73.魔の神という存在
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「え、ええと...?」
偽イグニくんもといフリートさんの言葉を理解することができず、頭のうえに大量の「?」を浮かべる。セルクさんも同じようで、首をかしげていた。
「...む?」
そんな状況を察してか、フリートさんは頬をかいて一度咳払いをした。
「...私は龍魔の神、フリート。闇を統べ、龍を統べる魔の神である。そして...こいつは、そんな私の生みの親だ。」
どういう結論に達したのか、また同じ説明を繰り返した。
「いやその、聞こえなかったわけではなくて...言葉としては理解してるんだが...」
「む、そうだったのか。だが、これ以上かみ砕いた説明というのもな...事実を述べただけなのだが...」
「事実...」
彼のその言葉を、自分の中で反芻させる。
「そうだ。俺が魔の神であるということも、こいつが生みの親ということもな。」
「いやそこがわからないんだっての!」
「???」
セルクさんが声を荒げるも、フリートさんはまったくもって理解していないようだった。
「一個ずつ片付けましょ。フリートさん、魔の神ってなに?魔王とはなにが違うの?」
「さんはいらん、むず痒い。フリートと呼べ。」
「わかった、フリート。」
「ああ、それでいい。それで、魔王との違いだったな。」
フリートはその場にドカッと座りこむ。
「簡単な話だ。魔王が唯一崇拝する神...いや、神という概念的存在、それが魔の神というものだ。俺はそれが心と体を持った姿と思ってくれればいい。」
「が、概念...?」
「魔王というものは本来、自身が頂点であるという自負を持つために、崇拝するものを持たない。崇拝するより、される側だからな。だが、十数年前のあるとき、その頂点である魔王が神へすがろうとしたことがあった。命の危機か、それとも別の何かか...そのあたりは知らん。そのときに、魔王が人間の神にすがるのはおかしい、という論争が巻き起こった...その果てに、魔の神という概念が作られたのだ。」
十数年前、というワードを聞いて、セルクさんがぴくっと体を振りわせた。
「...それだけで住んでいれば、このようなことにはならなかったのだがな。あろうことか魔王は、魔の神を具現化して自らの配下にしようと画策しだしたのだ。」
「自分で作った魔の神さえ、自身の駒にしようとしたのか...」
「まあ、そういうことだ。」
フリートがふんと鼻で笑いながら言う。
「...ちょっと待って。あなたは魔王が作り出したのよね。」
「ああ、そういっただろう。」
「じゃあさっきの話はどういうことなの?あなた自分で言ってたじゃない、セルク君が生みの親だって。話が矛盾してるわ。」
「ああそうだな、確かに矛盾してる。...ここまでの話ではな。」
フリートは含みのある言い方をした。
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