6.決断
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「王、都?」
聞きなれない言葉に、俺は頭に「?」を浮かべた。
「この森から北にいったところに、とある王国があってな。国を強くするのに、いろんな所から強いやつを集めてる。だから、強いやつの働き口が多いんだ。」
「王国の兵士、王都の警備隊、依頼ギルド。他にも候補はあるけれど、どこも強さを活かせる場所よ。特に依頼ギルドは達成報酬性だから、強ければそれだけ依頼は舞い込むし。強さを活かせるわ。」
「ふーん・・・」
「それに、だ。子供がそういった機関に入る前に、基礎や戦い方を教えてくれる場所があるんだ。たしか、ガッコーって言ったかな。」
俺は驚いた。ここにもガッコー・・・学校の制度があるのか。
「そこは12歳から通うことが出来てな。そこで学んだ知識を生かして、さっきいったようなところで、即戦力として活躍出来る。入っておいて損は無いと思うぞ。」
「遠方から来てる人のために、住む場所まで提供してくれるのよ。だから、通いやすいと思うわ。」
「12歳から・・・なるほど、だからこのタイミングなんだね。」
そう返事しながら、心境は複雑だった。この感じだと、多分提供してくれた住むば・・・仮に寮と定義するが、その寮に住まうことになるだろう。
だがそうなると、しばらくの間、家族と離れ離れになってしまう。気にはなるけれど、家族と離れ離れになってまで学ぶべきなのだろうか。家族のために強くなる・・・その目的を見失っては居ないだろうか。
その時、父さんは笑いながら俺の肩に手を置いた。
「迷うよな。お前は家族を守るために、強くなりたいんだもんな。数年とはいえ、離れ離れになるのは辛いか。」
「・・・うん。でも、父さん達は俺がずっとここに居ることは望んでないんでしょ?」
そういうと、父さんと母さんはポカーンとした顔になり、また笑って言った。
「なんか勘違いしてるみたいだけどな、別に俺たちは、学校へ行かなくてもいいと思ってるよ。」
「へっ?い、いいの?」
思いがけない言葉に、声が裏返った。どうやら、あれは俺の思い違いだったらしい。
「ガッコーに行かないとダメってわけじゃない。強制じゃないらしいしな。王都の仕事に就くのだって、あくまでひとつの選択肢ってだけだ。」
「えぇ。だから、選んで欲しいの。王都へ行くか、このまま森で暮らすか。」
俺は少し迷っていた。今以上に強くなるには、これまでと同じ方法ではいけないのでは、という考えがあったからだ。他の目線を取り入れるのは、いい事だと思う。けれど・・・家族は離れたくない。
その時、ふと妹の姿が目に入った。花で遊ぶ彼女は、すごく楽しそうにしていた。前の世界に残してきた妹の姿と重なる。
俺にとって大事なのは、家族が全員笑って過ごせること。俺は、俺は・・・
「俺は・・・ここにいたい。学校に行くより、家族と一緒に居たい。」
俺は決心し、キッパリとそう告げた。再三言っているが、見えないところで居なくなる恐怖は、もうたくさんだ。あんなの、二度と味わいたくない。あの日の出来事は、俺の中でトラウマとなっていた。
それに、ここでも強くなることは出来る。俺は俺のやり方で、家族を守れる力を手に入れてやる。
「・・・そっか、わかった。俺もガッコーなんざ行ってないし、行かなくても強くなれるから、大丈夫だ。」
「でも、計算とか文字の読み書き位はできた方がいいわね。私が教えてあげる。」
「っ・・・ありがとう、父さん、母さん。」
そう言いながら、俺は2人に抱きついていた。あろう事か、涙まで流していた。
「はは、泣くほどのことかぁ?いつまでも甘えん坊だなイグニは。」
「いいじゃないの、まだまだ子供なんだし。甘えん坊なくらいがちょうどいいわ。」
父さんも母さんも、俺を優しく抱き締め返してくれた。改めて誓おう、俺はこの家族を守り抜く。何に変えても、絶対に。
窓から差し込む光は、いつにも増してとても心地よかった。
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