92(終).異世界龍人譚
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俺はすぐ飛び上がり、妹から距離をとる。
「ちょ、おにぃ―」
「来るな!!」
俺は妹にそう叫んだ。妹はびくっとして、小刻みに震える。
「ちょ、ちょっと!いったい何事だ!?」
「イグニくん!?いったいなにを...!?」
「セルクさん、シエルさん、あんたらもだ。」
こちらに近づいていたセルクさんとシエルさんに対して、にらみを利かせる。唯がまた近づこうとしてきたので、睨みつつ後退した。
「いいか、それ以上こっちに来るな。」
心の中で、いつかこうなるかもと覚悟していたことを、震えながら口にした。
「お前たちとは、ここでお別れだ。金輪際、会うことはないだろう。俺は天界と魔界から、みんなを見守ることにするよ。」
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「は...?何を言ってるんだイグニくん!?自分で何言ってるかわかって...!!」
「わかってるさ。...俺の中の龍はお前たちにとって有害だからな。俺が近くにいたら、お前たちは傷ついてしまう。今は火傷程度で済んでいるけど、今後どうなるかはわからない。」
「こ、この程度我慢して...!」
「手を近づけただけであの有様だったんだぞ、我慢できるはずがないだろ。」
俺は次々とあふれる言葉に身を任せる。まぎれもない、俺の本音が吐露する。
「俺だってこんなの嫌だよ。もっとみんなと一緒にいたい。でも、こうするしかないんだ。きっと、これが俺の運命なんだ。これは俺の罪滅ぼしだよ。死んで終わりだった命が、罪を償うチャンスをもらったんだ。それと...セルクさん、シエルさん。今の俺はもう、あなたが好いていたイグニではないよ。だから、もう...俺のことを思う必要はないんだよ。」
「でもイグニの記憶はあるんでしょう!?姿も、その不器用な優しさも、自己犠牲の精神も、イグニそのままじゃない!あなた一人になんて、そんなさみしい思いさせたくないよ!」
「一人じゃないよ、みんなが俺の心の中にいる。会えないのはさみしいけど、みんなのことは見守ってるよ。」
「やだ...行っちゃヤダ!もう一人にしないで...!!」
「大丈夫、一人じゃない。今度は父さんも母さんもいる。それに、セルクさんやシエルさんもいる。...2人とも、最後のお願いだ。妹のこと、よろしく頼むな。」
俺はそういって、くるりと体を翻す。
「イグニ!!」「イグニくん!!」「おにぃ!!」
呼び止める声が聞こえる。俺だって、許されるなら、足を止めてしまいたい。みんなともっといたいよ。
だけど...俺は俺がやるべきことをやらなきゃ。
「さよなら、ありがとう」
俺は、背中の翼をはためかせ、ビーム砲でできた穴から、大空へと飛んでいくのだった。
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昔々、この世界には、龍となった青年がいました。その青年はあらゆる場所から世界を見守り、陰ながら厄災を退けました。いつしか生きる伝説となった彼は、誰もが知るが誰も知らない神として、各地であがめられました。
すっかり観光名所となった魔王城跡地には、ある日だけ3人の女性がひっそりと集まり、神へ祈りを捧げます。どれだけ時がたとうとも、その命が尽きるときまで、その女性たちはその一日、祈りをささげることを決して忘れませんでした。
150年の月日がたち、やがて一人となった老婆は、白紙の本とペンを取ります。それはまるでおとぎ話のような、一人の青年が龍人と化し、いろんな経験を経て神となるまでのお話です。
「...いつもでも、忘れないよ」
そういって老婆は微笑み、書き終わった本を閉じます。その本の表紙には、タイトルのような分が添えられています。
『異世界龍人譚』と。
― 異世界龍人譚~悲しき死刑囚は、今世で幸せを望む~ 完—
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