76.焦る敵と罠
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「くそっ!!」
ガシャンと音を立て、ワイングラスが割れる。魔法で作られたそれは、粉々に崩れ去り、そのあとにはワインのシミが残るだけだった。
「お、落ち着いてください魔王様!」
「落ち着けだと!?これが落ちついていられるか!」
魔王と呼ばれた男は、わなわなと手を震わせる。
「まさか魔の神が奴らの手中にあるとは...!こんなバカな話があってたまるか!くそっ!!」
「ですが、完全ではないようです。これならまだ...」
「完全でない状態で、四天王を瞬殺したんだぞ!それも10数年前にとは比べ物にならないくらいの強さを持った四天王がだ!何か手を打たねば...!」
魔王が憤っていると、そばにいた最後の四天王がくっくっくと笑った。
「貴様、何がおかしい...!」
「いえ魔王様、私の力をお忘れですか?魔の神とやらがどんな強大であっても、所詮は一匹のケモノです。私の力には及びませんよ。」
「...っふ、そうだったな。四天王の中でもお前は特別な力を持っている。では頼んだぞ、アブソー。私の手を患わせてくれるなよ。」
「ええ、お任せを。あなた様に祝福を、歯向かうものには絶望を...」
そういって、アブソーと呼ばれた最後の四天王は、暗闇に消えていった。
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「ねえ、こっちで合ってるのよね?さっきからおんなじところ回ってるだけな気がするんだけど...」
「あ、あってる!...はずだ。10数年前に来た時と同じ道を通っているからな...!多分。」
「なんで節々に保険かけるの!?ちゃんと言い切ってよ!?」
「あ、いや、うん!あってる、あってるぞ!」
四天王との戦いから数時間後、俺たちは街を出て魔王城へと向かっていた。セルクさんが道案内をする、というので任せてみたが、この状態である。
「あ、あはは...やっぱり俺が飛んでみてこようか?多分魔法か何かで道がわかりずらくされてるっぽいし。このタイプの森は、上に出てしまえば魔法の影響受けないからさ。」
「い、いや大丈夫だ!イグニ君はちょっと前まで死にかけてたんだから、今は休んでおくべきだ!...それに、私も役に立ちたいし...」
「ちょと最後のほう聞き取れなかったんだが、なんか言ったか?」
「何でもない!とにかく大丈夫だから!泥船に乗ったつもりでいていいぞ!」
「泥船じゃダメじゃないかな...」
俺とシエルさんは顔を見合わせて、ため息をついた。と、その時。
「...ん?急に霧が晴れたな。」
森を覆っていた不気味な霧が、なんの脈絡もなくすっと晴れた。
「あ、あそこだ!あそこを通れば魔王城へ行けるぞ!」
「ま、待って先生!」
嬉しそうに指さして先へ進もうとするセルクさんを、シエルさんが止めた。
「これ絶対罠だよ!こんな何もなしに霧が晴れるわけないもの!きっとこの先に、四天王が真座してるに違いない...!」
「...ま、だろうな。」
俺はため息をつき、シエルさんとセルクさんの手に触れる。
「でも、行くしかない。この先に魔王城があるなら、たとえ罠だとしても、進むほかないさ。」
俺はセルクさんが指さした方向を見る。
「...行くぞ、2人とも。」
俺たちは互いに頷き、先へ進むのだった。
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