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57.カラ元気はそうもたない

☆☆☆


「はあ、はあ、はあっ......!」


いつの間にか、俺の頭に響いていた邪悪な声は聞こえなくなっていた。頭痛も少しずつ引いていき、ゆっくりと呼吸を整える。元の状態まで戻れたときに、ゆっくりと立ちあがった。


「イグニくん、大丈夫......?」


「うん、大丈夫......よっと。」


地面に落ちていた地図を拾い、再度広げる。


「とりあえず、この町にいこう。さっさと行くぞ、サクサク行くぞ。」


「いやいやいや、ちょっと待て待て。いくらなんでも、そんなパッと切り替えられんだろ。本当に大丈夫なのか?疲れてるんじゃないか?」


「大丈夫だって。ほら、行くよ。」


俺はそっけなく返す。あまり、掘り返されたくない過去だし、自分から話すようなものでもない。だから、なんでもないフリをしてやり過ごす。


.....そう思っていたのに、俺の体は言うことを聞いてくれやしなかった。


「っ、う.....!」


1歩踏み出した瞬間、頭の中にあの時の光景がまたフラッシュバックしやがった。急激な吐き気がして、膝をつく。


何とか吐かずには済んだものの、膝が震えて立ち上がることが出来ない。俺にとってあの光景が、一種のトラウマになりつつある証拠だった。


「イグニくん!やっぱり無理してた!」


「全く、無理なんてするな。ちゃんと私たちを頼ってくれ。な?」


2人に支えられ、近くの大木に寄りかかって座る。


「悪い、助かる.....」


俺は呼吸を落ち着かせ、気持ち悪さを取り除く。しばらくこうしていれば、よくなるだろう。


「.....ねぇ、聞いてもいいかな。」


シエルさんのそんな声を聞いて、体がビクッと震える。嫌な予感がしたからだ。


「な.....なに、かな。」


震える声で返事する。嫌な汗が頬をつたい、動揺して手が震える。それを悟られないよう、笑顔で返事した。


「少し前の戦いもそうだし、今もだけど.....イグニくん、何だかずっと疲弊してる気がするの。体力的な話じゃなくて、気持ち的にね。明らかにいつもの君じゃない。」


俺はまたビクッと震える。どうやら、見透かされていたようだ。


「一体何を気にしてるの?疲れてるのもあるけど、なんだか怯えてるよね?」


「.....!!」


そういって、シエルさんは俺の頬に手を伸ばしてくる。その光景が、前世で最後に殺した少女と重なり、俺はふいに手をはねのけてしまった。


「あ.....」


「え.....?」


はねのけてから、やってしまったことに気がついた。シエルさんは、はねのけられた手をじっと見つめている。


やってしまった。シエルさんはずっと俺を気にかけてくれていたのに、拒絶してしまった。


周りの空気が、すっと重くなったのを感じた。


☆☆☆

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