81.後悔はなく、慈悲もなく
☆☆☆
『いま一度考え直せ、俺とてこの手は使いたくないのだ。お前と1つになるなど、考えただけで吐き気がする。だから、まだ遅くない。別の手を...』
「はっ」
俺は鼻で笑って、こいつの言葉を遮る。
「何度も言わせるなよ、いい加減うざいぜ。ああ、俺が言うみんなの中に、俺自身は入っていないさ。...でもな」
俺は拳をぎゅっと握る。
「それでいいんだ。もとより、俺はこの世界の人間じゃない。別世界から迷い込んだ、旅人だ。俺がいなくとも、世界は回り続けることができる。むしろ、別世界からやってきたよそ者が、世界平和に貢献できるんだぜ?これ以上嬉しいことがあるかよ。」
そういう俺の手は、震えていた。心残りがないといえば、罪悪感がないといえば、それは嘘になる。だが、それよりも俺は、みんなの平和を守りたい。...それが、かつて自らの手で平穏をぶち壊した人間がすべき、償いなのだから。
『...わかった、もはや何も言うまい。...力を体内に集中しろ。』
俺の意志を組んだのか、俺の中の龍はため息をつきながら、俺に応えてくれた。
「ああ。悪いな、お前まで巻き込んで。俺なんかのもとに生まれなければ、もっとまともな人生...龍生?を送れたんだろうが。」
『気にするな、もとより無から生まれた存在だ。それに、お前といた日々は、そう悪いものでもなかったさ。』
気を使ってくれたのか、龍はそんな言葉を言った。
そして今、俺の中の精神が一つに重なる―
☆☆☆
「ふん、何か来るかと身構えていたが...打つ手なしのようだな。そのようにうなだれて、降参の合図か?」
アブソーはくっくっくと笑い、イグニくんへ近づいていく。
「ぐっ...!い、イグニくん...!!」
何をしているんだ私は。足に気が刺さったくらいで、うろたえるな!動かなきゃ、守らなきゃ...!好きな人も守れず見てるだけなんて、そんなの...!
「女、動くなよ。その場から動けば、先にお前の首を飛ばす。」
「ふ、ふふふ...やってみろ!これでも私は、元勇者パーティの...!」
「そうか。なら一層死んでもらう理由ができたな。」
アブソーが私に視線を向け、こちらへ向かってくる。これで多少時間稼ぎができたはずだ。...でももう、イグニくんやシエルさんには会えないかな。
私は目をぎゅっと瞑る。静かに、最期のときを―
「おい、何勝手に死のうとしてんだ。」
「む?っが!?」
見知った声に似た声がして、はっと顔を上げる。先ほどまで私に近づいていたアブソーは、地面に突き刺さっており、その代わりに目の前にいたのは...
「...い、イグニ、くん...なのか?い、いや、お前は...フリート...でも、ない?」
イグニくんの姿をしてはいるが、その目は黒く濁っており、体から赤黒いオーラ...いや、炎が出ていた。ところどころに龍を彷彿とさせる意匠があり、前に現れたフリートという、イグニくんの中の龍に似ているけれど、それとも違う。
また別の、イグニくんのような何かが、そこにいた。
☆☆☆




