5.得意分野を伸ばす
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数年の月日がたち、俺は森の魔物たちと戯れながら、今でも修行を続けていた。身嵐は未だに完璧には成功せず、数年前から成長もみられない。続けてはいるけれど、続けることの意味を見いだせずにいた。
成長がみられない、というだけならまだなんとかなった。続けていれば、きっといつか・・・ってな。でも、自信をなくした1件が、1年前のこと。
「・・・ふぅ。お父さん、お兄ちゃん、どうよ?」
つい先日、修行に参加し始めた妹が、その頭角を表した。
「・・・嘘、だろ。俺はいつまでたっても出来てないってのに・・・」
「こ・・・こりゃびっくり。まだ1週間も経っていないってのに、もう使いこなしてる。」
1日で魔力の凝縮に成功し、その数日後、身嵐に成功した。もちろん、俺のような中途半端なものではなくて、全身に纏う完璧なものだ。
そのレベルは、素人目には父さんのそれと大差ないレベルに見えた。妹には、風魔法の素質が大いにあるらしい。
そんなことがあってから、俺がどれだけやっても妹には追いつけないのでは、という気持ちが出てきてしまい、上手く身が入らなかった。兄として情けなくなる。
「・・・よし、つぎはこっち。」
訓練場に置かれた、短い棒きれに手を伸ばす。
父さんと違い、俺は弓が不得手だった。魔法もダメダメだから、弓も、と言うべきかもしれないが。その代わり、剣はそこそこ扱えた。特に短剣を使った戦い方は、俺の性に合っていた。
風魔法と併用することで、素早い戦闘が行える。部分的であっても、有効に使えば、やりようはあることに最近気づいた。
人形に向けて、棒を逆手に持って構える。小さく息を吸い、まず相手へ踏み出す1歩目で、一瞬だけ足に身嵐を使う。これにより、一気に距離を詰めることができる。
そして、相手に切り込むタイミングで、今度は腕に一瞬だけ、身嵐を使う。これにより、素早く切り込むことが出来る。
これが俺が生み出した、身嵐を活用した短剣術。身嵐を使うのが一瞬だけだから、消費も少なくて済むうえ、敵に動作を見切られにくい。受けた側にしてみれば、一瞬で距離を詰めてきた相手が、一瞬にして切り込んできたように思えるだろう。
「・・・まだまだっ!!」
俺はとにかく、この不完全な身嵐と短剣術を磨くことにしたのだった。
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数日後、もうすぐ12歳の誕生日を迎えようとしていたある日。いつものように訓練場へ行こうとしていた俺を、父さんと母さんが呼び止めた。
「ちょっといいか、聞いて欲しいことがあるんだが。」
「すぐ済むから、少しだけ待ってちょうだい?」
その声がやけに真剣に聞こえたため、俺はすぐさま2人の元へ戻った。
「いったいどうしたの?」
「いやなにちょっと、聞いておきたくてな。お前、目標はあるのか?強くなって、その先のことを考えてるか?」
「強くなった、先のこと?」
「えぇ。強くなることはいいことだけれど、ただ強いだけじゃ、もったいないと思うのよ。その強さの活かし方を、あなたには知って欲しくて。」
「強さの、活かし方・・・」
2人に言われて、ハッとする。そんなこと考えたこともなかった。家族を守れる力が欲しい。俺が強くなりたかった理由は、ただそれだけだったから。
このままずっと森で過ごすってのも、俺はアリだと思っていた。ここなら、ずっと家族と共にいることが出来る。ずっと、俺の手の届くところに家族がいてくれる。
だけど、それを2人は、俺には望んでいないようだ。宝の持ち腐れだと。そうなると、強さを活かせる場所って・・・?
「・・・なぁ、イグニ。」
父さんは真剣な顔で言った。
「王都での仕事に興味はないか?」
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