66.油断は禁物、とあれほどいったのに
☆☆☆
敵は壁にまで吹っ飛び、思いっきりたたきつけられる。何が起きたのかわからないようで、目を見開いてぱちくりとさせる。
少しして、状況を理解したのか、はたまた理解するより先に現実が追いついたのか、敵は声にならない声を上げだした。
「~~~~!!」
地面が転がり、顔を押さえている。俺はその様子を見て爆笑していた。
「あっはははは!こりゃあいい、あんた最高だよ!」
「ふひひ、い、イグニ君、あんま笑っちゃ失礼だよ...くふふっ」
「てっ...てめぇら笑うなぁ!!ぶっ殺すぞこらぁ!!」
「くくくっ...い、いやだってさぁ?あまりに間抜けすぎるからさぁ...!」
笑いが止まらない。あの時の顔を思い出すと笑いがこみあげてくる。戦闘中に思い出し笑いするかもなこれ。
...ただまぁ、実際のところ、笑えない状況であることも確かだ。なんせ、俺は敵の頭を吹っ飛ばす勢いで本気でぶん殴ってやったってのに、見る限りでは、擦り傷のようなあざくらいなもので、奴へのダメージはさほどでもないのだ。
それだけではない。先ほどまで俺とシエルさんで与えていたはずのダメージが消えている。これに関しては完全回復と言っていいほどだ。いったい何が起きてやがる?
だが、この焦りを悟られると、そこを付け込まれる可能性がある。だから、できる限りこいつをバカにして、悟られないようにしているのだ。
「なぜだ、なぜ俺の無敵のバリアが...?ほかの四天王ですら、バリア中の俺に一切手出しできなかったってのに...!こいつの攻撃は、それ以上だとでもいうのか!?バカな、ただの人間にそんな力、あるはずが...!」
よしよし、悩んでる悩んでる。わざわざ教えてあげる義理もなし、そんなことができるほど余裕もないから言わないが、あのバリアに時間制限があることを当の本人が知らないのは、いろいろとまずいのでは?
「...いや、きっとただのまぐれだな。よし、きっとそうだ。」
だめだこいつ、救いようのないバカだ。俺は心の中で頭を抱えた。ちらりとシエルさんを見ると、呆れを通り越して引いていた。すごい顔でドン引きしていた。
「おいほらどうした!?かかってこいや!」
敵は性懲りもなくバリアをまたはって、こっちをたきつけてくる。俺はため息をついて、また龍神化する。今度こそ、やつの頭を吹っ飛ばしてやる!!
「懲りない奴め、死ねやオラァ!!!」
バリアが解ける瞬間を狙って、また本気でぶん殴った。敵はまた壁まで吹っ飛び、アホ面をさらす...
...はずだったのだが。
「...ふん、こんなものか。来るのがわかってしまえば、しまえばどうということはないな。」
「え、あ...!?」
俺の本気の一撃は、敵の額で止まっていた。バリアは直前で解けていた。だから間違いなく直撃している。それなのに、平然としてやがる。
「その若さでよくここまでの力が出せるな。だが、まだまだだ。」
俺は腕をつかまれ、壁へとたたきつけられる。
「がはっ...!?」
龍神化で防御力も上がっているはずの俺に対し、その攻撃は大きなダメージとなった。
☆☆☆




