68.最後の瞬間
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「うぐっ...舐めたマネしやがって...!」
敵は苦しそうな声を上げ、その場にうずくまる。不意打ちの一撃はさぞつらかろうて。
「へっ、ざまぁみやがれ...っっ!」
作戦が成功したことに嬉しくなるが、それを喜ぶ前に、俺はその場に崩れ落ちる。自分の周りに、血だまりが出来上がっていた。直前に殴られた箇所を見ると、拳の形に皮膚がえぐれており、そこから血が出ているようだった。
龍神化は解けていない。つまり、龍神化した状態でなお、敵の攻撃は俺の腹をえぐったのだ。普通の人間ではひとたまりもなかっただろう。「肉を切らせて骨を断つ」とはよく言ったものだが、既に満身創痍だった俺ができたのは「骨を断たせて肉を切る」という行為だった。
このままじゃ、全員死ぬ...何とかしてセルクさんとシエルさんは逃がさないと...!!
「セルク、さん...シエル、さん...ここから、離れ...っ!?」
全て言い切る前に、腹に激痛が走る。
「おい、覚悟できてんだろうなあ!?俺にここまで恥かかせたんだ、償いは高くつくぞ!?」
敵に何度も、傷口を蹴られる。
「この、やめろ!」
「イグニ君から離れて!」
セルクさんとシエルさんが必死に引きはがそうとするが...
「邪魔だ小娘どもが!!」
威圧が風圧と化し、二人は遠くまで吹き飛ばされた。
「...ふん、もう虫の息だな、つまらん。所詮は人間、こんなものだったか...まあ、退屈しのぎにはなったか。」
そういって、特大の火球を上空に出現させる。俺は動くどころか、意識を保つだけで精一杯だった。
「「イグニくん!!」」
セルクさんとシエルさんの声が聞こえた気がした。出血多量で、どんどんと意識が遠くなっていく。そろそろ本格的に駄目なようだ。今回ばかりはどんな奇跡が起きようと無理だろう。
ごめん、父さん、母さん。俺では、平和な日常を取り戻すことはできなかった。妹のユイナも泣かせちまうな。まあ何とか悦明してくれや。
...元の世界の父さんと母さんに、今度こそ会えるのかな。ああでも、あの世も異世界かもしれんし...まあ、行きゃあわかることか。
「...消えろ、ゴミめ」
火球が、俺の体へと振り下ろされる。表現できない熱さが、肌に伝わる。
俺はついぞ、ここまで保った意識を失った。
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ガシャン!!
「......!!」
「ユイナ!?大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫。コップ落としちゃった...」
「ケガしてないわね?危ないから離れてなさい。」
「うん...お兄ちゃんのコップ...お兄ちゃん大丈夫かな...」
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