72.偽物の正体
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「あなた、誰なの...イグニくんをどうしたの!?答えなさいよ!」
私は偽イグニくんにそう詰め寄る。...が、ギロリと睨みつけられ、委縮してしまった。イグニくんの姿で睨みつけられると、どうにも胸が苦しくなる。
「ふん、命の恩人に対してその言い草か。人間、お前はいつ、神に指図できる立場になったのだ?」
「神...か。さっきもそんなこと言っていたな。」
セルクさんが一歩進んで言う。
「なあ神様、我々はイグニくんの仲間だ。あなたのことはまあいいとしても、イグニをどうしたのか、あなたがなぜイグニくんそっくりの姿なのか...そのあたりは教えてくれないだろうか。」
「...まあ、いいだろう。」
偽イグニくんはふぅとため息をついた。
「まずは安心させてやろう。この体はコピーでもなんでもなく、こいつそのものだ。」
「...!ということは、イグニくんは生きてるのね!?」
「厳密には死んでいるのだがな...まあ、そう思ってくれて問題ないだろう。魂はまだここにあるからな。」
偽イグニくんは心臓の位置を指さす。
「肉体的には死んでいる、それは間違いない。ただ、それを私が繋ぎとめている状況だ。もうしばらくすれば、ちゃんとこいつとしての自我を取り戻すだろうよ。」
偽イグニくんはぶっきらぼうにそういった。
「そ、そうか...!」
「よかった...本当によかった...!」
私たちはその事実を手放しに喜んだ。
「...ふっ」
そんな私たちを、偽イグニくんは鼻で笑った。
「...何よ、何がおかしいの?」
「いやいや、こいつはここでは愛されているのかと思ってな。前世じゃまともに愛されない人間だったのにな。こいつが何をしたのか、お前らは知っているのか?」
「ああ、昔の話は私たちも聞いてる。それを聞いたうえで、それでも彼の味方でありたいって思ったんだ。」
「そうかいそうかい。それなら私からは何も言うまい。」
偽イグニくんは、やれやれ、と言いたげな表情でそういった。
「...結局、あなたは何者なの?」
ふと気になってそういうと、偽イグニくんはまた私を睨みつけてきた。
「...私のことは聞かないのではなかったのか?」
「ごめんなさい、気になってしまって...」
「...」
偽イグニくんはため息をついた後に、私の目を見ていった。
「私は龍魔の神、フリート。闇を統べ、龍を統べる魔の神である。そして...こいつは、そんな私の生みの親だ。」
それは冗談を一切感じない、いたって真面目な声色だった。けれどその内容は、とても信じられるものではなかった。
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