60.嫌われる勇気の先に
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シエルさんとセルクさんは、互いに顔を見合わせる。そして、何かを決心したかのように、頷いた。俺は何が来るのかと、心の中で身構える。
「……そうだね」
シエルさんが、ゆっくりと口を開く。
「確かに、イグニくんの言う前世の君は、やりすぎてしまったのかもしれない。酷い人間だったのかもしれない。」
「まぁ、そうだな。さっきは仕方ないと思っていたが、よくよく考えてみれば、いくら復讐といえど、度が過ぎている気はする。」
表情からは感情が読み取れない。だがその言い方でわかる。きっと2人は、俺の元を離れることを決めたのだ。
「あぁ、そうだ、そうだとも。俺は酷い人間だよ、それは今だって変わらないさ。常に考えるのは自分のことだけだ。人類なんざ救いたくもないし、損得勘定で動く……そんなやつが、勇者なんて言えないだろう?」
「かもしれないね。勇者ってのは、損得じゃなくて人情で動くような人だし。自分優先の真反対を行くような人物だもんね。」
「はは、言えてるな。前の勇者が典型的なその思想だった。自分のことは後回し、周りが幸せなら自分も幸せ、という感じにな。あぁいうのがThe・勇者だとすると、イグニくんは確かに正反対だ。」
優しい顔で俺の意見に肯定するシエルさんと、笑いながら勇者のことを語るセルクさん。そうだ、自分は勇者じゃない。誰彼構わず助けられるほど、強い人間じゃないんだ。
「そうだ、その通りだ。そんなやつと一緒にいてみろ、2人とも白い目で見られること間違いなしだ。今からでも遅くない、俺とは金輪際縁を切って─」
だが、俺が言い終わる前に2人して俺にずいっと寄って言った。
「で、それがなんだっていうわけ?」
「それがなんだっていうんだ?」
「……へ?」
間抜けな声が出た。な、なんだって?
「私は君が勇者であろうとなかろうと、そんなことはどっちでもいいの。だってイグニくんはイグニくんだもの。白い目で見られる?そんなのどうでもいいね。」
「君は前に勝手にしろと言ったな。だから私たちは、勝手に着いてきてるわけだ。イグニくんについて行きたいって思ったから、着いてきてるんだよ。勇者である必要なんかあるものか。」
「……だ、だけど」
「それにね?」
シエルさんが優しく俺の頭の上に手を置く。
「前世の君のままでも、私は多分着いていくと思うな。」
「……え?」
「私もそうだな。君、自分が思ってるより、ずっと他人思いで優しい人間だぞ。お人好しレベルにな。」
2人して、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「な、何を言って……」
「自分のためって言ってるけどさ、それって結果論でしょ?本当は、家族のために、親しい人の涙を見たくないがためにやってることだもの。」
「それに、残してきた妹のこともちゃんと大切に思ってる。死ぬ直前にまで他人のことを気にする様なやつが、お人好し以外のなんなんだ?」
そういって、俺のことを撫で続ける2人。俺は自然と、涙が零れていた。
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