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クエスト3・異邦人と魔術学校1

 ドンドンドン、と俺が借りている部屋のドアを叩く音がする。



 「開けなさい、タツキ! 速く、今すぐに!」


 「なんだよ、こんな朝早くから・・・・・・ というか周りに迷惑だろ、静かにしろよ」



 俺がドアを開けると、そこにはリリアがいた。

俺達はパーティを組んだ後、べクトラ・サービスのエコノミールームを月単位で契約した。

配置がバラバラになると連絡が面倒なので、隣り合う部屋を借りる事にしている。

ここを拠点にして、2人で依頼をこなしているのだ。

最初はルイセさんに色々からかわれたものだが、別段色気のある関係でもないと気づいたのか、

1ヶ月近くたった最近はお似合いの2人組み、くらいにしか言ってこない。

気の許せる仲間とは思っているんだが、恋愛感情があるかと言われるとそうでもない。

リリアの方も同じだろう。

・・・・・・まあ、今まで女子とこんなに近く、長く生活をした事はないし、

命がけの冒険をしている事もあってか、それなりに好意はあるんだが。



 「部屋に上がらせてもらうわ、話はそれからよ」


 「別にいいけど、何の用事だ? そんなに慌ててるなんて珍しいな」


 「とりあえず、この手紙を読んで頂戴」



 リリアから高級感のある手紙を受け取る。

差出人はファディア国立魔術学校となっており、退学にでもなったのかと思いつつ本文を読む。

やたらと文章が長く、もう少しまとめた方がいいような気もする。

しばらくして全文を読み終わり、俺なりにまとめると、

実地試験の中間成績発表兼、オリエンテーションのような物をやるから戻って来い、と言う事らしい。

うん、行けばいいじゃないか。



 「行ってくるといいぞ、リリア。1ヶ月も戻らないっていう訳でもないみたいだし」


 「なに言ってるのよ、他人事みたいに。タツキも行くんだから準備してね」


 「はぁ? 何でお前の学校行事に俺が行く必要が・・・・・・」


 「タツキはあたしとパーティを組んでるでしょ? 出来る限り普段の冒険通りにするんだって」


 

 言われてもう一度読み直してみると、確かにそのような事が書いてある。

挙句の果てに、宛名がリリア・カラード、タツキ・アンドーとなっている。何故?



 「何か、俺の名前も入ってるんだけど、どうして?」


 「そりゃあ、あたしとパーティを組んでる人の名前なんて調べれば分かることだもの。

  それなりに長くやってるし、一時的な物ではない、本格的なパーティだと判断したんでしょう」


 「魔術学校の行事って、パーティメンバーまで巻き込んでやるものなのか・・・・・・」


 「・・・・・・迷惑だったなら、あたしだけで行ってくるけど」


 「ああ分かった、一緒に行くよ、だからそんな悲しそうな顔しないでくれ」



 俺は露骨に嫌そうな顔でもしていたのか、リリアが悲しそうな表情になる。

少し、いや、かなり面倒なのだがここで行かないと言うのも些か薄情かもしれない。

くそぉ、高校の体育祭すら最初だけ出て後は寮の自室に引きこもった実績のある俺が・・・・・・



 「それで? 魔術学校はどこにあるんだっけ?」



 『知識』をイメージすればおそらく分かる内容だが、別にそこまでする必要性を感じなかったので

リリアに直接聞いてみた。



 「タツキって気持ちの切り替えが早いよね・・・・・・ファディア国の首都、ミースにあるわ」


 「ウダウダ言っててもしょうがないからな。ミースなら歩いていける距離じゃないと思うが、

  通行手段は馬車か? 馬車だとして、それは自己負担か?」


 「そう、馬車ね。それでも1日はかかるけど。後、もちろん自己負担よ」



 もちろんって、ミースに比較的近いルガーラの俺達はともかくとして、

辺境のギルドを拠点にした人達はどうするんだ。金も時間もかかるし、最悪戻れないだろ?



 「日程は教えられていないけど、この行事があるということは知らされているし、

  もしそうなったら自業自得ね」



 俺の疑問を感じ取ったのか、リリアはそう続けてきた。

魔術学校ってのは随分、厳しい教育をしている所らしい。日本じゃ考えられんな。

まあ地球には魔術学校なんて無いし、比較するのが間違っている気もするが。



 「それにしても、今すぐ行くのか? いつから始まるんだ、その行事」


 「始まるのは今から1週間後だけど、タツキの首都観光も兼ねてすぐにでも行かない?」



 そう言うとリリアはいつぞやのように頬を赤く染めて、妄想に入る。

・・・・・・お前、俺の首都観光とか言ってるけど、父に早く会いたいだけだろ。

リリアの名誉のためにも指摘はしないでおいたが。











 準備を整え(とは言ってもカバンに着替えを詰め込むくらいだが)ベクトラ・サービスを出て、

大きい馬車が多数待機している、駅のような公共交通機関にやって来た。



 「ミースの駅ほどではないけど、結構人が来てるわね」


 「ん? あ、ああそうだな」



 リリアは人がまあまあ多いと感じたようだが、現代日本のラッシュアワーも見たことのある俺には

別にそれほど混んでいるとは思えなかった。

こういうことばっかりは事前知識があってもギャップを感じるな。一瞬反応が遅れてしまった。


 何はともあれチケットも買い、出発時刻まで適当に時間を潰している事にした。

リリアはそわそわしているが、おそらく父の事でも考えているのだろう。

会話できる雰囲気ではなくなったので、柱に寄りかかりミースや魔術学校の知識を検索する事にした。


 体が浮かび上がるような感覚の後、知りたい項目についての一般知識が流れ込んでくる。 

ミースはファディア国の首都、かなり発展していて、冒険者にとっても便利な施設があるらしい。 

ファディア国立魔術学校はこの世界でも最大規模の魔術師養成校で、ここの卒業者は引く手あまた。

まあ、ようするに名門だという事か。


 まだ時間があるので、今度は魔術についての踏み込んだ知識を検索してみる。

初歩の初歩と言われる魔術ならば、少し教育を受けるだけでも使用可能。

体系化された正当な魔術形式での物は、初級クラスでも最低4年教育を受ける必要があるとされる。

中級クラスは最低6年程度、上級クラスともなれば努力だけでは到達できないレベル。

そして大体の向き不向きというものがあって、攻撃魔術が苦手、補助魔術が苦手、等があり

特に、魔術の属性というものにはこの特徴がはっきりでてくるらしい。

・・・・・・リリア、初級クラスならほぼ全て扱えるって言ってたし、

実際に様々な属性の攻撃や、補助魔術を使っていたが、あれはかなり優れた才能なのか?

名門の学生だから当然という訳でもないみたいだし。

後、これも初めて知ったんだが回復魔術というのは存在しないらしい。

いや、厳密には無い訳ではないみたいだが、上級すら超えたレベルの魔術師しか扱えないらしく、

事実上ないものとされているようだ。

しかも、ある特定の神を熱心に信仰する人には、その神から人を癒すスキルが与えられるので

わざわざ回復魔術を使用する必要がない、というのもあるみたいだ。


 結構長く思考していて、駅の時計を確認するとそろそろ時間のようなのでリリアを探す。

すると何やら、ぎゃあぎゃあと言い争っている声が聞こえてきたので何事かと近づく。



 「だから! あたしは特化するより万能な魔術師の方が優れているって言ってんの!」


 「あら? まだ中級クラスの魔術を一つしか使えない人が万能なんて言えるのかしらねぇ?」


 「そう言うあんたは初級クラスの魔術を半分しか使えないじゃない!」


 「初級の魔術をいくつも覚えるより、中級魔術を覚える方が便利だとは思わないのかしら?」


 「くうぅ~、ムカつく女! だいたいにしてあんた、友達少ないのよ、この高飛車!」


 「それはあなたも人の事言えないと思うのだけど・・・・・・

  まあ、わたくしのレベルについてこられない人達ばかりですもの」


 「ふん、そんなだからパーティも組めずに一人で冒険するはめになるのよ」


 「あなたはパーティメンバーを見つけたと言うの? よほど苦労してるでしょうね、その人」


 「きぃ~~~! タツキ、来なさい! こいつは敵よ! ぶん殴ってもいいわ、許すから!」



 穏やかではない雰囲気だが、来いと言われて無視する訳にもいかない。

後でぐちぐち言われるのも嫌だし。



 「なんだよ、敵って・・・・・・後、リリアに許されたからって殴れる訳ないだろ」


 「あら、リリアのパーティメンバーの方ですの? お初にお目にかかりますわ、

  わたくしはカレン・クロウリーと言います、よろしくお願いしますね」


 「俺はタツキ・アンドーだ。こちらこそよろしく」



 随分と魅力的な笑顔を浮かべながら挨拶してくる。

よろしくと言われたので、よろしくと返しておいた。しかしリリアはそれが気に入らなかったらしく、

不機嫌な表情でカレンに言う。



 「あんたはそうやって初対面の人に媚びるのをやめなさい」


 「別に媚びてなんかいないわよ? 魔術についての有意義な会話ができる人かもしれないもの」

 

 「・・・・・・あんた、もしかしてそれで友達選んでる訳? やっぱり嫌なやつ」



 ここまでの会話から考えると、カレンはリリアの同級生なのだろうか。

友好的な関係ではないようだが。しかしエリートとはこういうものだったのか。

確かに俺だって、あまりにバカな人と積極的に会話をしたいとは思わないから黙っていたが。



 「う~ん、でも望み薄かもしれないわね、魔力量もかなり少ないですし」



 ・・・・・・流石にいらっとした。さっき「バカな人」について考えていたが、

俺にとって、それの定義は頭がいいか悪いかではなく、人の迷惑について考えられるかどうか、だ。

魔術についての有意義な会話、というがそもそも魔力量で人を判断するのが間違っている。

言葉自体には悪意を感じないから、見下してる訳ではないようだが・・・・・・


 俺にもプライドがあるので、少し見返してやる事にする。



 「魔力量の多さの違いが、知識を決定づける要素ではないことを教えてやる」


 「へ?」


 「何故、魔術を発動する際に魔力のロスが起こったり、失敗するか知っているか?」


 「そ、それは、えっと、神や精霊の監視があるからよ」


 「ならば、何故監視をしているか分かるか?」


 「何故って、えっと・・・・・・本来はあり得ない現象を引き起こすから」


 「それを発見者の名前をとって、何という?」



 やっべ、これ、楽しいんだけど。どんどん高飛車な少女が涙目になっていくぜ!

いや、冷静になれ俺。これではただやり返しているだけだ。まったく意味がないことだ、自重しよう。



 「そ、そう言うあなたは分かるんですの!? 質問するだけなら誰にだって出来ますわ!」


 「答はブルート効果、だ。後、虐めるような事して悪かった。すまない」



 案の定、爆発させてしまったようだ。こういう事をカレンは無意識にやっていたのかもしれないが、

俺に注意する権利はないだろう。本当に「こういう事」をしていたのか実際には分からないし、

ついさっき会ったばかりの人間が訳知り顔で偉そうに言える事ではない。

悪い癖が出たとはいえ、俺自身がやってしまったし。



 「ふん、謝る必要なんてないわ、タツキ。

  それにしても、それ高等魔術教育の内容よね? よく知ってるね・・・・・・」


 「そうですわ! タツキさんは、魔術学校の卒業生なのですか!?」



 今のやりとりは、現役の学生を興奮させてしまったようだ。

二人してずいずいっと詰め寄ってくる。



 「あー、とりあえず馬車に乗ろう。もう時間だぞ」


 「そうだ、こいつのせいですっかり忘れてた!」

 

 「あなたが先に仕掛けてこなかったかしら?」


 「仲良くしろとは言わないから、せめて静かにしてくれ・・・・・・」



 ものすごく不安になりながら、馬車に乗り込むのだった。











 馬車の中で話を聞くと、二人はやはり同級生で、ライバルのような関係らしい。

さっきのような言い争いはこの二人にはいつもの事みたいだ。

リリアとカレンは並びたくないらしく俺の左右に座ったのだが、その状況で言い争うからたまらない。

両手に花と言えなくもない筈なのに、全然嬉しくない。

カレンが挑発のためか、やたらと俺に接触してくるのだが、その度にリリアの機嫌が悪くなり

居心地も悪くなる。これが1日も続くというのか。

・・・・・・もうやだ、クリーム蒸しパンになりたい。



 「タツキさんは、記憶喪失との事ですけど魔術についての知識は相当なものですわね」


 「まあね」


 「あたしも知らなかったわよ。確かに上級魔術を使ってたけどさ、才能でやってるんだと思ってた」


 「上級魔術!? その魔力量で発動できるんですの!?」


 「なんで発動できるのかしら?」


 「あなたはパーティメンバーなのに教えられていないの? 信用されていないのではなくて?」


 「あ、頭に来た・・・・・・て、タツキから離れなさい、なんでくっつくのよ!」


 「タツキさん、リリアよりもわたくしの方がお役にたてると思いますわ、どうでしょう?」


 「んな訳ないわよ、もう1ヵ月もパーティやってて、ランクだってDなんだから」


 「わたくしは一人でDランクまで行ったのだけど、足を引っ張っているのではないかしら」



 こんな調子の言い争いが延々と続いているのだ。

途中まで普通に会話していたかと思いきや、いきなり始まるから手に負えない。

リリアが口火をきる時もあれば、カレンの時もあった。

いずれにせよ、間にいる俺は色々とストレスが溜まってくる。


 今のでまたカレンがくっつき、またリリアから離れなさいと言われる。

よくもまあ、飽きもせず同じことを何回も繰り返せるな。


 カレンはさっきから気のあるような素振りを見せるけど、実際そういうつもりはないみたいだ。

リリアを挑発するのだけが目的であって、特に俺である必要はないのだろう。何となく、分かる。

魔術の知識量について、素直に尊敬はしているみたいだが・・・・・・



 「二人とも、今から俺は寝るから静かにしてくれ。言い争いするな、周りにも迷惑かける」



 そう言うと、二人は今更ながら馬車の中を見回し、ばつの悪そうな顔をする。

やはり、他人の迷惑を考えられない訳ではないけど、少しヒートアップし過ぎるんだな。

急に大人しくなったリリアとカレンを見て、そう思った。











 中途半端な時間に目が覚めてしまい、眠れなくなってしまった。

休憩中なのか馬車も止まっているため、夜風にあたろうかと考えて外に出る事にした。

星を見て、星座を勝手に作って遊んでいると誰かが近づいてくる。

『探索領域』に害意が反応しないため、危険はないと判断し、ゆっくりと意識をそちらに向ける。



 「あ、起きられたのですね」



 見ると、カレンだった。昼とは少し雰囲気が違う。



 「先程はすみませんでした。人の迷惑も考えずに幼稚な言い争いを・・・・・・」


 「いや、分かればいいんだが、どうした? 昼とは雰囲気が違うな」


 「さあ、何故でしょうか。あまり人がいないからかもしれません」


 「人がいないから? でもそっちの方が素直で魅力的だと思うぞ」



 まさか自分が女子に魅力的なんて言えるとは思ってもいなかった。

しかも今日会ったばかりの人間にたいしてだ。

中学生時代の黒歴史を思い出した時のような感覚がする。ムズムズするぜ。



 「お世辞でも嬉しいですわ、そのセリフ。わたくしもできる限りはこうありたいと思うのですが、

  今更変えられる物ではなかなかありませんね」



 その言い方からすると、人が周りにいるとどうしても仮面をかぶってしまう、ということか?



 「あまり気になさらないでください。どうせ、朝になれば元に戻っているでしょうし」


 「分かった、そうするよ。ところでカレンはどうして外に出てきたんだ?」


 「眠れなくなってしまったので」


 

 ああ、俺と同じような理由なのか。

そろそろ戻ると言うので、おやすみなさいと言っておいた。

あまり体が冷えないうちに戻った方がいいですよ、と返して、カレンは馬車に帰って行った。


 同時に戻るのが、何故か気が引けた俺はそこで暫く星座づくりを続けるのだった。

・・・・・・我ながら、随分と古典的な時間潰しをしているな。

 

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