54.怒らせると怖い人
☆☆☆
「.....これでよし、と」
大勢の冒険者の死体を土に埋め、装備を墓標代わりに立てる。とんでもない数の墓標が、出来上がっていた。1体何人の人が犠牲になったのだろうか。
途中で冒険者の分は2人に任せ、俺はゲルべ爺の墓標を立てた。こっちはゲルべ爺が愛用していた、工具を墓標代わりにして立てた。
立て終わったあたりで、ゲルべ爺の最後の光景が脳内にフラッシュバックする。立ちくらみがし、近くの木に寄りかかった。
「くそ、どうして.....なんで俺の周りばかり死んでいくんだよ.....!!」
脇でぎゅっと握った拳を、木に打ち付ける。ギリっと歯ぎしりし、悲痛に顔を歪ませる。
「よくも.....家族同然の人を殺してくれたな.....魔王め.....!!!」
ゲルべ爺の仇は俺が討つ。そう心に決めて、俺は2人の元へと向かうのだった。
☆☆☆
「お待たせ、そっちも終わった?」
「あぁ、今終わったところだ。中には何度か見た事のある、歴戦の戦士もいたよ。.....そんな人たちでさえ、四天王の攻撃をもろに食らってこれだ。」
セルクさんはぎゅっと拳をにぎりしめる。
「復活した魔王軍は、はっきり言って前回の比じゃない。比べることも烏滸がましいくらいにな。」
「うん、わかってる。油断したら一気に持ってかれる。気をつけないと。」
「だな。はぁ、前回は最前線で戦えていたんだがな.....体の衰えと、敵の強大化のせいで、このザマだ。なにが勇者パーティだ、泣いて呆れる。」
セルクさんはかわいた笑みを浮かべながら、そういった。
「そりゃあ、10代と30歳じゃあ、体は衰えるよねぇ。」
シエルさんがからかうように、セルクさんの背中に手を置いてそういった。
「んなっ!?まだそんな年増じゃない!」
「へぇ、いくつなんです?」
「.....2、29.....」
「もうすぐじゃないですか」
「違うぞ!!29と30は全然違う!!」
「はいはいそうですね」
「その感じ、全くわかってないな!?いいだろう、先生らしく授業をしてやる!!」
セルクさんが怒りながら、逃げ惑うシエルさんを追いかける。シエルさんは余裕の笑みを浮かべて.....いるように見えたけど、あれ痩せ我慢だ。その証拠に、シエルさんはあっけなくセルクさんに捕まった。
「そ、そうカッカしないでよ先生。ね?」
「ね?じゃないわ!人の歳をイジるのは大概にしろ!」
「別にイジってないですよ?ただ、その歳まで結婚してな浮いた話の一つもないのは......ねえ?」
シエルさんがセルクさんをいじり続けていると、突如セルクさんの顔が怒りから笑顔に変わった。......否、俺でもわかる。これはただの笑顔じゃない、不敵な笑みってやつだ。ニヤニヤとしていたシエルさんの顔が、どんどんと青ざめていく。
「そうかそうか、そんなに君はしごかれたいのか......」
「あ、いや、冗談ですよ冗談......あはは......」
シエルさんがこちらに助けを求める。俺はため息をついていった。
「自分で蒔いた種だろ、自分で摘むんだな。」
「イヤーーーッ!」
その日、セルクさんの特訓を受けたシエルさんは、魂が抜けたようだった。自業自得である。
☆☆☆




