69.死を乗り越えて
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真っ暗闇の中を、あてもなくただ歩く。愚直に、ひたすらに、前へ前へ。そうしないと、自分が自分でなくなってしまうような、そんな気がしたから。
だがどれだけ進もうと、一切の光が目に入ってこない。いつまでも変わらない光景に、本当に自分が進んでいるのかわからなくなってきている。本当はその場で足踏みをしているだけじゃないのか?と。
―いい加減、現実をみたらどうだ?
頭の中に、そんな声が聞こえてくる。聞き覚えのある声であり、二度と聞きたくない声だ。
―自分がどうなったかくらい、わかっているだろう。いつまでそうしているつもりだ。
「...黙れよ」
―黙らないさ、俺はお前なのだから。お前が目をそらし続ける限り...現実をみないことを選び続ける限りな。
俺は立ち止まり、拳をぎゅっと握る。
「目をそらしてなんかねえ。俺はあいつの攻撃で死んだ。そうだろ?」
―ああ、そうだな。
「ならお前も勝手に消えればいい。お前は俺なんだろ?ほら、行った行った。」
そういうと、ふっと鼻で笑われる。
―そうしたいのはやまやまだが、そうもいかなくてな。言ったろ、俺はお前だと。お前の諦めがとことん悪いせいで、俺も消えるに消えれないのだ。
「あ?どういう意味だよ。」
俺がそういうと、声はそれまでのおちゃらけた雰囲気を消し、静かに言った。
―お前はまだ死にたくないと、あいつを倒して二人を救いたいと、心から思っている。お前が救うと決めた家族でない、赤の他人に対して。お前が変わろうとしている...いや、変わった証拠だ。
「...」
―だから俺はここにいる。お前を死の淵から救い上げるためにな。
「...はっ」
俺は思わず苦笑する。
「よく言うぜ。お前のせいで俺は、前の世界で大量の殺人を犯したってのに...!!」
―俺のせいだと?
「事実だろ!?俺はお前にまんまと釣られたんだ!お前に飲まれなければ、俺は...!!」
―馬鹿め、俺はお前だといっただろう。俺のせいは、すなわち自分せいだ。いいか、俺はもう一人のお前として、自分の願いを叶えただけだ。復讐したい、ひどい目にあわせたいという、心の声をきいただけ。つまり、それがお前の本心だったんだよ。
「黙れっ!!」
「黙らないといったはずだが?」
いつの間にか、目の前に俺がいた。心の声が具現化したとでもいうのだろうか。
「いいかよく聞け、俺。確かにお前はひどい奴だった。許されないことをした。だがすべて過去形だ。今のお前は違う。お前は変われたんだ。」
「...」
「だから、力を貸してやる。このままじゃ終われないだろう?」
にやりと目の前の俺が笑う。
「...見透かしたようなことを言いやがって。」
「見透かしているのさ、実際な。さあ、どうする?」
俺は目を瞑り、考えを巡らせる。...いや、巡らせる必要なんてなかったな。最初から答えなんか決まってる。
「...力を貸せ、俺。」
そういった瞬間、目の前から俺が消え、世界が明るくなった。
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