89.最終決戦
☆☆☆
俺は手のひらを突き出し、もう片方の手で手首をもつ。突き出したほうの手のひらに、すべての力を注ぎこむ。生きるか死ぬかの大一番、余力など残さない。
それは敵も同じこと。ブールは両手を引き、それそれの手のひらに力を込めているようだ。敵の力が増大していくのが目に見えて分かった。何なら、先ほどまでの力を超えているようにすら思える。
「ちっ...やっぱさっきまでは全力じゃなかったか...!」
「ふん、当たり前だろう。勝てる自信がなければ、こんな提案はしない。...お前の敗北は見えたな、先ほどまでより力が下がってるんじゃないか?」
「ぐ...っ」
見透かされていた。全力を使った反動で、力を込めてもところどころから漏れているのを感じていた。
だけど、それでも逃げるわけにはいかない。ここで逃げたら、世界は終わってしまう。イグニが守りたかった家族を、大切な人たちを、守れなくなってしまう。だから、最期まであがく。こいつの全力の攻撃を長く耐えて、みんなが逃げられる時間を作る。それが、俺に課せられた使命だ。
...別の世界で、多くの人を殺めてしまった、俺自身の償いなんだ。
「なるほど、覚悟はできているようだな。時間稼ぎなどさせん、一瞬にして粉々にしてやる!はあぁぁぁぁ!!」
そういって、ブールは両手を前に突き出した。まばゆい光が、あたりを包み込む。
「そうは...させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺も、突き出した手のひらから魔法を放つ。両者の魔法がぶつかり、せめぎ合い...が起こる前に、いっきに敵の魔法が俺を押し出す。
「あっ...があぁぁっ!!」
ギリギリのところで踏みとどまるが、少しでも油断すればあっという間に俺のことを包み込むだろう。ぶつかって分かった、今の俺の力は、あいつの半分程度しかない。このままじゃ、すぐにでもかき消されてしまう...!!
「瞬殺は避けられたようだ。だが、だいぶギリギリだなぁ?」
「ほざ...けっ!!」
今にも俺を飲み込もうと、敵の攻撃は迫ってくる。俺の手のひらからブールの魔法攻撃までの距離、およそ3センチ。本当にギリギリのところで耐えていた。今にも手が持っていかれそうになる。
「っ...う...がっ...!!!」
手のひらがチリチリと焼ける音がする。もう、本当にギリギリだ。とうに限界を超えている。
「いい加減あきらめたらどうだ?死ぬまでがつらくなるだけだぞ。諦めてしまえば、痛みを感じる必要はなくなるのだがな?」
「はっ...お断り、だっ...!!」
「そうはいってもその体、もう終わりの寸前だろう?魔法が徐々に弱まってるぞ?」
俺の手のひらからブールの魔法攻撃までの距離はどんどんと縮まっており、もうすぐ2センチを切ろうとしていた。...だけど、それでも。
「それがどうした...まだ負けてない!たとえ手が朽ちようと、魔力が尽きようと、俺はあきらめない!まだ...まだ負けちゃいないんだ!!!はああああっ!!」
俺は最後の力を振り絞り、力を使う。少しだけ魔法が押し戻り、3センチあるかないかくらいになる。
「俺は一人じゃない...家族が!仲間がいる!だから、孤独なお前には、絶対負けない!!」
「そうか、じゃあ死ね」
無慈悲にそういうと、敵は口からも魔法を放ってきた。魔法は威力を増し、俺の魔法を跡形もなくかき消す。俺は咄嗟に板状の薄い魔力壁を作り、初撃から身を守る。しかし、ただえさえ魔力不足の状態でつくったそれは、一瞬にしてひび割れていく。
「みんな...」
俺は小さく叫ぶ。
「あとは...頼むな。」
そのまま、魔力壁は砕け散り、俺を光が包むー
☆☆☆




