84.嵐の前の静けさ
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「...!まさか、これは...!?」
頬杖をついて玉座に鎮座していた我こと魔王は、自分が分け与えた魔力の消失を察知して、すぐさま玉座から立ち上がった。消失した方向にいたのは、最期の四天王、アブソーが門番をする、魔王城の入り口付近。誰が消えたかなど、明白だった。
我はふらふらと玉座に戻る。アブソーがやられたということは、我ですら打ち破ることが困難だったバリアを、短時間で突破したという証明に他ならなかったからだ。そんな化け物のような奴と、今から戦うというのか。
「魔王様、いかがなされましたかな。」
メイド長兼魔王補佐が、頭を抱える我をみて言う。
「アブソーが、やられた。」
「...ほぉ、そうでしたか。」
「あいつらどうせ、すぐにここに乗り込んでくるだろう。このままでは、私の世界が...悲願が...!!」
我は自身の肩をつかみ、震える。我だって生きているもの、死ぬのは怖い。
「しっかりなさってください。あなたは魔王です、負けるはずがありません。」
「いや、我にはわかる。絶対勝てるわけがない!あんな化け物、どうやって倒せと!?」
我はさらに震えた。勝てっこない化け物と、今から戦わなければならない。その事実は我を絶望させ、震え上がらせるには十分だった。
「...はぁ、仕方ありませんね。」
彼女は、大きくため息をついて、私の前に立つ。そして、私の方にポンと手を置いた。優しい笑みを浮かべているその姿は、前回の勇者戦をフラッシュバックさせる。
前回の戦いでも震えていた我を、彼女は優しくなだめてくれたのだ。だから我は戦うことができた。
「ミュー...」
そのことを思いだし、彼女の名前を静かに呼ぶ。心が少しずつ穏やかにー
「では死ね」
次の瞬間、我の3つある心臓のすべてのど真ん中を、ナイフが深々と突き刺した。
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シエルとセルクを治療し、魔王城の入り口へと入っていく。彼女らは何か言いたげな表情をしていたが、魔王を倒したらすべて話す、という制約を交わすことで、その場は収まった。
魔王城の中は静まり返っている。罠などがないか慎重に進むが、今のところ何もない。敵一匹いないさまは、まるで廃墟のようだった。
「妙ね、ここまで静かなのは...もっとセキュリティ頑丈な気がしていたけど。」
「むぅ...おかしいな。前回は魔王城の中まで魔物がうじゃうじゃいたのに...」
「まあ、戦わずに進めるなら、それに越したことはない。体力が魔王戦まで温存できるからな。」
慎重かつ大胆に歩を進める。静かすぎて、とても不気味だ。
そして結局、誰にも会わずに魔王のいる部屋まで来てしまった。このまま進んでいいものか悩んだが、3人で顔を見合わせて、扉を開ける。
「なっ...!?」
「ひっ!?」
「これは...」
...そこにいた、いや、"あった"のは。
魔王だったものの亡骸、この城にいたであろう魔物たちの亡骸であった。
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