れ・・・・・・?」


 「そうだよ、僕の魔力はさっきの攻撃でもう切れたんだ」



 クスマの敗北宣言を受けた審判が、試合の終了を宣告する。



 「そこまで! 対戦相手の魔力切れ自己申告により勝者、リリア・カラード!」



 マジックアイテムによって大音量となったそれが観客席にも響き渡り、

大きな声援で会場が満たされる。

無意識にタツキのいる方向へ顔を向けると、嬉しそうに笑ってくれてる。

・・・・・・えへへ。あたしも嬉しいな。


 って、ちょっとの間意識から抜けていたけどクスマには聞きたい事がある。

一回戦で負けるとはカッコ悪いなぁとかブツブツ言ってるこいつに質問する事にした。



 「ねぇ、何でさっきは後ろに回り込んだあたしに不意打ちができたの?」


 「ん? 君を見失ってから聴覚強化の魔術を使ったのさ。

  例え隠れていても動けば音は出るからね。近付いてきてくれたから反撃もしやすかったよ。

  まあ、結果的に失敗したんだけど」



 ・・・・・・能天気なヤツだと思ってたけど、流石に成績トップクラスと言う事か。











 おお、白熱した試合だったな。

単なる噛ませ犬かと思ってたら予想以上に強くて、びっくりした。

見た目で弱そうとか判断しちゃいけないなあ。これからは気をつけよう。

それにしても、なかなかハイレベルな戦いだった。

これなら俺の戦い方に応用できそうな戦法もすぐに見つかりそうだ。



 「うーん、でも直接戦闘の技術も身に付けたいんだよな・・・・・・

  柔道とかならともかく、武器を使った戦闘なんて基礎を知らないから

  独学にも限界があるんだよなあ」


 「タツキー!」


 「うん?」



 声のした方を見るとこっちに向かってリリアが走ってきていた。

やけに早いな、試合が終わってからまだ5分もたってないぞ。

そんなに急いでどうしたんだ?



 「おい、そんなに走らなくてもいいだろ?

  さっきの試合の疲れもあるだろうし、ゆっくり歩いてこいよ」


 「気遣ってくれてるの? ありがとう。でも、早くタツキと会話がしたくて」


 「会話がしたくてって・・・・・・今朝だって、試合が始まる少し前だって、

  結構会話してたじゃないか」


 「そうなんだけど、聞きたい事があってさ」


 「何だ、聞きたい事って? 答えられる範囲でなら答えるけど」


 「試合の前あたしが手を振った時顔がひきつってたけど、何か悪い事したかな・・・・・・」


 「え、あの距離で見えてたの!?

  あー、そうじゃなくて、別にリリアは何もしてないぞ。

  ただ、回りから敵意を向けられただけだ」


 「敵意? なんでまた・・・・・・

  それならもう1つ質問があるんだけど、あたしって本当にタツキの役に立ててる?」


 「ずいぶん唐突な質問だなぁ。勿論リリアには色々助けられてるよ」


 

 俺の顔色をうかがいながら質問してくるリリアに、俺はレナさんに聞いた言葉を思い出した。

父にやや依存している、という言葉だ。


 俺は勿論カイルさんじゃないけど1週間前のやり取りから、

どうやら俺にカイルさんを重ねて見ているらしい事くらいは分かる。

お父様以外に初めて必要とされたとか言ってたし俺自身にも多少依存しているのかもしれない。

うーん、なんとか自信をつけさせないとなあ。

頼られるのに悪い気はしないけど、依存されるのは少し困る。

・・・・・・元の世界にいた頃は、こんな悩みをするなんて思わなかった。



 「リリアは俺を冒険の最中、戦闘でも休憩時でもサポートしてくれる。

  リリアがいたから達成できた依頼もたくさんあるんだし、もっと自信をもてよ」


 「・・・・・・うん、ありがとう」



 俺がそう言うと、リリアは安心したのか笑顔を向けてきた。

あれ? 何か依存が強まった気がする。自信を持たせて自立させようと思ったんだけど失敗か?

でもあまり強く言ってもただショックを与えるだけの気がする。

気のきいたセリフなんて言えないしなぁ、俺は人生経験の少ない単なる高校生だし。

最近「単なる」ではない経験をしているけど、まあ本質はあまり変わってないだろう。

かっこいい事をしゃべってさっさと解決しようなんて考えたのがそもそもの間違いか。


 リリアと親しげに会話しているのを見て、

最大級の害意を向けてくる学生に囲まれつつそんな事を思うのだった。

・・・・・・何? リリアとカレンってアイドル的な存在なの?


初めてタツキ以外の視点が出ましたがどうだったでしょうか。

変でなければいいんですが・・・・・・

それと、これからテスト期間に入るので2、3週間くらい更新はできなくなると思いますが、ご了承ください。


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