62.交差する感情と事実
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すんでのところで、兵士に向けて振り落とされた剣を、セルクさんが止める。そのまま巧みな剣裁きで魔物側の剣をはじき飛ばし、魔物を切り伏せた。
「ふぅ……おい、立てるか?大丈夫か?」
兵士に向けて手を伸ばす。兵士は最初ポカンとしていたが、ハッとして、その後曇った表情になった。伸ばされた手を掴まずに、その場で立ち上がる。
「……大丈夫です、立てますから」
「そうか。ともあれ、騎士団にいたときよりも強くなってるじゃないか。応用もきくようになって。魔物との実践が、身についてるって感じか?」
「……うっす」
兵士側の答えは、なんとも素っ気なかった。心ここに在らずというか、フラフラで焦点が定まっていない。疲れによるものだろうか。こんな状態では、勝てる戦いも勝てないだろう。
「 おいおい、大丈夫か?しっかりしろ。」
セルクさんが咄嗟に手を掴み、兵士が倒れるのを阻止する。息も荒いし、結構ひどい状態だった。兵士を人としてではなく、ただの駒としか観ていないのが丸わかりだった。
だが、そんなセルクさんの心配を他所に、兵士はセルクさんの手を払い除けた。
「え……?」
セルクさんはポカンとしている。当の兵士は、一瞬怯んだ表情を見せたが、すぐに鋭い目つきに変わる。こちらを……セルクさんを睨みつけていた。
「触るな……あんたは、俺たちを見捨てたんだ。騎士団長という役柄を捨て、そんなチンケな冒険者なんざと仲良く旅してやがる……!」
「なっ……!?」
セルクさんは絶句していた。こんなこと言われるとは思わなかったんだろう。この件に関しては俺も一枚噛んでいるので、俺も黙っては居られなかった。
「ちょっと待て、その文句はセルクさんじゃなくて、俺に言うべきだろ。あの時、セルクさんは俺が無理やり連れ去ったんだ。彼女に拒否権はなかった。」
「い、イグニくんそれは……」
セルクさんが何か言いたげだが、ジェスチャーで話すなと伝える。こういうのは、あまり事情を複雑にしない方がいい。相手だってテンパってるんだから、そんな人に細かいことを言ったって、聞いちゃくれない。
だから、大まかな事実だけ伝えておけば、ちゃんと聞いて……
「でたらめを言うな!聞いたんだぞ、騎士団長は俺たちを捨てて逃げたって!生徒2人を連れて、どこかに逃亡したんだって!」
「なんだそりゃ、話がねじ曲がってるな……」
俺は頭を抱える。
「あのさ、その話って誰から聞いたの?」
シエルさんが俺の後ろからひょこっと出て、その兵士に聞く。兵士はギョロっとした目で言った。
「誰にだと!?決まっているだろう、今の騎士団長様……お前らのいた学校の、元副校長だったお方だ!」
その時、後ろの方で爆発音がした。
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