7.勇者からの手紙
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それから、1年の月日が流れた。あれからも俺は修行を欠かさず、近接戦闘ならそこそこ戦えるようになった。
相変わらず風魔法は上手くいかず、成長は見られないけど・・・身嵐発動までのラグが、多少改善されたような気もする。
というか、風魔法はほぼ諦めた。これ以上特訓しても上手く扱えるようにはならなそうだ。それを自覚してからは、現状維持に務めることにした。
というか、魔法に関しては妹が天才すぎて、もうお手上げだ。あいつ身嵐だけじゃなくて、風の斬撃を飛ばしたり、竜巻を作って当たりを吹き飛ばしたり・・・この間なんて、風に乗って空を飛んでいた。もうなんでもありだな。
だからそっちは諦めて、俺は得意分野・・・短剣による近接戦闘を伸ばすことにしたのだ。その方が強くなってる感もあるし、それに・・・。
修行から家に戻ると、父さんと母さんが険しい顔をしていた。2人して頭を抱え、どうしたものかと唸っていた。
テーブルには、1通の手紙が広げられている。その内容が悩みの種であることは間違いなさそうだけど・・・一体どんな内容なんだ?
「どうしたの、2人とも。」
「イグニ・・・修行から戻ったのか。ちょっと、いやかなり予想外の事態になっちまってな。父さん達、もうどうしたらいいのか・・・。」
「まさかこんなことになるなんて。いつか、もしかしたら、とは思ってたけれど、さすがに早すぎるわ・・・」
「一体、何があったの?」
俺はテーブルに置かれた手紙をとって、読んだ。
「差出人はケンジ・ハセ・・・ってちょっと待ってよ、この人確か魔王を倒したっていう・・・」
「あぁ、勇者だよ。たまにどうでもいい連絡をよこしてくるから、今回もそれだと思ったんだけどな。」
ケンジ・ハセ。父と行動を共にしていた、勇者の名前。本人に聞いた訳じゃないからあれだけど、名前からして日本人としか思えない。
俺と同じく、死んで第2の生をここで受けたのか、はたまた召喚でもされたのか・・・まぁ、どちらでも俺にとっては関係の無い話だ。
俺は、そんな勇者から父と母宛に差し出された、手紙の内容をよく確認してみる。そして、その内容を理解した時、俺は恐怖した。
「魔王が、復活した?昔より強い力を持ってる可能性が高いって・・・」
手紙を持つ手が、汗で濡れていた。
この世界には、かつて悪い魔物を率いて支配していた、魔王なる存在がいた。人類の滅亡を企み、様々な方法で人々を惨殺し、恐怖へと陥れた。そんな魔王を、約15年ほど前に勇者が打ち倒した。
そう、打ち倒したはずなのだ。跡形もなく消え去り、そうそう復活など出来ないようにしたと、俺は聞いていた。なのに現実は残酷で、たった15年で復活してしまったようだ。しかも勇者の話では、さらに強くなって戻ってきたらしい。
「今の俺たちじゃあ、このまま今戦ったとしても、まぁ勝てねえだろうな。」
父さんは、とても自信なさげに答えた。いつもの父さんとは似ても似つかないほど、弱々しい声だった。
「ど、どうして?父さんはこんなに強いのに・・・」
「はは、強いか・・・これでも、全盛期と比べるとかなり弱まってるんだぜ。魔王直属の部下、四天王にギリギリ張り合えるかどうか、くらいには弱体化してんだ。そんな状態で、全盛期以上の魔王に勝てる見込みはないよ。」
「でも、何も父さん1人でってわけじゃないでしょ?1人では勝てなくても、勇者パーティがみんな集まれば・・・」
「多分、集まったところで勝てはしないだろうな。歳食って弱くなったのは、何も俺だけじゃない、勇者やほかのメンバーだって例外じゃないんだ。何より、その勇者様本人が勝てないって言ってるんだよ。」
父さんは、心底悔しそうにそういうのだった。
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