表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/62

8.父と子の葛藤

☆☆☆

「あなた、これからどうするの?勝てないからって、黙って見てられるような人じゃないことは、私がよくわかってるつもりだけど。」


母さんは、父さんの頭をやさしくなでていった。


「当たり前、何もしないわけがないだろう。勇者は、あいつはあいつなりに、やれることをやるらしいからな。俺も黙ってみてるわけにはいかない。」


父さんはグッと拳を握った。


「勝ち目はないかもしれないが、戦う前から怖気づいてたら話にならねえよな。一か八か、やれるだけやってみるか。」


「わかってるとは思うけど、なにより命を大事にしてね。死んじゃったら元も子もないんだから。危ないと思ったら、直ぐに逃げてね?」


「わかってるさ」


父さんは、優しく微笑みながらそういう。その目を見て、父さんのやろうとしていることを理解した俺は、父さんの前に立ちふさがった。父さんを行かせてはならない。俺の感がそう告げていた。


「イグニ?」


「・・・父さん、何をするつもり?」


「何って、さっきの聞いてたろ?魔王を止めに行くんだよ。」


「勝ち目はないって自分でも言ってるのに、何か策でもあるの?」


「お、わかっちゃう?その通り、実はとっておきの策があるんだ。普通に戦っても勝ち目はないがな、封印してしまえばこっちのもんだ。」


父さんは親指を立てて、そういう。


「封印?封印の魔法なんていつの間に覚えたの?」


「今まで一回も使ったことはないが、昔から使えた魔法ではあるんだ。使いどころがなかっただけで、隠してた訳じゃないんだけどよ。先祖代々受け継がれている、一子相伝の大魔法さ。イグニもいつか使えるようになるよ。」


父さんはあっけらかんとそう答えた。その話が本当なら、確かに魔王を止めることはできるだろう。俺は再度、父さんの目を見る。・・・やはり、このままいかせてはいけない。


「悪いけど父さん、その魔法を使わせるわけにはいかないよ。たとえ本当に、それで魔王を封印できるとしても。」


「はあ?なんでそんなことを」


父さんの言葉をさえぎって、俺は真っ直ぐ目を見て言った。


「それさ、自分の命と引き換えに封印する魔法なんでしょ?違う?」


俺がそういうと、父さんはピタッと固まり、そして俺から目をそらした。俺が父さんから感じていた違和感。雰囲気は今まで通りだが、目の輝きがなく、濁って見えた。


俺は、あの目を知っている。何を隠そう、前世の俺と同じ、死を覚悟したものの目だ。


「あ、あなた?まさか、そんなことはないわよね?」


母さんが震えた声でそう聞くが、父さんは母さんのほうをちらりと見て、何も言わずに俺のほうへ向き直った。


「イグニ、お前どこでそれを知った?」


父さんは少し怒りの表情を見せながら、そういった。驚いたな、どうやら本当に術者の命を犠牲にする魔法だったらしい。


「確証はなかったよ、なんとなくそんな感じがしただけ。でもそれが本当なら、絶対にその魔法を使わせるわけにはいかない。」


「今となっては、俺以外知らないはずの大魔法なんだがな。お前の言うとおりだよ。こいつは、術者の命を代償として、術者ともども対象を封印する魔法だ。封印の期間は、術者の寿命が尽きるまで。これなら、魔王だろうと封印できるはずだ。わかってくれ、勝てない以上、これに賭けるしかないんだよ。」


父さんはそう言って、また俺から目をそらした。


「わかってたまるか。なんで父さんが犠牲になる必要があるんだよ。」


「俺は勇者パーティの一員なんだぞ。命を懸けてでも守らなきゃならないものがあるんだ!」


それを聞いて、俺はいてもたってもいられず、気づいた時には父さんの胸倉をつかんでいた。身長差があるせいで、父さんを下へ引っ張る形になってしまっているが。


「あんたは勇者パーティの一員である前に、俺たちの家族だ!母さんの夫で、俺とユイナの父親だ!あんたが命かけて守るべきなのは、他人の前に家族だろうが!!履き違えてんじゃねぇ!!」


「い、イグニ・・・?」


「俺は家族を失いたくない!!頼むから・・・みすみす命を捨てに行くような真似をしないでよ・・・」


俺は父さんから手を放し、その場に崩れ落ちた。これは俺のわがままで、父さんは勇者パーティの一員としての責任を果たそうとしているだけ。それははわかってるけれど・・・俺はその行為を、許すわけにはいかなかった。家族をないがしろにするような行動を、父さんにしてほしくなかった。


「・・・ごめんな。」


父さんはそういって、優しく、俺を抱きしめるのだった。

☆☆☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ