57.カラ元気はそうもたない
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「はあ、はあ、はあっ......!」
いつの間にか、俺の頭に響いていた邪悪な声は聞こえなくなっていた。頭痛も少しずつ引いていき、ゆっくりと呼吸を整える。元の状態まで戻れたときに、ゆっくりと立ちあがった。
「イグニくん、大丈夫......?」
「うん、大丈夫......よっと。」
地面に落ちていた地図を拾い、再度広げる。
「とりあえず、この町にいこう。さっさと行くぞ、サクサク行くぞ。」
「いやいやいや、ちょっと待て待て。いくらなんでも、そんなパッと切り替えられんだろ。本当に大丈夫なのか?疲れてるんじゃないか?」
「大丈夫だって。ほら、行くよ。」
俺はそっけなく返す。あまり、掘り返されたくない過去だし、自分から話すようなものでもない。だから、なんでもないフリをしてやり過ごす。
.....そう思っていたのに、俺の体は言うことを聞いてくれやしなかった。
「っ、う.....!」
1歩踏み出した瞬間、頭の中にあの時の光景がまたフラッシュバックしやがった。急激な吐き気がして、膝をつく。
何とか吐かずには済んだものの、膝が震えて立ち上がることが出来ない。俺にとってあの光景が、一種のトラウマになりつつある証拠だった。
「イグニくん!やっぱり無理してた!」
「全く、無理なんてするな。ちゃんと私たちを頼ってくれ。な?」
2人に支えられ、近くの大木に寄りかかって座る。
「悪い、助かる.....」
俺は呼吸を落ち着かせ、気持ち悪さを取り除く。しばらくこうしていれば、よくなるだろう。
「.....ねぇ、聞いてもいいかな。」
シエルさんのそんな声を聞いて、体がビクッと震える。嫌な予感がしたからだ。
「な.....なに、かな。」
震える声で返事する。嫌な汗が頬をつたい、動揺して手が震える。それを悟られないよう、笑顔で返事した。
「少し前の戦いもそうだし、今もだけど.....イグニくん、何だかずっと疲弊してる気がするの。体力的な話じゃなくて、気持ち的にね。明らかにいつもの君じゃない。」
俺はまたビクッと震える。どうやら、見透かされていたようだ。
「一体何を気にしてるの?疲れてるのもあるけど、なんだか怯えてるよね?」
「.....!!」
そういって、シエルさんは俺の頬に手を伸ばしてくる。その光景が、前世で最後に殺した少女と重なり、俺はふいに手をはねのけてしまった。
「あ.....」
「え.....?」
はねのけてから、やってしまったことに気がついた。シエルさんは、はねのけられた手をじっと見つめている。
やってしまった。シエルさんはずっと俺を気にかけてくれていたのに、拒絶してしまった。
周りの空気が、すっと重くなったのを感じた。
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