64.逃げ出すことは容易ではない
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「よっと、ほいよ。騎士団長様は無事だぜ。」
「ぶベッ!?」
俺は抱えていた副校長を離した。そのまま床に落下し、顔を打つ。
「ちょっと!なにすん…の…」
「よぉ、よくも仲間の根も葉もない噂を流してくれたなぁ?」
「あ、あなたは…!!」
副校長は額に冷や汗をかいている。俺はさらに詰めようとした…が。
「覚悟は出来て…って危ねぇっ!!」
「きゃっ…!?」
気配を察知して、慌てて副校長を掴んで飛び退く。その瞬間、元いた場所にデカイ雷のようなものが落ちた。
「ちっ、あの状況で避けやがったか。」
その声のする先には、先程高笑いをしていたやつがいた。どうもイライラしているようだ。
「あっぶねぇ…!」
「勝手に連れ去らないでもらっていい?せっかく殺戮を楽しんでたっていうのに、邪魔すんじゃねぇよ。」
「へっ…てめぇの事情なんざ知らねぇよ。まだこいつには死なれちゃ困るんでね。」
副校長の腕を掴み、シエルさんとセルクさんがいる方向へ放る。2人は副校長をガシッと掴んだ。
「えちょ、守ってくれるんじゃないの!?」
「守りながら戦えるかよ。セルクさん、そいつのこと頼んだ!シエルさんは手伝ってくれ!」
「え?あ、うん!」
「なんだ、私はお守りか。わかった、任せておけ。」
そういって、がっしりと副校長の首襟を掴んだと思ったら、そのまま脇に抱えるシエルさん。あー…やっぱし内心キレてたか。そんな気がしてたんだよな。ありゃ相当溜め込んでる感じだぞ。まあ、自業自得だし、ガンバ。
「ちょっと、離してよ!」
「ここで離したら、あんたはたちまち魔物のエサだぞ。それでもいいなら離すがな、どうする?」
「…そのままで」
副校長はその光景を想像したのか、顔を青くして静かになった。それでいい、そのほうが戦いやすいからな。
「そろそろ準備はできたか?なら始めようか!!」
いうが早いか、敵はこちらめがけて突進してきた。体全体に雷をまとい、空気を震わせている。身嵐の雷版といったところか。
身嵐を使って攻撃をよける。攻撃自体は大振りだが、体全体が武器となっている今の状態では、ほぼ隙はないといっていいだろう。近接戦闘メインの俺にとって、戦いにくい相手だ。
いや、戦いにくいというか、戦えないと言い換えてもいい。このままだと俺は攻撃できないし、近づくのも危険だ。だから、俺では攻撃できない。
そう、俺ではな。
「シエルさん、いい?今からいう方向に、魔法で氷の弾を撃って!」
「ええ!?いやでも、私の攻撃じゃあいつには...!」
「いいから!...よし、右に撃って!」
「み、右...えーい、どうにでもなれ!」
そういって撃ち出された氷の弾は、敵...ではなく、俺のほうに飛んでくる。
「えちょ、右って、イグニくんよけっ...!」
「大丈夫!...これでもくらえ!」
俺は身嵐を足に集中して、氷の弾を蹴り飛ばした。超高速のスピードを得た氷の弾は、敵めがけて飛んで、敵のみぞおちにクリーンヒットした。
「ーーーー!!!」
声にならない声を上げる敵。俺は作戦がうまくいったことに、にやりと笑うのだった。
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