71.彼であり、彼でないモノ
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「あ、がっ...!?」
敵は何が起きたかわからないという顔をしたあと、苦痛に顔をゆがませた。
「...ふん」
ズボッと敵の腹から手が引き抜かれ、地面に血だまりを作る。敵はその場に倒れ伏した。そして、その先にいたのは。
「...あ、あ...!!」
「い...イグニくん...!!」
死んでしまったはずの、イグニくんだった。龍神化した状態で、見事に敵に致命的な不意打ちを与えていた。
...けれど、どこか様子がおかしい。龍神化していた時は紅い龍の姿だったのに、今は赤黒い色をしている。それに、今までは目も赤く、爬虫類のような目だったのに、今はハイライトのない真っ黒な目だった。
目の前にいるのは間違いなくイグニくんのはずなのに、その姿はまるで別人のようだった。
「こいつを殺したと聞いて、どんな奴かと期待していたんだがな...まるで拍子抜けだ。不意打ちとはいえ、こうもあっさりと戦闘不能になるとはな。もう少し楽しめると思っていたが...」
イグニくんはこんな発言はしない。完全に別人だと分かった。
「...あなた、誰?イグニくん、じゃない...よね。」
イグニくんの姿を騙る目の前の生物、偽イグニくんに向け、そういう。彼はこちらをじろりと睨みつけてきた。
「頭が高いな、人間。...まあいい、お前らも混乱しているのだろうからな。」
やれやれ、といった表情を見せる。
「...っぐ、きさ、ま...なんだ、その、力は...!」
「ん、なんだまだ生きていたか。とっくにこと切れたかと思ったが、案外しぶといな。」
「俺は、四天王、だからな...そこらの魔物とは、ちがう...!」
「その程度で四天王?やれやれ、このぶんだと魔王とやらも大したことなさそうだな。」
偽イグニくんがそういうと、敵はギロッと偽イグニくんを睨みつけた。
「なっ!?魔王様を侮辱する気か、貴様ぁぁぁ!!」
そういって偽イグニくんに対して突進する。...が
「ふん」
偽イグニくんが手をかざして下におろしただけで、敵は地面へとたたきつけられた。
「がはあぁっ...!」
「馬鹿か貴様は。お前が弱いのが原因なのだから、相手に怒るよりまず、自分の弱さを悔いるべきだろう。」
「だ、黙れっ...!!」
「それと」
偽イグニくんは敵に向けて手をかざす。その瞬間、敵はズンズンと地面にめりこんでいく。
「あ...あがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「魔の王程度の分際で、ましてやその配下の分際で、私にたてつこうなどと、考えるべきではないな。私の前において、貴様らなど無に等しいのだから。」
偽イグニくんは、そのまま手を地面につける。その瞬間、ぐしゃっという音ともに、敵はぺしゃんこにつぶれた。
「魔の神である、私の前ではな。くはははははっ..!」
偽イグニくんは無表情のまま高笑いした。
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