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クエスト3・異邦人と魔術学校3

 「ふむ、実際に上級魔術の発動を目にすると改めて驚かされるな」


 「・・・・・・リリア、彼は何故あの魔力量で上級魔術を?」


 「私だって知りたいのです、レナお姉様」



 俺は今、カイルさんに頼まれて上級魔術を使って見せている。

結構な広さがある別館に連れてこられたとはいえ、室内で攻撃魔術を使用する訳にもいかず

レッサーワイバーンとの戦闘でリリアを助けるために使用した補助魔術『加速』を選んだ。

効果時間が終了するまで高速で動きまわった後、カイルさんに話しかけられる。



 「凄いな、上級魔術の使用には努力の他にも持って生まれた才能が必要なんだが。

  しかし娘たちも疑問に思っているようなのだが、

  その魔力量で上級魔術が発動できるのは何故なんだ? できれば教えてくれないか」


 「それは・・・・・・」



 理由を聞かれると困る。

リリアはカレンとの言い争いで聞けなかったのを覚えていたのか、今度こそと意気込んでいる。

レナさんも興味があるようで、視線で説明するように促してくる。


 うーん、どうしたものか。

リリアだけだったら何とかなるんだが、カイルさんとレナさんはなあ。

俺が適当な事言っても、誤魔化されてはくれないだろう。

事実の一部だけ話して、それとなく話題をそらそう。



 「自分では、スキルの一種ではないかと考えています。

  魔術発動に関してのリミッターが甘く設定されているようなのです。

  どこで魔術の知識を得たかについては覚えていないのですが・・・・・・ 」


 「確かに、魔術の発動を監視しているのは神や精霊だからな。

  監視が甘くなるというのも、ある意味でスキルと言えるか」

 

 「あの、急かすようで悪いのですが、ルール等について教えていただけないでしょうか」


 「む、すまない。興奮していたようだ。では、はじめよう」



 今の説明で俺の魔術については納得してくれたらしい。

それとなくと思いつつ強引に話をそらしてしまった気がするが、結果オーライだろう。


 そして、しばらく実演も見ながらルールを覚えていくのだった。











 一時間くらいは過ぎたのだろうか。

基本的なルールと一般的な戦術、そして擬似攻撃魔術を教えてもらった。

ルールや戦術は良しとしても、擬似攻撃魔術は覚えるのが難しいんじゃないかと思っていたが、

案外あっさり使えるようになってしまった。

魔術の発動はイメージが必要との事だが、それはスキルでも必要とされるため、

『闇』や『領域』を使い続けていた俺のイマジネーションはかなり強くなっていて、

使い方を覚えてしまえば即発動できる、というレベルだったのだ。

今まではムンドゥスに与えられた一部の魔術しか使えないのではと思っていたが嬉しい誤算だ。



 「魔力量が少ないとは言ってもその分は君の特性でカバーされるのだから、

  あまり問題ないのではないか?」


 「・・・・・・確かにそうかもしれませんね」


 「しかし、そのようなスキルを与える神とはどんな存在なのか・・・・・・見当もつかん」



 まあ、この世界の神話ではムンドゥスなんて出てこないからな。

それに魔力の消費が少なくてもいいのは、与えられたスキルではないし。

あくまで俺のスキルは『闇』『破壊』『領域操作』であって、

魔術についてはこの世界の神や精霊が勝手に遠慮しているだけだと思う。



 「まあ、基本的な事はこれで全部だ。後は実際にやってみよう」


 「審判が必要との事でしたが、誰がやるんですか?」


 「レナにやってもらおう。専門ではないが、正式な試合でもないし十分だろう」



 カイルさんがそう言うとレナさんが俺たちの間に入り、構えるように促してくる。

さっきまでは練習程度にしか動かなかったが、今度は試合形式だ。

流石にいきなり本気ではこないだろうけど、油断はできない。

俺はたった今ルールを覚えたばかりの素人なのだ。相手が本気じゃなくても負ける可能性は高い。

まあ、負けるのは仕方ないにしてもぼろ負けだけはしたくない。

少し卑怯かもしれないが、一応は奥の手も用意してある。



 「始めっ!」


 「さて、どれだけ戦えるか見せてくれよ」


 「お手柔らかにお願いします」



 レナさんの合図で試合が始まる。

俺とカイルさんは軽く言葉を交わした後、それぞれの戦法を取りはじめる。

俺は相手の隙をつくために素早く動き回り、牽制の擬似攻撃魔術を放つ。

カイルさんは逆に動かずどっしり構え、こっちが魔術を使った隙を攻撃するカウンター狙い。


 俺の場合、素早くとは言っても『加速』の魔術も『脚力強化領域』も使っていないため、

常に使用している『身体強化領域』の影響しかないが、それでもかなりのスピードはある筈だ。

何より、動き続けていてもスタミナ切れはほとんど無いというのは地味に大きい。


 この部屋の広さを活かし、急に接近したり極端に離れたりと魔術の無駄撃ちを誘う。

カイルさんの魔力量からして、これを続けていても魔力が尽きる事は無いだろうが、

魔術の発動タイミングは大体分かってくる。後は発動する直前の隙に攻撃を入れるだけだ。


 3、2、1・・・・・・ よし、今だ!



 「『架空の魔弾』! って、何!?」


 「狙い自体はいいが、肝心の作戦がバレバレでは意味がないぞ」



 なんと、カイルさんは俺の作戦に気付いていたようで発動のタイミングをずらしたのだ。

そうなると隙を見せる事になるのは当然こちらになり、間髪いれずカウンターを仕掛けてくる。

畜生、罠に嵌めたつもりが嵌められていたとは・・・・・・経験の差ってやつか。


 一瞬の無防備状態時に放たれた魔術を高い身体能力で無理やり回避する。

しかし完全に回避する事はできず、それなりに傷みはある魔弾が左腕に直撃する。

激痛という訳ではないが動きが止まってしまい、今がチャンスとばかりに畳み掛けられる。

移動による回避は不可能と判断し、こっちも立ち止まって迎撃に専念する。



 「無理な回避は諦めて撃ち合いに持ち込むか。判断は素晴らしいが、相手が悪いな」


 「・・・・・・くそっ」



 そう、相手が悪い。

今まで俺がカイルさんと戦えたのは(手加減している節もあるが)回避し続けて、

まともな撃ち合いはしなかったからだ。 魔術での直接戦闘は不利だと考えたからだが、

その状況になってしまい予想通りにピンチだ。


 負けじと魔弾を放ち続けるが力の差は歴然で、だんだんと押されてくる。

俺の場合、イマジネーションと魔術の特性によって魔弾をかなりの速度で連発できるのだが、

それを上回って魔弾を撃てるカイルさんは凄すぎると思う。


 このままでは負けてしまう。

俺は素人でカイルさんは玄人なんだから当たり前な気もするが、一矢報いたい。

卑怯かもしれない奥の手を自重せず使ってしまう事にしよう。



 「『架空の魔弾』! 『捕縛の雷撃』! 『架空の魔弾』! 『捕縛の雷撃』!」


 「む!?」



 そう、これが俺の奥の手。

中級補助魔術である『捕縛の雷撃』を混ぜて使い、多少無理やりにでも攻撃を当てるのだ。

基本的に他人に使うタイプの補助魔術はレベルが上がる程に習得が難しくなり、

『捕縛の雷撃』は中級魔術でありながら上級魔術に匹敵する使用難度なのだが、

ムンドゥスによって与えられた魔術なので、俺にはあまり関係無い。


 人でもモンスターでも魔力を有する存在は自分に害を与える補助魔術に抵抗力を持つのだが、

かなり性能の高い物を複数撃ち続ければ、例え素人の俺でも何とかなる。

カイルさんはしばらく抵抗していたが限界をこえたようで、麻痺させる事に成功する。

しかし、ここにきて残りの魔力量が少なくなってきてしまい、

それを確認した俺はテンションを上げて最後の魔力を振り絞る。



 「例えどんなに動きが速かろうともォ、止まった状態では無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」


 「いや、お父様はもとからあんまり動いてない・・・・・・」



 もっともな指摘をリリアから受けるが、ここで止まるわけにはいかない。

心の中でオラオラと叫びながら『架空の魔弾』でラッシュをかける。

動けない状態で魔弾を喰らい続けるカイルさんを見て、レナさんが試合の終了を告げる。



 「そこまで。勝者タツキ」


 「お父様が負けるなんて・・・・・・」


 「むぅ・・・・・・まさか、『捕縛』の魔術も使えるとは思わなかったよ」


 「はぁ、はぁ、あー、疲れた・・・・・・」



 さっきのラッシュで魔力を使いきってしまい、もうへとへとだ。汗もべったりかいてしまった。

対してカイルさんは汗もかいてないし、こっちを労ってくる余裕まで見せている。

おそらく魔力もまだ十分残っているだろうし、どっちが勝ったのか分からないな。



 「君のとった戦法はなかなか良かった。柔軟な判断もしていたし、戦闘センスがいいのだろう」


 「そう、ですか、ありがと、ございます」


 「・・・・・・まあ、魔術の運用はまだまだか。一試合で魔力切れを起こしては意味がないぞ」


 「はい、気を、つけます」



 それはそうだろうな。確かに一回の戦闘で魔力切れを起こしては意味がない。

この試合のように全力を尽くしていい状況ならともかく、冒険の最中なら魔力切れは致命的だ。

パーティメンバーのリリアもいるから魔術を使える人がいなくなる訳ではないが、

それでもできる限り使える人は多い方がいいだろう。

一応勝つには勝ったが、教訓も得られた。いい経験になったな。



 「それにしても、また疲れさせてしまったな・・・・・・すまない。

  とりあえず、また風呂に入ったらどうだ。そのまま寝るのも嫌だろう」


 「それなら、お言葉に甘えさせて頂きます。

  って言っても場所が良く分からないんですが・・・・・・」


 「それなら私が案内します、お父様」


 「ああ、頼めるかリリア。しっかり道を教えてやれよ?」


 

 そんな会話があって、俺はリリアに連れられて再び風呂に入る事になった。

せっかく着替えたけど、また着替えないとダメか・・・・・・

着替えを多めに持ってきて良かったと思いつつ、本館に戻る俺だった。











 そして、俺とカイルさんが試合をしたあの日から1週間がたった。

いや、こう言うと時間が飛びすぎている気もするが本当に特筆するような事は何もなかったのだ。

朝起きて朝飯を食べ、ゆっくりして昼飯を食べ、体を動かして晩飯を食べ、の繰り返しだった。



 「タツキ、前から言ってた通り今日から学校行事があるから」


 「分かってる。準備すればいいんだな?」


 「ええ、一応まだ時間には余裕があるけど、早く到着していたいわ」



 朝飯を食べている最中にリリアが伝えてきた。

俺も日数は数えていたため焦る事はなかった。というか、何やるのか聞いてなかったな。

今は長話をしている訳にもいかないから、学校へ行く最中に聞くか。


 しばらくして、色々な準備が終わり出発する事になった。

レナさんに見送られて(カイルさんは一昨日から仕事だ)家を出て、

魔術学校に向かう最中にさっき浮かんだ疑問をリリアに質問してみた。



 「リリア、魔術学校の行事って何やるんだ? 全く知らない訳じゃないだろ?」


 「成績発表は名前の通りだけど、オリエンテーションは何をやるのかは分からないわ。

  多分、学生はお父様とタツキがやったような試合をするんだと思うけど」


 「俺が出る必要のある競技はやるのか?」


 「それも分からないけど・・・・・・わざわざ呼んだんだから、有るんじゃない?」



 うーん、分からない事ばかりだな。

魔術学校も学生に日程くらい教えておけよ。困るじゃないか。

まあ、リリアの話を聞いて再確認したけど、俺が出なければならない競技もありそうだな。

ここまで来て今更かもしれないが、できる限り出たくなかったんだがなあ。


 そんな会話をしながら、リリアと歩いていると何故か『探索領域』に害意が反応した。

不審に思って反応した方向に目を向けると、魔術学校の学生っぽい男がこっちを見ていて、

目が合うと思いっきり睨んでくる。・・・・・・俺、何かした?

俺がどう反応したものかと困っていると、リリアが声をかけてくる。



 「どうしたの? 急に立ち止まったりして」


 「・・・・・・あいつ、知り合いか?」


 「ん? えっと、うーん? クラスメイトだった気はするわね」



 クラスメイトの名前くらい覚えておけよ。

なんか、親の仇でも見るような視線で怖いんだが。

直接攻撃してくるような気配はないから、放っておく事にした。


 しばらく歩き続けていると、魔術学校が見えてくる。

・・・・・・凄くデカイ。まだ少し離れているが、その巨大さはここからでも分かる。

流石、国立の学校といったところか。それにしても日本と比べて大き過ぎる気もするが。


 無事学校に到着し、辺りを見回す。

敷地内に入って確認すると、その巨大さが改めて分かる。

俺があっけに取られていると、リリアは気分を良くしたのか弾んだ声で話しかけてくる。



 「どう? すごいところでしょ」


 「ああ・・・・・・こんな大きい建物は見たことがない」


 「ふふ、そんなに驚いてるタツキを見るのは初めてね」


 「そうか?」


 「だってタツキはいっつも仏頂面で冷静じゃない。・・・・・・時々おかしくなるけど」



 そう言われてみれば確かにリリアの前で驚いた素振りを見せたのは初めてかもしれない。

基本的に人の前で感情をあまり見せないようにしているからな。

・・・・・・テンションが上がっている時は別だが。


 そんな会話をしながらリリアに案内されて、人の集まり始めているグラウンドに向かった。











 「居心地悪い・・・・・・」



 開会の時間になり、校長らしき人物が段に乗って何やら熱弁を振るっている。

あちらこちらにいる冒険者は勿論、学生もあまり真面目に話を聞いていない。

あの校長絶対カツラだよな、とかいう声が聞こえてきて、

そういうところは例え違う世界でも似たようなものなのかと思った。

・・・・・・現実逃避な訳だが。

さっきからリリアと一緒にいる俺に学生の物と思われる害意が集中している。

目のあったカレンが手を振ってきた時は更に害意が強力になり、

カミーユが精神崩壊した理由が分かった気がした。

俺みたいなニュータイプもどきの能力でこれなんだから、彼は一体どれ程の苦痛だったんだ。



 「居心地悪いって、確かに初めて来た場所だから仕方ないと思うけど、

  あと少しで話も終わるだろうから、もうちょっとだけ頑張って」



 ああ、リリアは気付いてないんだな・・・・・・

まあ俺は害意に反応する『探索領域』を使っているし、そもそも俺に向けられた害意だからな。

リリアが気付かないのも当たり前かもしれない。


 これっておそらく嫉妬からくる害意だよな。

どこの誰とも分からない冒険者がなんでそんなに仲良くしているんだ、という事だろうか。

・・・・・・我慢するしかないよなあ。 


 校長はしばらく喋り続けていたが、ようやく気がすんだようで額から流れる汗を拭いながら

熱心に勉学に励むように、なんて言っていた。


 かなり長い時間喋っていたわりには内容自体は薄かった。

要するに、魔術は便利だが危険な力でもある事を忘れるなと言いたいらしい。

そんな事よりこの学生たちをどうにかしてくれよ。

俺はモテない高校生だったが他人の幸せは妬まなかったぞ。

・・・・・・何か今の俺が幸せみたいな言い方になったな。実際そうでもないが。


 その後、教頭らしき人物が日程について説明した。

それによると午前は学生による魔術の試合を、午後は冒険者の模擬戦をやるらしい。

どうやら1日では終わらず数日に分けてやるみたいだ。

でも魔術の試合はともかく、模擬戦って危ないんじゃないのか。

スポーツみたいに安全を考慮したルールがあるならいいんだが・・・・・・



 「よし、あたしの出番は結構早いみたいだし早速行ってくるよ」


 「ああ、頑張れよ」



 この様子だとリリアが離れた瞬間に学生どもから攻撃されるのではないか。

そんな事を考えて内心ビビりつつ、リリアを見送る俺だった。


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